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準備書の撤回、事業の見直しを強く求める。 普天間飛行場・環境アセス準備書に対する 意見書・理由書を発表。

2009.05.15
要望・声明

 

NACS-Jが指摘した主な問題点

  • 科学的論理を欠いたまま、予測・評価を「影響は総じて少ない」と結論づけている。
  • 水象・水の汚れなどの予測シミュレーションは、「再現性が良好」というには根拠が乏しい。
  • 異常値と思われる有意義波高(10.6m)の数値が使用されており、観測結果の信頼性がない。
  • ジュゴンが2004年に辺野古リーフ内を利用した記録があり、周辺海域でも確認されているにもかかわらず、辺野古海域の今後の生息の可能性まで矮小化している。
  • 注目されている埋立て用材(海砂・土砂)の調達が明らかにされていないまま。
  • 冬季水温上昇を予測しているにもかかわらず、海草への影響を何も評価していない。
  • 埋立てで消失する褐藻類ウミボッス(絶滅危惧種 I 類)ついて、何も保全対策が示されていない上に、「6.15海藻藻類」では存在すら触れられていない。
  • 底生生物では日本新記録種と考えられる種が複数散見される。
  • 汚濁防止幕、浸食防止剤などの使用の効果と限界を示していない。
  • 複数の断層が示されているにも関わらず、活断層としての評価がされていない。

沖縄防衛局長宛 意見書全文(PDF/14KB)

意見書付属資料 理由書(PDF/115KB)


21日自第12号
2009(平成21)年5月14日

沖縄防衛局長  真部 朗 殿

財団法人 日本自然保護協会
理事長 田畑 貞寿

「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価準備書」に対する環境保全の見地からの意見書

日本自然保護協会は、海草藻場モニタリング調査「ジャングサウォッチ」をはじめ、各種現地調査を行い、2008年は大浦湾の大規模なアオサンゴ群集の詳細を合同調査によって明らかにするなど、辺野古・大浦湾の生物多様性の豊かさに注目し、その保全を訴えてきた。この度、沖縄県条例およびアセス法に基づく「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価準備書」(以下、本準備書)に対して、これまでの現地調査と科学的知見の集積をもとに、環境保全の見地から下記の問題点をあげ、意見を述べる。

 

主な意見

本事業が、豊かな生物多様性に大きな影響を及ぼすことは明らかである。さらに方法書に対する当協会をはじめ、住民および沖縄県知事の意見を十分に反映していないばかりでなく、予測・評価は満足に行われていない。これは、環境アセスメント制度を愚弄したものといわざるをえない。したがって、本準備書を撤回し、事業の見直しの日米政府間交渉を行うことを強く求める。

 

問題点

  1. 我々の指摘の通り、辺野古・大浦湾地域が豊かな生物多様性を持つことは、調査精度の向上により多数の貴重種や日本新記録種が確認されるなど、本準備書の調査結果を概観すれば自明のことである。それにも関わらず、「影響は総じて少ない」と結論づけていることは、調査結果の情報を十分に踏まえておらず、科学的論理を欠き、予測・評価を軽視している。これは、事業実施を前提とした姿勢の表れであり、最大の問題点である。
  2. 水象・水の汚れ(水質)等のシミュレーションは、検証の結果、実測値と予測値が必ずしも合っておらず、「再現性は良好である」という根拠には乏しい。また、堆積物移動のシミュレーションについても、サンゴ礁海域の特性が反映されておらず、不適切な予測結果となっている。生物の生息基盤となる海域の環境予測が十分に行われていないのは、「影響は総じて少ない」とした影響評価結果をひるがえすものである。
  3. 辺野古崎と平島・長島の礁原上の間を抜ける海水の動きと大浦湾西岸側の深場が、この海域の環境を特徴づけるものである。この場が埋立てによって改変されるにも関わらず、消失する深場の海草や底生生物などについて十分把握していないこと、外洋的環境から内湾的環境まで非常に高い生物多様性を持つ大浦湾において、重要な「海水交換」についての評価が不十分であることは、この海域の環境アセスメントとして大きな欠陥である。
  4. 本アセスメントは、日本の主権が及ばない在日米軍施設ゆえに、事後の環境監視の適切さと確実な運用を提案すべきものにも関わらず、辺野古リーフ内へ流される施設排水について、その基準値は具体的に示されていない。今後も既設米軍施設のように日米地位協定による「日本環境管理基準」をもとにした規制と監視が行われると思われるが、基準の内容は公に明らかにされず、関係自治体等から基準の公開と立入検査の保証が求められているのが現状である。事後の環境監視と改善の提言等が保証できない特異なアセスメントである。
  5. 当協会では2004年に辺野古リーフ内でジュゴン食跡を確認しているが、2年間のアセス調査で確認できなかったことだけで、辺野古海域の生息利用の可能性までを矮小化している。辺野古を含む生息可能性のある海域を積極的に保全し、生存阻害となる開発行為は回避すべきである。絶滅危惧種の絶滅リスクを高めるという認識を事業者は欠いている。
  6. 本準備書は、膨大な観測・シミュレーション情報の中にわずかな解析結果が混在していて、非常に読みにくいうえにわかりにくい。要約版でも情報量が多く専門的であり、市民が広く理解するものにはなっていない。ようやく準備書からインターネットでの配信がされるようになったが、膨大なファイルの数と量のため、ダウンロード・プリントアウトは困難を極めた。皮肉にも住民団体がファイルを整理し配布をしたDVDが活用された。社会的な注目が高いにも関わらず、広く市民のアクセスと理解を心がけたものにはなっていない。
  7. 第4回世界自然保護会議(バルセロナ)決議されたIUCN(世界自然保護連合)勧告は、日本政府に対して、ゼロ・オプション(何も建設しない)を含めた「あらゆる選択肢での環境影響評価の実施」を求めているが、本準備書では辺野古リーフ上で位置選定をずらした比較検証をしただけであり、世界的な要請を満足させるものではない。
  8. このように生物多様性の豊かな重要地域において、杜撰な環境アセスメント手続きをすすめ、開発行為を政府自ら行うことは、生物多様性国家戦略や生物多様性基本法をもつ国家として、また2010年生物多様性条約締約国会議の議長国として、世界的責任から認められるものではない。

以上

*本書の付属資料の理由書(総15ページ)と合わせて意見内容として提出する。
*本書写しは、防衛大臣、環境大臣、沖縄県知事にもあわせて送付する。

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