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「生物多様性国家戦略の見直しに意見提出」 (パブリックコメント)

2007.04.09
要望・声明

2007年4月2日

「生物多様性国家戦略の見直しに関する懇談会」における論点等に対する意見書(パブリックコメント)

私たちは、第2次戦略が、自然保護の理念・概念整理などに一定の効果があったことを認めつつ、全体として生物多様性の危機が去っていないこと、また生物多様性条約の「2010年目標」にみられるように、国際的な視点も踏まえたうえでさらなる取り組みの強化が必要であると考えている。

この度懇談会で出された論点整理に対し、1「エコシステムアプローチ」にもとづき、2「生物多様性保全の強化」を戦略的にすすめていくこと、その戦略の実現を確実なものとするために3「国家戦略の実施メカニズムの拡充」をおこなうこと、あわせて、4「多様な主体の参画・教育普及・資金メカニズム」を促進・確立し、政府の戦略から市民社会全体の戦略へと変えていくことが重要と考える。

上記3点を、第3次戦略策定に向けた今後の議論において検討し、実現されるべき重要事項ととらえ、以下、意見を提出する。

 

1.「エコシステムアプローチ」

意見1:生態系サービスを広く捉え、開発計画においても十分考慮することが必要

森林の土壌保持・水源涵養など多面的機能は近年注目されつつあるが、たとえば、湿地や海草藻場なども水質浄化・洪水抑制などの機能を持つにもかかわらず、埋立て等開発事業において十分考慮されていない。これら、生物多様性がもたらす生態系サービス(恩恵・機能)の多くは公共的な利益であり、守られるべきものであるにもかかわらず、干潟の事例でいえば、干拓事業による農地化など個人的利益へと転換されてきた。新しい国家戦略においては、多様な生態系タイプが持つ多様なサービスの研究を進めるとともに、その公益を十分評価したうえで、各種の公共事業を改善する視点を提供するべきである。(該当箇所:1-(1) 生物多様性の現状・理念、基本的考え方)

意見2:生物多様性への取り組みは、コミュニティの再生、ローカル・ナレッジの掘り起こしにとっても重要

第2次国家戦略において、生物多様性は文化の源泉として位置づけられている。今後、人口減少に転じる社会構造のなか、自然を壊してしまった過去をどのように反省し、地域で自然との新しい関係をつくっていくか、過去に学べることは何かという議論と提示が必要である。「生物多様性の保全には、生物そのものの保全と人間との関係性の中での保全の2つの観点があり」と論点整理にあるが、かつての農村のように自然と共存していたコミュニティの再生や、自然に対する畏敬の念を含めた地域の伝統的な知識(ローカルナレッジ)の再評価が、重要である。(該当箇所:1-(1) 生物多様性の現状・理念、基本的考え方)

意見3:生態系タイプを組み合わせた空間単位、生態学的攪乱による生態的プロセスも生物多様性保全には欠かせない視点

超長期的に見た国土の自然環境のあり方を考える際には、森林や河川といった個々の生態系タイプごとの検討に止まらず、栄養塩動態や物質動態、生物の移動などの影響が及ぶ空間単位で生態系の保全・管理のあり方をとらえる必要があり、特に「流域」といった景観レベルでの検討が重要である。また、我が国においては、台風や洪水、火山活動等がもたらす適度な生態学的撹乱やストレス環境に適応・依存して生育生息する種も多い。それらの生物種の進化・存続に必要な生態的プロセスも考慮した生物多様性の保全が重要である。(該当箇所:1-(2)超長期的に見た国土の自然環境のあり方)

 

2.「生物多様性保全の強化」

意見4:日本のリーダーシップの発揮。特に東アジア圏での取組の提案

地球規模での生物多様性を考えるうえで、生物多様性保全に関わる各種情報収集・分析のさらなる取組みが必要であり、2010年生物多様性条約締約国会議の開催国として名乗りをあげている日本として、モニタリングのみならず分析・提言にもなりうる「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の生物多様性版」の設立を提案するべきと考える。特に、東アジア圏でみると、海洋環境(中国大陸の河川・水質管理、漂着ゴミ)、漁業資源問題(日本海の生物多様性保全とその持続可能な利用にむけた取り組み)や黄砂(森林伐採と砂漠化)など、多くの環境問題が生物多様性上の課題としてつながっている。東アジアでの取り組みを進めるための「東アジア生物多様性戦略・行動計画(EA-BSAP)」を日本が構想することもできるのではないだろうか。(該当箇所:2-(1)地球規模の生物多様性保全への対応)

意見5:WTOにおいて生物多様性保全上の課題を日本として提案する

農業の衰退による第2の危機と、第3の危機の外来種問題は、農産物の輸入大国としての社会背景がある。このような農林水産業と生物多様性保全の問題などを議論するうえで欠かせない課題として、WTO(世界貿易機関)上の各種協定がある。自由貿易の推進を基調とするWTOプロセスにおいても、世界における経済大国日本が自国・他国の生物多様性保全に責任を持ち、生物多様性保全上の価値を十分考慮するよう提案すべきである。(該当箇所:2-(1)地球規模の生物多様性保全への対応)

意見6:生物多様性保全にかかわる法整備の見直し

第2次国家戦略以降、鳥獣保護法・自然公園法・自然再生法・特定外来生物法などが見直しや制定がなされてきた。しかし、今回の見直しの懇談会で、生物多様性保全に関わる法整備について議論はなされていないため、各個別法の検証が必要である。特に「生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という2010年目標を達成させるためには、「種の保存法」の種指定の方法を見直し、自治体の条例で先行事例のある種指定の市民提案ができるようにする必要がある。また、保護増殖計画のある種でも回復成果も定かではないため、計画の枠組みを検証し、年次目標・モニタリング・実施体制の設定など実効性を高める必要がある。関連させて、国や地方自治体のレッドデータブックは、絶滅危惧種か否かの調査にとどまらず、絶滅危惧種の生態系タイプを分析するなど、自然環境をモニタリングするツールとしての活用などを検討するべきである。他にも、原生自然環境保全地域・自然環境基礎調査・モニタリング1000に関わる「自然環境保全法」の改正、開発事業をより計画段階で環境影響を回避するための「戦略的環境アセスメント制度」の新設が不可欠である。このような個別法の整備だけではなく、生物多様性の保全全体の促進のため、傘となる基本法(野生生物保護基本法や生物多様性保全法)の制定を検討していくべきである。(該当箇所:なし)

意見7:保護地域作業プログラムの推進に日本政府として積極的に貢献するべき

生物多様性条約第10回締約国会議の中心議題の一つに保護地域(および保護地域作業プログラム(COP7、2004))があり、保護地域作業プログラムの推進に開催地国として積極的に貢献する必要がある。その際に、国立公園のみならず、自然環境保全地域や保護林制度、前述の海洋保護区も含めた、統合的な保護地域システムに向けて、抜本的に見直すべきである。また、現在国立公園で進められている保護地域管理の向上は、すべての保護地域を含めた課題として取組むべきであり、またそれは、管理効果の評価制度も含むべきである。(該当箇所:2-(4) 国立公園等保護地域と生態系ネットワーク及び自然再生)

意見8:自然公園法にとどまらない海域保護区の設定

現在、環境省では浅海域を中心とした海域保護区の検討をはじめているが、検討の範疇が自然公園制度の海中公園等を利用した地域の拡大という発想にとどまってしまっている。干潟や海草藻場のように必ずしも自然公園と接するとは限らない生物多様性上重要な海域も保護区になるようにすべきである。(該当箇所:2-(3) 沿岸・海洋域の保全)

意見9:日本政府のボン条約(移動性の野生動物種の保護に関する条約)批准

論点に上げられている「漁業との両立を通じた海洋の生物多様性の保全等を推進」するならば、ジュゴンのような海棲哺乳類やアホウドリのような外洋性鳥類、ウミガメといった移動性動物が延縄漁などによる混獲によって種の存続に危機的な状況にあり、有効な手だてが講じられていないことを重く認識し、混獲防止の取り組みを積極的にすすめる必要がある。また、論点に挙げられている「移動性動物の保護・保全やそのためのネットワークの強化」は当然重要であり、上記課題を解決する国際的枠組みである「移動性の野生動物種の保護に関する条約(ボン条約)」を日本政府は批准すべきである。(該当箇所:2-(3) 沿岸・海洋域の保全)

 

3.「国家戦略の実施メカニズムの拡充」

意見10:指標を位置づけ国家戦略を機能させる

これまでの国家戦略では、生物多様性の状況変化、また取り組み状況の進行状況を計るための指標がなく、国家戦略の成果を客観的にみることができず見直しの際の参考となるものがないため、国家戦略に尺度となる指標を位置づけ順応的、効果的に機能させるべきである。指標については、生物多様性保全の取り組みを図る指標と生物多様性の変化を測る指標とを分けて、検討すべきである。例えば、保護地域面積などは国や都道府県の指定状況に基づくものであるが、保護区内の動植物の増減などは、人為的な増殖だけでなく、各種対策の蓄積結果として現れる変化である。このことを混同すると、例えば絶滅危惧種の増減といった目標が、個体数の保護増殖だけに集中して、生息地保全がおろそかになるという状況を招くことが起こる。(該当箇所:1-(3)生物多様性の評価・指標)

意見11:目標・指標を検証する科学委員会が必要

指標・目標を組込んだ国家戦略の実施にあたって、そのモニタリングの科学性や成果の利活用を担保するため、科学委員会の機能を持った組織を設置し、海外の優良事例研究、生物多様性を把握するための適切な指標の検討、そのモニタリング・報告・分析体制の確立、成果の共有・普及の促進を行う必要がある。海外では生物多様性保全フォーラムが開かれており、幅広いセクターの参加により、取り組みや情報を共有する場として機能している。(該当箇所:1-(3)生物多様性の評価・指標)

意見12:市民参加型モニタリングはデータ蓄積だけでなく地域での保全活動の基盤となる

市民参加型モニタリングの実施は、参加者への生物多様性保全の普及啓発、地域での自主的な保全活動の育成につながることが期待できる。特に里山のように多様な環境要素をもち、人間の伝統的管理に依存する種が多く生息生育する環境では、市民を主体としたきめ細やかなモニタリング・保全の枠組みが不可欠である。また、通常困難な国土の広範囲にわたる面的なモニタリングを実現するうえでも有効である。ただし、市民レベルでの調査の実施が可能でありつつも、十分な科学性が担保されるよう、調査対象(指標種)や調査手法(頻度や調査設計)について十分な配慮が必要である。また、調査継続のインセンティブを維持できるよう、インターネットを活用した情報公開・共有システムや、解析結果や保全指針の市民への迅速かつきめ細やかなフィードバック体制についても、あわせて整備する必要がある。(該当箇所:1-(3)生物多様性の評価・指標)

意見13:温暖化が生物多様性に及ぼす影響を把握するための指標の設定

現在、生物多様性条約の枠組み上は、温暖化を測る指標の導入は決議されていないが、国内に双方の課題の重要性を普及することが社会的な関心からも求められているため、日本政府が率先して、温暖化が生物多様性に及ぼす影響を把握するための指標の設定を検討し、国家戦略に組み入れ、必要に応じて条約決議等に提案を行うべきである。その際には、温暖化による生物種の分布の変化やそれに伴う絶滅だけでなく、栄養塩動態や生物間相互作用といった生態系プロセスへの影響を把握できる指標についても設定すべきである。(該当箇所:1-(3)生物多様性の評価・指標)

意見14:具体的な「目標」「行程」「施策メニュー」を明記した「行動計画」を作る

国家戦略が具体的な施策や取り組みにどのように波及効果をもたらすのか、国民には見えてこない。この見えないことが国民的の関心の薄さに表れている。「具体的施策」も、現在行われている各施策を羅列している程度では、理念や課題が定まったところで、将来像やそれに向けた解決のアプローチは見えてはこない。国家戦略の「基本方針と主要テーマ」と「具体的施策」を結びつけるものとして、「目標」「行程」、「施策メニュー」、「予算規模(可能であれば)」を明記した行動計画が不可欠である。(該当箇所:3-(1)戦略の構成)

意見15:各省庁戦略・行動計画の策定を促す国家戦略

当協会では、NGOヒアリングで、各省庁の行動計画づくりの必要性を提案した。農林水産省では、現在、「農林水産省生物多様性戦略」の検討をはじめ、国家戦略への反映を目指し7月までにまとめる予定とある。第2の危機に象徴される里山の問題、海域保護区のあり方など、農林水産分野における貢献・解決が求められる課題は多いため、農林水産省としての生物多様性保全の方針が明らかになることに、注目をしている。一方、これらの課題について農林水産省任せにせず、この策定には環境省も国家戦略の策定状況と合わせて、関与・連携すべきである。今後、国土交通省や経済産業省、防衛省なども生物多様性保全のための指針・行動計画を策定するよう促すべきである。このように、他省庁で生物多様性行動計画・戦略を策定する際は、基本的な生物多様性の考え方・将来の国土の生物多様性のあり方、指標や目標などの評価の枠組みなどが共通認識になければ、国家的な施策として意味をなさないため、各省庁の戦略に環境省は積極的に関与していくべきである。(該当箇所:なし)

意見16:地方自治体レベルでの波及効果をもたらす国家戦略

千葉県が「生物多様性ちば県戦略」を策定しているように、具体的な地域の生物多様性保全に結びつけていくには、国の施策・戦略だけでなく、市民も参画した地域版生物多様性戦略・行動計画が有効である。このような自治体レベルの戦略・行動計画の情報も把握し、国家戦略と関係・連携する枠組みを用意し、今後の各自治体での戦略策定を促すよう支援が必要である。(該当箇所:2-(2) 学習・教育と普及広報、地方・民間の参画)

 

4.「多様な主体の参画・教育普及・市民メカニズム」

意見17:学校教育における生物多様性保全の理解を深める

現在の学校教育の現状を考えると、生物多様性保全の理解を深めるには、教員の再教育、またはそれに代わる市民の教育を行い、教育プログラムをつくる必要がある。外来生物問題のように、刻々と状況、対処方法が変化するテーマもある。指導者の情報が遅れないよう、常に最新の情報の集約と提供(特にリアルタイムのアップデートできる方法)が必要である。学校教育では知識に偏らないことが重要で、バーチャルな体験やイベント的な体験活動だけにとどまらない、知識と実感がともなった教育が重要である。その際、生物多様性が自分たちとどのような関わりを持つか、文化的な関わりを持つかにまで広げて、とらえられるようになることが重要である。生物多様性は、地域の歴史や文化にも大きく関連しているため、理科や生物といった自然科学のみではなく、社会や国語といった人文科学とも関連させ、複合的に学習できることが必要である。新しい科目をつくることも一つの対策だが、教科間の連携を築くことで対応することができる。むしろ、多角的な視点での対応が求められる生物多様性保全では、後者の仕組みが必要であると考える。(該当箇所:2-(2) 学習・教育と普及広報、地方・民間の参画)

意見18:社会人にも生物多様性保全の教育が必要

学校教育における取り組みの推進はもちろんだが、すでに義務教育を終えてしまった年齢の社会人こそ、激変している生物多様性の現況を共有し、社会のあり方を変える力になってもらう必要がある。そのために、社会人教育・情報伝達を再考、工夫する必要がある。世界経済に影響の大きい大企業社員にも生物多様性保全の教育の機会をもつべきである。(該当箇所:2-(2) 学習・教育と普及広報、地方・民間の参画)

意見19:企業の生物多様性保全の指針をつくり、企業貢献を促進する

近年、一部の大企業を中心に企業の社会的責任(CSR)の高まりから、環境配慮への取組みや省エネが企業内でも推奨されている。しかし、生物多様性にもかかわる企業活動については、ただ植樹やゴミ拾いなどを行う程度で、ともすれば企業価値を高めるための広報程度の位置づけしかされていない事例も見受けられる。新しい国家戦略の策定にあたっては、企業の本業もより生物多様性を配慮したものとなるように「企業における生物多様性保全ガイドライン」の策定が必要である。(該当箇所:2-(2) 学習・教育と普及広報、地方・民間の参画)

意見20:生物多様性保全基金(資金メカニズム)の創設。生物多様性を損なう事業を検証し、その予算の生物多様性への転換

民間、特に、生物多様性保全に関わるNGOの多くは活動資金も不十分ななかで献身的な取り組みを行っている。このような地域レベルの活動を促進するためには、資金メカニズムが必要であり、政府による支援事業だけではなく、民間助成基金に対する国家戦略の解説と戦略目標達成への協力要請、生物多様性保全基金創設(例えば、企業による売上げ寄付の受け入れや法人税・住民税の1%を基金に組み入れる制度を創設する)などの検討をするべきである。また、政府や地方自治体の各種公共事業が、生物多様性保全の損失・劣化につながっている(この中には、外来植物の利用や単一植林による「生物相の均質化」も含まれる)。これらの生物多様性に対する負の事業を検証し、生物多様性にとってプラスとなる事業や生態系支払いなどに予算転換することも重要である。(該当箇所:2-(2) 学習・教育と普及広報、地方・民間の参画)

以上


ご参考

環境省報道資料:「生物多様性国家戦略の見直しに関する懇談会」における論点等に対する意見募集について(平成19年3月15日)

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