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【事例6】御嶽の風力発電事業計画が 中止に至った背景(岐阜県)

2006.07.01
解説

『自然保護』誌2006年1/2月号でもお伝えしたように、岐阜県の「濁河風力発電事業(仮称)」は、地元の下呂・高山両市が、構造改革特別区域法に基づく特区申請を見送ったため、事実上事業が中止となりました。

地図の画像

会報『自然保護』特集:風力発電事業を考える(2006年7/8月号)より転載

この計画は、岐阜県と長野県にまたがる御嶽山の北麓、標高約1800~2000mの範囲に、高さ最大118m、直径80m、最大出力2000kwの風力発電機を10基建設するというものでした。計画地の全域が御嶽山県立自然公園の指定地域内かつ国有林である上に、施設の大部分が保安林(水源かん養保安林、保健保安林)にかかっていました。この「国有林であること」が特区申請が必要になった理由です。

地域の自然環境への評価が計画を食い止めた

「国有林野を自然エネルギーを利用した発電の用に供する場合の取扱いについて(平成13年9月7日付林野庁長官通達)」によれば、国有林において売電目的で民間企業が風力発電事業を実施する場合、貸付面積5ha、貸付料年額30万円を超えない範囲と規定されており、大規模な事業は行ってはいけないことになっています。

しかし、その後一部付帯事項がつき、①自然エネルギーを利用した発電に特に適し、②これを利用することが地域の活性化に資すると認め、③構造改革特別区域法に基づく認定を受けた特区においては、電力会社などへの売電目的で民間企業が発電事業を行う場合、前述の規定は適用されないことになっています。そこで、事業者はこれを利用しようとしましたが、一方で特区の認定申請は地方公共団体しか行えないのです。地元の下呂・高山両市は、開発による自然改変の不安が解消されないなどの理由から申請を見送り、事業は中止となりました。

御嶽山では、90年代、リゾート建設が計画されていました。高標高地域でのこの計画に対しNACS-Jは、現地視察や意見書の提出を行うとともに、全関係者が一堂に会して自然保護のための協議を行う場の設置を要望しました。その結果、当時の営林支局が進行役となり、「意見交換会」が何度も開催され、ここで県立自然公園指定などへの道筋がつくられました。この「意見交換会」などで、御嶽山の自然環境が持つ価値について議論したことが、前述の特区申請の見送りの判断に影響を与えたと思われます。また、保健保安林は、「その場の森林環境そのものの価値」を認めて指定されるものであり、その価値を損なう用途の変更は本来許されるべきではありません。このため、この風力発電事業に必要だった保安林の解除は、極めて難しいといえます。

060701御嶽山.jpg▲大部分が保安林指定を受けている御嶽山

事業者は建設地の選択をもっと慎重にすべき

風力発電は、計画地が民有地か公有地か、自然公園内か外か、自治体の環境影響評価条例の対象になるかならないかなど、立地によって関わる行政や法律・条例が異なるのが現状です。しかし、規制されていない場所=事業を行っていい場所、ではありません。規制の有無だけでなく、地域住民の意見にも耳を傾け、計画している事業がその土地の環境を損なわないものであるかを、事業者自らが判断していくことが重要です。

小林 愛(保護・研究部)

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