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【事例1】阿蘇の景観に自治体主導で風力発電所ラッシュ?(熊本県)

2006.07.01
解説
会報『自然保護』特集:風力発電事業を考える(2006年7/8月号)より転載

阿蘇車帰(くるまがえり)風力発電所。熊本県がクリーンエネルギーのエースと頼む風力発電所の第1号、県内では5番目の施設です。県企業局が1996年度から風況調査などを行った結果、採算が取れ環境影響も少ないと判断し建設に踏み切りました。年間351万6600kWhを発電し九州電力に売電しています*1

地元でこの風力発電所はどう受け止められているのか、阿蘇市の自然観察指導員の方々に聞きました。高村貴生さんは、「クリーンエネルギー、車帰牧草地の有効利用の観点から歓迎の空気がありました。行政としては地元の何らかのメリットを優先したのでしょう」、同市の和田一雄さんは、「景観上の問題と、上空が航空ルートだということで、芳しくないという意見も後から出てきました」と話します。

風力発電所が立地する地区は車帰牧野組合の入会地がほとんどを占めていますが、牧草地として利用されているのは258haのうち3割に満たない68haのみ*2。牧畜農家が減り、風力発電所を受け入れて観光など地元振興に役立てたいという期待が、地元にはあるようです。

車帰風力発発電所は、建設費1億円余のうち9600万円余を借入れ(企業債)と国庫補助金で賄いました。熊本県企業局による年間の収益見込みは300万円程度*3。企業局も課題として挙げる*4ように、日本における風力発電は想定通りの電力が得られない例が多く、赤字事業となる恐れもあります。

阿蘇山の景観中には既に何カ所かに白い人工物が点在していますが、2007年3月にはついに、小国町の阿蘇くじゅう国立公園内で大型風力発電所が運転開始となります。国立公園内での国内初の大規模施設建設を環境省が許可したもので、事業主は小国町と豊田通商との第3セクターです。

少なくとも阿蘇における風力発電は、採算割れリスクを背負い世界的価値の景観・観光資源を傷つけてまで、自治体自らが行う事業なのか疑問です。それを容認した環境省の考えとはどのようなものなのでしょうか。

*1 熊本県広報課 週刊メールマガジン「気になる!くまもと」第222号
*2 阿蘇デジタルミュージアム牧野組合
*3 第7回熊本県議会決算特別委員会会議録、平成17年10月19日
*4 熊本県企業局「熊本県企業局経営基本計画(第二期)」

(保屋野初子/ジャーナリスト・NACS-J会報編集ワーキング委員)

060701阿蘇外輪山の内側.jpg▲阿蘇外輪山の内側、車帰地区に広がる雄大な光景

060701阿蘇車帰風力発電所.jpg
▲外輪山の尾根、瀬越の風を利用して発電する阿蘇車帰風力発電所。見込み発電量は、一般家庭約1000世帯分の年間消費電力量に相当すると県では説明している。

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