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沖縄・辺野古 大浦湾の保全

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2004.06.10

「サンゴ礁生態系の基本認識を欠いている」 普天間飛行場・環境アセス方法書へ意見

040610辺野古航空写真

▲辺野古航空写真(撮影:目崎茂和/1980年)


2004(平成16)年6月10日
16日自然第50号

那覇防衛施設局長 岡﨑 匠殿

財団法人 日本自然保護協会
理事長 田畑貞寿

普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書に対する環境保全の見地からの意見書

 

(財)日本自然保護協会は、2002年7月から沖縄県名護市東海岸において、市民参加による海草藻場調査「沖縄ジャングサウォッチ」を実施し、代替施設建設予定地とされている辺野古海域が良好な海草藻場であることを明らかにしてきた。この度、普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書について、環境保全の見地から次のとおり意見を述べる。

 

意見の要旨

本環境影響評価方法書を、自然保護・生物多様性保全の観点から点検・評価した結果、ジュゴンが生息するサンゴ礁生態系の保全に対する国際的な注目があるにも関わらず、代替施設の位置選定段階で基本的な問題がある上に、影響予測の方法が十分に示されておらず、環境アセスメント調査の必要条件を欠いているという重大な問題があると判断される。したがって、本方法書を一旦撤回し、再度位置選定を含めた手続きをやり直すべきである。

 

意見

  1. この飛行場建設計画は、外洋に面したサンゴ礁に建設するという世界にも類を見ない特殊な条件を持っているにも関わらず、サンゴ礁の地形学・地質学的な基本的な認識を欠いた位置選定となっており、キャンプシュワブに隣接していること以外、立地上の利点は皆無であると思われる。まず複数案を比較検討できるよう「計画アセスメント」として実施することが必要不可欠である。
  2. 本方法書は、予測評価の前提となる飛行場とした際の使用機種やその利用頻度をはじめとした計画の詳細を明らかにしておらず、これでは環境影響評価法に則した内容とは認められない。那覇防衛施設局は、これらの詳細を明らかにするまで環境影響評価の手続きに入るべきではない。
  3. 本方法書の縦覧手続きの公開性にも問題があり、第2回世界自然保護会議勧告の履行に関心を抱いている世界に対し開かれた環境影響評価となっていない。日本政府は、勧告の趣旨に則り米政府の協力を求め、NEPA(米国国家環境保護法)レベルの環境影響評価を実施すべきである。
  4. 本方法書には、辺野古海域の重要な環境要素である「サンゴ礁生態系」の基本的視点が欠如している。海流・地形・生物群集の相互関係を含む「サンゴ礁生態系」のダイナミズムを正確に把握することが環境影響の予測評価には不可欠なため、方法書の不備を正すべきである。
  5. 本方法書が示すジュゴンの調査方法は、個体数の多い地域で試験的に行われているものであり、沖縄のように極めて生息密度が低い地域に当てはまるものとはいいがたい。このような不確実性の高い調査方法によって、この海域のジュゴンにとっての重要性が過小評価されるおそれがあり極めて問題である。

以上のことから、那覇防衛施設局長は、方法書の不備を認識し、新たな知見も踏まえ、科学的内容を整え、複数案を備えた方法書を作り直し、再度縦覧を行うべきである。

 


理由

第1章:環境影響評価以前の「位置選定」の問題点

「外洋に面したサンゴ礁に飛行場を建設することの不確実性」
040610サンゴ礁生態系立体模式図.jpg
普天間飛行場代替施設建設事業のように、サンゴ礁地形、とくに外洋に面した礁縁・礁斜面に飛行場を計画する事例は、日本ばかりか世界にも類を見ない特殊なケースである。すなわち、現在選定されている位置は、地形学・地質学的に見た場合、以下のような理由から大きな問題がある場所である。これは、「位置選定作業」において、自然環境がまったく無視されてきたことを物語っており、環境影響評価方法書以前にあまりにも大きな問題を抱えているといわざるをえない。

1-1.波浪・津波などによる災害上の問題点

サンゴ礁は、非常に大きな消波能力を持つ地形・地質構造物であるために、「自然の防波堤」と呼ばれている。特に台風や冬の季節風による暴浪時や津波の際に、サンゴ礁に囲まれる地域が災害から守られてきた事実が、沖縄だけでなく世界各地で知られている。その時、サンゴ礁の礁嶺・礁斜面上部を含む礁縁部は、外洋からの巨大なエネルギーを持った波を受け止め、エネルギーを大幅に減じる。一方で、この場所の一部が破壊され、その破壊された数mの岩や礁斜面上の砂礫が大量に礁嶺や礁池へ打ち上げられる。

ところが本事業は、外洋に直接面した礁縁・礁斜面に飛行場を計画し、サンゴ礁の消波機能の恩恵をまったく受けない最も波あたりの強い場所に建設しようとするものである。波浪・津波等による人工構築物の破壊、堆積物打ち上げによる被害、多大な塩害も予想され、そもそも工事中の対策から困難が予想される。常識的には、このような場所に飛行場を建設することは考えられず、日本ばかりか世界にも類を見ない特殊なケースである。

1-2.活断層についての問題点

本方法書第3章の地形断面図(p3-54)に示された断層は、図-3.1.4.6から判断して第四系を切る活断層である可能性があり、恒久的な代替施設(飛行場)の建設は回避すべき場所であるにも関わらず、そのことにはまったく触れられていない。

1-3.地形・地質的複雑性の問題点

代替施設(飛行場)建設予定地はサンゴ礁の礁縁部にあたる。この場所は、深い溝(縁溝)と尾根(縁脚)の組み合わせからなる複雑な「櫛の歯状」の地形(縁溝-縁脚系*1)が発達し、また、深い溝の部分の延長がトンネル状になって礁原下に続き、多数の海底洞窟や空隙を有している。礁縁部は、先述のように波あたりの非常に強い場所でもあり、このような場所においては、飛行場建設の基礎データとして不可欠な詳細な測量図・地盤地質図の作成は、作業も含めて事実上不可能だと考えられる。(なお、本理由書2-2で指摘するように、方法書では環境影響評価の前提として事業の詳細が示されなければならないが、埋め立てに必要な土量やその供給場所が欠落をしているのは、上記の理由による可能性が高い。)

また、この地域のサンゴ礁は、水路(クチ)が非常に多い点で、沖縄島の中でも特殊なところである。そのため、礁池内の海水流動が非常に複雑になっており、現況把握と影響予測が非常に困難だと考えられる。

*1この地形は、波の作用によって作られたものであるが、この地形自身が消波機能を有している。


第2章:環境影響評価方法書のあり方の問題点

「国際レベルに達していない本方法書は再度作り直すべき」

本方法書は、単なる飛行場建設及びその埋め立て事業ではなく、日米共同利用の施設であるため、その環境影響評価は、環境影響評価法の限界を超えて、複数案の比較を行うなど、米国の国家環境保護法(NEPA)のレベルの環境影響評価を実施すべきである。また2000年10月にヨルダンで開催された、第2回世界自然保護会議において、「環境影響評価を早急に実施し、調査にあたっては日本政府の要望に応じて米国政府も協力すべきである」との勧告が採択されていることに鑑み、日本政府は米国政府に環境影響評価への参加を要望し、日米合同の調査及び影響評価を行うべきである。普天間飛行場代替施設建設の環境影響評価は、国際レベルの環境影響評価が求められているにも関わらず、現在の環境影響評価法が求めるレベルにさえ達していないものであり、事業者である那覇防衛施設局は本方法書を撤回し、複数案を備えたものを作り直し、再度縦覧を行うべきである。

2-1.方法書の透明性・説明責任の問題点

本事業は、地元住民のみならず、全国的な注目を浴びていることに鑑み、事業者は方法書を地元で縦覧するだけでなく、インターネットなどを通じて、全国民が PDFファイルなどで入手できるようにすべきであるにも関わらず、事業者はこれを怠っている。また本事業が、日米共同利用の施設であり、国際社会においても注目を浴びていることに鑑み、方法書を英語に翻訳して、全世界の人がPDFファイルなどで入手できるようにすべきであるにも関わらず、事業者はこれを怠っており、市民がこれを代行しているのが現状である。

愛知万博の環境影響評価においては、関係市町において、事業者が何度も説明会を実施し、直接住民意見を聞く機会を設けた。しかし、今回事業者は、方法書縦覧の機会を設けたのみであり、コピーさえ許可せず、地元住民に対しても十分な説明責任を果たしていない。

本方法書は全国・全世界の人々に対する透明性・説明責任という視点から、大きな問題点を有している。

2-2.影響予測の前提が不明瞭なアセスメント

環境影響評価を実施するためには、普天間飛行場代替施設の利用予測が行われ、影響予測を行うための前提が明確にされなくてはならない。まず、埋め立ての土砂の供給、作業ヤードの位置などの前提が示された上で、米海兵隊の飛行場としてどのような機種がどのような頻度で利用するのか、機体の洗浄用の真水の供給方法など計画の詳細を明確にする必要があるが、本方法書ではまったく触れられていない。また、民間飛行場としての北部地域の需要予測が行われているが、那覇空港拡張による那覇空港の離発着数の増加など、関連施設の需要予測と併せた予測がなされていない。このように、影響予測のための前提が不明瞭な状態では、環境影響評価は実施できるものではなく、事業者は、これらの諸元を明らかにするまでは、環境影響評価の手続きに入るべきではない。

2-3.複数案比較のない事業アセスメント

本理由書第1章でも述べたように、辺野古海域はキャンプシュワブに隣接しているという以外は、立地上の利点は皆無の場所と思われ、豊かな海草藻場を含むサンゴ礁生態系の保全、絶滅のおそれのあるジュゴンの保全、高波・津波・地震などからの飛行場の安全性の確保、建設費など、あらゆる点から問題の大きな場所であるといえる。したがって、環境影響評価にあたっては、辺野古海域以外の候補地(代替施設新設を伴わない普天間飛行場移設案を含む)との比較考察が必要不可欠である。にも関わらず、本事業は、代替施設協議会において政府および自治体のみで位置を決定してしまい、国民に対しては代替案を検討する余地を与えていない。普天間飛行場代替施設建設の環境影響評価においては、複数案を比較できるような計画アセスメントを実施すべきであり、リーフ上に建設する以外の選択肢を許さない本方法書は、とても国際レベルの環境アセスメントとはいえない。

2-4.方法書の科学性の問題点

本方法書には「サンゴ礁」と「サンゴ」の違い、「サンゴ」と「珊瑚」の違いなど、科学的に誤った専門用語が多用され、方法書の科学性を疑わせる部分が多い。国際的な注目を集め、また生物多様性保全上重要な地域において、環境に影響を与える可能性のある事業を行おうとするからには、事業者は専門家による「環境影響評価アドバイザー会議」などを設置して、専門的な意見を聴取しながら事業をすすめるべきである。愛知万博の環境アセスメントでは、博覧会協会に「アドバイザー委員会」が、通商産業省(当時)に「環境影響評価手法検討委員会」が設置されている。事業者は、専門家による公開性を持った「環境影響評価アドバイザー会議」を設置するとともに、日米政府は、第三者の専門家による「環境影響評価委員会」を設置して、環境影響評価の科学性を高めるとともに、国際的な説明責任を果たすべきである。

2-5.ボーリング調査の問題点

事業者は護岸設計のためとして、環境影響評価実施前にボーリング調査を実施しようとしているが、現在は地元住民の反対もあり中断されている。当協会は、 2002年度から市民参加による海草藻場のモニタリング調査「沖縄ジャングサウォッチ」を実施し、この結果とボーリング予定地の座標を重ねると、少なくとも12地点は良好な海草藻場と重なるおそれが強いと主張してきた(https://www.nacsj.or.jp/katsudo/henoko/2004/01/post-38.html)。また本理由書第1章にあげた理由から、サンゴ礁上でボーリングを行った場合、空洞の大きなサンゴ礁は、陥没・崩落するなど、ボーリングそのものによって破壊され、そこに生育する生物に多大な影響を与えるおそれが強い。このような影響を受けやすい地域で、環境影響評価前にボーリング調査を実施することは、環境影響評価そのものの意味を失わせ、環境影響評価制度を形骸化するものである。事業者は、ボーリング調査を中止するとともに、環境影響評価項目の中に、ボーリング調査によるサンゴ礁・海草藻場への影響評価を加えるべきである。


第3章: 環境影響評価方法書の内容の問題点

「予測評価を行うのに不十分な方法書」

3-1.地形

概況の調査において、地形分類(p3-48)でサンゴ礁域がまったく示されていない。資料としてあげている「土地分類基本調査沖縄県本島中北部」(沖縄県,1992)をもとにしているが、その図にはサンゴ礁域が含まれており、干潟、礁池や礁斜面などが分類されている。本方法書で、わざわざサンゴ礁域を除き陸域のみの地形分類にしているのは、沖縄の自然環境の特性を無視するものであり、その結果、本理由書第1章で指摘した建設予定地が持つ地形・地質学的課題の欠落と、3-6で述べる海域の生態系把握における根本的誤りを生んでいる。

3-2.サンゴ礁

沖縄のサンゴ礁は、赤土流出、白化現象やオニヒトデによる悪影響が著しく、健全さを失っており、当該地域についても同様の状況である。環境変化の大きい現在の生サンゴの被度のみで評価するのではなく、沖縄のサンゴ礁生態系が健全な状態であったと思われる、1970年前後の調査結果や空中写真をもとにした潜在的なサンゴ生育場を把握し、さらにその回復可能性を含めた評価する必要がある。なお、空中写真では、生サンゴの状況は把握しづらいが、微地形の分布から潜在的なサンゴ生育場を把握することができる。

3-3.海草藻場

(ア)事業区域および周辺の概況では、海草藻場の面積と種構成の記述のみで、種を識別した分布調査が行われていない(p3-60)。当協会が実施した「沖縄ジャングサウォッチ」では、被度25%以下の海草藻場は空中写真から読みとることができず、代替施設協議会に対して事業者が提出した海草藻場の分布図は過小評価となっていることを指摘した(吉田・河内・仲岡2003)。本方法書には、海草藻場分布図を作成すると書かれているが、種を識別した正確な分布図を作成するとは書かれていない(p4-74)。調査及び予測の手法では、潜水調査によって、この地域に出現すると予想される9種の海草の正確な分布図を作成すべきである。

(イ)海草類に関しては、サンゴ類と併せてライン調査を行い、出現数、生育被度を記録し、断面図を作成するとしている(p4-74)。しかしライン調査の位置図(p4-72)を見ると、海草藻場に関しても、サンゴ調査と同じライン数であり、飛行場予定地にかかるのはわずか2ラインである。当協会の「沖縄ジャングサウォッチ」では、200m間隔で18ライン(うち飛行場予定地に直接かかるものだけで 12~14ライン)を調査している。飛行場にかかるライン調査の数をもっと増やすべきである。

(ウ)またライン調査を補うために、スポット調査(100地点)を行うとしており、中城湾港新港地域についてはスポット調査地点が図示されているが、辺野古地域に関しては、スポット調査地点がまったく示されていない(p4-72,73)。当協会の「沖縄ジャングサウォッチ」でも、潜水によるスポット調査地点は、合計 70地点に及んでいる。NGOのデータとの相互比較ができるようにするためにも、スポット調査地点の位置、調査項目などの詳細を明らかにすべきである。

(エ)ジュゴンの調査予測手法の項目に、100×100mの定点区画調査を実施するとされているが(p4-77)、スポット調査との位置関係が不明である。ジュゴンの食痕などを調査するのであれば、広域のスポット調査と関連付けて定点区画を設置することが望ましい。海草のスポット調査とジュゴンの定点区画調査の位置関係を明らかにすべきである。

(オ)水深の深い場所のウミヒルモ類については、ジュゴンの昼間の餌とされている可能性があるため、重点的に調査する必要がある。スポット調査の結果とジュゴン調査における曳航式の水中ビデオシステムによる調査結果からリーフ外の深場の海草藻場の生育範囲を把握するとしている(p4-74)が、曳航式の水中ビデオによって撮影できる範囲は画角も限られているため、潜水による調査を実施すべきである。

(カ)予測の基本的な手法(p4-76)には、埋め立てによる直接以外の影響による定性的・定量的影響予測の方法が書かれてない。海草藻場の基盤となる堆積物は、サンゴ礁上の有孔虫を中心とする生物起源のものであり、サンゴ礁による波浪・海水流動が海草藻場の形成に大きく関わるため、潮流・潮汐・底質・水質等の変化による、海草の種ごとの分布域や現存量の変化の予測をどのように行うのか、その影響予測の手法を記述すべきである。

3-4.ジュゴン

(ア)生息状況調査
小型飛行機及びヘリコプターを用いた航空調査による上空からの目視確認と写真撮影をするとされている(p4-77)。この調査は実施する意義はあるが、本方法書にも書かれている通り、静穏時の日中に限定され、直接的改変域に来遊すると思われる夕方から明け方にかけての利用状況を把握することは困難である。

(イ)海草藻場来遊調査 
航空機による調査を補う目的で提案されているのが、水路部に設置した水中ビデオカメラ及びパッシブソナーによる連続観察である(p4-78)。これらの調査を実施する意義はあるが、パッシブソナーは、タイなどのジュゴンの個体数が多い地域で試験されているに過ぎず、沖縄のように極めてジュゴンの密度が低い地域では不確実性が高い。人工物の影響を受けやすいジュゴンが、水中ビデオカメラ、パッシブソナーの存在に気づいて、水路を利用しないおそれもあり、水中ビデオカメラに撮影されない、あるいはパッシブソナーで音を拾うことができないことをもって、ジュゴンが利用していないと判断される可能性があり極めて問題である。

(ウ)海草藻場利用状況 
リーフ内におけるジュゴンの食痕などの利用状況を調査するためマンタ法が提案されている(p4-77)。しかしマンタ法は、秒速2mほどの速度で移動しながら調査する方法であるため、泥質の海草藻場に残された明瞭なジュゴンの食痕であれば発見することは容易であるが、サンゴ礫域の海草の地上部のみを食べたような食痕を発見することは困難であると思われる。それを補うには、本方法書に書かれているように定点区画法による定期調査を行うことが必要であるが、定点区画法については、設置場所や設置数が書かれていない。前述のように、海草藻場のスポット調査位置と関連付けて、ジュゴンの食痕の定点区画法について、記述すべきである。

(エ)夜間照明・騒音等に対する反応 
飛行場供用時の夜間照明・騒音などがジュゴンに与える影響については、文献・資料調査および専門家へのヒアリングを行うとされている(p4-78)。しかし、文献・資料が豊富なオーストラリアの事例調査をすることは無駄ではないが、個体群密度や海草藻場の広がりなど、沖縄とは状況が違い参考にならないと思われる。飛行場としての利用頻度や機種などの諸元が明らかにならない中で、文献・資料調査、ヒアリング調査をしても、定性的・定量的な影響予測をしたことにはならない。

(オ)調査期間など 
生息状況調査、海草藻場の利用状況調査は、1年間毎月1回ないし2回とされている(p4-80)。しかし、ジュゴンの妊娠期間が 13~15ヶ月、授乳期間を合わせると妊娠・育児期間は3年に及び、出産間隔は繁殖率の高いオーストラリアでさえ3~7年といわれている。したがって、ジュゴンに関する調査は、1年限りの調査では不十分であり、方法書から評価書にいたるまでの期間のみならず、その後の追跡調査を含め、10年以上にわたる調査計画を立てるべきである。

3-5.底生動物

(ア)新種として記載されたサンゴウラウズガイ(Okinawastrea nakamineae
この3cm程度の貝は、1981年に新属・新種として、辺野古のサンゴ礁から記載されたものである。海産の貝類で、サザエの仲間なので、プランクトンとして幼生がこの場所以外にも広がっていくはずのものであるが、現在までのところ、沖縄島を含め世界の他所から記録はない。つまり、世界中で、サンゴウラウズガイという種(およびその属)は、代替施設予定地でしか確認されておらず、この場所が埋め立てられると、現在まで知られているこの種の唯一の生息場所が消失してしまうことになる。この種を取り上げないていないというのは、大きな問題である。

(イ)南限のチャイロキヌタ(Cypraea artuffeli
チャイロキヌタは、よく知られているタカラガイの一種で、本州-九州には普通に生息している。しかし、琉球列島では生息地は限られ、沖縄では瀬嵩周辺でしか確認されていないようである。つまり、この種も本事業により、その南限の生息地が消失してしまう可能性があり、取り上げるべき種である。

(ウ)文献調査の不十分さ
当該地域の貝類に関して、約800種以上のリスト(ウルマ貝類調査グループ. 2003. プロ・ナトゥーラ・ファンド第12期助成成果報告書, pp. 17-31.)がある。他にも、重要な情報源として、1992年に沖縄県立博物館から出版された「仲嶺俊子貝類コレクション標本目録」がある。これらの文献を見落としたことは大きな過失といわざるをえない。「中城湾港新港地区に係る区域」には、泡瀬地区も含まれている。この地区でも、名和(2001:WWFJ Sci. Rep., 4:1-44.)や水間・山下(2002:九州の貝, (59):42-62.)等の報告があるにも関わらず、採録されていない。これらも採録すべきである。他の環境アセスメントの事前調査では、貝類において、1000種を越えるようなリストをそれぞれの文献を明示した上で作成していることもある。つまり、今回の「概況の把握」は余りにも杜撰であるとしかいいようがない。

(エ)「調査の基本的な手法」底生動物について(p4-62マル4)
サンゴ礁海域では、温帯域の内湾泥底のような均一な場所とは異なり、場の異質性が高いことは充分認識されるべきであり、この特異性が高い生物の多様性を生じさせているのである。この考えにもとづき、「底生動物」の調査方法を検討すると、スミスマッキンタイヤ型採泥器による小面積の調査では、かなりの回数を行わなければならないことは確実である。それにも関わらず、本方法書では、1地点当たりの回数すら明示されていない。また今回の調査区域では、底質にサンゴ礫が存在しており、スミスマッキンタイヤ型採泥器による厳密な底質の採取は不可能といってよいと思われる。この点から、「底生動物」の調査手法を再検討すべきである。この当該地域の海域の「底生動物」を調査するには、様々な環境を含めるために、調査地点数を30程度とし、各地点では25×25cm深さ20cmの方形区を5個得ることが必要である。また貝類の場合、生きた個体のみではなく死殻も調査対象とし、本当の意味での「生物多様性」(p4-98マル2)を明らかにすべきである。本方法書で記述されている調査方法で完全に抜け落ちているのが、調査に用いるフルイのメッシュサイズである。近年の底生動物の調査では1mmのメッシュを用いており、この1mmのメッシュを用いることを明記せねばならない。

(オ)葉上性貝類(動物)の調査の必要性
今回の底生動物の調査には、アマモ類の葉上に生息する貝類を含む動物について、なんら考慮が払われていない。本地域にアマモ類の藻場が広がっていることは認識されており、その藻場の持つ特性をより明確にせねばならないことは当然である。その際に、特に葉上に生息する貝類や他の動物群は、通常の底生動物とは異なった方法を用いなければならない。この調査を追加すべきである。

(カ)「調査の基本的な手法」調査地点(p4-64マル1) 
現地調査の範囲を安部崎から前原地先までの海浜部を含めた海域としており、今回の「対象事業が実施されるべき区域」には、大浦湾奥部のマングローブ林も含むべきである。このマングローブ林からは、かなり多くの、そして貴重な貝類の生息が確認されている(西平, 1974.沖縄の潮間帯;和田ら, 1996. WWFJ Sci. Rep., 3:1-182.)。そして、その種が「絶滅の危機にある」とされている。この点に、配慮が払われなかったのは奇異にすら感じられる。また、大浦のマングローブ林前面の干潟も調査範囲に含めるべきである。底生動物の調査地点として、「久志、松田前面の干潟域及び辺野古川河口域を除く」としてあるが、この地点を除く理由が不明であり、これらの地域も調査地点に含めるべきである。

(キ)「調査の基本的な手法」(p4-83)
陸産貝類(カタツムリ)に関しても、環境省のRDBに多数の種が登載されており、いくつかの文献にはこれらの種も記録がある(例えば、Chinen,1977.Ecol.Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isl., III: 127-149.)。陸域動物の調査内容に陸産貝類(カタツムリ)を含めるべきであり、その方法としては、昆虫類に準拠し、目撃法、任意採集法、ツルグレン法とするべきである。

(ク)アセスメント調査で得られた標本の公的な機関への保管・登録
これまでのアセスメントの指針では、「アセスメント調査で得られた標本の公的な機関への保管・登録」は義務づけられていない。しかし、生物多様性が声高に叫ばれている現在、環境アセスメントで得られるサンプルは、確実に今生きているものを取り除く作業であり、そのサンプル中には貴重なものが含まれている可能性も高い。そのため、今後は環境アセスメントで得られた標本等は、地域の博物館などの公的な機関に保管・登録されるべきである。

3-6.海域生態系

生態系に係る調査項目は、環境影響評価法がそれ以前の閣議アセスから変わった目玉の部分であるにも関わらず、海域生態系の調査項目(p4-98)は、生物種リストを作成するインベントリー調査の域にとどまり、きわめて問題の多いものとなっている。

(ア)海域生態系の基本的調査手法は、「干潟生態系、藻場生態系、珊瑚礁生態系」(p4-98)などと羅列的に記載されている。しかし、サンゴ礁域における浅海域の生態系は、礁斜面、礁嶺、礁池内のサンゴ群集、礁池内の砂地・藻場、干潟・砂浜などの構成要素からなるサンゴ礁生態系として全体を捉えるべきである(図1)。各構成要素は、サンゴ礁生態系の中のサブシステムとして捉えることもでき、サブシステムの相互関係がどうなっているかという生態系モデルを作るべきである。

(イ)その上で、それぞれのサブシステムを代表する生物種、あるいは生活史の中でサブシステム間を往復する生物種などを選び、典型種、上位種として、それに対する影響予測を行うべきである。本方法書の調査すべき情報(p4-98)には、「上位性、典型性、特殊性など注目種の生態、他の動植物との関係、生息・生育環境の把握を目的として」と書かれているにも関わらず、調査の基本的手法(p4-98)には、インベントリー調査(目録作成)しか書かれておらず、極めて問題の大きな項目である。

(ウ)サブシステム間の関係やサンゴ礁生態系全体を把握する上で、生物間の関係だけでなく、生物-環境間の関係を把握することが不可欠である。波・海流・地形・堆積物・生物群集の相互の関係性や、サンゴ礁生物起源の堆積物の生産・移動・堆積のダイナミズムが、海草藻場や砂地・海浜といった各構成要素(サブシステム)に大きく影響する。その際、礁嶺や水路(クチ)といった地形の位置によって、礁池内の海水流動パターンが決定される。したがって、構成要素(サブシステム)の平面的な配列にも注目する必要がある。

(エ)生態系モデルには、海洋物理学的な要素(地形、水・砂の移動)を含め、埋め立ておよび飛行場建設による波・流れの変化が生物環境に与える影響を予測し、サンゴ礁生態系全体に与える影響を総合的に評価すべきである。しかし、本方法書では「護岸・埋め立ての工事、造成等の施工による一時的な影響」として「工事による水の濁りや騒音等の発生」(p4-99)が記載されているのみであり、「存在・供用時」の影響に関しては、まったく予測の手法が書かれていない。これでは埋め立てによって失われるサンゴ礁や藻場については予測評価されるが、その周辺のサンゴ礁生態系(藻場を含む)に対する影響は予測評価できない。


■ 方法書検討委員(50音順)

黒住耐二(日本貝類学会会員)

中井達郎(国士舘大学)

仲岡雅裕(千葉大学)

目崎茂和(南山大学)

吉田正人(江戸川大学)

大野正人(日本自然保護協会)

小林 愛(日本自然保護協会)

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