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7団体で緊急要請を提出 ―諫早湾問題で農水大臣へ―

2004.04.28
要望・声明

 


 

2004年4月28日

農林水産大臣 亀井善之 様

諫早湾の中・長期開門調査見送り方針の撤回を求める緊急要請

諫早干潟緊急救済東京事務所
諫早干潟緊急救済本部
有明海漁民・市民ネットワーク
日本湿地ネットワーク
財団法人日本自然保護協会
財団法人世界自然保護基金ジャパン
財団法人日本野鳥の会

 

7団体は、4月27日に農林水産大臣が諫早湾の中・長期開門調査見送りの方針を表明したことに対し、強く抗議し、以下の理由で、調査見送りの撤回と中・長期開門調査の早期実施を求める。

 

1.中・長期開門調査見送りは第三者委員会や住民の意見を無視したものである。

中・長期開門調査は、諫早湾干拓事業が有明海の環境に与えていると想定される影響を検証するために、科学者と沿岸漁業者の代表からなる第三者委員会が、2001年12月に、その実施を農水省に対して提言したものである。その提言から既に2年以上が経過し、最近では、福岡、熊本、佐賀の3県の議会と行政当局を始め、沿岸の多くの自治体の議会でも調査実施の要請が決議されている。これらを無視することは、断じて認められない。

 

2.農水省には、諫早湾干拓事業の有明海への影響の有無を明らかにする責任がある。

農水省は、短期開門調査やシミュレーションによる検討の結果として、「諫早湾干拓事業による有明海への影響はほとんど認められない」としているが、これに対しては、有明海・八代海総合調査評価委員会の委員や、多くの研究者から厳しい批判がなされており、農水省の見解を支持する研究者は皆無と言ってよい。

また、中・長期開門調査では影響の検証が難しいとする理由についても、海洋調査の意義を否定した非科学的な姿勢との批判がある。中・長期開門調査を見送るのであれば、農水省には有明海の環境悪化が諫早湾干拓を主因とするものではないことを証明する責任があり、それができないまま、開門調査実施を見送ることは断じて許されない。

 

3.中・長期開門調査について現実的な実施方法の検討がまったくなされていない。

農水省は中・長期開門調査が実施困難である理由として、「新たな漁業被害が生じるおそれがあり、その防止には630億円の費用と長期間の対策工事などが必要」であることを挙げているが、630億円の費用の妥当性については、中・長期関門調査検討会議でもまったく点検されていない。

漁業被害を与えるとする調整池排水の流速や濁りの拡散についても、水門の常時全開を最初から最後まで行うとの単純な想定のみで憶測したものであり、海水導入時の凝集効果や排水方法の工夫などにより、より経費の少ない対策で開門が可能である。農水省は、自ら非現実的な実施方法を想定して、調査を「現実的でない」と述べているに過ぎず、このような論法で中・長期開門調査を否定することは、行政のあり方として許されないことである。

 

4.調整池の水質改善のためにも、開門調査による海水導入が必要である。

農水省は、開門調査を実施すれば、調整池からの排水によって漁業被害が生じるとしているが、これは、中・長期開門調査の実施を見送るために意図的に強調されているのではないか。開門調査を行わなくても、調整池からの排水は、日常的に諫早湾に放出されており、開門調査によって、なぜ、より大きな被害が生じるのか、その点について農水省は明確な説明をしていない。

調整池内に海水を導入する際の巻き上げなどについても、海水の流入量をコントロールすることで、抑制することが可能であろう。むしろ、海水の流入による凝集効果で、調整池内の濁りが抑えられるということは、農水省も知っていることであり、実際に短期開門調査を実施した際、調整池の内部の水質は改善している。

一方で、淡水化された調整池の水質改善は、これまでも対策が講じられているにもかかわらず、一向に効果が上がっていないのが現実である。調整池からの排水による漁業被害を懸念するならば、開門調査による海水導入で水質改善を期待するのが、むしろ最善の方法である。

さらに、有明海全体の再生のためには、覆砂や海底耕耘など小手先の漁場改善策では不可能である。潮流や干潟の回復こそが不可欠であり、そのためにも中・長期開門調査による検証が必要である。

 

5.諫早湾干拓工事を即時中断し、有明海の再生という視点に立って、干拓事業の中止を含めた再検討を行うべきである。

諫早湾干拓事業は有明海の自然環境を始め、渡り鳥など地球規模の生態系を破壊するものとして、早期より国内外のさまざまな立場から警告がなされてきた。今日、大規模な環境調査が必要になった責任は、批判を無視して事業を推進してきた農水省自身にある。

農水省は干拓工事を即時中断して中・長期開門調査を実施し、調査期間中に事業そのものの意義も改めて検証すべきである。その上で、干潟や潮流の回復を基本とした有明海再生という視点に立って、干拓事業の中止を含めた政策転換を行うことを強く要請する。

 

私たちはこれまでも幾度となく農水省に対して、このような要望、提言、批判を行ってきたが、それに対する説得力のある詳細な回答は残念ながら一度も返ってくることはなかった。したがって、今後は科学的で建設的な議論を進展させるためにも、農水省には具体的データや科学的根拠に基づいた回答をされるように強く望みたい。農水大臣が最終判断を行うのは、そうした議論に決着がついてからでも遅くはないはずである。

以上

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