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●外来種問題のギモン(1)

2004.03.01
解説

会報『自然保護』2004年3/4月号より転載


「外来種」とは何か

外来種とは、何らかの人為によって、地域や生態系の外から導入される生物種です。これまでそのような生物種に対しては、移入種、導入種など、ニュアンスの異なるいくつかの名称が使われてきました。「生物多様性条約」は、エイリアンスピーシーズ、すなわち日本語の外来種にあたる語を用いて、その防除を締約国に求めています。生息地域外に人為的にもたらされる生物種という定義にしたがえば、国内での移動、たとえば本州の種が北海道や小笠原に導入されれば、それも外来種です。

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▲鬼怒川の外来牧草のシナダレスズメガヤ。
緑化材料として地域に大量導入されるため、砂礫質の河原に侵入して草原化し、河原固有の動植物の生息・生育場所を奪っている。(撮影:村中孝司)

問題は侵略的な外来種

外来種のうち防除が必要とされるのは、生物多様性や人間活動に何らかの深刻な影響をもたらす「侵略的外来種」です。その影響を回避し、問題を解決するためには、積極的な対策が求められます。

まだ個体数の少ない導入直後には影響が認められなくとも、新たな環境に適応して突然増え始める侵略的外来種が少なくありません。生物は、本来の生息地域の外に出て定着に成功すると、病害生物や天敵の影響を免れて競争力や繁殖力を増し、競争相手となる在来種より優位に立ちます。そのため、在来種を競争で排除してしまいます。

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図:外来種問題の複雑さの一例

また、外来種との進化的な関係が浅く、防御手段を進化させていない在来種を、捕食者、寄生者として脅かします。植生における優占種が外来種に変われば、食物網や物理的環境が根底から変化し、生態系全体が以前とは異なるものに変化してしまいます。

外来種がもたらす農林水産業の被害も甚大で、今では影響の大きい害虫や雑草のほとんどが外来種という実態です。外来牧草のまん延が花粉症を引き起こし、人にも感染する病原生物を持ち込むなど、人に深刻な健康被害をもたらすものもあります。

侵略的外来種をつくらないために

このように侵略的外来種がもたらす社会的損失は多岐にわたりますが、その影響は、未然に防ぐのが一番です。侵略的外来種をつくらないためには、「疑わしきは罰する」という原則にのっとり、外来種の導入を極力避けることが重要です。

開国を機に、外来生物の積極的な導入が始まった明治期以降、日本において定着が記録される外国産の動植物は時代を追うにつれて増加しました。今では、侵略的外来種としての大きな影響が認められる種も少なくありません。そのような種については、生態系からの除去のための積極的な対策が必要です。放置すれば、ほかの要因ともかかわりながら生態系の取り返しのつかない変質を加速させてしまいます。

対策は、生態系の中での外来種の振る舞いを科学的にしっかりと把握し、絶えず科学的な評価を加えながら順応的に実施しなければなりません。

(東京大学農学生命科学研究科・鷲谷いづみ)


移入種?帰化種?外来種?

これまで移入種、外来種、帰化種という言葉は混在して使われてきた。長年環境省は「移入種」を用い、国土交通省は「外来種」を用いてきた経緯もある。いずれも対策の対象として、主に外国からの生物を問題にしてきたので、同じ意味を表してきたが、現在は国内の地域間での人為的な移動も含め「外来種」という用語が一般的になってきた。

(編集部)

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