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2004.01.01

日本のトキ絶滅の意味を重く受け止める

会報『自然保護』No.477(2004年1/2月号)より転載


中国洋県で営巣、産卵するトキ(写真提供:蘇雲山)


昨年10月10日、最後の日本産トキ「キン」が死んだ。戦後初めて日本国内で絶滅が確認された種となった。保護や人工繁殖が試みられながら、日本産のトキが再び空を舞うことはできなかった。キンの死は、日本における希少生物への保護対策のあり方を考えさせられる、非常に重い死であるとNACS-Jは受け止めている。NACS-J顧問の小原秀雄さん(女子栄養大学名誉教授)に、その意味を聞く。


小原秀雄
NACS-J顧問

■日本のトキが絶滅したことには、どんな意味があるのでしょうか?

長い進化の歴史を経た自然生態系の中での位置(生態的地位)を占めていた日本のトキが絶滅したことは、日本の生態系の中で一つの種が消失し、生態系のバランスが間違いなく変化したことを表しています。ほかの生物と食物連鎖の関係などを結ぶことで、地域の野生生物「界」は構成されています。地域ごとの生物界の多様性が失われていくことは、つまり地球上の生物多様性が損なわれつつあるということなのです。

■トキの絶滅で、われわれにどのような影響があるのでしょうか?

人間への影響は、さまざまな面から考えられます。たとえば、風土を形成し、郷土への印象を生む地域の特色のある自然景観が失われます。全国のどこにも、佐渡にも、日本で古来からくらしてきたトキの舞う空は、もうありません。その景観を失うことは「故郷」の喪失を意味します。さらに、精神環境の悪化も考えられます。現代の先進国に広がる心の荒廃は、自然の多様さが失われることが原因の一つに考えられています。鳥やけものへの人々の愛情は、人間のうちなる自然が、自然そのものに共鳴するからかもしれません。動物の行動や四季の変化の多彩さが失われ、どこへ行っても変化のない、人工的な世界に置き換わりつつあるのです。これは地域文化多様性の喪失にもつながります。

■トキは特別天然記念物であったのになぜ絶滅したのでしょう?

トキはたしかに、文化財保護法で指定された特別天然記念物でした。生息数が激減し、1981年に5羽の全鳥捕獲が行なわれましたが、すでに彼らの体の中には、農薬などの有害物質が蓄積し、近親交配もすすんでいました。繁殖行動は見られたものの、卵は孵化せず、ケージの中でケガや内臓疾患で若くして死んでいったトキが多かったのです。野生の種のあり方は生活の単位であり、遺伝的多様性を保てる個体数が生活できる構造が必要なのです。種を文化財として指定しても、その種が生きられる環境が充分に保全されなければ、生命を持った文化財は製になるばかりです。野生生物の価値は、自然遺産としてだけでなく、本当の意味で命を持った文化遺産でもあるという価値観の見直しをするべきです。生物多様性条約の理念もここにあります。

■人がもたらす生態系のバランスの崩壊が、再び人間の生活にも悪影響を及ぼすほかの例はありますか?

たとえば開発や紛争で、人間が野生生物界に頻繁に出入りすることによって、生物界の中に安住していた生物が流出し、人間やほかの地域の野生生物にとって新しい病(西ナイル熱など)を生み出し、拡大させています。さらに自然への無配慮な活動は、大気や水、そのほか自然資源を荒廃させるので、熱帯多雨林に代表される多様な種の生物界が単純化・乾燥化し、異常な気候変動を起こします。それによって、さらに水不足や水質、大気の悪化がすすみ、人間の物質生活の基盤である自然の荒廃を招いています。

■『自然保護』読者へ、メッセージをお願いします。

(1)各地域の野生生物界の保全は、自然を含んだ地域文化活動として汎世界的に生物多様性国際条約(ワシントン条約など)につながるグローバルな動きであり、価値があることを知ろう。

(2)種の自立に基づいて野生動物とつき合うようにしよう。

(3)保護と管理では、動物の方を指標とし、人間側の管理と野生生物界から都市まで、多様な共存の地域的再構築を目ざそう。

(4)現実の運動に加えて、哲学的理念を基本に学問と法などを使って地域特性に則した実践的保護管理を打ち立てよう。

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