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「尾瀬の保全目標をつくり直そう」 尾瀬シンポジウムで合意できたこと

2003.01.01
活動報告

会報『自然保護』No.471(2003年1/2月号)より転載


日本自然保護協会ではこれまでも、尾瀬の保護と利用のあり方について意見書や提言を出してきました。

しかし、関係者が多く問題も複雑なため、残念なことに解決につなげることができませんでした。「何とかして共通の議論の場をつくりたい」。そう考えて、約10ヶ月の準備期間をへてシンポジウムを実現しました。

 

尾瀬における考え方の対立

尾瀬は観光地なので、人への便宜が優先(全域が「保養」の場)

両端矢印

国立公園は保護が前提(特別保護地区は「保護と環境教育」の場)

特定の日の集中的な利用が問題(分散とマイカー規制で解決)

両端矢印

恒常的な過剰利用こそが問題(利用のし方の制御で解決)

核心地域にも施設が増えて当然(宿泊利用を推奨)

両端矢印

核心地域の施設は、抑制が当然(日帰り利用を推奨)

尾瀬は自由利用前提

両端矢印

国立公園には利用秩序が必要

問題が起きるごとに対処するしかない(対症療法)

両端矢印

方針を立て、それに沿って対処すべき(保護計画・利用計画)

シンポジウム・報告「NACS-Jの問題意識と至仏山の現況」(横山隆一・NACS-J)資料より

 

問題の根底にあるのは?

11月17日の公開シンポジウム前日、関係者に集まってもらい自由な討論の時間を持ちました。

話題に上ったテーマは、入山者の数をどうしたらコントロールできるか、施設や山小屋はこれでいいのか、9年間も登山道を閉鎖したのに自然破壊が止まらない至仏山をどうするか、尾瀬の観光地化を防ぐ方法はないのか、だれが責任をもって管理するのか、など多岐にわたるものでした。

030101NACSシンポ「尾瀬をどう守るか」.jpg

しかしどのテーマも、論拠の根底にあるのは、尾瀬に対する認識のあり方です。尾瀬は深い精神性をもった自然体験の場であることを絶対に乱してはならないという考え方と、できるだけ多くの人に楽しんでもらうため整備をすべきという考え方に大きく割れているところから、次々と問題が生まれてくるのです。

NACS-Jは、翌日のシンポジウムでは対立してもいいから議論をつくし、尾瀬を守る考え方の原点を共有したいと考えました。

 

「目標をつくり直そう!」

私は、パネルディスカッションの司会をお引き受けしたのですが、結果には不満が残っています。原因は、肝心な本質的議論がうまく引き出せなかったことです。具体的な個別テーマの技術的な解決策に陥りがちになるところでは、もっと反論の提起が必要でした。会場の参加者からももっと意見を求めるべきでした。司会者の不手際をお詫びしなくてはなりません。

それにもかかわらず、シンポジウムではひとつの前進が約束されました。それは、環境省の国立公園課長をはじめ関係者の間で、基本的な考え方に立ちかえり、尾瀬の「保全目標をつくり直そう」という合意がされたことです。そして、国が公園計画を策定するのに先立ち、尾瀬保護財団とNACS-Jが中心となり地元の人々や自然保護団体をまじえた合意形成のための円卓会議のような組織をつくり、話し合いの場をつくるという具体案が出されました。

至仏山の問題には、科学的な調査に基づき利用調整を考える時期が来た、という対策が出ました。講演者の大庭照代さんは視覚的な景観だけでなく、鳥の声、風の音など自然の音の景観も守るべきだと話し、携帯電話の問題などに新しい視点を提供してくれました。

鳩待峠まで車で来て、1時間の下り坂を歩けば尾瀬ケ原の核心部に到達できるようになって、尾瀬のイメージは変わってしまいました。よくいえば万人に開かれ、否定的にいえば一般の観光地と変わらなくなりました。山に不慣れな人が増えれば事故が増え、道の整備と安全対策に追いまくられています。人が多すぎて十分な観察ガイドもできない状態です。このままでいいはずはありません。

尾瀬の貴重な自然を完全に守るため、訪れる人が深い感動をもって自然を体験できる新しい利用のルールと管理の制度をつくるため、これをはずみとして対話と政策提言のプロジェクトを展開していきたいと考えています。

水野憲一(NACS-J理事・NACS-J国立公園制度小委員会委員)

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