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「20世紀型公共事業を中止したうえでの自然再生型公共事業や環境保全型農林業の推進を」

2002.03.11
要望・声明

平成14年3月11日

環境大臣  大木 浩 殿

(財)日本自然保護協会理事長 田畑貞寿

新・生物多様性国家戦略中間とりまとめ案に対する意見

環境省は、新・生物多様性国家戦略策定にあたり、昨年3月にはじまった専門家による懇談会から、中央環境審議会に設置した生物多様性国家戦略小委員会にいたるまでの審議をすべて公開し、その過程でNGOの意見を聴取するなど、これまでにない透明性・公開性をもった戦略策定をめざしており、その姿勢は高く評価できると言える。したがって、小委員会において成文化された、第1部「生物多様性の現状と課題」、第2部「生物多様性の保全及び持続可能な利用の概念と目標」、第3部「生物多様性の保全及び持続可能な利用の基本方針」に関しては、すでにNGOの意見が取り入れられており、基本的に支持できるものとなっている。以上のことから、このたびのパブリックコメントでは、前記のプロセスの中で検討が十分行われていない、第4部「具体的施策の展開」に絞って意見と要望を述べる。

第4部 具体的施策の展開

第1章 国土の空間的特性・土地利用に応じた施策

森林・林業について

p.90
林道については、「林道の種類による役割分担を明確化した上で、その規格や構造の見直しを行い、森林や地形の状況に応じた弾力的な整備を行う、また自然環境に対応した林道(エコリンドー)整備を一層推進する」との記述がある。一方で林道としては過大な規格をもった大規模林道の建設が、今も岩手県早池峰山などですすめられており、自然環境への影響が問題視されている。「大規模林道の建設は中止し、林道としての必要かつ適切な用途・規模をもったものに計画し直す」ことを記述すべきである。

農地・農業について

p.106
基本的考え方、環境保全型農業の推進など、どこをみても過去の干拓事業推進による干潟の喪失など、生物多様性に大きな影響を与えてきた事業への反省が見られない。八郎潟干拓事業、諫早湾干拓事業、中海・宍道湖淡水化事業など過去の農業政策が、干潟や汽水域の生態系の破壊と生物多様性の減少につながった事例をあげ、干潟や汽水域の生物多様性回復のために国が実施すべき措置を記述すべきである。

里地・里山について

p.57, p.95, p.110, p.118
第3部第2章「主要テーマ別の取り扱い方針」(p57)には、里地里山の保全と持続可能な利用が、新・生物多様性国家戦略の主要テーマとしてあげられているにもかかわらず、第4章における具体的施策は全く新鮮味がなく、森林・林業(p95)、農地・農業(p110)、都市・公園緑地・道路(p118)の各ページに別々に記述されており、統一性が全くない。P110の「農村の環境の保全と利用」では、棚田の維持の支援や谷津田のビオトープ化が記述されているが、農林水産省がすすめる公共事業によって水田の乾田化、水路のコンクリート化がすすむ一方で、減反政策によって耕地の手入れがされなくなり、それによって里地・里山の荒廃がすすんでいる現状への反省が全く見られない。里地・里山における営農活動が経済的に持続し、後継者が育つようなしくみを整えるための施策を具体的に記述すべきである。またp118の「その他、屋敷林、雑木林等の保全について」では、保存林、保存樹林の指定、緑地協定の締結など、都市近郊の雑木林の保全策が記述されているが、これらはどれも地方自治体がすでに実施中の施策であり、国として都市近郊の雑木林の開発を規制し、相続の発生による売却、手入れ不足による荒廃から雑木林を守るための保全策を具体的に記述すべきである。

河川・砂防・海岸について

p.120
河川環境施策の展開の中で、生物の生息・生育環境、地域の景観等への配慮が足りなかったことを認め、河川環境施策の転換を図ったことが記述されていることは評価できる。しかし、利根川河口堰、長良川河口堰など過去の河川政策が、汽水域の生態系の破壊と生物多様性の減少をもたらした。これらの事例をあげ、汽水域の生物多様性の回復のために国が実施すべき措置を記述すべきである。

p.124 自然再生事業の推進
自然再生事業の実施にあたって、NPOとの連携、順応的・段階的施工を記述している点は評価できるが、自然再生事業を推進する一方で、川辺川ダム、徳山ダムのように、河川生態系と生物多様性の減少につながる事業が、環境影響評価法の対象ともならずにすすめられている。これを改めない限り、自然再生事業は、公共事業のシェアを確保するための方便であると疑われてもしかたがない。20世紀型の公共事業に終止符を打ち自然再生をすすめるという国の確固たる方針を記述すべきである。

p.125 水量・水質が確保された清流の復活による生物多様性の確保
ここではダム貯水池における藻類発生等の水質悪化とその対策が記述されているが、利根川、長良川等の河口堰においても藻類発生、貧酸素状態の発生などの水質悪化が近年の調査で明らかになっている(「利根川河口堰の流域水環境に与えた影響、環境庁1998」「長良川河口堰が河川環境に与えた影響、日本自然保護協会1999」「長良川河口堰モニタリング調査報告書、建設省・水資源開発公団2000」)。河口堰においても堰の弾力的運用による汽水環境の復活、堰貯水池における水質保全対策を記述すべきである。

p.135 海岸
海岸の概要では、「沿岸部の開発等に伴う自然海岸の減少や、海岸の汚損や海浜への車の乗り入れ等により海岸環境が損なわれている」現状が記述されているが、公有水面の埋め立て・干拓が自然海岸とくに干潟・藻場・サンゴ礁を減少させたという反省が全く記述されていない。「海岸の環境容量は有限であることから、海岸環境に支障を及ぼす行為をできるだけ回避すべき」という記述では不十分であり、「海岸の埋め立て・干拓は原則として行わない。立地の妥当性が認められる場合でも、ノーネットロスの原則に基づいて失われる干潟・藻場・サンゴ礁の100%以上の再生が保証されない限り認めない」という、国の確固たる方針を記述すべきである。
 瀬戸内海に関しては特別措置の記述があるが、有明海、博多湾、伊勢湾、三河湾、東京湾等に関しても環境回復のための特別措置を記述すべきである。また保全すべき自然海岸の地域名、海岸環境が損なわれている地域の具体地名をあげ、その自然復元の手法をあげておく必要がある。

港湾・海洋について

p.140
港湾に関しては、「戦後の経済発展の中で、豊かで安全な生活と引き換えに、多様な生物の生息場所である沿岸域の干潟・藻場等が消失してきた」事実を記述した点は評価できるが、沖縄県の泡瀬干潟の埋め立て計画にみられるように藻場の移植を条件として埋め立てが進行している事実がある。しかも藻場移植が成功した事例は海外も含めて皆無である。「重要な干潟等についてはできる限り保全する」という表現では不十分であり、「重要な干潟等は100%保全した上で、失われた干潟・藻場の回復を図る」という国の確固たる方針を記述すべきである。

漁業について

p.151
漁業の項目では、海洋生物とくに海洋ほ乳類が海洋生物資源の持続的利用という側面からのみ記述されており、生物多様性の保全という視点からはきわめて偏っているといわざるを得ない。シロナガスクジラ、ザトウクジラ、セミクジラ等の種は、移動性の動物種の保護に関するボン条約の附属書Iに掲載された種であり、国内的には種の保存法の対象とすべき種である。しかし、我が国は未だにボン条約を批准しておらず、海生哺乳類は、種の保存法の対象種となっていない。このような状況の中で、ミンククジラ等の持続的利用を主張しても、日本はすべての鯨類を生物資源としようとしているという疑いの目で見られることは明らかである。鯨類を生物資源としてではなく、地球の生物多様性の一員として記述し、ボン条約批准に対する国の積極的な方針を明記すべきである。

自然環境保全地域・自然公園について

当協会は、平成12年に国立公園制度検討小委員会を設置し、「豊かな自然、深いふれあい、パートナーシップ~21世紀の国立公園のあり方を考える」をとりまとめた。平成13年に中央環境審議会自然環境部会に設置された自然公園のあり方検討小委員会ではこの提言が資料として配布され、当協会もオブザーバーとして意見を述べた。本戦略の自然公園に関する記述は、この小委員会における検討をふまえたものとなっており、基本的にこれを支持するものである。あえて付け加えるならば、以下の点があげられる。

p.164
緊急に講じるべき措置に、利用調整地区制度、風景地保護協定制度、公園管理団体制度が含まれたことは評価できる点である。しかし、p179に国立公園、自然環境保全地域が野生生物保護に果たしている役割が述べられているが、外来種対策について記述が全くないのは矛盾している。自然公園、自然環境保全地域において緊急に講じるべき措置として、外来種の持ち込みや放逐を禁止すべきことを記述すべきである。

p.165
国立・国定公園を自然再生事業を優先的に実施する場所として位置づけているが、この実施にあたっては地域住民、自然保護団体等との合意形成、自然再生のモニタリングと順応的管理が不可欠である。この点を記述すべきである。

第2章 横断的施策

野生生物の保護と管理について

絶滅のおそれのある種の保存について

絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)には、政令指定種や生息地等保護区の指定基準が明記されていない。レッドデータブックに記載された絶滅危惧種は2662種に及ぶにもかかわらず、政令指定はわずか57種、生息地等保護区はわずか7地区にすぎないのも、指定基準が明記されておらず、いかなる情報にもとづき、いかなる事情を考慮して、いかなる手続を経て決定がなされたか、外部から知ることができないからである。その結果、行政上の意思決定が恣意的になされたり、誤った決定がなされても市民がそれをチェックすることはできない。このような行政運用は、種の保存法が存在するにもかかわらず、種の絶滅傾向を阻止できない一因となっている。
 種の保存法は、絶滅のおそれのある種の回復をはかり、同法の適用を不要とすることを究極的な目的としている。そのためには予防原則を徹底し、絶滅のおそれが顕在化する以前の段階から、十分な保護措置を講ずることが必要である。したがってすでに絶滅の危機に瀕した絶滅危惧種だけでなく、その予備軍というべき膨大な数の危急種(絶滅危惧II)や準絶滅危惧種についても、絶滅危惧種に準じた法的保護を与えることが必要である。さらに地域個体群についても、日本に残された最後の地域個体群と認識されるまでは、法的保護の対象にならない。種の絶滅防止だけでなく、地域個体群と生息地の回復ということを目標にするためには、「保護増殖計画」では十分ではないため、より実効性をともなった「回復計画」に変える必要がある。

P.169
「(1) 希少野生動植物種の指定、捕獲・譲渡し等の規制」の「今後とも」(14行目)を削除し、「今後は、種指定のために、専門科学者からなる科学的諮問委員会を設置し、その判断と」を挿入すべきである。

P.170
(2) 生息地等保護区の指定と管理」の末尾に、以下の文章を挿入すべきである。
「行政機関による意思決定の過程が外部からも分かるように、透明性を確保します。行政機関による意思決定をチェックできるように、その判断の基礎となった情報の公開をします。行政機関による意思決定過程において、環境NGOを含む一般市民を参加させ、市民からの情報提供の機会を保障するとともに、その意思決定過程における判断にも参加できるようにします。」

P.169
「(1) 希少野生動植物種の指定、捕獲・譲渡しなどの規制」の「希少野生動植物種の指定作業の一層の促進を図ります。」(16行目)のあとに以下の文章を挿入すべきである。
「とくに絶滅危惧Ia, Ibランクの種は緊急に指定種とします。将来的には、絶滅のおそれある危急種(絶滅危惧II)や準絶滅危惧種も政令指定種に含めます。地域個体群についても、種の保存法の適用上独立の種として扱い、政令指定種に含めます。そして、種の保存法の指定種を海生生物まで拡大します。」

P.168
「1.種の絶滅の回避」の「対応も大切です」(14行目)のあとに「地域個体群についても、種の保存法の適用上独立の種として扱い、政令指定種に含めます。」を挿入すべきである。

P.170
「(3) 保護増殖事業の実施」の最後の行の「引き続き効果的な事業の推進と対象種の拡大に努めます。」を以下のような文章に差し替えるべきである。
「今後は、政令指定種だけでなく、レッドリストに掲載された絶滅危惧種について、回復計画を作成します。類似した環境に生息生育する複数の準絶滅危惧種について、生態系アプローチから保全する回復計画をつくるようにします。」

野生生物の商業利用について

日本は野生生物の輸入大国であるが、輸入件数と比較して輸出件数は非常に少ないことを考えると、「野生生物消費大国」であるともいえよう。また、密輸の目的地ではアジア域内で日本が一番多かったことや、日本の税関におけるワシントン条約附属書掲載種の輸入差止件数が約1,700件(2000年)にものぼっていることにもあらわれているとおり、合法取引のデータにあらわれている以上の野生生物が日本の消費が原因となって悪影響を受けていると考えられる。こうした状況からすれば、これら輸入される種の国内需要及び流通の徹底した管理・監視が必要と述べるべきである。

P.170
「(1) 希少野生動植物種の指定、捕獲・譲渡し等の規制」の「引き続き関係機関が」以下の文章を、次のように書き換える必要がある。
「種の保存法上、国内加工用原材料とされる条約掲載種の、輸入から小売に至るまでの流通経過を厳格に監視するための仕組みを整備するとともに、その監視に耐えない産業に関しては、代替原材料の使用を奨励し、産業従事者に対する職種転換のための支援措置を充実させつつ、当該条約掲載種の流通を排除するよう努めます。また、種の保存法に関して司法警察権限を持つ取締官の制度を規定するとともに、これら取締官から構成される取締担当ユニットを設けます。このユニットは、違反行為の監視、違反行為の情報の警察、税関、関係省庁、国際刑事警察機構、ワシントン条約事務局との積極的な情報交換、取締活動上の協力を行ないます。それと同時に、違法に取り引きされた動物を収容する施設に関する制度を作ります。既存の施設でそれに適したものが認定を受けて、収容できるような仕組みも検討します。」

P.173
「(4)野生鳥獣の保護管理」の末尾に、次の文章を付け加えるべきである。
「なお、有害鳥獣駆除の捕獲個体(捕獲個体から繁殖したもの及び捕獲個体・繁殖個体の部分・派生物を含む)については、当該鳥獣の生態や保護管理に関する学術研究や教育目的に使用する場合を除き利用を禁じます。」

野生鳥獣の保護管理について

これまで山野において自由に狩猟することは、狩猟者にとっての権利であると考えられてきた。しかし、現代のように国土が稠密に利用され、また多くの野生動物の生息地が分断された状況では、もはや自由狩猟が許される社会状況ではない。これからの狩猟は、科学的なデータに基づき、適正な管理の下に行われるべきもので、従来の自由狩猟を認めた乱場制や、実質的な狩猟制限のみの保護区制は見直す必要がある。このような管理狩猟制度を整備するためには、自由狩猟を排した新たなゾーニングを検討すべきである。そして、鳥獣保護法を、狩猟と被害防除のためだけではなく、生物多様性保全も目的とした法律にすべきである。

P.172
「(2) 鳥獣保護区の設定と管理」の末尾に、次の文章を挿入すべきである。
「現在は鳥獣保護区・休猟区以外の地域では原則的に狩猟が許されており、たびたび狩猟による人身事故が発生している。従って将来的には全国を原則禁猟にし、狩猟は管理猟区で行う方向となるよう検討します。」

P.173
「(3)野生鳥獣の保護管理」の「研修等の推進により、」のあとに以下の文章を挿入すべきである。
「従来の鳥獣保護員とは別に、地域の保護管理における指導的な立場の保護管理員を養成し、」

P.173
「(3)野生鳥獣の保護管理」の「設定などによる規制を加え、野生鳥獣の保護を図っています。」を、以下の文章に書き換える必要がある。
「設定などによる規制を加えていますが、狩猟資源と認識されていない外来種や個体数の減少が著しいツキノワグマが狩猟鳥獣に指定されたり、またサルのように狩猟鳥獣に指定されていないにも関わらず年間1万頭以上もが有害駆除されている実態があります。したがって、科学的合理性を付与できるよう、管理のあり方に応じた種のカテゴリー化を行い、それぞれきめ細やかに対応するよう努めます。」

P.173
「(4)野生鳥獣の保護管理」の「科学的、計画的に進めます。」のあとに、次の文章を挿入すべきである。
「今後は駆除よりも防除に力を入れ、やむを得ず有害鳥獣駆除が必要なときには、公的機関が科学的根拠に基づいて実施する体制を作ります。」

P.173
「(4)野生鳥獣の保護管理」の「また、狩猟については」以下を次の文章に書き換える必要がある。
「今後は狩猟免許を、スポーツハンティングの免許と、野生生物の保護管理ができるような専門的な知識を持ち銃も扱えるワイルドライフマネージメントの免許とに分け、科学的・計画的な野生鳥獣の保護管理を目指します。」

移入種(外来種)等生態系への撹乱要因への対策について

現在の日本においては、病害虫などの限られた生物を除くと、多様な利用目的のために海外からの生物を持ち込むことに関しての規制がほとんどない。そのため、生態系に対する影響についての考慮がまったくなされないままに、安易に外国産の生物が導入される。しかもその実態すら十分に把握されていないのが現状である。多くの場合、外来生物の持ち込み利用で恩恵にあずかるのは一部の産業とペットの所有者など限られた個人だけであるが、その外来生物が野生化して問題を引き起こした場合、その悪影響を被るのは、日本列島の豊かな自然の恵みを享受する機会を損なわれる広範な人々、特に後の世代の人々であり、その損失は永続的である。よって、将来的には「外来種対策法」を制定し、また、関係各法(鳥獣保護法、種の保存法、自然公園法他)にも「外来種対策」に関する記述を入れるべきである。その前段として、以下の対策の強化が必要なため、記述を追加する必要がある。

P.176
「(ア)移入種(外来種)の利用による影響の予防措置」の「このような」以下を次の文章に書き換えるべきである。
「よって、外来種導入にあたっては、輸入、国内での利用に先立つリスク評価の実施を義務づけます。危険性が予想される種のグループのブラックリストを作成し、それに該当する種をリスク評価の対象とします。また、危険の程度はそれぞれの外来種の生態的な特性や導入個体の飼育・管理の方法などによっても異なるため、科学者によるリスク評価委員会を設置して、野生化の可能性、野生化した場合の生態系、野生生物種、産業、人の健康等への影響を、科学的に評価するよう努めます。」

P.176
「(ア)移入種(外来種)の利用による影響の予防措置」の末尾に、次の文章を付け加える必要がある。
「そして、税関・検疫に外来種対策専門官をおくなど、水際におけるボーダーコントロールを強化します。さらにニュージーランド等で配置されているような外来種対策犬の養成と配置などを早急に検討します。」

P.176
「(イ)固有の生物相を有する地域等における対策」の末尾に次の文章を加える必要がある。
「具体的には、水際での防除を強化するために、税関検疫職員とは別に、動物の識別ができる環境省の専門官などを養成し、配置することを検討します。」

P.176
「(エ)移入種(外来種)の利用にかかる普及啓発」の「実施を確保します。」のあとに、次の文章を挿入すべきである。
「具体的には、ペットなどの飼育動物に関しては、飼い主の責任を明確にする首輪、マイクロチップなどの登録制度を義務づけます。とくに、固有種が集中する地域、生態的に脆弱な地域では、ペットは室内で飼育する、上記のような地域には連れていかなどのマナーの徹底を図るよう努めます。また、外来種を輸入、利用、管理する者に対して、遺棄・放逐を禁止し、逸出を防止する義務を負わせます。違反したものに対して、行政罰または反則金を課し、対策費用にあてることも検討します。」

P.176
「(エ)移入種(外来種)の利用にかかる普及啓発」の「留意する必要があります。」のあとに、次の文章を挿入すべきである。
「よって、現在では外来植物の利用が多い緑化等の材料を、使用した場所から逸出しても生物多様性に影響を及ぼすことのない在来植物に切り替え、必要な時に必要量を供給するための植物育成計画、栽培管理、地域農家への栽培委託などを業とする新たな産業を育成し、奨励します。」

P.176
「(エ)移入種(外来種)の利用にかかる普及啓発」の末尾に、次の文章を付け加える必要がある。
「外来種問題の解決には、法律による取締だけではなく、一般国民とくに外来種のいる風景があたりまえとなってしまっている若い人々に対する普及・啓発が必要である。将来の日本を担う小中学生などが、外来種と在来種の区別をきちんとできるように、理科や生物の授業でも取り扱うように、環境教育にも力を入れます。」

自然とのふれあいについて

p.189
p189からの第4部第2章「横断的施策」第3節「自然とのふれあい」とp210からの第3章「基盤的施策」第2節「教育・学習、普及啓発および人材育成」との部分で、「自然とのふれあい」と「環境教育・学習」との意味の整理が不十分である。
例えば、p189に「自然とのふれあいは、いわば「自然を感じ、自然を思いやる人づくり、さらには行動するひとづくり」の基礎となる」とある。言葉を換えると、環境教育の基礎となると読みとれるが、2つの節にはこれらの言葉や概念が混在しており、混乱を招く。
 生物多様性国家戦略の中では少なくとも、「自然とのふれあい」は「環境教育・学習」枠組みの中で、捉えられるべきであり、そのことが明記される必要がある。還元すれば、生物多様性保全を大前提とする中での「自然とのふれあい」であることが、明記されなければならない。

p.190 エコツーリズムについて
日本自然保護協会では、IUCN(国際自然保護連合)がまとめた「国立公園と観光保護地域の開発ガイドライン」の考えをもとに、1991、1992年にエコツアー実施し経験から検討委員会を設置し「NACS-Jエコツーリズムガイドライン」(1994年、発行)においてエコツーリズムの概念を下記のように定義している。
「旅行者が、生態系や地域文化に悪影響を及ぼすことなく、自然地域を理解し、鑑賞し、楽しむことができるよう、環境に配慮した施設および環境教育が提供され、地域の自然と文化の保護・地域経済に貢献することを目的とした旅行形態」
 p.190の6行目のエコツーリズムの定義には、p.189の「基本的な考え方」で「自然環境の持続可能な利用の範囲内で行われる」と記述されていることに対応する「生態系や地域文化に悪影響を及ぼすことなく」という前提条件となる心構えが抜けている。今後各地で検討されるエコツーリズムのルールづくりなどにも、この前提を踏まえるためにも、明記しておく必要がある。またエコツーリズムの基本は、外部の観光資本などが主体になるのでなく、持続可能な地域の自然利用を目指す地域住民が主体となることを明記するべきである。
 p.190の22行目に「通過型観光と呼ばれるようなマス・ツーリズム」を「自然とのふれあいのひとつの形態である」という認識を、現状に合わせて明記することは、矛盾する。現状を少しでも改善していくべき方向性が示されるべきである。
 p.190の35行目からの、(1) 人材の育成・確保 (2) 活動プログラムの整備と機会の提供 (3) ふれあいの場の確保・整備 (4) 情報提供と連携が挙げられているが、現在、行われているような自然とのふれあい活動が、必ずしも自然環境や生物多様性の保全に繋がるとは限らず、逆行するものも行政・民間を問わず、見受けられる。したがって、新たな項目として「ふれあい活動の点検と改善(モニタリング)」を加え、それぞれの活動が生物多様性の保全へ向けて効果を生み出せるよう自己点検、外部評価の評価項目を提示し、プログラム等の改善ができるようにすべきである。
 また「人材の養成」や「情報の提供」にあたっては、エコツーリズムが実施される地域の住民一般に対して、地域住民自身が当該地域の多様な自然と文化を価値付けすることの重要性と、エコツーリズムの本来的な意味とそのルールを含む環境教育がなされることの必要性が加えられるべきである。

p.191
「(1)自然公園等」では、現在の文章では、利用面が強調されている印象があるが、p.157「第7節自然環境保全地域・自然公園」にある基本的な考えを冒頭に述べて、整合を採るべきである。

p.195
「(イ)自然公園等事業の課題と今後の基本的方向」で、自然公園でのゾーニングや利用ルールについて利用者に伝え、周知させる施策やプログラムが明記されるべきである。

P.197 ユニバーサルデザインの導入について
日本自然保護協会では、1988年より「体の不自由な方とともに行う自然観察会-ネイチュアフィーリング-」を提唱してきた。現在、各地の自然公園施設などでも、ユニバーサルデザインを導入されてきているが、散策路整備などは、十分な検討をされずに施工され過度な整備のため、自然豊かな環境で大きな負荷を与えていることがある。高齢者や身障者が自然にふれあい機会を設けることは必要だが、際限なく自然的なバリアをなくすのではなく、自然環境に合わせたふれあう方法も提示しなければならない。その際に、自然環境の状態に合わせた公園利用のゾーニングを検討し、ユニバーサルデザインの導入を計るべきである。

p.198
「(3)海岸」では「施設のバリアフリー化等周辺環境の整備を行うことにより、全ての国民が気軽に触れあうことができる利用しやすい海岸づくり」とあるのに対し198の「オ 河川空間のバリアフリー化」では「病院や老人ホーム、福祉施設」等が隣接する地域でのバリアフリー化を提唱している。一律でのバリアフリー化ではなく、周辺利用者の状況とその場所の自然の質を十分に考慮した上での、バリアフリー化に統一されるべきである。

第3章 基盤的施策

生物多様性に関する調査研究・情報整備について

これまで諌早湾干拓事業にみられるように、さまざまな人間活動により生態系の破壊、生物多様性の喪失が認められながら、大きな社会問題となってからはじめて事後調査が行われるというのが実態であった。手遅れとならないうちに環境保全対策をとるためには、環境の変化を早期に発見し対策に結びつけることが重要である。その意味で本戦略が提案する、1000箇所のモニタリングサイトの設置は期待でき、支持できるものである。

p.207
生物多様性条約のナショナルフォーカルポイントに指定されている生物多様性センターでは、生物多様性情報システム(J-IBIS)を通じて、自然環境保全基礎調査をはじめとする生物多様性情報がホームページ上で閲覧できるようにしている。しかしながらGIS(地理情報システム)を用いた生物多様性情報に関しては、他省庁のデータと相互互換性がないのが現状である。基礎的な生物多様性地理情報と行政的な情報をオーバーレイして分析ができるよう、関係省庁が共通のフォーマットを使用するよう統一を図る必要があることを明記すべきである。

教育・学習、普及啓発及び人材育成について

p.210
第2節「教育・学習、普及啓発および人材育成」のタイトル冒頭は、明確に「環境教育・学習」とするべきである。第2節「教育・学習、普及啓発および人材育成」の前文の中に、これらの教育の内容のひとつに人間と自然のかかわりについての文化・歴史・社会システムとその地域性も含まれることを明記すべきである。それは、p215「オ 都市の自然における環境教育・環境学習」で述べられている都市域も含めて重要である。

p.211
「環境教育・環境学習の具体的施策」では、ア学校、イ社会教育、ウ青少年教育、エ自然公園等、オ都市の自然、カ森林、キ水辺、ク農村、ケ天然記念物活用施設と場の設定ごとに施策が記述されているが、森・川・海の流域で捉える活動や地域のなかでの連携された活動が広まるなか、生物多様性を考えるうえでも、場や環境を細かく分けて考える施策が妥当だとは思えない。各環境下で行われている施策を連動させることによって効果が求められることもある。
 「ア 学校における環境教育推進のための施策」において、地域で活動している環境保全や環境教育のボランティアの活用することの必要性が明記されるべきである。

p.213
「イ、 社会教育(エ)地域における環境学習の人材の確保と育成」で、民間NGOが行っている人材養成事業についても記す必要がある。

p.214, 215
「ウ 青少年教育における環境教育・環境学習」、「エ 自然公園等における環境教育・環境学習」、「オ 都市の自然における環境教育・環境学習」において、民間で行われている人材やプログラムの提供としてネイチャーゲームや緑の青年団が挙げられているが、実績のある民間団体の自然とのふれあい活動に関するもの網羅すべきである。日本自然保護協会では、「NACS-J自然観察指導員」の養成を1978年からはじめ、現在までに全国各地に約1万8千人を養成し、各地域での自然観察会活動を通した自然保護活動を展開している。その活動の場は、上記の区分けでは限定できず、それぞれの活動はまたがり、全体としては網羅していることから、各地での生物多様性保全の取り組みにおおいに貢献できるものである。

p.216
「水辺における環境教育・環境学習」等では、自然と人のかかわりにおける負の要素、例えば自然災害等についても、生物多様性保全あるいは環境教育の観点から施策やプログラムが用意されるべきである。

p.219
「3 人材の育成」では、野外を対象にした教育・研究(フィールド・ワーク)に対する必要性を強調し、その社会的な評価を高める施策が必要である。それは、調査・研究等の機関のポストの確保である共に、単に一定期間で出す論文数のみで行う研究者や研究・調査機関に対する評価を改める方向の検討が必要である。
 地域ごとの生物多様性に向けた取り組みを行う際に、地域の自然環境に熟知している専門家の存在が不可欠であることに異存はないが、その専門家が必ずしも学者ではなく、地域の自然を見続けている地域NGOの中に所属している場合が多い。またそういった人材を将来的に確保する可能性を地域NGOは持っている。また、保全に向けた基礎調査、計画、施策を検討するうえで、地域NGOの提案や提言は不可欠であり、そのためのシステムが各自治体や事業者のなかでできつつある。したがって、p.220の1-7行目を「生物多様性の保全に向けての基礎調査及び計画や施策の立案・提案・提言をするためには、環境を総合的に検討できる専門的な技術者や研究者や地域NGOの関与が必要です。…(中略)…このように、地域NGOを含めた生物多様性に関する専門家は、質、量ともに不足しており、その人材養成が必要です。」と記述を差し替える。

経済措置等について

p.223
税制上の措置等において、自然環境保全法人に対する相続財産に係る相続税の非課税が記述されているが、実際に市街地の農家に相続が発生した場合、雑木林を自然環境保全法人に寄付したとしても、家屋敷の土地の相続税を支払うことができず、雑木林から先に売却されるのが実情である。また自然環境保全法人の指定を受けるためには、すでに保全すべき土地を募金などによって取得し、財団法人化のための基本財産募金をしなければならないなど、二重の障壁が待ちかまえている。里地里山の保全のためには、農家やNPOに対するさらなる税制優遇措置等の有効な施策が必要であることを記述すべきである。

国際的取り組みについて

P.231
ラムサール条約に関しては、「国際的な重要な湿地については、条約上の登録湿地としての指定の促進を図ります」と記述されているが、水鳥の渡りのルートにある干潟の重要性に鑑み、「国際的な重要な湿地、とくに水鳥の渡りのルートにある干潟については・・・」と記述すべきである。
 ワシントン条約に関しては、「付属書I~IIIに掲げられている種の輸出入の規制を・・・行っています」と記述されている。しかし実際には、付属書II以下の動植物についてはほとんど規制がなく、輸出入のデータさえもきちんと把握できていないのが現状である。付属書Iの記述の後に、「付属書IIに掲げられている種についても、輸出入の現状を把握し、適切な規制を実施します」と記述すべきである。

p.232
世界遺産条約に関しては、文化遺産(9)に比べて自然遺産の数(2)はたいへん少ない。2002年から世界遺産登録の手順が変更されたのを機会に、自然遺産についても暫定リストを作成し、計画的に登録をすすめるようにすべきである。
 ボン条約に関しては、政府としてはじめて公式文書で記載されたことは評価できるが、「対応の必要性について検討する」では十分ではない。「早期加盟にむけて政府部内で検討をすすめる」と記述すべきである。

戦略の効果的な実施と点検について

p.254、248
戦略の効果的な実施には、各省庁が個々別々に施策を展開するのではなく、生物多様性の保全という目標にむかって共同行動をとることが求められる。P245には、「特に次の点を重視して作成しました」として、「各省連携、共同体制の強化」が述べられているが、里地里山の保全施策などをみると各省の施策の羅列に終わっている。この戦略の効果的な実施のため、生物多様性国家戦略関係省庁連絡会議の下に、森林、里地、河川、海岸などハビタットごとに分科会をつくり、具体的な保全策の実施を図るべきである。その点を記述すべきである。

また戦略実施状況の点検については、p.248に「生物多様性国家戦略関係省庁連絡会議は、国家戦略に基づく施策の着実な推進を図るため、毎年、国家戦略の実施状況を点検し、中央環境審議会に報告するとともに、条約の規定に基づく締約国会議への報告に反映させます」と記述されているが、これまでは関係NGOへのアンケート、環境省ホームページにおけるパブリックコメントなどの方法で意見を求めたに過ぎない。そのためNGOの関心は国家戦略から遠ざかり、ついにはわずか2~3の意見しか集まらない状況となってしまった。実施状況の点検にあたっては、中央環境審議会においてNGOから意見聴取を行うなど積極的な取り組みが求められる。その点を記述すべきである。

付表5 絶滅のおそれのある野生生物(RDB種)の種数
絶滅危惧種が一つにまとめられてしまっているが、IUCNのレッドデータカテゴリーにしたがい、絶滅危惧Ia(Critically Endangered)、絶滅危惧Ib(Endangered)、絶滅危惧II(Vulnerable)を区分し、内訳を示すべきである。

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