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「環境影響評価ならびに環境モニタリング計画のずさんさが諫早湾内での漁業被害や環境悪化を引き起こしている」

2001.08.23
要望・声明

有明海奥部における貧酸素水塊の発生に関する緊急調査の要請


 

平成13年8月23日

農林水産大臣   武部 勤殿
環境大臣     川口順子殿
有明海ノリ不作等対策関係調査
検討委員会委員長 清水 誠殿

(財)日本自然保護協会
理事長 田畑 貞寿

有明海奥部における貧酸素水塊の発生に関する
緊急調査の要請

当協会はこれまで諫早湾内の水質・底質の現状を明らかにすべく各種の調査を行ってまいりました。このたび8月5日~7日に有明海奥部の広域的な水質調査を行いましたが、別紙の「有明海奥部における底層の溶存酸素濃度(速報)」にまとめた通り、諫早湾奥部を中心として大規模な貧酸素水塊が発生していることが明らかとなりました。

貧酸素水塊の発生はこれまでも東(長崎大)・佐藤(鹿児島大)らによって1997年6月、1999年6月に観測されていますが、その一方で、農林水産省がおこなっている諫早湾環境モニタリングでは、底層の水質を調査していないため、貧酸素水塊の発生は確認できていません。

貧酸素水塊の発生は、近年の諫早湾を中心とした底生生物の死滅や有害赤潮発生件数の増加等の至近要因となっている可能性が極めて高く、その発生のメカニズムの解明は、緊急を要します。

よって、農林水産大臣、環境大臣ならびに有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会委員長に対して、以下の通り意見を申し述べるものです。

農林水産大臣は、

諫早湾内で観測された貧酸素水塊の現状を確認し、その発生機構の解明のための調査を早急に行うべきである。

貧酸素水塊の発生は、1.「諫早干潟の消滅→諫早湾水質・底質の悪化」と2.「諫早湾内潮流の減少→海水撹拌能力の減少→密度成層の安定化」の2つの要因によって引き起こされていると推測できる。底層の貧酸素化は、本来ならば環境影響評価の段階で十分に調査・検討すべき項目であるが、「諫早湾干拓事業(一部変更)に係わる環境影響評価書」では全く触れられていないことがらである。また、農村振興局が行ってきた諫早湾環境モニタリングでは、底層の溶存酸素濃度の測定を全く行っていない。底層の貧酸素水塊の発生を確認できていないのは、環境影響評価ならびに環境モニタリング計画が杜撰であったことに起因し、そのため原因究明や対策が遅れ、諫早湾内での更なる漁業被害や環境悪化を引き起こしていることを十分に認識すべきでる。農林水産省は「環境影響評価に係わるレビュー」および「環境モニタリング計画」を作り直すとともに、諫早湾内で観測された貧酸素水塊の発生機構の解明が出来るような調査を早急に行うべきである。

環境大臣は、

諫早湾内の底層の溶存酸素濃度は、底生生物に多大な影響を与えると言われている2mgL-1以下となっていることから、その原因究明および改善対策のための手段を早急に講じるべきである。

別紙の調査報告書で明らかなように、溶存酸素濃度2mgL-1以下の水塊は、諫早湾を中心に佐賀県太良沖まで広がっている。また、諫早湾奥部では溶存酸素濃度1mgL-1を切る地点も認められている。この様な大規模な貧酸素水塊は諫早湾内だけでなく周辺海域の底生生物へ悪影響を及ぼすことが懸念され、また青潮の発生にも結びつく可能性もある。よって、環境省は大規模な貧酸素水塊発生の原因究明および改善対策を早急に行うべきである。

また、農林水産省が現在までに行っていた環境モニタリング調査では、溶存酸素濃度の測定が表層と中層のみであるため、貧酸素水塊の発生が確認できなかったと推測される。環境モニタリング調査の方法の誤りが諫早湾内の環境悪化を現状のレベルまで到達させてしまった原因の一つと考えられるため、環境影響評価に係わるレビューに対してやり直しを指示するとともに、今後の環境モニタリングに対して適切な指導を行うべきである。

有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会は、

諫早湾内での貧酸素水塊の発生は底生生物の減少や有害赤潮発生の至近要因と考えられることから、その発生機構や原因究明を早急に行うよう指導すべきである。

現在、環境省、農水省農村振興局、水産総合研究センターなどが有明海全域で行っている調査には、溶存酸素濃度の定期観測はその調査項目に含まれるものの、貧酸素水塊の発生機構やその原因について解析できるような計画とはなっていない。貧酸素水塊の発生機構を解明するためには、諫早湾に重点を置き、溶存酸素濃度や水温、塩分等の連続観測と共に、潮流の測定についても多数の地点で行い、潮汐に伴う貧酸素水塊の水平移動に関するモニタリング調査を行う必要がある。この様な調査体制は、今後、水門を開放して干潟の回復や水質の変化をモニタリングする際にも重要であるといえる。よって有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会は、貧酸素水塊の発生機構の解明に係る調査を早急に計画し、関係省庁による有明海調査に反映させるべきである。

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