絞り込み検索

nacsj

熊本県・川辺川/アユと生息環境に関わる調査に関する経過まとめ

2001.06.07
活動報告

熊本県の川辺川は日本一の水質を誇り「尺鮎」と呼ばれる大きなアユを育むことが知られている。しかしその川にダム建設が計画された。今現在、ダムのための付帯工事等が進められており、地元漁師の方々を中心に強い反対の声があがっている。

NACS-Jでは昨秋から、アユを指標生物として川辺川の特異性を科学的に調べ、ダムができることによる川の環境変化、アユへの影響を予測・考察するため、緊急調査を始めた。調査にあたっては多くの方からご寄付ご協力をいただき、大学・企業等の専門家の方々と共に検討委員を結成して取り組んでいます。


昨年12月18日、「アユと生息環境に関わる検討委員会」を開催し、それまでの調査結果の報告と、今後の展開について議論を行った。川辺川は、すでに上流にダムがつくられた球磨川に、途中で合流して八代湾まで流れ込んでいる。昨年9月に行われた調査は「川辺川」、「川辺川と合流前の球磨川」(以下球磨川)、「合流後の球磨川」(以下球磨川本流)の3流域でアユを採捕し、それらの魚体を計測し流域毎に比較したものである。

その結果、川辺川のアユが他の流域に比べて最も大きいことが数値的にはっきりした。大きさは、【肥満度】を用いて議論している。【肥満度】とは、体長と体重から求められる値で、【体格・肉付きの良さ】を表す。いろいろな環境要素がそこに住むアユの体格を決めることより、肥満度は包括的なアユの生息環境を表すと言える。よって、川辺川のアユの方がダムのある球磨川のアユよりも肥満度が高いという結果は、川辺川の方がアユにとって優れた生息環境であることを示唆する。

検討委員会では具体的にどのような環境の違いがあるのかを明らかにするため、今後の調査方法等を計画している。生息環境の因子としては、アユの食物である珪藻類の状態、水質、川底の形等があげられる。それらの環境条件と、アユの稚魚からの成長過程を平行して追跡調査し、流域別に比較して川辺川が尺鮎を育てるメカニズムを探る方針を固めた。また同時に、ダムができた場合、それらの環境に及ぼされる影響について検討していく。

今年3月6日、NACS-Jはこれまでの内容をとりまとめ、国土交通大臣と環境大臣あてに、調査結果を踏まえたダム計画見直しに関する意見書を提出し、記者会見にてその内容の発表・説明を行った。多くの記者から活発な質問が寄せられ、関心の強さが感じられた。記者会見当日の毎日新聞夕刊に、その記事が載った。

熊本県球磨川支流川辺川・川辺川ダム予定地域における大型アユ生育環境の評価とダム計画の見直しに関する意見書

私は、昨秋からボランティアスタッフとして川辺川関連のお手伝いをさせていただき、今回の検討委員会、記者会見を見学させていただいた。常日頃から、人間社会のシステムには度々納得し難いものを感じつつ、けれどもどうどうすればいいのかわからない歯痒さを感じていたが、今回NACS-Jの活動に同行させていただいて、「行動すれば、変えることができる」という希望と手応えを実感することができた。

自然保護という取り組みには、あらゆる分野の専門性が必要になると考えられる。よってプロジェクトの立ち上げと同時に、個々に活動している専門家の知識・技術を集結させるネットワークシステムの構築が重要だと強く感じる。今回、NACS-Jを拠点として「検討委員会」のように大学の先生、研究者をはじめとした専門家のプロジェクトチームを結成し、一般の人々の協力を集め、一つの強い力をつくりだすところを見て、これがNGOという形態の大きなメリットのひとつだと感じた。

これまでの長い地球の営みの中で生まれた、すばらしくかつ希少な生物生息環境を、人間が奪う権利はないはずである。自然を人間の手から守れるのは人間だけではないだろうか。いろいろな立場の人が、ほかの立場の人、そしてほかの生き物について思いやる気持ちをもてば、必ず最良の解決策が見つかるはずだと私は思う。今後もこの活動に参加し、その事について考えていきたい。

(山下久美子・ボランティアスタッフ)

前のページに戻る

あなたの支援が必要です!

×

NACS-J(ナックスジェイ・日本自然保護協会)は、寄付に基づく支援により活動している団体です。

継続寄付

寄付をする
(今回のみ支援)

月々1000円のご支援で、自然保護に関する普及啓発を広げることができます。

寄付する