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川辺川ダム建設計画問題

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2001.02.26

2000年調査結果と2001年調査計画

熊本県川辺川における
2000年・アユ魚体調査/調査結果(概要)
2001年・アユ成長追跡調査/調査計画(概要)
(発表用概要版)

2001年2月26日
(財)日本自然保護協会(NACS-J)
NACS-J川辺川アユ生育環境検討委員会


A. 2000年度・アユ魚体調査/結果の概要

1.目的

2000(平成12)年9月、球磨川水系の7個所において同一手法で採捕したアユの魚体を計測し、水系内の3流域における魚体を比較した。

2.主調査担当検討委員

室越 章(マリンファーム主任研究員/水産部門技術士・魚類学)

 

3.調査の概要

今年度のアユ魚体調査は、漁民有志、熊本在住のNACS-J会員・NACS-J自然観察指導員有志の協力のもと、球磨川水系の7個所で行った。

アユの採捕場所を水系毎に分けると、川辺川と合流後の「球磨川本流系(ST1、2)」(以降、球磨川本流とする。)、「川辺川系(ST3~5)」(以降、川辺川とする。)、合流以前の「球磨川系(ST6、7)」(以降、球磨川とする。この上流には市房ダムが存在する。)の3つの流域に分けることができる(図1)。

2000(平成12)年9月8~10日の調査により採捕されたアユの総数は382尾(計43.1kg)であり、採捕した全てのアユについて、その全長・体長・体高及び体重を計測した(図2)。それらの統計学的処理に使用したデータ類は、別紙として添付した。また、その結果から肥満度を求め、前述の3流域毎に各々を比較した。

4.結果

  • 「全長」では、球磨川本流と川辺川の間には、有意差が見られないものの、球磨川と川辺川では川辺川が有意に大きかった(全長が長い)。
  • 「体長、体高及び体重」については、川辺川のアユは、球磨川本流、球磨川のアユと比較して有意に大きかった(体が大きい)。… 表1.
  • 「肥満度」(1)については、球磨川のアユは他の2つの流域のアユと比較して有意に小さかった。…表2、グラフ1、グラフ2
  • 調査水域毎の「肥満度分布」については、球磨川本流と球磨川は肥満度14<15の個体が最も多数を占めたのに対し、川辺川は肥満度15<16が最も多数を占め、大型となる傾向をよく示していた。(2) … グラフ1
    また、最大の個体(肥満度18<)も川辺川で採捕された。

解説

1.肥満度について

魚類の体長(L)と体重(W)の間には、W=kL3の関係(cubelaw)があることが知られている(Keyes 1928)。また一般に、比重が等しく立体的に相似であれば重さは長さの3乗に比例する。魚類ではヒラメ型の魚類及び軟骨魚類を含む多くの魚についても近似的にこの法則が成り立つことが知られている。
前述の式からk=W/L3とし、kは、魚体の肥満状態を示すので肥満度(ponderal-index,condition of fatness等)と言われる。日本では木村(1937a)がはじめてこれを肥満度と呼んだ。肥満度は、「狭い体長範囲あるいは年齢範囲で同一時期に採集された標本ではほとんど一定の値を示すが、体長範囲、年齢範囲が拡大すれば肥満度が一定となる場合は稀である(以上「水産資源学」共立出版より抜粋)」とされている。
アユの場合は、1年魚が主体であり年齢組成は極端な単相化を示している。このような場合、肥満度の変化はアユが生息してきた環境(餌料環境、水質環境、個体間の相互作用等)を包括して表現できるものといえる。また、肥満度は系群の特徴を表すともいわれているが、(川辺川のように)種苗放流が行われた経緯のある河川では系群間交雑がおこりうるため、アユの場合には系群特性を肥満度によって考察するのは難しいと考えられる。

2.川辺川の肥満度分布のピークについて

川辺川の肥満度分布グラフ(グラフ1)をみると、肥満度13<14と肥満度15<16の2ヶ所にピークがあることがわかる。これは、川辺川の調査域の中に2種の系統が見られるためと思われ、小さい方(肥満度13<14)のピークは、既存の発電所のダムより上流の水温が低い地域に生息する系統、大きい方(肥満度15<16)のピークは、ダムより下流の比較的水温の高い地域に生息する系統と考えられる。このことは、仮に川辺川ダムが竣工し、流域に水温変化が起きた場合には、その影響によりアユの魚体が小型化してしまう可能性を示唆している。建設省(現国土交通省)の作成した「川辺川ダム事業における環境保全への取り組み」の4.2.36ページには、水温は「現況水温と比較して、1~8月は3℃弱低くなる。」と記述されている。これは、アユの成長期に平均水温が3℃低くなることであるため、これまでに比べかなり成長が劣るようになると考えられる。
餌が十分にある場合、魚の成長はy=k(wt-t)【yは一日当たりの成長量(長さ)、kは定数(魚種によって異なる)、wtは生息水温、tは成長限界水温(生物学的零度・魚種により異なる。)】の式で表せ、餌環境が満たされていれば生息水温に依存することが知られている。従って、この3℃の水温低下がアユに与える影響は大きいと考えられる。

表1.流域毎の計測結果
流域 全 長(mm) 体 長(mm) 体 高(mm) 体 重(g)
球磨川本流系 220.7 ±22.8 191.4 ±20.6 41.9 ±6.4 109.4 ±41.0
川辺川系 226.7 ±19.1 198.6±17.3 45.3±5.7 122.0±35.6
球磨川系 219.9±19.1 190.3±17.9 41.2±4.9 103.4±28.2
表2.流域毎の肥満度(平均値)
流域 肥満度
球磨川本流系 14.92±1.26
川辺川系 15.15±1.15
球磨川系 14.58±0.96

▲グラフ1

▲グラフ2

5.今回のまとめ

  • 今回の調査結果から肥満度を求めて比較した結果は、「包括的なアユの生息環境」を表すものといえ、その中で有意差が見出されたことは、「合流以前の球磨川と川辺川との間に、アユにとっての生息環境の違いがあるため」と考えられた。
  • ダム建設が計画されている川辺川については、既にダムのある球磨川、合流後の球磨川本流の2地域に比べ、アユを育てる力が大きいといえる。ただし、その要因については、今年度の調査結果からは考察できなかった。

度数分布表:本流
階級下限値 実測度数 相対度数 累積相対度数
10 0 0.0000 0.0000
11 2 0.0286 0.0286
12 3 0.0429 0.0714
13 7 0.1000 0.1714
14 28 0.4000 0.5714
15 16 0.2286 0.8000
16 10 0.1429 0.9429
17 4 0.0571 1.0000
サンプル数 70
合 計 1044.4452
平 均 14.920645
最 小 値 11.328579
最 大 値 17.536
分 散 1.5789676
標準偏差 1.2565698
変動係数 0.0848249
度数分布表:川辺川
階級下限値 実測度数 相対度数 累積相対度数
10 0 0.0000 0.0000
11 0 0.0000 0.0000
12 4 0.0244 0.0244
13 30 0.1829 0.2073
14 38 0.2317 0.4390
15 57 0.3476 0.7866
16 25 0.1524 0.9390
17 7 0.0427 0.9817
18 3 0.0183 1.0000
 
サンプル数 164
合 計 2484.7091
平 均 15.150665
最 小 値 12.150517
最 大 値 18.071781
分 散 1.3378595
標準偏差 1.1566588
変動係数 0.0765776
度数分布表:球磨川
階級下限値 実測度数 相対度数 累積相対度数
10 1 0.0067 0.0067
11 1 0.0067 0.0134
12 5 0.0336 0.0470
13 26 0.1745 0.2215
14 80 0.5369 0.7584
15 26 0.1745 0.9329
16 9 0.0604 0.9933
17 1 0.0067 1.0000
 
サンプル数 149
合 計 2172.6312
平 均 14.581417
最 小 値 10.071451
最 大 値 17.01614
分 散 0.9233387
標準偏差 0.9609052
変動係数 0.0661216
水系毎:肥満度
母平均の差の検定:対応のない2標本・正規分布・σ1,σ2未知
変 数 本流 川辺川
サンプル数 70 164 -94
平  均 14.920645 15.150665 -0.23001998
標準偏差 1.2656426 1.1602014 0.105441217
統計量:z -1.3045  
P  yes”> 値 0.1921  
z(0.05/2) 1.9600  
判  定
母平均の差の検定:対応のない2標本・正規分布・σ1,σ2未知
変 数 本流 球磨川
サンプル数 70 149 -79
平  均 14.920645 14.581417 0.339227687
標準偏差 1.2656426 0.964146 0.30149658
統計量:z 1.9878  
P  yes”> 値 0.0468  
z(0.05/2) 1.9600  
判  定

有意

母平均の差の検定:対応のない2標本・正規分布・σ1,σ2未知
変 数 川辺川 球磨川
サンプル数 164 149 15
平  均 15.150665 14.581417 0.569247666
標準偏差 1.1602014 0.964146 0.196055364
統計量:z 4.7361  
P 値 0.0000  
z(0.05/2) 1.9600  
判  定

有意


B.2001年度アユ成長追跡調査/調査計画(概要)

1.目的

2001年(平成13年)度、川辺川系(以下、川辺川とする)に放流したアユの成長を追跡調査し,球磨川本流系(以下、球磨川本流とする)に放流した個体と体格等を比較する。

2.調査主担当検討委員

立原 一憲(琉球大学理学部海洋自然科学科)

3.調査計画

第1回調査

3~5月に球磨川河口に遡上した稚アユを、漁業者の協力によって20~30個体固定し,放流時の平均体長等を明確に押さえる。

第2回調査

解禁後の6~8月(1回)に川辺川、球磨川、球磨川本流で漁獲されたアユを,大型のものを中心に最低各10個体(サンプルが多いほど望ましい)入手し,両者の体長,体 重および形態を計測、比較する。特に、体高比と背鰭の形状を比較する。

第3回調査

産卵期の10月(実際に流下し始めた時点)に川辺川と球磨川本流で漁獲されたアユを各10個体(サンプルが多いほど望ましい)入手し,体長,体重および形態を計測し比較する(体高の違いから川辺川のものと球磨川本流のものが2000年度の計測結果 のように常に区分できるかをチェックする) 。入手サンプルが多ければ、川辺川と球磨川、球磨川本流の「よう卵数」に違いがあるか否かを調査する。

4.結果のとりまとめ

調査結果は集計・分析し、検討委員会にて検討の上で資料化し、公表する。


(財)日本自然保護協会(NACS-J)
川辺川アユ生育環境調査検討委員会

*甲守 崇 (熊本生物研究会副会長/水生生物)
*立原 一憲 (琉球大学理学部海洋自然科学科/リュウキュウアユ/魚類学)
*林 公義 (横須賀市博物館/魚類学)
*中井 達郎 (NACS-J専門部長/自然地理学)
*村上 哲生 (名古屋女子大学生活環境科/水界生態学)
*室越 章 (技術士・水産部門/魚類学) ヤンマーディーゼル海洋設備グループ・マリンファーム
*横山 隆一 (NACS-J常務理事)

調査協力

*川辺川・球磨川を守る漁民有志の会(代表 吉村 勝則)

調査サポート

*自然観察指導員熊本県連絡会
*清流川辺川を守る県民の会他 現地調査事務局 つる 祥子(NACS-J自然観察指導員/環境アドバイザー)

総括事務局

(財)日本自然保護協会(NACS-J)

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