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生物多様性を脅かす外来種問題

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〜ケーススタディ(2) 外来魚密放流/琵琶湖〜

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2000.10.01

特集「エイリアンスピーシーズ」その3
〜ケーススタディ(2) 外来魚密放流/琵琶湖〜

釣り人気の的、ブラックバスが在来魚を食べる

会報『自然保護』No.450(2000年10月号)より転載


名産の魚種が捕れなくなった

「日本一の湖は琵琶湖でしょ。でも大きいだけの琵琶湖なんて魅力ないし、自慢できません。タナゴとか何種類もおる、見えない所にいろんな生き物がいてこそ日本一の湖と思います。けど、それがとんでもない状態になってる」。

戸田直弘さんら若手漁業者がつくる滋賀県漁協連合会青年会では、琵琶湖の危機的状況に対して外来魚の駆除活動を積極的に行っている。これは滋賀県水産課が99年度から本格的に開始した外来魚駆除事業の一環で、琵琶湖にすむブラックバス、ブルーギルなど3000トンと推定されるこれらの外来魚を年間300トン捕獲し、10年後の2008年には推定量の半分の1500トンに減らすという計画だ。

今年度からは外来魚移入種の有償回収も始まり、キロ150円で県が漁業者から買い上げている。戸田さんのいる守山漁協でも、今年8月中旬現在ですでに40トンを捕った。

戸田さん顔写真

「守山漁協は湖の南にありますが、漁師はみんな北に出て漁をするんです。だから、目の前の南湖がバスだらけになったのに気づくのが遅かった。悔しい」と戸田さん。後ろに見えているのはエリと呼ばれる琵琶湖独特の定置網。

このところ、湖の南半分、南湖でとりわけブルーギルの増加が著しい。あるエリ(琵琶湖独特の形をした定置網)での漁獲量は、93年に年間約600キロ、98年には約6トンと、5年で10倍の急増ぶり。

ところが、ブルーギルの激増に圧倒された感のあるブラックバスも、減少傾向が指摘されながら、最近の琵琶湖全域の調査では、ブルーギルとともに現在も沿岸域で最優占の魚種であることが示されている。

その一方で、琵琶湖の味覚として親しまれているホンモロコやニゴロブナといった固有種をはじめとする漁獲対象種は、ほとんどすべてが減少し続けている。それらの魚種はみな沿岸域を産卵場所、あるいは稚魚の生育場所とし、沿岸域で優占する外来魚による捕食の影響を相当に受けていることは間違いのないところである。

「うちの漁協では10年ほど前までは3億円ほどの水揚げを維持してましたが、去年、一昨年は1億円を維持できない状態。今年に至っては、8月で1年の漁の9割は終わったも同然なんですが、この時点で3000万円台。メシ食えん状態ですわ」。有償回収の150円という額は網の修理代にもならない。

戸田さんらは、在来魚を増やすため数年前から固有種の稚魚放流を行っているが、放流するそばからブルーギルやブラックバスが群がり、稚魚はまたたく間に食い尽くされてしまう。「効果がないどころか外来種のエサ状態」だ。

「新聞で見ましたが、ワタカという魚は滋賀県の絶滅危惧種だとか。15、6年前なら梅雨時には南湖の辺りに群れをなしビックリするほどいたのを友だちや父親と捕って、ニゴロブナ代わりにフナ寿司にしたものです。ワタカはヨシ群落に棲んでブラックバス、ブルーギルと生息場所がまったく一緒だったから、こんな状態に追い込まれたのでしょうね」と戸田さんは話す。

在来の魚が激減した理由を、琵琶湖博物館の中井克樹さん(動物生態学)はこう説明する。

「もちろん、複数の要因が考えられます。たとえば護岸や埋め立てで湖岸のヨシ原がどんどんなくなったことや、水質の変化。ブラックバスやブルーギルが入る前から、在来魚の生息を脅かす人間活動が行われていたわけです。
そこに放されたのがこれらの外来魚で、存続の基盤が弱くなっている在来魚たちに、追い撃ちをかけている存在なのです。」

しかし、琵琶湖と同様の生態系破壊は全国各地で放置されたままである。その現状に対して中井さんは、一刻も早く環境行政の一環として抜本的な対策をとることが必要だと訴える。

バス釣りとの果てしない闘い

戸田さんの漁船に乗せてもらい、広々とした湖上に出た。休日とあってたくさんのボートが浮かんでいた。バサーと呼ばれるバス釣りをする人たちだ。世界に誇る古代湖、琵琶湖は、いまや日本一のバス釣り場になってしまった。

ブラックバス、ブルーギルはどちらも北米原産の淡水魚で、比較的温暖な地域の止水環境にすむ肉食性の魚だ。ブラックバスが日本に初めて持ち込まれたのは、1925年。当時から在来魚種に及ぼす影響が懸念され、行政的処置により閉鎖水系の芦ノ湖だけに放流が許された。その後、一部の試験的放流などを除いて、60年代までバスの分布は5県に限られていた。

ところが70年代にルアー(疑似餌)釣りブームの興隆とともに事態は一変、バスは急速に分布域を拡大し始め、現在では全都道府県から記録されるに至る。その裏で、ゲリラ的無秩序放流が各地で活発に行われたことは、記録としても残された公然の事実である。

問題なのは、バスが放たれた当時、滋賀県をはじめ漁業調整規則のなかで、特定種以外の水生生物の無許可放流を禁じていた県が少なくなかったことである。いてはならない琵琶湖のバスは、74年に初めて見つかり、その後爆発的に増え、84年に最初の駆除活動が始まった。

琵琶湖ではバス釣り大会が頻繁に開催されている。今年八月初旬にも主要なバス釣り団体が主催するトーナメントが開催され、600人もが集まった。漁協はもちろんバスを漁業権対象魚種として認めておらず、本来いるべきでない魚の釣り大会が催されるというおかしなことが起きている。しかも、刺網の破損など迷惑行為が絶えないのに遊魚料をとることもできない。

「これだけの人が釣り上げたブラックバス、ブルーギルはバカにならんような量になります。駆除しているからリリースしないようにとお願いしても、何百キロと上げた魚を目の前でダバダバ放されるんだから涙が出ます」(戸田さん)。

バス釣り業界や団体では、「自然にやさしく」と称して「キャッチ&リリース」を励行している。自分たちの愛する魚にはやさしいのかもしれないが、食われる在来魚の立場からはやさしいどころか困ったマナーといえよう。

また、根がかりして大量に湖に残される疑似餌のプラスチックワームは環境ホルモンを出す可能性があることがわかってきた。京阪神地方の飲み水にもなる琵琶湖で使用することに危険はないのか。こうした問題について、戸田さんら青年会は、JB日本バスクラブにやめるよう要望書を出したが、団体としての回答らしい回答はなかった。

alien-okuti.jpg

「バスを釣るのに規制とかありませんから、僕らお願いしかできません。でも、これから何回でもお願いに行こうと思っています。何も有用魚のため、漁業者のためとは思ってません。10年20年後の琵琶湖のためにやってます」と、戸田さんは言う。

河口湖や芦ノ湖では、バスを魚種認定したことで、ワカサギやニジマスの漁をしていたときよりも、バス釣りビジネスに乗り換えてからの方が収益が上がったと聞く。

それでも、「何が悲しいて、最初は違法移植された魚が蔓延してお手揚げ状態になったからといって、自分たちから漁業を取り上げたその魚でメシ食っていくことでしょう」という。「河口湖、芦ノ湖の二の舞いは、絶対にせえへんぞ」というのが滋賀県漁連の青年会で一致団結した決意だ。

在来魚を失うという意味は

本来はいないはずの魚がいる。いる以上、釣りたいのは人情か。釣り人としてはその魚が増えたらいい、釣れる場所が多くなればいいと思うのも当然の心理なのか。

バス釣りが楽しいからという何気ない動機もあれば、違法と知りながらの確信犯的な行為もあって、ブラックバスは全国に広がった。放流は、見つからずにやろうと思えばあまりに簡単にできるし、処罰もたいしたことはないからと、犯罪とは思われていないのかもしれない。

ここまで「ブラックバス」と称してきた魚はオオクチバスという種だが、このところ、新たにコクチバスというもう一つの種も問題視されつつある。この新顔は、オオクチバスよりも冷たい水を好み、河川にも積極的に侵出すると言われている。

こんな魚が放されれば、これまでオオクチバスやブルーギルから免れてきた寒冷地の渓流魚までもがやられてしまうことが懸念される。水産庁は、92年、各都道府県にブラックバスとブルーギルの放流を禁ずる対策をとるよう通達し、外来魚排除の気運は全国的に広まった。にもかかわらず、この新顔は97年に6県(滋賀県・琵琶湖を含む)、99年に22県と、オオクチバスを後追いするように確認される府県が広がっている。

釣りの楽しみのために在来種を絶滅させる “自由” は人間にはないはずだ。これまで寛容でありすぎた日本の内水面規制に、今こそ厳しいルールがつくられなくてはならない。

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琵琶湖の在来の魚たちを守るため、「ブラックバスは持ち帰ろう」と呼びかける看板。

世界でも有数の古代湖である琵琶湖は、現在の位置に来てから少なくとも40万年が経過している。その悠久の歴史のなかで、湖固有の魚類相が育まれてきたのだ。人と琵琶湖の出会いも、旧石器時代と古い。そうした長い時間が培った関係からさまざまな文化が生まれた。

琵琶湖名産として知られているニゴロブナを使ったフナ寿司もそのひとつ。ところが、かつては庶民の味だったこの食べ物が、ニゴロブナの減少とともに値が吊り上がり今では1万円の値がつく高級品になってしまった。不漁が続くホンモロコも、琵琶湖近辺に住む人たちに春を告げる季節の味覚だった。

私たちが在来の魚を失うということは、単にその魚がいなくなることではない。魚とともに長い時間のうちに積み重ねてきた私たちの文化を失うことでもある。今、人間が目先の欲望に導かれた行為を長い自然の歴史から見つめ直す精神を取り戻したい。

(島口まさの)

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