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第3次海上の森・万博問題小委員会調査報告書(総合評価)

2000.05.19
活動報告

『海上の森南地区博覧会場が自然環境に与える影響』
~NACS-J保護委員会/第3次海上の森・万博問題小委員会調査報告書~


 

海上の森南地区の環境影響評価書を読む

 

吉田正人(日本自然保護協会保護部長)

2005年日本国際博覧会に係る環境影響評価書(その1、その2)のうち、植物、動物の項目を南地区を重点において再検討した。

(植物)
注目すべき植物種からみた保全上重要性の高いエリア(図16-1-2)およびシデコブシの分布と表層地質(図16-1-3)を見ると、シデコブシを中心とする注目すべき植物の分布は、南地区の地形地質と密接な関係があることがわかる。すなわち南地区におけるシデコブシ等の分布は、(1)愛工大から吉田川に下る谷~吉田川沿い、(2)愛工大の貯水槽の北側、(3)国定公園境界付近の尾根上、の3カ所あり、(1)は断層によると思われる谷沿いに発達、(2)、(3)は花崗岩上に載った砂岩上に発達している。(1)、(2)は遺伝的に同グループ、(3)は遺伝的に別のグループに属する(図16-1-5)。

またスズカカンアオイの分布図(図17-1-35)には、沢沿いの分布が記録されているが、南地区尾根上のスズカカンアオイの分布調査が欠落しているので、補足調査をすべきである。

植物群落の視点からは、南地区のうち愛工大の北側の砂岩上のモチツツジ-アカマツ群集は、総合評価5段階のうちIVの評価を得ている(図 16-1-10)。また二次林域における林内相観の特性分布(図16-1-15)からは、南地区周辺の谷部には、海上の森の中でも林内空間の大きな林がもっとも多く分布し、ムササビや野鳥の生息に好適な環境をつくり出している。

(動物)
昆虫に関しては、ハッチョウトンボの生息地が、西地区に2カ所確認されている(図17-1-24)が、うち1カ所はすでに発掘調査によって消滅した。またゲンジボタル成虫の確認も吉田川沿いに上流まで続いている(図17-1-26)。さらにギフチョウの食草である、スズカカンアオイが広く分布し、篠田川、海上川の生息地がギフチョウに適さなくなった場合の生息地として潜在的な重要性を有する(図17-1-35)。

野鳥に関しては、繁殖可能性ランク3以上の鳥類の確認位置(図17-1-23)は、吉田川渓谷沿いに集中しており、夏鳥の繁殖にとって重要な場所であることがわかる。カワセミに関しては、広久手第1池、第2池、第3池をはじめとする大小のため池と、花崗岩のためくずれやすい崖が、採食および営巣の場として重要なはたらきをしている(図17-1-22)。しかし、鳥類のセンサスは、吉田川の道沿いに行われており、愛工大グランド北側の広い谷の調査は全く欠落している。この谷は、南地区の会場造成、アクセス道路建設によって大きな影響を受けることが予想されるので、緊急に補足調査をすべきである。

哺乳類に関しては、吉田川の北側の尾根にムササビの営巣が確認されている(図17-1-5)。吉田川の南側にはムササビが確認されていないが、4月9日の現地調査ではムササビの皮剥ぎ跡2カ所、5月3日には営巣跡2カ所が確認されている。道路がないために夜間の調査が欠落し、また人工巣箱が使われていないので、ムササビはいないと判断されたものと思われるが、ムササビの痕跡や森林の環境から、ムササビが生息していることは間違いないと思われる。緊急に追加調査を実施し、ムササビの生息を確認すべきである。

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