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第3次海上の森・万博問題小委員会調査報告書(昆虫)

2000.05.19
活動報告

『海上の森南地区博覧会場が自然環境に与える影響』
~NACS-J保護委員会/第3次海上の森・万博問題小委員会調査報告書~


 

昆虫類にとっての南地区(西地区を含む)の重要性

 

八田耕吉(昆虫・名古屋女子大学教授)

南地区は、従来から指摘されているとおり吉田川渓谷と呼ばれるほど地形上の景観が優れている。さらにコナラやアベマキの落葉広葉樹林が発達しており、土岐砂礫層が作り出す貧栄養な西地区に続く多様な植生を持つこの地域の広がりは、保全地域であるBゾーンと一体になった海上の森の多様性をはぐくむ重要な地域である。海上の森が創り出す豊かな生物層は、いろいろな地形や植生が創り出す多様な遷移の過程により、周りの開発により追いやられた生物たちのすみかとなった結果であろう。

このような認識のなさが、4月4日に出された「基本的方向」にかかれた「水系や地形への配慮」にみられるように、川の改変や土地の造成を少なくすれば、直接的な影響が避けられるといった従来型の「配慮」である。市民や専門家の指摘にあるような生態系全体に及ぼすような影響を考慮に入れた配慮をするならば、川に流れる水のバックボーンとなる水域全体を含んだより広い地域の保全が必要である。

ハッチョウトンボの繁殖地である西地区

駐車場にあたる西地区の北側には、土岐砂礫層の至る所から浸み出る湿地(環境影響評価書、地点11)が広く広がっている。ここには東海丘陵要素のトウカイコモウセンゴケがみられ、ハッチョウトンボの重要な繁殖地になっている。その上部はバスターミナルの予定地になっていたが、この部分の開発が行われれば浸みだし水がなくなり、湿地も消失するであろう。バスターミナルが予定されていたところは、現在、文化財の発掘により完全に禿げ山の状態にされているが、花崗岩の上に土岐砂礫層がのった貧栄養な土地であることが、下部の貧栄養湿地を形成していると思われる。

この地域周辺は、道路建設予定地になったために文化財の発掘が行われ、この発掘作業による土砂の流失によって、環境影響評価書で生息密度が一番高いとかかれている地点12が完全に消滅した。文化財の発掘調査は工事を前提とした発掘であり、文化財保護のために行う記録にとはおのずから違うものである。

西地区は、荒れ地の重要性と調査という名の開発行為を証明する場所であり、遷移の過程を再現するモデルとして残されるべきである。最近の生態学の研究で重要なこととして扱われる攪乱の見本として、自然の再生力、治癒力を証明する上にも適度の攪乱と思われる。この事実こそが、環境万博としてのテーマにふさわしい、「自然の叡智」であろう。

ギフチョウの食草が分布する南地区

海上の森のギフチョウは、人の入り込みと採集により私たちの調査(1999:広木・江田・八田)においても、この地域の個体群を維持することは難しい状態であると予測される。ギフチョウの食草であるカンアオイは海上の森に広く分布しているが、ギフチョウは「海上の森ネットワーク」の調査でも明らかにされたとおり局地的な分布をしている。昆虫などの分布では中心地域においては広く環境適応をしており、地域内ではどこにでもみられるが、分布の周辺や末端においては局地的な分布をすることが知られている。

海上の森もかつては多くのギフチョウが観察されたが、愛知万博の会場予定地になり、開発・造成によりこの地域のギフチョウが全滅する前に採っておこうと考えるコレクター(昆虫を蒐集の対象とする人たち)の対象になり、減少に拍車をかけている。

南地区の南部には、「海上の森ネットワーク」の調査においてカンアオイの分布が広い範囲で確認されており、ギフチョウの卵も少ないが確認されている。成虫の飛翔は午前中に山頂や尾根線へと上がってきており、午後には雌を追尾して下っていることが、多くの人たちによって報告されているとおり、わたしたちの観察でも観察された。博覧会協会のおこなった平成11年の調査、平成12年の調査予定(計画)には、ギフチョウの成虫および卵の調査は沢沿いに行うことになっているために、多くの見落としが推測される。

さらに重要なことは、南地区は北地区のギフチョウの産卵地域と離れており、違った個体群を形成している可能性も考えられる。周辺地域にみられるヒメカンアオイを食べるギフチョウと違って、スズカカンアオイを食べる小さな集団であるギフチョウを全滅させないためにも、海上の森のいくつかの生息適地を残しておく必要がある。現在、北地区にある生息適地が植生の遷移段階が進んでギフチョウの生息に適さなくなったときに、この南地区の南側にある遷移段階の低いこの地域が重要になってくる。

オオタカにとっての南地区の重要性

オオタカ検討会も、南地区の重要性を指摘しており、海上の森全体の保全が大切であるといっているとおり、オオタカが海上の森一帯を利用しており、どこに営巣してもおかしくない。現に南地区の赤池の奥で古巣が見つかっており、1999年にはこの地域に営巣していた個体と思われるオオタカが、北地区で営巣した。4月9日に、西地区の北側から南地区にかけて調査した際、オオタカなどの猛禽類におそわれたと思われるカケスの羽が散乱しているのに2カ所で出会った。このような見通しのよい地域や適度の隠れ家は、猛禽類にとって重要な生活場所であるといえる。

【ギフチョウとスズカカンアオイに関する追加情報】
5月3日、追加調査を行った結果、南地区の尾根上にはスズカカンアオイが広く分布していることが判明した。しかし環境影響評価書にはこれが欠落している。また今春、南地区尾根上において、ギフチョウも確認されている。

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