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「長良川河口堰が汽水域の河川生態系に与えた影響」

2000.02.29
活動報告

日本自然保護協会保護委員会河口堰問題小委員会中間報告書


1.長良川河口堰モニタリング委員会の問題点と提言

公共事業ではじめて行われた本格的なモニタリング調査

日本自然保護協会は、1989年に河川問題調査特別委員会のもとに長良川河口堰問題専門委員会を設置し、「長良川河口堰事業の問題点 中間報告書(1990)」、「長良川河口堰事業の問題点 第2次報告書(1992)」を発表し、自然保護の観点から長良川河口堰建設計画の再検討を求めてきた。

しかし残念ながら工事は中断されることなく、1993年度には本体工事が完成し、1994年5月から1年間の試験湛水を経て、1995年5月に運用を開始した。

この間、建設省・水資源開発公団は、環境への影響調査・評価が不十分であるとの批判に対して、1991年に追加調査(水質・藻類、カジカ等の魚類)、1994年には長良川河口堰調査(主に試験湛水時の水質・藻類、魚類の遡上降下、シジミなどの影響、防災、塩分)を行った。この際、建設省は、五十嵐建設大臣の指示により、防災・塩分、環境(生態・水質)の専門家23名からなる「長良川河口堰調査委員会」を設置して、この調査が科学的かつ客観的に行われるためのアドバイスを求めた。

一方、日本自然保護協会は、1994年に長良川河口堰事業モニタリング調査グループを組織して、水質・藻類、魚卵・仔稚魚などの調査を開始し、試験湛水がはじまった長良川河口堰の影響を独自にモニタリングすることを発表した。このような経緯をうけて、1995年に長良川河口堰の運用を決めた野坂建設大臣は、運用後おおむね5年間のモニタリング調査の実施を指示した。

公共事業の実施にあたって、このような事後調査が義務づけられたのは異例のことである。調査項目も、防災(浸透水、地下水、塩分)、水質及び底質、生態(魚類・底生動物・付着藻類・動物プランクトン・植物・鳥類・陸生昆虫類・両生爬虫類・哺乳類)など多岐にわたっており、膨大なデータが長良川河口堰モニタリング年報あるいはモニタリング委員会資料として提出された。

水質・底質を例にとれば、モニタリング調査は、浮遊藻類の発生、溶存酸素、底質の変化の観測を主な目的として行われた大規模なものであった。特に、藻類量、塩分、酸素濃度等の多地点での連続観測資料などは、今後の河口域の環境問題の検討に資するところが大きいものであると考えられる。しかし、今のところ、データの蓄積が中心であり、将来予測に不可欠な、堰の運用による環境変化の機構の解明、環境影響の規模の評価については、ほとんど手がつけられてはいない。

調査結果にもとづく影響評価・将来予測ができなかったモニタリング委員会

長良川河口堰モニタリング委員会は、堰が運用された1995年7月に建設省によって設置され、毎年2回程度の会合を開き、建設省・水資源開発公団が実施するモニタリング調査の計画立案、実施、取りまとめに対して指導・助言を行ってきた。

モニタリング委員会の主要な職務の一つとして、「データのとりまとめについての指導・助言」が上げられているが、その機能が十分に発揮されたとは言えない。多量のデータセットが集められたものの、データ間の整合性や調査項目間の関連についての検討、堰の運用による環境変化の機構の解明、環境影響の規模の評価、将来予測などは何も語られていない。

例えば、平成10年度のモニタリング年報では、水質・底質について、222ページが充てられているが、その大部分が生データと図表であり、データの解析について論じられているのは僅か数ページに過ぎない。これは、とりあえずのデータの収集と、その後の検討を経た解析結果の発表という、手順から来る時間的なズレの問題だけから生じたものではない。解析結果に関する見解は、ブリーフィングが義務づけられていた1996年以前の報告書よりも、1997年以後の報告書の方が情報が少なくなっていることに注目すべきであろう。

このようなデータの解析作業の欠落にもかかわらず、堰運用後の環境変化が生じた場合、それについて助言を与える機能を持つモニタリング委員会に相談することなく、しばしば「影響は軽微、局所的」、「予想の範囲内」との建設省コメントが出されてきたことは奇妙である。建設省は調査の公開性と科学的な議論の場の保証を強調しているが、データの収集と結論発表の間に行われた非公開の議論については、外部からは窺い知ることはできない。この面では、モニタリング委員会は、建設省を指導・助言するというよりも、むしろ建設省の結論の正当性を追認する機関として機能したに過ぎない。

膨大なデータを解析する作業委員会を欠いたモニタリング委員会

モニタリング委員会で集められた多量のデータの解析は、研究者個人が処理できる枠を超えるほどの作業である(環境調査会社に委託したと思われるデータの統計処理、図表化等は、解析のごく初期的な作業の一部に過ぎない)。解析作業の不十分さの一因は、膨大なデータを分析する作業委員会をおかず、少数のモニタリング委員のみで委員会を構成した委員構成にその原因がある。

環境変化の早期発見と対応策の検討ができなかったモニタリング委員会

本来、事後モニタリング調査に求められているものは、環境変化の早期発見とそれに対する現実的な対応策の検討である。この過程でモニタリング委員会に求められる役割は、現在集められた資料と既存の知識で、限られた期間内に、できるだけ科学的に整合性のとれた変化の機構の説明とそれについての対策を提言することである。しかし、多量に集められたデータの解析を行う作業委員会を欠くモニタリング委員会では、科学的な議論がおくれがちになるのは当然である。

限られた時間内での現実的な対応という点では、求められる検討事項とその確度は、必然判断まで要求される「研究」とは異なり、蓋然判断の段階でも、重要な変化のいくつかについては、助言と改善策の提言をすることはできたはずである。例えば、運用前に非公式ではあるが提示されたゲートの開放に関する水質基準(藻類発生や底層酸素の低下がある程度続けば開放等)などについて、その基準の策定、監視や堰の運用についての助言は、モニタリング委員会の義務とされるべきであった。

5年間のモニタリング期間を経ても、いまだに、環境変化と堰運用の因果関係について明瞭な意見が言えず、今後の調査に委ねるというのは、科学的に慎重であろうとするものではなく、5年間の怠慢と問題の先送りと解釈されよう。また、今後の堰の運用について、科学的な因果関係が解明し尽くされるまで何も提言しないという姿勢は、開発行為に対して、中立的なものではなく、行為を容認する役割を果たすものでしかない。

チェック機構を欠いたモニタリング委員会

長良川河口堰モニタリング委員会の問題点は、この委員会に特有のものではなく、科学的、専門的な判断を仰ぐ各種の委員会に、程度の差こそあれ共通に見られるものである。科学的な面に限っても、十分に各事例に対応できる知識が集積されているわけでもないので、完璧な議論を望むことは現段階では難しいが、委員の中からこれに対する改善策が提案されてしかるべきであった。

原因の一つは、外部との交渉がないところで議論されているためであるように思われる。モニタリング委員会での議論の際に、建設省以外の研究者やNGOの調査データが俎上に上がったことはないし、また、委員会での議論の妥当性を外部の専門家に相談することもなかった。さらには、内容を市民にも解りやすく解説するという努力もされた形跡がなく、1996年10月を最後にブリーフィングが行われなくなってからは、モニタリング委員が、建設省の調査をどう評価したのかさえ、市民に伝わらなくなってしまった。全国的に注目を集める事業のモニタリング委員として、市民に現状を説明する義務があることも、現在では常識であろう。

今後、建設省がモニタリング調査を継続するにあたって、新たなモニタリング委員会を設置するのであれば、以下の点を提言したい。

  1. 建設省は、モニタリング委員会が、建設省・公団とは独立して、モニタリング調査の計画立案、実施、取りまとめに対する意見を述べることができるよう、モニタリング委員の立場を保証すること。またモニタリング委員の選定にあたって、それぞれの分野ごとに意見の異なる2人以上の専門家に委嘱すべきである。
  2. 建設省は、モニタリング委員会に、膨大なデータの解析を行う作業委員会を設置すべきである。また建設省・公団は、作業委員会の取り扱ったデータを、モニタリング委員会だけでなく、長良川河口堰の環境影響を研究する研究者やNGOが自由に利用できるよう、集計前の生データを含めて、デジタルデータ(CD-ROM等)として提供すべきである。
  3. 事前事後の調査方法を統一することを前提とするべきである。調査の過程で、方法や調査時期の変更をするケースは避け得ないが、従来の方法や調査時期を全面的に取り止めるのではなく、客観的に比較が可能な部分をかならず残すようにするべきである。
  4. モニタリング委員会が環境影響に関して重大な問題を発見した場合は、具体的な対策を実施することを、建設省・水資源開発公団に義務づけるべきである。
  5. モニタリング委員会は、情報公開と検討過程の透明性を保つため、年報による報告だけでなく、適宜ブリーフィングを行うとともに、必要に応じて、建設省・公団以外の研究者やNGOとの意見交換の場を設けるべきである。

2.水質・底質の調査に関する提言

水質・底質のモニタリング調査に関して、モニタリング委員会の「当面のモニタリングについて(提言)案」は、水質に関する月1回の水質調査、自動観測装置による毎時の水質観測、年4回の河床変動および底質調査を続けることとしている。

これに対して、以下のとおり提言する。

  1. 河川水質・底質に関する事後の監視としては、他の事例と比較して、充実した調査が実施されたものと考える、今後もこの監視体制を維持すること。
  2. 調査データの解析に関しては、実際に解析作業を担当する作業委員会を発足させること。また、そこでの議論及びデータはすべて公開すること。
  3. モニタリング結果については、データの公開のみならず、データから読みとれる変化のすべてについて、その可能性の度合いも併記して言及すること。
  4. 環境の変化の規模について、数値的な基準を明示すること。また、その基準を満たさない場合の堰の運用について、委員会の試案を示すこと。
  5. 委員会の構成や運営については、外部の専門家や市民から意見を随時とりいれることができる体制にすること。

3.底生生物・プランクトンの調査に関する提言

底生生物のモニタリング調査に関して、モニタリング委員会の「当面のモニタリングについて(提言)案」は、海域貝類、カワヒバリガイ、カニ類、ユスリカ、その他一般の底生動物に関して、これまで毎年実施してきたモニタリング調査を、3~5年に1回に縮小する予定である。これに対して、以下のとおり提言する。

1)カニ類
堰運用前に生息していた個体の寿命が終わるとき、長良川のベンケイガニ類の個体群は基本的に消滅するといってよいであろう。同様のことが、イトメ、ゴカイ、ヤマトシジミなど多くの汽水性動物にあてはまる。しかしこれらの動物の寿命についてはほとんど知られていないので、継続調査によって、貴重な知見を得ることができる。

モクズガニや「既設堰で魚道を遡上していることが確認されており、河口堰の設置がテナガエビの生息に大きな影響を与えることはないと判断される」(建設省・水資源開発公団 1992)と予測されたテナガエビなど、魚道を一定程度遡上できる動物については、堰遡上数、堰上流域における密度や個体群の齢(サイズ)組成の調査などによって、将来の予測を行うべきであろう。

2)ユスリカ
これまでの調査は、1地点のサンプル数が少なく、個体数推定には問題があろう。したがって、今後、調査地点を減らしてでも、1地点あたりのサンプル数を増やした調査が必要であろう。また、民家等への飛来数のモニタリング調査も行う必要があろう。

3)シジミ
堰の上下流において、正確な位置測定をして継続的な調査を行う。調査は、平面的な分布及び分布に影響を与える要因を把握することを目的に、ヤマトシジミを含む底生生物相全体の種組成、現存量に加えて、底泥の粒度組成・強熱減量・酸化還元電位等の物理化学的な条件の調査を毎年実施すること。

また、プランクトンの調査に関して、以下のとおり提言する。

  1. 河口堰湛水域の動物プランクトン(仔アユが摂食しない原生動物は除く)の密度は極めて低いことが明らかとなっている。このことが、仔魚の生存にどのような影響を及ぼすのか、極めて重大な問題であり、この点を解明するための調査・研究が必要である。
  2. 建設省の調査結果から、河口堰は堰上流域のみならず、堰下流域でも典型的な汽水性動物プランクトンであるキスイヒゲナガケンミジンコやニセヒゲナガケンミジンコに壊滅的な影響を与えた可能性がある。長良川は、揖斐川と堰下流で合流し、両川の河川水が混合するため、河口堰の影響を正確に把握することは困難である。芦田川など他の河口堰との比較調査が望まれる。

4.魚類の調査に関する提言

魚類のモニタリング調査に関して、モニタリング委員会の「当面のモニタリングについて(提言)案」は、これまで毎年実施していた手網・投網・刺網・小型地曵網等による一般調査を3~5年に1回に縮小する。アユに関しては忠節橋におけるカウント調査は継続するものの魚道におけるカウント調査やアユ仔魚の降下調査は中止する。サツキマスに関しては岐阜中央市場での聞き取り調査は継続するものの38km地点における捕獲調査は中止するという調査計画案を発表している。

魚類等の遡上・降下状況の調査に関する提言

魚道の性能調査については、平成6年~8年のデータだけからでもいくつもの論文が書けると思われる。ただし、魚道による結果の差異が魚道の構造の違いによるのか場所の違いによるのかの区別が困難であるという短所は、現状のままモニタリングを続けても改善されない。したがって、魚道の性能評価を科学的に行うためには、魚道に手を加えてコントロール実験となるような手順が必要となる。

ところが、河口堰のゲート操作を今後どのようにするにせよ、これまでのデータと客観的な比較をするためには、以前と同じ条件による調査が行われなくては解釈に困ることになる。モニタリングの大目的は、魚道の性能評価ではなく遡上する個体群の量的・質的変化を捉えることにあるはずである。むしろ、これまでの魚類等の遡上状況調査は、魚道の性能評価を主眼としていたところに多くの問題があると考えられる。本来の目的をはずさないためには、以下の点に留意するべきである。

  1. 魚類等の遡上・降下を捕捉する調査は、月間4回程度(大潮と小潮を含める)の頻度で年間を通じて実施すること。
  2. 魚類等の遡上・降下を捕捉する調査は、河口、堰直下流、堰直上流、湛水域途上、湛水域上流の5地点において同じ方法で調査すること。たとえば、ミニトラップによる方法は、遊泳魚や底生魚のみならず底生動物についても移動の実態を調べるために有効であると考えらる。
  3. 魚類等の遡上・降下を捕捉する調査のち、各種トラップによる調査は上流向きと下流向きをセットにして実施すること。
  4. 各種トラップによる調査は、各地点に少なくとも3つ以上のトラップを設置して繰り返しデータを得ること。また、これまでの報告書では繰り返しデータの扱いとして合計値を示してきた。これでは、繰り返した意味がないので、今後は個別トラップのデータを公開するべきである。

個別の魚種の調査に対する提言

魚種別に見た場合、留意すべき点を以下に提言する。

1)アユ
アユの遡上調査に関しては、河口堰魚道における調査を中止して、著しく精度の落ちる中流域の調査のみとするのは、科学的な影響調査を否定する行為である。

魚道におけるカウント調査を継続するとともに、アユの遡上生態を把握するのに有効な、遡上稚魚の体サイズ計測、日齢査定をサンプリング調査によって継続しておこなうべきである。このサンプリング調査は、現在行われている左岸呼び水式魚道だけではなく、右岸呼び水式魚道・右岸せせらぎ魚道についてもおこない、魚道のタイプによる遡上生態の比較等を行うこと。

中流域における調査では、現在行われていない、調査時の物理的な環境、すなわち、調査個所の精密な横断測量、水位、流速、日射量、濁度ないしは透視度等を測定する。また、遡上開始から終了まで、定期的に稚魚をサンプリングして、サイズの変化、日齢、耳石分析による自然遡上個体、放流個体の判別等を行うこと。

降下仔魚に関しては、現在までの調査は主要な産卵場所における調査がなされておらず、正確な数値が把握されているとは言い難い。従って、現在まで行われてきた穂積大橋の調査を継続し、合わせて下流側の羽島大橋での調査を行い既存の流下仔魚に関する推定値の補正を計るべきである。また、耳石による日齢査定については、長良川産のアユの卵によって検定を行うこと。

2)サツキマス
サツキマスは市場を通さないで、直接取引される量が多いので、岐阜市場への出荷数は限定されたものである。したがって、その結果のみからサツキマスに対する長良川河口堰の影響を見ることは不適切である。

38km地点のサツキマスの捕獲調査は、遡上数のみならず、遡上の遅れなどの影響を把握する上で非常に重要であるので、これを継続すること。また、カワウによる食害を把握するため、市場調査を含めてヒヤリング等を行うこと。

3)通し回遊魚
通し回遊魚に関しては、その捕獲尾数だけでなく、サイズ変化、年齢組成に関しての情報を継続して把握し、魚類の生活史に対する長良川河口堰の影響の程度を適切に把握すること。

5.植物の調査に関する提言

建設省のこれまでのモニタリング調査の問題点)

平成7年7月の「長良川河口堰調査報告書」(建設省中部地方建設局・水資源開発公団中部支社)のモニタリング計画の概要には、各種モニタリングデータの集積内容と着目点として、「堰完成後の長期的な変化の状況を把握するため、モニタリングデータを項目ごとに長期的に集積し、動植物や魚介類のそれぞれの種の生活史、食物連鎖などの観点を踏まえて生息環境の変化、動植物及び魚介類の生息状況等、長良川下流域の生態を整理・分析し、より良い河川環境のための管理保全対策に資するものとする」となっている。また、生態・水質ワーキンググループ会議のブリーフィング内容として、「ヨシ、ヤナギの試験植栽地は、自然回復が進行し順調な結果を得ているので、全国の参考となるよう植栽方法や調査結果を十分に考慮し取りまとめておくこと」、「ヨシ生育状況調査について、水深と生育状況との関係についての知見を深めるため、継続して調査をおこなうこと」となっている。

ヨシに関しての調査は、特定モニタリング調査において、全ゲート操作に伴う淡水化や堰上流部の水位変動が与える影響の確認としてヨシの生育条件及び生育状況と、試験施工地等における生息状況の把握として試験植栽地(ヨシ、ヤナギ)におけるモニタリングを行うこととなっている。試験施工地等における生物の生息状況に関しては、試験植栽したヨシ・ヤナギの他、木曽川に移植を行った貴重種のタコノアシ、フジバカマ、イセウキヤガラの生育状況についても、今後観察を継続していくと記されている。しかし、平成9年度までのモニタリング計画総括表と平成10年度のそれを比べた場合、一般的観測は同じ9項目であるが、特定テーマが平成10年度ではそれまでの10項目から6項目に減っている(堰周辺における鳥類の採餌行動調査、試験植栽地、渚造成地、タコノアシ等の移植・生育調査の4項目が削除されている)。

以上の点を踏まえ、ヨシ群落および水生大型植物に関する今後のモニタリング調査に対し、以下のとおり提言する。

今後のモニタリング調査への提言

  1. 植物の一般調査に関して、ヨシに対する湛水の影響を見るのに最適の場所であるN2とN3が調査地点に含まれていないので、是非とも含むべきである。また、調査項目には密度(稈数)も含めるべきである。
  2. ヨシの生育条件及び生育状況に関する調査は、堰直上である右岸6.8kmから左岸32.0kmまでの広い範囲(長良川8地点と比較のための揖斐川3地点)にまたがっており、調査結果もこれらをまとめて示されている。そのため、湛水の影響をよく示している山内ら(1999)の調査結果(伊勢大橋から 15km地点まで)との対比が困難である。これまで8地点をまとめていた調査結果を、右岸6.8kmから左岸15.2km(ヨシ1、2、3、4、5)までの5地点と、それらより上流のヨシ6、7、8の3地点に分けて図表に示すことにより、この対比が可能となろう。「長良川河口堰に関する当面のモニタリングについて(提言案)」に対する提案として、「ヨシ3~6」は「ヨシ2~5」とすべきであろうし(ヨシ1、ヨシ9~ヨシ11はそのままとする)、調査項目としては全高、被度、地盤高に加え、密度も測定すべきである。
  3. 貴重種であるタコノアシ、フジバカマ、イセウキヤガラの移植後の観察は、平成9年度においては計画では随時行うことになっているが、同年度の実績表からは抜けており、調査結果はない。平成7年度の報告書と平成8年度のモニタリング年報に移植作業の写真が載せられているに過ぎない。移植後の観察は、これら植物の保全に関わる重要な知見を提供するものであり、移植後の様子については是非ともフォローアップすべきであろう。
  4. ヨシ植栽地とヤナギ植栽地における調査ならびに平成8年度覆砂新規対策地における定点写真観察とベルトトランセクトは、今後の保全策の資料とするため継続する必要がある。
  5. 水草に関しては、同定と観察の正確性において気になる点があった。ひとつは、平成7年のみイトクズモとイトモという記載があり、その後はホソバミズヒキモに置き換わっている点である。葉が小さく細い沈水植物の仲間は同定が難しいので、標本を作成し、それを信頼のおける専門家に見てもらい、しかるべき場所で保管してもらうべきである。また、1996年に山内ら(1999)が観察したホテイアオイが、平成7年の報告書に記述があるものの、その後の年報の記述には見当たらないことが2つ目の点である。

6.鳥類の調査に関する提言

建設省の長良川河口堰モニタリング委員会の提言案では、植生及び鳥類の調査に関して、これまで毎年行っていた調査を、今後3~5年ごとに1回とすることにしている。

しかしヨシ原の減少によるオオヨシキリ等への影響は、1998年ごろから見られ始めたばかりであること、利根川河口堰の調査では堰運用後約13年経ってキンクロハジロやツルシギへの影響が出ていること、などの理由から、鳥類の調査は少なくとも運用後10年までは毎年行うべきである。

とくに、以下の項目については今後も重点的なモニタリング調査が必要である。

  1. オオヨシキリ・オオジュリンのテリトリー数の変化と、ヨシ原の減少および復元との関係
  2. キンクロハジロ・ホシハジロの個体数と二枚貝の減少との関係
  3. カワウによる遡上魚種への影響を把握するため、長良川河口堰周辺での行動、とくに、摂餌行動等を把握する。

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