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1999.12.07

「環境影響評価法第28条によれば、環境影響評価の手続きをやり直すべき」



2005年日本国際博覧会に係る

環境影響評価書に対する意見書

 

平成11年12月7日

通産大臣 深谷 隆司 殿
環境庁長官 清水嘉与子殿

財団法人 日本自然保護協会
会 長 沼 田 眞

当協会は、標記事業およびこれに関連する地域整備事業(瀬戸市南東部地区新住宅市街地開発事業および名古屋瀬戸道路)の環境影響評価に関して、1998年6月1日には計画書に対する意見書、1999年4月6日には準備書に対する意見書を提出し意見を述べてきました。

その後1999年4月に、事業予定地内にオオタカの営巣が確認されたことによって、事業計画を変更せざるを得ない状態となり、9月7日には事業者である2005年日本国際博覧会協会から会場計画変更案が発表されました。

本評価書は、会場計画?案として変更前の海上地区への影響、会場計画?案として変更後の海上地区および青少年公園地区等への影響を評価の対象としています。しかし、青少年公園地区等および会場間のアクセスに関しては、方法書や準備書段階での意見聴取の過程を経ておらず、今回はじめて評価されたものであるため、本評価書は準備書の改訂版というべきものであると考えます。

環境影響評価法では、評価書に対して国民が意見を述べる機会が設けられておりませんが、上記の理由から、あえて評価書に対する意見を申し述べます。

近く環境庁長官意見および通産大臣意見が出されると聞いておりますが、環境庁長官ならびに通産大臣は、評価書に対して自然保護団体が提出した意見もふまえ、大臣意見を出されるよう要望いたします。

(1)環境影響評価全体に対する意見

1.2005年日本国際博覧会の会場計画変更に係る部分については、環境影響評価の手続きをやり直すべきである
環境影響評価法第28条によれば、事業の対象となる市町村に修正があった場合には、方法書の手続きを再実施することが求められており、環境影響評価法に準じて実施するのであればこの手続きを再開しなければならない。少なくとも、青少年公園地区等および会場間のアクセスの環境影響評価に関しては、これまで市民が意見を言う機会は一度も設けられていないので、会場計画変更に係る部分については環境影響評価の手続きをやり直すべきである。

2.地域整備事業との複合的影響を評価し直すべきである
このまま博覧会事業と地域整備事業(新住・道路)の両方が実施されるならば、海上地区における自然環境への影響はほとんど変わらないばかりでなく、青少年公園地区等における影響と足し合わせた複合的な影響は、これまで以上のものになるため、この会場計画変更を「環境におよぼす影響を低減するための環境保全措置」とみなすことはできない。地域整備事業の環境影響評価との連携をはかるため、地域整備事業との複合的な影響評価をやり直すべきである。

3.会場計画変更による環境保全措置を評価し直すべきである
「環境保全措置の検討にあたっては、環境保全措置についての複数案の比較検討」を通じて環境保全措置の妥当性を検証することとなっている(基本的事項)。会場計画案第I案(海上地区のみを利用する案)、第II案(海上地区と青少年公園地区等を利用する案)および第III案(海上地区を改変せず青少年公園地区等を利用する案)の3案を比較して、環境保全措置の妥当性を検討するのがもっとも妥当な手法である。この評価方法によって、会場変更案のより客観的な評価を行うべきである。

(2)環境影響評価の内容に関する意見

1.生物の多様性の確保と自然環境の体系的保全(植物)
(1)注目すべき植物種

注目すべき植物種のリストから除外されたクサナギオゴケは、標本の有無にこだわらず、保全対策を考慮すべきである。植物種からみた保全重要性の高いエリアは、潜在的な生育場所も含めて評価すべきである。

(2)植生の評価

生物多様性の保全という視点からは植生自然度のような指標よりも、保護を要する植物の分布域(および潜在的な分布域)としての評価を重視すべきである。

(3)注目すべき植物群落の評価

注目すべき植物群落の評価は、環境と植生の動的関係に基づいた評価がなされていない。また青少年公園にもモンゴリナラやシデコブシ等の保全上重要な種を含む植物群落がみられるので、海上地区と同等の調査を実施すべきである。

2.生物の多様性の確保と自然環境の体系的保全(動物)
(1)動物相

鳥類に関しては、過去の調査データの不備を認め、1997年までの調査データを省いたため、今後複数年をかけて調査を行う必要がある。昆虫に関しては、既存資料の中の学名不明種の扱いがまちまちであり、学名の重要性に対する認識が全くない。

(2)オオタカ

オオタカに関しては、地域整備事業の環境影響評価との連携がとれていない。オオタカ調査検討会に検討を依頼しながら、愛知県が建設省に環境影響評価書を提出したことは、検討会の議論の進捗を無視するものである。今まで通りの保護策をもって事業を行うならば、オオタカの営巣に大きく影響を与えることは必至である。

3.生物の多様性の確保と自然環境の体系的保全(生態系)
(1)里地生態系の評価

里地生態系を上位性、典型性、特殊性の視点から指標する生物を選んで環境影響評価が行われてきたが、里地生態系そのものを評価する視点が失われている。里地生態系の評価をするのであれば、地形・地質・土壌と植生との関係、歴史的な里地利用との関係などを明らかにすべきであるが、このような評価ができていない。

(2)食物連鎖の評価

生態系の上位性の視点からの評価を行うため食物連鎖の調査が行われているが誤りが多い。食物連鎖や栄養段階を理解している専門家の意見を取り入れて、再評価を行なうべきである。

4.環境保全措置
ギフチョウ等については、測量・ボーリング調査などによる人為的な影響が大きくでており、人の入り込みによる追い出しが懸念される。ムササビ、ゲンジボタル、カワセミ、タヌキ等については不確実性が高い代償措置を安易にとるべきではない。

5.総合的評価
(1)環境の保全のための措置

会場計画第II案自体が環境保全措置であるという立場をとっているために、具体的な保全措置がほとんど記述されていない。

(2)総合評価

1.の3で述べたとおり。

(3)事後調査

事後調査については、調査期間が本事業終了までとなっているが、食物連鎖を通じて徐々に現れる影響は、かなり長期間のモニタリングが必要である。

 


2005年日本国際博覧会に係る
環境影響評価書に対する意見書
(理由書)

(1)環境影響評価全体に対する意見

1.2005年日本国際博覧会の会場計画変更に係る部分については、環境影響評価の手続きをやり直すべきである
2005年日本国際博覧会(以下博覧会)のアセスメントは、1995年12月の閣議了解において「環境影響評価を適切に実施すること」とされ、1998年 2月の環境影響評価実施手法を定めた通産事務次官通達に基づいて実施された。その中で博覧会の環境影響評価は、(1)環境影響評価法の趣旨を先取りする新しい環境影響評価のモデル、(2)「人と自然の共生」という博覧会の理念の実現に資する環境影響評価、(3)博覧会会場計画と連動した環境影響評価、(4)地域整備事業(住宅・道路)の環境影響評価との連携をはかる、という位置付けをされている。したがって博覧会事業は、1999年6月に施行された環境影響評価法の対象事業ではないが、環境影響評価法に準じたあるいはそれを先取りしたモデル的な環境影響評価を実施することが求められているのである。

しかるに事業者である2005年日本国際博覧会協会(以下博覧会協会)は、計画書に対して当協会を含む複数の団体から、愛知青少年公園の地名を挙げて「複数の代替案を含む計画的なアセスメントを実施すべきだ」とする意見が出されていたにもかかわらず、調査範囲を瀬戸市南東部の海上地区のみに限定した。ところが1999年4月オオタカの営巣が確認されるに及んで会場計画を長久手町の青少年公園地区等まで広げる必要が生じたものである。

本評価書ではその経緯を「準備書の公告・縦覧以降に、会場候補地内において国内希少野生動植物種に指定されているオオタカの営巣が確認され、その保護を図るためには、本博覧会の利用にも一部影響が生じる可能性が出てきたこと・・・等の理由により、会場候補地に隣接する愛知青少年公園及び科学技術交流センター(仮称)建設予定地を本博覧会事業が環境におよぼす影響を低減するための環境保全措置として利活用すること等、必要な検討をすすめることとした(p5)」と説明している。

環境影響評価法第28条によれば、事業の対象となる市町村に修正があった場合には、方法書の手続きを再実施することが求められており、環境影響評価法に準じて実施するのであればこの手続きを再開しなければならない。しかるに博覧会協会は、この会場計画変更は「環境におよぼす影響を低減するための環境保全措置」であるとして、この条項の適用を避けようとしている。

もし博覧会のアセスメントは環境影響評価法に基づくものではなく、1999年2月の事務次官通達によるものであるから法第28条には拘束されないというのであれば、「環境影響評価法の趣旨を先取りする新しい環境影響評価のモデル」となるよう、計画段階から愛知青少年公園を含む複数の代替案による環境影響評価を実施すべきであった。そうすることによって、「環境影響評価を再実施すべきだ」という批判を避けられたはずである。

博覧会という事業の性格上、計画の熟度が高まるに従って、会場計画の変更が行われるということはありえないことではない。「博覧会会場計画と連動した環境影響評価」という通達の趣旨からすれば、今回のような会場計画の変更は博覧会事業としては望ましい選択である。

しかし後に述べるように、博覧会事業と地域整備事業(新住・道路)を同時に行う限り、この会場計画変更を「環境におよぼす影響を低減するための環境保全措置」とみなすことはできない。少なくとも、青少年公園地区等および会場間のアクセスの環境影響評価に関しては、これまで市民が意見を言う機会は一度も設けられていないので、会場計画変更に係る部分については環境影響評価の手続きをやり直すべきである。

2.地域整備事業との複合的影響を評価し直すべきである   
博覧会の環境影響評価にあたっては、「地域整備事業(住宅・道路)の環境影響評価との連携をはかる」という通達の趣旨にもとづいて、地域整備事業との連携を図る努力が払われてきた。本評価書にも「準備書においては、情報を共有するほか、その作成時期を合わせるとともに、各々の準備書とは別に統一的な資料を作成しました。評価書においても、引き続き、環境影響評価に係る様々なデータの収集、整理等を行って情報を共有する等、連携の確保に努めております(はじめに)」と説明されている。

しかしながら愛知県は、博覧会の会場計画変更・評価書作成を待たずして、8 月31日には瀬戸市南東部地区新住宅市街地開発事業(以下新住)の評価書を建設省に送付した。その結果、準備書段階までは「作成時期を合わせるとともに、各々の準備書とは別に統一的な資料を作成」するなど連携を図る努力が払われてきたにもかかわらず、評価書段階にあっては「環境影響評価に係る様々なデータの収集、整理等を行って情報を共有する」だけであり、作成時期・統一資料などこれまで行ってきた「連携」さえ放棄された。 さらに問題なのは、当協会が準備書に対する意見書で指摘した地域整備事業との「複合的な影響」の評価が、本評価書においても行われていないことである。

一例をあげれば、生物多様性の確保および自然環境の体系的保全の項目のうち、動物に関して、 本評価書の博覧会会場計画第II案(p940-941)は、

(1)ムササビ     主要施設地区においては主要生息域に対する改変はない

(2)オオタカ     主要施設地区においては出現頻度が相対的に高いエリアにおける直接改変は計画されていない

(3)ハチクマ     主要施設地区においては出現頻度が相対的に高いエリアにおける直接改変は計画されていない

(4)カワセミ     主要施設地区においては営巣確認地・営巣可能な崖地・採餌場所に対する改変はない

(5)アオゲラ等繁殖鳥類     主要施設地区においては繁殖地として利用されている可能性の高い場所に対する改変はないが、西地区で樹林の孤立化が生じ、西地区を含む吉田川と吉田川支流に囲まれた約21haのエリア内の樹林率が約50%から19%に、落葉広葉樹林率が14%から5%に減少する

と述べているが、一方で新住の評価書では、

(1)ムササビ     行動圏の合計約135haのうち35ha(26%)が改変を受ける

(2)オオタカ     経年的営巣期高利用域のメッシュ合計19メッシュのうち2メッシュが直接改変域にかかる

(3)ハチクマ     経年的営巣期高利用域のメッシュ合計16メッシュのうち5メッシュが直接改変域にかかる

(4)カワセミ     営巣確認地3箇所のうち1箇所、高採餌水域6箇所のうち1箇所、営巣可能域として抽出された53箇所の崖地のうち18箇所(34%)が直接改変を受ける

(5)アオゲラ等繁殖鳥類     繁殖可能性4以上の確認箇所24箇所のうち7箇所が消失する(サンコチョウは、繁殖可能性4以上の確認箇所3箇所のうち2箇所が消失する)

となっている。

このように地域整備事業との複合的な影響を評価すれば、会場計画第II案を採ったとしても海上地区の動物に対する影響は甚大であることは明白であるにもかかわらず、本評価書は会場計画第I案と第II案を比較することによって、工事・存在・供用のいずれについても第II案は相対的に「やや優れている」という評価を下している。

もしこのまま博覧会事業と地域整備事業(新住・道路)の両方が実施されるならば、海上地区における自然環境への影響はほとんど変わらないばかりでなく、青少年公園地区等における影響と足し合わせた複合的な影響は、これまで以上のものになるため、この会場計画変更を「環境におよぼす影響を低減するための環境保全措置」とみなすことはできない。

本評価書は「このような連携も環境影響評価法の定めを越えたものであり、全国に先駆けた取り組みです(はじめに)」と自画自賛しているが、複数の事業の影響を足し合わせた複合的評価という面では、連携は全く図られていないと言わざるを得ない。

「地域整備事業(住宅・道路)の環境影響評価との連携をはかる」という通達の趣旨を活かすためにも、地域整備事業との複合的な影響評価をやり直すべきである。

3.会場計画変更による環境保全措置を評価し直すべきである     
本評価書は、「会場候補地に隣接する愛知青少年公園及び科学技術交流センター(仮称)建設予定地を本博覧会事業が環境におよぼす影響を低減するための環境保全措置として利活用する(p5)」として、変更前の会場計画第I案と変更後の第II案を比較することによって、「会場計画第I案に比べ第II案を選択することにより、環境影響の程度の低減を図ることができる(p1417)」という評価を下している。しかし、9月7日には会場計画変更案が発表され、本評価書が通産大臣、環境庁長官に提出された10月25日にはすでに会場計画第I案は過去のものとなっていたのであるから、第I案に比べて第II案が相対的に優れているというのはあまり意味のない比較であると言わざるを得ない。

環境影響評価において、「環境への影響の緩和策を設計するためには、現況、ミティゲーションを行わない場合の環境、およびミティゲーションを行った場合の環境の3つの環境を定量的に比較することが必要である」といわれている(環境庁請負調査「ミティゲーション(代償措置)手法について」日本総合研究所 1994)。

また「環境影響評価法第4条第9項の規定による主務大臣及び建設大臣が定めるべき基準並びに同法第11条第3項及び第12条第2項の規定による主務大臣が定めるべき指針に関する基本的事項(以下基本的事項)」によれば、「環境保全措置の検討にあたっては、環境保全措置についての複数案の比較検討」を通じて環境保全措置の妥当性を検証することとなっている。

以上のことから、会場計画案第I案(海上地区のみを利用する案)、第II案(海上地区と青少年公園地区等を利用する案)および第III案(海上地区を改変せず青少年公園地区等を利用する案)の3案を比較して、環境保全措置の妥当性を検討するのがもっとも妥当な手法であると考えられる。

この評価方法をとるとすれば、生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全、人と自然との豊かな触れ合いの項目に関しては、以下のような評価となることはおそらく間違いない。このような方法で、環境の自然的構成要素の良好な状態の保持、環境への負荷等の項目についても評価をやり直し、会場変更案のより客観的な評価を行うべきである。

第I案に比べ 第II案は 第III案は
生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全 植物 + ++
動物 + ++
生態系 0 +/++
人と自然との豊かな触れ合い 景観 + ++
触れ合い活動の場 0 +/0 (青少年公園の評価に依存)
*p1418の「総合評価のための比較マトリックス」に第III案の評価(案)を追加
*凡例: ++ より優れている、+ やや優れている、0 どちらともいえない
- やや劣っている、- - より劣っている

(2)環境影響評価の内容に関する意見

1.生物の多様性の確保と自然環境の体系的保全(植物)

(1)注目すべき植物種

注目すべき植物種のリストに掲載されていないクサナギオゴケについては、研究者から位置情報の提供があったにもかかわらず「裏付け情報が確認できなかったため、注目すべき植物種から除外した(p723)」とされている。標本の有無にのみこだわらず、その保全対策を考慮すべきである。

植物種からみた保全重要性の高いエリア(図16-1-2)については、原則的に生育確認地の外郭線で保全重要性の高いエリアが抽出されているが、潜在的な生育場所も含めて評価しないと、有効な「生育場所の保全」は不可能である。

(2)植生の評価  

植生から見た特徴的なエリアの抽出にもちいられている特性評価ランクの単純合計による評価(表16-1-12)は、一見客観性を装いながら重要性が高い地域として抽出されるエリアをできるだけ狭く捉えようとする恣意性が目立ち、科学的には問題の大きい評価法である。生物多様性の保全という目標からみて、とりあげられている特性の間でのランクの差は決して等価ではありえないからである。生物多様性の保全という視点からは植生自然度のような指標よりも、保護を要する植物の分布域(および潜在的な分布域としての環境条件の有無)としての地域の評価を格段に重視する必要がある。そのような地域におけるかけがえのなさの評価を十分に踏まえた保全重要地域の抽出がなされなければならない。少なくとも環境庁の植物版レッドリスト掲載種については1種1種についてその視点からの評価を行う必要がある。

また、評価書の評価では、同一特性のランクの違いとしてもとうてい等価とは考えられない評点が与えられている。質の違いをこのように恣意的な量の違いに置き換えるような評価法は、よほど慎重に吟味しない限り、誤った評価を与える可能性が大きい。保全に責任をもつ立場からは、このようなランク合計値での評価ではなく、それぞれの特性について、高い評価を与えなくてはならないエリアは、他の特性における評価とは独立に重要性の高いエリアとして抽出するといった評価手法をとるべきである。「メリハリの効いた」評価というのはまさにそのような評価をさすのである。

百歩譲って、この合計点による総合評価を認めるとしても、総合評価の評点から得られる重要性の高いエリア(図6-1-10)を、「原則として集水域単位で抽出」という限定をかけることによってさらに狭く限っていること(図 16-1-30)にも、合理的な根拠は認められない。

植物(植生)に関する評価では、少なくとも環境庁の植物版レッドリストを最大限尊重し、それらの種の個体群の持続性を保障するため、「潜在的な生育場所も含めた有効な生育場所の保全」という視点から保全重要地域を抽出する必要がある。それなしには生物多様性のホットスポットともいえる当該地域の責任ある保全は不可能である。

(3)注目すべき植物群落の評価

注目すべき植物群落(図16-1-42から16-1-49)の評価は、決められた遷移系列に沿った方向性のある遷移という古い植生観にもとづいたもので、ダイナミックな環境と植生の相互作用の姿を捉えた評価がなされていない。

また青少年公園の会場予定地にもモンゴリナラ林やシデコブシほかの保全上重要な種の生育する貧栄養な植生がみられる。ここについても少なくとも海上の森地域と同等の調査を実施して、環境影響評価を行うべきである。

2.生物の多様性の確保と自然環境の体系的保全(動物)

(1)動物相   

「動物相」に関しては、「鳥類」を除いて「当該地域とその周辺部を調査した文献とH9年までの調査データ、H10年の調査により」となっている (17-1-1)。「鳥類」に関しては「H10年および11年の調査により」として、「88種が確認」とされているが、日本野鳥の会愛知県支部により調べられた調査結果(120余種)と比べて、明らかに不十分な調査である。過去の調査データの不備を認め、H9年までの調査データの信憑性を専門家などによる指摘により省いたのであれば、H10年、11年の調査だけで終了し「事後調査」や「追跡調査」で補うのではなく、今後さらに複数年をかけて調査を行うべきである。

「昆虫類」に関しては、「学名不明種」の取り扱いについて準備書段階で意見が出されていたにもかかわらず、和名だけで学名が記載されていないものが含まれており、2308種(学名不明種34種含む)とされている。

学名不明種のいくつかは「既存資料(海上の森ネットワーク)」から転載しているが、既存資料として市民グループが行った調査の報告書をそのまま引用しながら、県商工部万博誘致対策局の調査報告書が使われていない。オオムラサキ等注目すべき種としてあげられる種については「確認地の情報」がないとして「注目すべき種リスト」からはずしながら、「昆虫類確認種リスト」には入っている。このように、既存資料の中の学名不明種の扱いがまちまちであり、学名の重要性に対する認識が全くない。

また、「種の同定にいたっていない記載種については割愛」とされていることについては、「種名が特定しにくい分類群には生態系の底辺を占める種が多くあり、その多様性が上位種の生存にかかわっている」のであるから、それらの種の重要性からいっても「…属の1種」などと割愛せずに記録することが重要である。

 

(昆虫相に関する疑問)
「ホソバトビケラの学名がカスリホソバトビケラのところに入っている…」という指摘に対して、「一部誤植がありましたので、評価書を修正しました」としているが「学名不明種34種」(6-16-1)は準備書の数と変わっていない。

学名不明種にハリグロリンゴカミキリと書かれているのは、ヘリグロリンゴカミキリの間違い(両種とも記載)、ムネアカホタルモドキはムネアカホソホタルモドキの間違い。

コフキヒメイトトンボ、コバネアオイトトンボ、この2種が本当に記載されているとすれば、保全策の検討が必要になる。本評価書では「準備書の記載について誤りがありました。平成10年調査において確認されませんでしたので、専門家の意見もお伺いし評価書では修正しました」としているが(5-1-20)、コバネアオイトトンボ(準絶滅危惧種の予定)は相変わらず「昆虫類確認種リスト」に載せられている。

(2)オオタカ

オオタカの保護については、「国際博会場関連オオタカ調査検討会」に検討を依頼しながら、その検討が始まったばかりの段階で評価書を提出した地域整備事業の評価書との食い違いが著しい。

一例をあげれば、博覧会の評価書では、オオタカの飛翔図、メッシュごとの出現回数の図をのせているにもかかわらず、地域整備事業の評価書の「オオタカの経年的利用が確認された営巣期高利用域と直接改変域」の図(参考図6-16-20)は、準備書段階で日本野鳥の会愛知県支部の調査結果と大きく違っていると指摘された図と同じものが使われている。「本事業による直接改変域は、平成11年1月から7月までの調査結果による営巣期高利用域には含まれる」ことを認めながら、「営巣に直接的な影響を及ぼすと考えられる区域には含まれない」としていることも問題である。

保全対策についても、「国際博会場関連オオタカ調査検討会」に検討をゆだねながら、「本事業による改変域は、営巣した木から本事業地まで一定の離隔があることから、…その区域に含まれないものと思われる」として、「工事の実施にあたっては、…事後調査を実施し、…確認状況によっては、…低騒音・低振動型建設機械の使用…オオタカ保護に配慮した工事の実施に努める」とあくまで工事をすることが前提となっている。

昨年のボーリング調査時に行った騒音対策は、住民が出した意見書への「都市計画決定権者の見解」として、「防音シートで囲う等の…」ビニールシートで覆う簡易な方法が示されており、全く動物の生態を理解していないと言わざるを得ない。

「オオタカ調査検討会」の3名の委員から、「新住宅市街地開発事業に係わる環境影響評価書提出について」として、「現在検討会では、過去の調査データの再吟味や今後の調査計画について議論を始めた段階で、保護対策の基本となる行動圏の内部構造の評価や事業とのかかわりにおける予測、それに基づく保護対策については、いまだ全く検討されておりません。このような状況の中で、愛知県が建設省に環境影響評価書を提出されたことは、検討会の議論の進捗を無視するもので、私たちは、とうてい認めることはできません」との抗議が出されている。調査手法の検討、影響予測などの検討結果を待たずに、何の根拠もなしに「検討会で検討される保護対策を勘案した事業の実施に努め、本事業地周辺に生息するオオタカ保護に配慮する」と今まで通りの保護策でもって事業を行うならば、オオタカの営巣に大きく影響を与えることは必至である。

オオタカに関しては、基礎的な情報の共有のレベルで地域整備事業との連携がとれていないといわざるを得ない。

3.生物の多様性の確保と自然環境の体系的保全(生態系)

(1)里地生態系の評価  

博覧会の環境影響評価計画書においては、海上地区の典型的な生態系は里地生態系であるとして、里地生態系を上位性、典型性、特殊性の視点から指標する生物を選んで環境影響評価が行われてきた。ところが、準備書、評価書と移るにしたがって、それぞれの指標種に与える影響の評価になってしまい、かんじんの里地生態系そのものを評価する視点が失われてしまっている。

波田他(1999)は、プロ・ナトゥーラファンド助成研究事業「海上の森地域における生態学的研究-特に地質・地形・土壌と植生について」の中で、海上の森の地質は花崗岩と砂礫層に大別でき、起伏の大きな花崗岩地帯には植林地と夏緑広葉樹林が、砂礫層地帯にはアカマツが広く発達しており、植生と地質との間に明瞭な関係がある。砂礫層地域には湧水にともなう地滑り型斜面崩壊が多数あり、砂礫層の土壌が痩悪であるため遷移速度が遅いこと、湧水が貧栄養であるため湿地が発達すること、地形が複雑であるため多様な環境が形成されることなどの理由に加え、地域の森林が里山として地力に配慮して適切な利用がなされてきたことが、東海丘陵要素などの注目種が数多く生育している原因であると結論している。この研究は、里山の成因を考察することによって、「海上の森はかつては禿げ山であった」とする通説を否定したものとして注目される。

里地生態系の評価をするのであれば、このような地形・地質・土壌と植生との関係、歴史的な里地利用との関係などを明らかにすべきであるが、博覧会のアセスメントでは巨費を投じながら、このような評価ができていない。

(2)食物連鎖の評価

生態系の上位性の視点からの評価を行うため食物連鎖の調査が行われているが、これについても問題が多い。

「オオタカ・フクロウ生息圏における主要餌生物群の現存量とその量的関係」として現存量の算定を行なっているが、「オオタカに関連した主要餌生物群の階層別現存量」で、「中型鳥類に植物食や雑食の種が多く含まれる」ことを考慮しても、陸生昆虫(210g/ha)と中型鳥類(220g/ha)との現存量がほぼ同じであることは考えにくい。むしろ、高次の動物の餌量は、個々の摂食量により算出したほうが正確であろう。なお、行動圏内での物質やエネルギーの収支を見るのには、植物などの生産量が大きく効いてくると考えられる。陸生昆虫類の現存量は、「陸生昆虫類の環境類型別重量測定結果(調査面積5*5m)」をもとに算出されているが、特に陸生昆虫の採集に当たってはコドラートの設定場所や回数、採集者の熟練度などで大きく左右される。

「主要生物の補食・被食模式」図や、「主要餌生物群の階層別現存量の変化率予測結果」図では、栄養段階やグルーピングが明らかに間違っており、これらをもとに行なった「現存量の算定の根拠にはならない。最低限、常識的な範囲の批判に耐えうる食物連鎖や栄養段階を理解している専門家の意見を取り入れて、再評価を行なうべきである。

4.人と自然との豊かな触れ合い

自然とのふれあいの場に与える影響に関しては、「会場候補地は、名古屋近郊に残された数少ない身近な自然との触れ合い活動の場として位置づけられる」という認識を示しながらも、触れ合い活動の場の保全については、利用者の多いルートとその沿線の環境を保全対象として挙げているだけである。しかも、生じる影響に対する保全措置は、ルートの分断を代替歩道や付け替え道路で代償するとしているものがほとんどで、ルート沿線の環境保全措置についてさえ、具体的な保全策の記載がなく、その効果が十分な確実性を有している点の間接もなく検証されていない。

「人と自然との豊かな触れ合い」は、自然への影響が少なく、多様な生き物との出会いが多く、地域の自然理解につながる自然観察等の環境教育的活動が重視されなければならない。海上の森において日常的に行われている活動は、土地との結びつきが深く、他に代替できない自然との触れ合い活動であり、このような人と自然の共生・地域の歴史と文化を伝える里やまは、最優先で保全がはかられなければならない。触れ合い活動の場に与える影響の予測評価において、自然観察会活動や海上の森の里やまでの日常的な自然との触れ合い活動に対する影響とその保全措置について一切記載されていないのは致命的な欠陥である。しかも、保全上重要な利用ルートの評価を14の指標を用いて行っている(表20-1-21)が、なぜその14項目なのかの根拠が示されておらず、触れ合い活動を評価する際に重視すべき地域性や歴史性、生き物との出会いなど日常的な触れ合い活動を押さえる指標が入っていない。この14の指標の総合点で評価を行うのでは全く不十分である。触れ合い活動の場についての適切な再調査が必要である。

5.環境保全措置

「生物の多様性の確保および自然環境の体系的保全」の「注目すべき動物種」として、ムササビ、ゲンジボタル、カワセミだけが挙がっている。「注目すべき動物種(42種)のうち8種のみについて「詳細調査」を行ない、「回避低減のための方針」の「工事中、予測および評価結果」では、「専門家の意見を伺いながら、工事方法について適切な措置を講ずる」としているが、「存在・供用時」の「回避・低減のための方針」では、「直接改変等を回避もしくは低減する」となんら具体的な回避・低減措置がふれられていない。

前記3種以外の保全措置が書かれていないが、ギフチョウについては、測量・ボーリング調査などによる人為的な影響が大きくでているために、今後人の入り込みによりギフチョウの全滅または追い出しが予測される。このような、動物の行動を理解されないままに行われる調査は、オオタカの営巣失敗で代表される「追い出し行為」でしかない。工事の騒音や夜間照明の影響も大きいが、それ以上に工事関係者などの人の入り込みが動物に与える恐怖のほうが大きいであろう。

ムササビについては、「行動圏を分断する道路脇の造成緑地」で、「高木樹林帯の設置」として高木はできるかぎり残す、移植、成長の早い種を使い植栽などがあげられているが、工事中に逃げてしまったものを呼び戻すことが可能か。「効果の確実性の程度」には、「不確実性が想定されるため、事後調査を実施する」とされているが、不確実性が想定されるならば、あらかじめ他の地域において確証が得られるまでは行うべきでない。「行動圏を分断する道路の橋梁下部」における措置でも、橋自身がムササビに与える影響(高木の上を走る橋の高さ)のほうが、「緑地の連続化」を考える前の問題であろう。同様に「遮光・漏洩防止設備の設置」で、「光が生息場所にあたらず、生息場所から光源が見えないように」することが、ムササビの生息に影響がないと考えているとするならば、あまりにも動物の行動に対して無知といわざるを得ない。「遮光版の設置」措置そのものが、ムササビに与える影響のほうが大きいであろう。橋を造ることを前提にするのではなく、道路の必要性をも含めた見直し、あるいは複数案が必要である。

さらに、代償措置としての「巣箱の設置が、工事中の「緊急避難場の確保」、「移動個体の受け入れ環境の整備」としてあげられているが、このような安易な考え方は、その地域の生態系のバランスを壊すことにもなるということに気づかねばならない。

ゲンジボタルの「遮光・漏洩防止設備の設置」は、ムササビ同様何の効果もないと考えられる。「河川沿いの生息環境の変化を緩和」、「河川内での生息区間の分断を緩和」にかかれている「盛土法面」などの工法の効果は、「不確実性」が高く、自然に復元するに任したほうがよいという事実は、過去の多くの多自然型工法でできた河川を見れば一目瞭然である。矢田川の屋戸橋の付近にいかに水生生物が棲んでいないかを見れば、容易に理解できるであろう。

カワセミの「カワセミ護岸」は、「繁殖の成功例も報告されているが、不確実性が想定される」とされているとおり、繁殖例が報告されているが、安易にムササビの巣箱のように設置されると、彼ら自身の生態に影響するだけでなく、生態系全体のバランスをも崩すことになる。 「生態系:典型性の観点(中型哺乳類)」では、さすがに以前書かれていた動物のための横断歩道(トンネルなど)は書かれていないが、橋や動物用フェンスが与える物理的、心理的影響は考えられていない。「居住文化ゾーンについても、道路と同様に移動経路の確保に配慮し」と「緑地環境を整備」することにより移動を可能としているが、人や車が与える恐怖のほうがはるかに大きく影響を与えるであろう。

6.総合的評価

(1)環境の保全のための措置  

新住の評価書では、「オオタカ保護に配慮した工事の実施に努める」などの相変わらずの配慮型の「環境の保全のための措置」であり、あいも変わらない移植などの安易な代償措置に終始しており、内容に関してはいろいろ問題があるが、博覧会の評価書よりも具体的に保全措置が書かれている。これに対して博覧会の評価書は、会場計画第II案自体が環境保全措置であるという立場をとっているために、具体的な保全措置がほとんど記述されていない。

(2)事後調査    

事後調査については、調査期間が本事業終了までとなっており、問題が多い。

直接改変による破壊の影響はすぐに現れるが、供用による長期的な影響や、食物連鎖を通じて徐々に現れる影響は、かなり長期間のモニタリングが必要であることがわかっている。例えば、環境庁委託調査「利根川河口堰の流域水環境に与えた影響」(日本自然保護協会1997)では、利根川河口堰による底質の悪化が底生生物を通じてキンクロハジロ等の潜水ガモの減少にいたるまでに13年を要したことがわかっている。

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