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吉野川第十堰問題・河口干潟の保全

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1998.03.27

「建設省の調査は不十分、自然環境に関する専門家の知見も含まれていない」

徳島県吉野川の第十堰を、長良川のような可動堰に改築する問題に関して、建設省が設置している「吉野川第十堰建設事業審議委員会」が開かれています。この委員会が、近く可動堰化を容認する結論を出すことが懸念されています。

これに対しNACS-Jは、この問題に関して、長良川河口堰や利根川河口堰での調査研究活動の経験を生かして、最新の知見に基づく環境への影響調査を実施し、昨年通過した環境アセスメント法の対象とすることを求めた意見書を、1998年3月27日、建設大臣、審議委員会委員長に提出しました。
意見書要旨
  1. 吉野川第十堰を長良川のような可動堰に改築する問題について、建設省が自ら設置した「環境調査委員会」の助言により実施した環境調査は、可動堰が水環境に与える影響に関する科学的知見が飛躍的に増大している現在にあっては十分なものといえない。改めて調査をやり直すべきである。
  2. 建設省がダム事業に見直しのために設置したダム事業審議委員会(吉野川の場合「吉野川第十堰建設事業審議委員会」)は、中立性、科学性に問題がある。建設省はこの制度自体を見直すべきだ。審議委員会は、専門家やNGOの意見を聞く機会を設けるべきだ。
  3. 吉野川第十堰改築計画は、昨年通過した「環境影響評価法」の対象とし、大型堰改築のアセスメントのモデルケースとすべきだ。
(担当:保護研究部部長 吉田正人)

 


意見書全文
平成10年3月27日

建 設 大 臣     瓦  力 殿
吉野川第十堰建設事業
審議委員会 委員長     添田 喬 殿

(財)日本自然保護協会
会長 沼 田  眞
吉野川第十堰可動堰化及び
ダム事業審議委員会に対する意見書

徳島県の吉野川第十堰の可動堰化計画については、吉野川第十堰建設事業審議委員会が、これまでに計11回の会合を開き、可動堰化が環境に与える影響などを検討し、その意見交換が終了したと聞いております。しかし、審議委員会における重要な争点、とりわけ可動堰の周辺水環境に与える影響に関して、未だに未解決の問題が数多く残されており、このまま最終判断を急いで出すことになれば、吉野川下流部の豊かな自然環境にとりかえしのつかない悪影響を与えることになりかねないことが危惧されます。ついては、以下の点について、再検討及び再考を求めるものです。

  1. 吉野川の第十堰可動堰化に関して、建設省が自ら設置した環境調査委員会の助言を得て行った環境調査は、当協会においてその内容を点検した結果、可動堰が周辺水環境に与える影響に関する科学的知見が飛躍的に増大しつつある現在にあっては十分なものとはいえないと考えられた。この調査報告のみに基づいて可動堰化の影響評価を下すのであれば、吉野川下流部の自然環境にとりかえしのつかない悪影響をひきおこすおそれがある。建設省は、可動堰が水環境に与える影響に関する最新の科学的知見を調査計画に反映させた上で、改めて水質、底質、水生生物、植生、鳥類などに与える影響に関する影響調査を実施すべきである。
    第十堰環境調査委員会が設立された1992年当時は、大型の可動堰(河口堰)建設が河川環境に及ぼす影響に関する科学的な調査研究データが極めて乏しく、この分野の知見に通じた専門家も少なかった。しかしながら、ここ数年、建設省、環境庁、当協会をはじめとする民間の研究団体によって、長良川河口堰、利根川河口堰などの可動堰のモニタリング調査が集中的に行われた結果、可動堰が周辺の水環境に及ぼす影響に関する科学的知見が飛躍的に増大している。日本自然保護協会は、長良川河口堰運用開始後、長良川河口堰事業モニタリング調査グループをはじめとする研究者の協力のもとに、長良川河口堰が環境に与えた影響について継続的なモニタリング調査を行い、その途中経過を1996年に「長良川河口堰運用後の調査結果をめぐって」としてまとめた。さらに1997 年度には環境庁から「利根川河口堰の流域水環境に与えた影響調査」の委託を受け、河口堰の建設・運用が水環境に与える長期的影響について調査した結果、藻類発生や底泥堆積、鳥類への影響などに関し、新たな知見が続々と得られている。建設省が、第十堰環境調査委員会の助言を得て実施した調査は、 1990年代初頭の知見に基づくものであり、この数年の間に可動堰の環境への影響に関する知見が飛躍的に増大していることを考慮するならば、影響を予測するに十分な調査が行われたとはいいがたい。この調査報告書をもって第十堰可動堰化の影響を判断してしまうとすれば、吉野川下流部の自然環境に対してとりかえしのつかない悪影響をひきおこすことが危惧される(添付資料)。
  2. 「吉野川第十堰建設事業審議委員会」においては、自然環境への影響や洪水によるせき上げなど、事業の推進派と反対派の間で意見が対立する極めて重要な争点について、議論が十分に尽くされていないと考えられる。とりわけ自然環境の問題については、環境調査委員会の報告に対して質問をするにとどまり、可動堰が河川環境に及ぼす影響に関して最新の科学的知見を持った専門家の意見を聞く機会が設けられていない。このような状況で最終判断が下されるのであれば、建設省がダム事業審議委員会を設置した当初の目的である「事業の再評価」を行ったとは認め難い。審議委員会は、結論を急がずに、これらの重要課題について、最新の科学的知見を有した研究者や、自然保護団体の意見の聴取も含め、徹底的に議論したうえで、事業の可否を判断すべきである。また建設省は、この段階でダム事業審議委員会制度そのものの評価を行うべきである。ダム事業審議委員会制度は、公共事業を再評価する機関として1995年7月に建設省河川局長名の通達で導入された。委員構成が推進派に偏るのではないかとの問題が指摘され、細川内ダム建設事業においては審議委員会そのものが開催できない状態になっている。また川辺川ダム建設事業の審議委員会においては、「委員からの要望がなかった」という理由で、建設省がダムサイト直近のクマタカ(種の保存法における政令指定種)の生息に関するデータを審議委員会に提出しなかったことが後になって明らかになり、審議委員会の中立性、独立性、科学性など、その運用のあり方そのものが批判を受けている。このような状況下で、現在、吉野川第十堰建設事業審議委員会のみが、2年間の歳月をかけて、第十堰の可動堰化の可否について審議を継続している。この間、1997年に河川法が改正され、河川環境の整備と保全が法律の目的に加えられるなどの大きな変化があり、審議委員会の議論の進め方、結論の出し方に対して全国的な注目が集まっている。とくに自然環境への影響に関しては、1997年12月に徳島県自然保護協会が「第十堰の可動化の環境に与える影響について」と題する見解書を提出しており、日本自然保護協会もこの見解を支持するコメントを発表した。しかしながら、環境への影響に関する議論は、第10回審議委員会(1998年2月16日)における環境調査委員会への質問と、第11回審議委員会(1998年3月20日)におけるわずかな意見交換のみであり、水質、底質、河口干潟、藻類、魚類、底生生物などへの影響、透過構造を持っているため汽水域を維持しているといわれる現堰の評価などあらゆる分野において、疑問が深まりこそすれ、議論は深まってはいないといえる。

    このような状況が改善されないまま、審議委員会が結論を急ぐことは、「事業の再評価」という、建設省がダム事業審議委員会を設置した当初の目的を放棄することに等しい。そればかりでなく、吉野川第十堰建設事業は、「河川環境の整備と保全」、「河川整備計画に対する学識経験者・関係住民の意見の反映」といった新河川法がめざしている目標を自ら否定する、最初の事例となるであろう。

    審議委員会は結論を急ぐことなく、今後も審議を継続し、推進派と反対派の間で見解が分かれる重要課題については、最新の科学的知見を有した研究者や、自然保護団体の意見の聴取を含む、徹底的な議論を行ったうえで、事業の可否の判断を下すべきである。また建設省は、この機会及びこの段階で、ダム事業審議委員会の設置目的がきちんと達成されているかを点検する義務を果たすべきである。

  3. 平成9年6月の国会において「環境影響評価法」が成立し、12月に環境庁が示した「環境影響評価に関する基本的事項」に基づき、現在、各事業官庁において環境影響評価技術指針が検討されている。「環境影響評価法施行令」においては、これまで閣議アセスでは対象とならなかった「大規模堰改築」が環境影響評価の対象となった。この経緯を踏まえ、建設大臣は、吉野川第十堰の可動堰化事業を、大規模堰改築の環境影響評価のモデルケースとして、新しい環境影響評価法による評価の対象とするよう指示すべきである。

    これまでの大規模堰建設にともなう事前調査においては、可動堰が水環境に与える影響についての共通認識が研究者の間でも形成されていなかったために、調査対象が水産生物に限定されていたり、堰操作による水質変化が正しく予測されない、などの問題が指摘されてきた。しかし、ここ数年の調査研究と検討の積み重ねによって、可動堰が水環境に与える影響に関して、研究者の間で共通認識がようやくまとまりつつあるところである。
    環境庁がまとめた「環境影響評価に関する基本的事項」は、「環境影響評価の実施中において環境への影響に関して新たな事実が判明した場合等においては、必要に応じ選定項目及び選定された手法を見直し、又は追加的に調査、予測及び評価を行うよう留意すべき旨、環境影響評価項目等選定指針において定めるものとする」と述べている。吉野川第十堰を含む今後の大型堰建設・改築事業は、このような最新の科学的知見をとりいれて、環境への影響を評価し直すべきである。

    建設省が、「長良川と吉野川は河口からの距離や河床勾配が違うので比較できない」などの理由で、利根川河口堰や長良川河口堰の事例を生かそうとしない態度をとり続けるならば、環境影響評価法の趣旨及び環境影響評価に関する基本的事項の定めに反するといわざるを得ない。

    建設省は、大型堰の環境影響評価に関して、最新の科学的知見に基づいた環境影響評価指針を作成し、第十堰建設事業をそのモデルケースとすべく、環境影響評価法に基づく環境影響評価の対象とすべきであり、建設大臣はこれを行わせる責務を有するといえる。

建設省及び環境調査委員会の見解と最新の科学的知見の差異

建設省の環境調査報告書及び
環境調査委員会の見解
最新の科学的知見
(長良川河口堰・利根川河口堰等)
水質 堰改築後の水質は改築前とほぼ同等。 河口堰建築後の水質はどこでも悪化している。
BOD75%値、DO年平均値は環境基準を満足する。 BODは止水域の富栄養化の基準とはなりえないので、BODを達成するということはそれほど意味がない(とくに75%値では意味がない)。
DOは定期観測では低下しないのに、24時間調査をすると堰下流(場合によって上流)の底層で明け方極端に低下する。定期水質調査では、生物にとって最も厳しい値が観測されない(とくに80%水深では底層ぎりぎりの貧酸素状態が観測されない)。
クロロフィルaは現状の水質レベルを大きく 逸脱することはない。 クロロフィルaの上昇(藻類発生)は、夏も冬も水温にかかわりなく、水が滞留すればおこる。
アオコの発生する可能性は極めて小 さい。 堰操作に左右されるので、堰操作が明らかになら なければ予測は不可能である。
渇水時でもゲート下部を開ければ、水質は問題ない。 利根川では、渇水期にゲート下部を開ける操作3のときに、最も藻類発生が起こっている。
底質 現在の堰貯水池の底質が有機物をほとんど含まないこと、可動堰貯水池底に堆積した底泥は年数回の小出水で流出すること、によってヘドロの堆積は起こらない。 可動堰上下流での有機物を多く含んだ粒子の細かい堆積物の堆積は、長良川、利根川、今切川、芦田川など可動堰を建設した河川すべてに見られる堆積物には河川性のプランクトン遺骸がみられ、可動堰によって止水域が生まれたことに起因している。堰下流部の循環流による堆積も、普遍的にみられる現象である。吉野川
の現第十堰は透過構造をもっているせいか、もっと粗い砂が中心である。
河口干潟 ・干潟は増えたり減ったりし、位置も変わりよくわからない。
・河口干潟に影響がない限り鳥類に影響はない
利根川では堰下流に干潟が残されているにもかかと鳥類 わらず、建設後12年後にシギ・チドリが減少している。水質・底質の変化により、餌となるシジミやゴカイが激減したためと考えられる。鳥類など食物連鎖の上に位置する生物では、影響はかなり後になって現れてくる。
水生生物 孵化直後の仔アユの80%は旧吉野川に入るので、本川には一部が紛れこむだけ。仔アユが堰にたどりつくまで1.2km長くなるため、マイナスとなるが、一部は魚道を通過して海にたどりつける。 ・長良川では、アユ降下仔魚が、堰上流の湛水域に滞留してしまうことが示唆されている。
・長良川では、サツキマスが遡上するものの、河川と海域の水温差によって遡上のおくれがみられる。
・長良川では、シラウオが堰上流の産卵域まで到達することができず全滅している。
・長良川、利根川などに共通して、堰上流の湛水域ではブラックバス、ブルーギルが増え、本来の河川の魚類相でなくなっている。

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■吉野川第十堰

徳島県吉野川の河口から約14??上流に、今から245年前の江戸中期、農業用水確保を目的に設けられた固定堰。青石を畳状に敷きつめて川底を盛り上げた堰で、昭和に入って表面のコンクリート補強はされたものの、ほぼ原型を保って今日に至っている。建設省は堰が老朽化して洪水時に崩壊の危険があることなどを理由に今の堰を取り壊し、約1.5?下流地点に長良川河口堰を上回る大型の可動堰の新築を計画している。総事業費は1000億円以上が見込まれている。

■ダム事業審議委員会

長良川河口堰建設の問題等によってダム・堰など大型公共事業への批判が高まったことを受け、建設省が1995年7月、「ダム等事業に係る事業評価方策の試行」として河川局長名で通達した制度。全国のダム・堰のうち、基本計画が策定してから長期間が経過し、社会情勢の変化によって必要性が問われている事業などが対象に選ばれた。審議委は建設省地方建設局長の諮問を受け、地域の意見などを聴き、事業の見直しを検討したうえで答申する。委員は、都道府県知事が地元の学識経験者や水没自治体の首長などから推薦し、地方建設局長が委嘱する。

■吉野川第十堰建設事業審議委員会

建設省四国地方建設局が1995年9月に設置。委員長は添田喬・徳島文理大学長、委員11人。委員構成は、学識経験者5人、圓藤寿穂徳島県知事ら行政関係者6人。これまで11回の委員会が開催されている。

<学識経験委員>

添田喬(徳島文理大学長)▽岡元大三(前県商工会議所連合会会頭)▽伊東秀子(四国大学教授)▽岡田洋之(弁護士)▽浅居孝教(徳島新聞社論説委員長)(敬称略)

<行政関係委員>

圓藤寿穂(徳島県知事)▽俵徹太郎(徳島県議会議長)▽小池正勝(徳島市長)▽広瀬武(徳島市議会議長)▽堀江長男(徳島県板野郡藍住町長)▽後藤敬夫(藍住町議会議長)(敬称略)

■第十堰環境調査委員会

吉野川第十堰可動堰化が周辺自然環境に及ぼす影響について把握し、保全策を検討する内部組織として、建設省が1992年10月に設置した。委員は学識経験者10人、建設省と徳島県職員6人の計16人。委員長は水野信彦愛媛大名誉教授。多自然型工法や魚道の設置などの保全策をすれば自然環境にはほとんど影響はない、などとする建設省徳島工事事務所の報告を1997年3月に了承した。なお、第十堰可動堰化では、法律に基づく正式な環境影響評価(アセスメント)は行われていない。

<学識委員>

江崎保男(姫路工業大学自然環境科学研究所助教授)▽大野正夫(高知大学海洋生物教育センター教授)▽岡村収(高知大学名誉教授)▽曽川和郎(徳島生物学会理事)▽永井洋三(徳島県立農業試験場元場長)▽水野信彦(愛媛大学名誉教授)▽三井宏(徳島大学工学部建設工学科教授)▽宮田逸夫(島根大学生物資源科学部教授)▽村上仁士(徳島大学工学部建設工学科教授)▽森下郁子(淡水生物研究所所長)

<行政委員>

金蔵法義(建設省河川局開発課水源地対策室長)▽大西亘(建設省河川局開発課課長補佐)▽藤沢侃彦(建設省土木研究所ダム部長)▽小林正典(建設省四国地方建設局河川部長)▽山口修(建設省四国地方建設局徳島工事事務所長)▽桂樹正隆(徳島県土木部長)
(敬称略、肩書きは1997年3月当時)

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