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愛知・藤前干潟の埋め立て問題

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1998.02.10

「詳細な調査と専門機関による徹底的な論議を」

1998年2月10日、愛知県名古屋港の藤前(ふじまえ)干潟の埋め立てとごみ処分場建設計画に対して、NACS-Jは横山保護部長名で緊急要請書を提出しました(朝日新聞名古屋版で2月13日に掲載されました)。各方面からこの計画を疑問視する声があがっている中、建設計画は一歩ずつ進んでいます。

この計画の問題点を明確にするだけでなく、日本全体で干潟という自然環境が急速に減少していることをクローズアップするため、近々このほかにもさまざまなアピールを展開する予定です。
1998年2月10日

名古屋市環境事業局長 兵頭 輝敏 殿
名古屋市環境保全局長 志村 忠 殿
愛知県環境部長    清水 正一 殿

 

名古屋市・藤前干潟を埋め立てる
ゴミ処分場計画に関する緊急要請書

 

(財)日本自然保護協会(NACS-J)
保護部長 横山 隆一

藤前干潟の埋め立てをめぐる論議がしばしば報道されています。2月12日には名古屋市のアセスメント審査会が再度開催されるとのことですが、これら論議のゆくえに多くの危惧を感じる点が見いだされましたので、ここに緊急の要請書をお送りするものです。

ご承知のとおり、問題となっている藤前干潟一帯は、長崎県諫早が干拓事業により破壊されたことから、わが国の干潟に渡来する渡り鳥の年間利用総数では事実上の第一位となるところとなりました。後述のように、干潟は全国で減少を続ける一方の自然環境であり、藤前干潟は全国的に見ても、地域的に見た場合も、優先的に保護すべき一級の自然のひとつです。

本来、この自然をどのように保護していくかが論議されなければならないと考えられる中で、この干潟をゴミ処分場のために埋め立てる計画があることは理解に苦しみます。また、ゴミ処分の期限が迫っていることを理由に、十分な科学的検討がなされないうちに可否の判断が下されるのではないかと危惧しています。

自然保護の観点から現在の論議を見た場合、以下の検討が不足していると考えます。全国レベルの重要な自然環境の扱いに関することのため、どのような判断を下すにせよ、判断を下した者にはその判断の根拠と結論に至る過程を国民に対して説明する義務が生じます。早急に仕組みを整え、必要十分な科学的検討が行われることを、ここに強く要請します。

1.要請事項
(1)アセスメントの準備書を見る限り、生物的自然に関する環境保全上の配慮の記述は鳥類への影響があるだけですが、厳しい論議がおこっているとおりこれを十分科学的に検討するには春期のシギ・チドリを中心とする渡り鳥の詳細なデータをもとに検討することが不可欠です。これを行わずに結論を出し、モニタリング調査との名目で付け足しのように事後に行っても自然保護には役立ちません。春の渡り鳥の利用実態調査を行うべきです。
また、処分場建設にむけての答申作りの妥協案として、人工干潟の造成が出されているとのことですが、本来の干潟が持つ機能、長い時間をかけて育まれた個性的な生物群集のもつ歴史性は、人工干潟と呼ばれる造成地をもって代替することはできません。

(2)藤前干潟の埋め立ては、この干潟にすむ生物群集と干潟環境のもつさまざまな機能を消失させるものです(後述)。その可否については、鳥類だけでなく底生動物に対する検討もなされた上で判断されなければなりません。1998年1月に公表された、藤前干潟を守る会による底生動物調査報告書では、アナジャコ類の生息状況について未知の事実が報告され、当該地域の特性の理解に新たな知見を加えています。この資料はこの問題の解決に対し、十分生かされるべき価値を持つものと考えられます。

さらに、名古屋湾前面の干潟・浅海環境の絶対量がこれまでの開発によってどのように減少してきたかを検証し、干潟の総量をこれ以上減少させることの是非も検討されなければなりません。

千葉県では三番瀬の埋め立て計画をめぐり、検討項目ごとに専門委員会をもつ「千葉県環境会議」にこのような専門的な検討をゆだねています。藤前干潟についてもこのような機関を設けて徹底した論議を行うべきです。

(3)最も重要なのは、ゴミの処分用地として、そもそもなぜこの場所しかないとされたのか、それを説明する資料がないことです。代替案の検討状況を公開して下さい。

2.干潟の減少と藤前干潟について(資料)
■日本における干潟の減少は著しい。1992年9月に公表された環境庁の第4回自然環境保全基礎調査・海域生物環境調査結果では、1945年以前には日本には82,621haの干潟が存在し、1978年には53,856haが存在していたとなっている。この間に日本の干潟の35%もの面積が失われたことになる。

また近年の減少面積を見ると、1965~1969年は、7,432haの減少(毎年約1,500ha減少)、1975~1979年は1,485haの減少(年約300ha)、1979~1992年は4,076haの減少(年約300ha)であった。この減少の数字には、諫早をはじめとする現在進行中の埋め立て事業により失われかけているものは含まれていないため、実際に残る干潟はより少なく、失われていく干潟面積はもっと大きい。これらの減少理由の 43.5%は「埋め立て」である。現在の埋め立て事業の根本的な見直しがなされない限り、「干潟」という自然環境の保護は望めない。

■名古屋港前面についても、昭和39年当時と現在を比べると、干潟面積は約1/8程度にまで減少させられてしまい、干潟であったところは全て埋め立てられている。残る干潟を、さらにゴミ処分場として埋め立てることは、名古屋湾における干潟     環境の最後のまとまりを破壊するものといえる。

この事業がもたらす自然保護上の問題は次の5点と考えられる。

・藤前干潟が持つ巨大な一次生産力(生物を通した物質循環)の消失。
・その結果として、水質を守る有機物分解機能(浄化力)の消失。
・この干潟をかけがえのない生息地として定住する、アナジャコ類などの野生動物のすみかの消失と地域的絶滅。
・魚類や甲殻類、シギ・チドリ類に代表される、干潟を利用する移動性を持つ野生動物の利用環境の消失または減少。
・このような自然が作り出す生態系内部の関係の断ち切り、土地固有のヒトと干潟の関係のさらなる貧困化。

これらの程度とその影響の大きさについて、もし十分な科学的資料に基づく論議を行わずに事業をすすめる判断を下してしまうのであれば、それはラムサール条約・生物多様性条約・環境基本法・野生生物の種の保存法の存在理由を、無視する行為に等しいといえる。

以上

 

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