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吉野川第十堰問題・河口干潟の保全

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1997.04.02

吉野川第十堰問題についての申し入れ


 

1997年4月2日

 

吉野川第十堰問題についての申し入れ

建設省四国地方建設局
徳島工事事務所長 山口 修 殿

(財)日本自然保護協会
普及部長 中井 達郎

当協会は、日本の自然の現状とその変化の方向に危惧をいだき、河川の自然保護についてもこれまでに長良川河口堰事業や北海道・千歳川放水路建設計画などで科学的な検討をもとに意見を述べてきました。このたぴ、貴工事事務所で設置されていた第十堰環境調査委員会の最終報告について検討しましたところ、以下に列記したような問題点が挙げられました。これら点の多<は、これまで長良川河口堰問題などの際に当協会が繰り返し述べてきたことです。すなわち長良川の経験が未だ十分に生かされていないということであり、今後日本全体の自然保護を考えるときに極めて憂慮すべき状況であると考えます。

貴工事事務所が、これらの点を十分に検討し、対応された上で、今後吉野川第十堰改築問題に当たられ、また判断をされることを強く望むものです。その結果として、自然保護にとっても、今後の河川行政にとっても、そして地域の自然と共に生活する流域住民にとっても良い結論が導き出されるものものと考えます。

1.影響評価の根拠について希薄性・非論理性

1)植生への影響予測について
第5回第十堰調査委員会資料(以下第5回資料とする)のp45からp49にかけて、植生についての影響予測が記載されている。ヨシ群落をはじめ多くの植物群落について、各所に「消失」とかかれているにもかかわらず、「多自然型河岸整備による復元」を理由に可動堰建設による悪影響を小さいものと評価している。消失地と復元地の場所と面積の比較もないこと、また、現在、長良川をはじめ、日本の各地で実施されている「多自然型川づくり」が必ずしも成功していないことから、P67に示されている「現存植生に著しい影響を及ぼさないこととする」という「環境保全目標」を達成したとするには根拠がきわめて希薄である。

また、植生はさまざまな動物にとって基本的な生息の場である。したがってもうひとつの「現在の動物の生息環境に著しい影響を及ぽさないこととする」という環境保全目標も達成したと評価するには無理がある。

さらに、「多自然型河岸整備」では、植生あるいは砂轢地が水域と接する「水際線の創出」もうたわれているが、変動が激しいことが特徴である河川の水際線をどのように創出し、維持するのかが具体的に提示されていない。

2)生物種への影響予測について
第5回資料のp49からp67にかけて、さまざまな生物種に対する影響評価が行われている。しかし、いずれも影響は小さいとされている。その理由として、前述の「多自然型河岸の整備」などと並んで「隣接する地域に同様の生息環境がある」ことが挙げられている。

このような考え方の結果として、次々に生育地が失われ多くの水辺の植物が絶滅の危撒に瀕している現状を、当協会と(財)世界自然保護基金日本委員会とが共同で発行した「我が国における保護上植物種の現状」(通称:レッド・データ・ブック植物種編)は報告している。今回の第5回資料にもこのレッド・データ・ブックが引用されているが、使用の仕方として基本的に間違っている。

2.水質および底質の変化予測についての問題点

1)水質について
水質の変化予測はシミュレーションによって行われているが、その限界について第4回資料p18に「局所的、一時的な現象までは予測できない」、あるいは「クロロフィルa(注:藻類の発生量を示す)の予測値は変動が大きい」と記述されている。長良川河口堰の場合にも、シミュレーションによって水質変化を予測し「大きな影響はない」とされたが、堰運用開始後、藻類量は増加し、かつ発生期間が長期化している。それにもかかわらず、p40で「富栄養化に伴う障害発生の可能性は少ない」と結論づけるには根拠が希薄である。また、アオコの発生についてもp40で「植物プランクトンの種の特定、種構成の変遷の予測は不可能である」しながら、「アオコの発生する可能性は極めて少ない」とすることにも論理的に無理がある。

なお、BODは止水域における富栄養化の指標とはなり得ないことは、長良川河口堰問題において指摘されてきた点であり、BODの環境基準を達成したということは、それほどの意味を持たない。

水質対策として神宮入江川バイパスが示されているが、堰上流の栄養塩量が軽減される効果はあるが、神宮入江川の負荷量、流量からいって藻類の大量発生を防ぐ手段になるという保証はない。

2)底質変化について
底質中の有機物量の変化は、藻類をはじめとするプランクトンの生産量と密接な関係を持っていると考えられるが、この点について全くふれられていない。また、底泥の移動についての予測で(第5回資料p13~16)、d(粒径)=0.0517mmの泥の再移動に必要な限界流速の計算にあたって、低水路部の粗度係数を用いているが、対象となる粒径との関係が検討されていない。したがって、底質変化が起こらないという結論について疑問がある。なお、長良川河口堰では堰上流だけでな<、下流側での有機物を含む底泥堆積が危惧されている。

3.「影響緩和策(ミティゲーション)」と環境影響評価についての
基本的な問題点

今回の最終報告の中では、「多自然型河岸の創出」あるいは「魚道」などの影響緩和策を施すことを理由にして、可動堰の自然に対する影響は少ないとしている部分が非常に多い。しかし、もともとある自然は、地質学的時間の中で、生物とその環境、生物同志の多様で複雑な関係を含めて作られ維持されてきたものである。また、特に河川の自然では、上流から水や堆積物が移動することによって維持されているという特性があり、単に流域の一部分だけを切り取って自然を維持しようとすることは、水、堆積物、生物等の移動・循環を無視するものでもある。したがって、人間が大規模に河川を改変した後で全く元の状態に回復させることは不可能であり、いかに影響緩和策を施そうと自然を劣化させることには変わりがない。

自然が人間の活動によってきわめて圧迫されている現状から考えると、まず自然をいかに改変をせずに維持することができるのかについて、複数の河川工事の方法を比較検討する段階で、少なくとも治水や利水効果と同等の重み付けで検討されるべきである。しかし、今回の環境調査委員会の検討は、可動堰への改築を前提とした中で行われており(第5回資料p3)、その結果として、これまで述べてきたような非論理的な評価の導き出し方につながっているものと考える。これはこれまでに日本各地で行われてきた環境影響評価の重大な問題点の一つとして、早急な改善が求められていることである。

4.流域全体の自然環境保全の視点の欠落

今回の最終報告では、吉野川下流・河口付近での砂礫堆や干潟は可動堰による影響は少なく、あたかも今後の変化がないような記述をしている。しかし、干潟や砂礫堆はこれまでに実施された上流のダム建設や浚渫の悪影響によって縮小しており、可動堰の影響の論じる前に、その原因の明確化と流域全体としての対策が不可欠ではずある。浚渫によって下流域の塩分状態が変化し、生物相が変化してしまったことについても改善策が提示されなければならない。

ある特定の河川事業だけについて、それが自然環境に与える影響を評価しようとすることは、流域の自然が既に大幅に劣化している現状では、もはや無理がある。河川の自然環境保全を実現しようとするのであれば、流域全体の自然環境保全計画と自然利用管理計画を先行させ、その枠組みの中で事業の評価を行うべきである。

再度、絶滅の危機に瀕する生物について述べる。「他にもある」という単ーの事業にこだわった極めて微視的な視点によって多くの生物が絶滅の危機に追いやられているのである。

以上

 


 

吉野川第十堰問題についての申し入れ

徳島県知事
圓藤 寿穂 殿(財)日本自然保護協会

普及部長 中井達郎

当協会は、日本の自然の現状とその変化の方向に危惧を抱き、一歩でも自然と人間活動のバランスを取り戻そうと活動しております。そのような観点から、各地の自然保護団体に対して、科学的視点と全国的視野で協力し、河川の自然保護についてもこれまでに長良川河口堰事業や北海道・千歳川放水路建設計画などで科学的な検討にもとづいて意見を述べてきました。そのような自然保護の立場から、吉野川第十堰問題を見た際に、徳島県ひいては日本全体の自然環境保全にとって重要な問題をはらんでいると考え申し入れをいたします。

最近、建設省四国地方建設局徳島工事事務所の第十堰環境調査委員会は、第十堰可動堰による環境への影響は問題なしとする結論をまとめています。しかし、別紙<参考資料>のような理由で、その結論には理解しがたいところが多々あります。要点だけを挙げると以下のようになります。

1)自然への悪影響は問題なしとする科学的根拠が、多くの項目で希薄であること。
2)今、自然がおかれている現状が正しく認識されていないこと。
3)自然環境保全の考え方が根本的な部分で理解されていないこと。

2)と3)について若干の補足をします。当協会の考える「自然保譲」は、自然の営みと人間活動とのバランスが保たれ、将来にわたって共に維持されていくことを模索しています。現状においては、土地利用や水利用も含めた人間による自然利用が行きすぎた結果、そのバランスが崩れて自然の側が強烈に圧迫されていると認識しています。そのことは多くの生物が絶滅の危機に瀕しているなどさまざまな科学的データが証明しています。従って現状で良い状態で残されている自然については極力そのままで維持し、一方でダメージを受けてしまった自然は少しでも元に近い状態に戻るような手助けをすることが必要だと考えています。しかし、河川事業も含めた大規模事業の事業主体はそのような自然の現状について未だ正しく認識されているとはいえません。

また最近は、そのような事業主体も「環境問題」を意識しながら行動するようになってきました。これは大変に望ましいことなのですが、上記のような自然の現状認識ではなく、原則として事業を前提とした上での、小手先の「環境保全」、例えば「影響緩和策」という手段だけで対処しようとする傾向が強くあります。第十堰改築問題における自然認識、およぴ「環境保全」の場合も全く同様です。これは将来にわたって土地や水や生物などを含めた自然を基盤として生活をしなければならない地域住民にとって、望ましいこととは思えません。

河川の治水・利水も自然と人間活動のバランスをどのようにとるかという問題であり、必ずしも自然保護と対立する関係ではないと考えます。「治水・利水も、自然保護も」を実現するためには、河川事業のさまざまな案を検討する段階で、治水・利水の効果だけの評価ではなく、適正な自然の評価を行い、それを極力残すことが可能な案を選択すべきです。また、単独の事業だけではなく、流域あるいは地域全体の自然環境保全計画と自然利用管理計画を先行させ、その枠組みの中で事業の評価を行うべきです。これらの方策が、自然保護にとっても、そして地域の自然と共に生活する流域住民にとっても良い結論が導き出されるものものと考えます。しかし残念ながら、全国的にも動向が注目されている吉野川第十堰改築問題において、今までのところ、これらの方策が十分に検討されたとは思えません。

徳島県知事であり、また吉野川第十堰建設事業審議委員会委員である貴職が賢明な判断をされるよう強く望むものです。

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