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計画の発端、経緯、問題点の解説 

1994.08.01
解説

( 特集「まだ間に合う!千歳川放水路」)

=月刊『自然保護』No.387(1994年8月号)より転載=


INTRODUCTION こうして誕生した放水路による治水計画

まず、千歳川放水路計画はどのようにして生まれてきたのか、これまでの経緯を振り返ってみたい。

石狩川を襲った洪水

日本で三番目の長さ、二番目に広い流域面積を持つ石狩川。その支流に千歳川を持つこの川の流域では、これまでに幾度も大きな洪水が起きている。そこで明治32年には10年計画の治水事業が始まり、河道も直線化と堤防による流路の固定が行われ、石狩川は268キロと、約100キロも短くなった。 千歳川の洪水は、堤防が決壊して起こる河川の氾濫ではなく、本流である石狩川の水位が上がって千歳川の水がスムーズに流れ込めなくなり氾濫するというタイプのものだ。

放水路による治水計画とは

65年に新河川法施行時、北海道建設局は100年に1回の大雨を予想して治水計画を立てた。石狩川と千歳川が合流する江別地点の安全な流量を毎秒9350立方メートルとし、ダムで調整するという計画であった。それが1981年8月には、流域の農地など一帯が北海道開拓史上最大の洪水に見舞われ、翌82年に北海道開発局は治水計画を全面的に改めて「石狩川水系工事実施基本計画」を決定。

この見直しで、150年に1回起こる大雨を想定した治水計画に変わった。 毎秒1万8000立方メートルの水が流れても安全だというものだ。本流の改修によって安全に流すことのできる水量は1万4000立方メートル。残る4000立方メートルのうち、ダムによって2000立方メートル、遊水地群の新設によって1000立方メートル、さらに残る1000立方メートルの水を石狩川ではなく太平洋の放流するため千歳川に「放水路」を造るという構想が誕生したのである。 

放水路は、千歳川の中流の長沼町から千歳市、苫小牧市、早来町を経て太平洋に至る延長38.5キロ、幅300~450メートル。当時の計画では工期20年、総工費は2100億円とある。この治水計画では、千歳川の水は平常時は現在と同じように石狩川に合流し日本海に注がれる。しかし洪水の危険が迫ると、千歳川と石狩川の合流地点に設けられる締切水門が閉められてこの二つの川は仕切られる。そして呑口水門が開けられて千歳川の水は放水路に流れ込む。千歳川放水路の終点には、海水の侵入を防ぐために潮止堰が設けられるが、洪水時にはこの堰も開かれて水は太平洋に流れ出る。

放水路計画に疑問の声、噴出

千歳川を含む石狩川水系の洪水対策は必要である。しかし、千歳川放水路が完成すればどうなるのだろう。洪水時には締切水門から呑口水門までの区間で千歳川は逆流することになる。平常時のはほとんど流れがなく巨大で細長い「人口の湖」のような放水路が北海道を分断する。このような大規模な土木工事に伴う治水計画は本当に妥当な方法なのか、建設によって自然が破壊されるのではないか、水産業や農業への影響は本当に解決されるのかなど多くの疑問の声が計画発表か ら日を追うごとに大きくなっている。

TURN 着工までの手続きはまだ完了していない

この千歳川放水路の進捗状況を、同じく大きな河川問題である長良川河口堰建設問題のものと比べてみよう。

二つの河川問題の現状

この二つの計画は、どちらも1960年頃に構想づくりが始まった。どちらも長い間ひんぱんに水害に悩まされた地域であった。長良川河口堰は、68年に事業実施のための手続きである閣議決定を経て、88年には着工された。しかし、その過程で自然環境の保全をはじめとする多くの問題を十分な協議をせず解決しな いまま工事が進められていることに現在も全国から強い批判がよせられている。千歳川放水路でも、事業主体と保護団体や市民の間に意見の合意はみられていない。しかしこちらは、着工はおろか放水路の建設ルートすらまだ決まっていない。環境影響評価(アセスメント)もまだ着手されていない。この計画について協議をする意思があれば、まだ十分有益な話し合いができる段階にあるといえる。

着工までに残る手続きは

とはいうものの残されている必要な行政上の手続きは、建設事務次官通達に基づくアセスメント作業のみ。この事業が自然と社会へ与える影響が非常に大きいことが予想されるにもかかわらず、強引に着工することもできるのだ。制度上、事業主体以外の関係者の意見を聞く機会は、基本計画の段階で審議会において意見を聴取する一回のみ。これはすでに84年に終了している。また、長良川河口堰のように閣議決定などは必要ではない。慣例として、その一段階前の計画原案の作成段階で関係地方公共団体との事前協議がなされる。

なぜ手続きが違うのか

同じような河口の大規模開発であるながら、長良川河口堰と千歳川放水路で手続きが違うのは、両者の事業実施の根拠が異なるからである。長良川河口堰は、国と公団が事業主体になるダム建設事業として、「水資源開発促進法」「水資源開発公団法」「河川法」に基づいて手続きがすすめられている。水資源開発促進では、これに基づく水資源開発水系の指定や水資源開発基本計画では、閣議決定を経ることが定められている。

これに対して千歳川放水路は「河川法」に 基づいてたてられた「石狩川水系工事実施基本計画」に基づいた計画である。河川基本計画は、河川管理者である建設大臣が自ら計画・実施するものと位置づけられているので、82年に決定した石狩川水系工事実施基本計画は、建設省と北海道開発局(北海道開発庁の北海道内の機関である、国の機関の一つ)の内部で策定された。審議を行った建設省河川審議会は、河川・土木関連団体の役員、財界人、学識経験者、地方公共団体の長などからなる非公開の審議機関である。

さらに、関係自治体の長として知事の意見をつけることについては、長良川河口堰の場合では水資源公団法に知事との協議が定められている。千歳川放水路ではそのような必要は特に認められていない。横路北海道知事も、「北海道は事業主体ではないので、あくまで意見をのべているだけ」という態度をとっているという。横路北海道知事が、さる92年に北海道開発局に提出した、ルート変更など五項目の要請を含む意見書も、行政上の手続きとしてのものではない。

しかし道内でのすべての事業を判断する権限をもつ立場にある知事にどのような回答がだされるか、知事が回答にどのように対応するかは注目されていた。回答は7月18日に発表され、同日NACS-Jは北海道開発庁長官・道開発局長・道知事に意見書を出し、現計画は事業を進める段階にないので、・放水路以外の緊急対策的な治水対策の立案・実行、・放水路計画の再検討、・石狩川水系の総合治水策の検討を公正かつ科学的な第三者機関を交えて行うよう提言した。

CONCLUSION 合意づくりのためには何が必要なのか

以上のように、現状の行政上の手続きだけでは、千歳川放水路や長良川河口堰で起きているような保護問題は解決できない。これは現行の手続きでは、関係する人々による社会的な論講を通じた合意形成の必要性が認識されていないからだともいえるだろう。たとえば、人々が何か判断するための材料となる基礎データが公表されていない。 千歳川放水路では、北海道開発局は、計画の策定にあたって8つの案から放水路を選んだというが、その検討過程や判断の根拠となったデータや資料は公表していない。現行は環境アセスメントの実施にむけて環境影響評価準備書を作成中といわれているが、その内容も公表されていない。長良川河口堰においても、環境影響評価(アセスメント)が行われずに工事が着工・進行され、計画策定にあたってのデータや資料はほとんど公開されてこな かった。

次に、第三者によって計画の妥当性を検討する機能がほとんどないこともあげられる。千歳川放水路の計画は、前述のとおり河川審議会を通過しただけで決定されており、関係する地元自治体の意見すれ事前に十分くみ取られたとはいいがたい。さらに、住民の意見については「千歳川放水路のような河川に関する事業は、主な公共事業の中でも、策定に過程で住民参加の機会がもっとも少ない事業」とNACS-J千歳川問題委員会の畠山・北海道大学教授は指摘している。また、環境庁長官であっても、環境庁が管轄する保護地域が計画地にない場合には意見を述べる機会はないのである。

このような手続きは、「川のことは河川工学の専門家にまかせておけばだおじょうぶ」という考え方によってつくられてきたといえる。しかしその結果、川は単な る排水路と化し、水害の責任問う裁判でも、治水計画が完了していなかったために防ぎようがなかったなどの理由で、河川管理者である国は水害の責任をとらないことがほとんどなのである。難しい問題ではあるが、異なる立場からの意見も合意的に検討され、社会全体として納得できる計画をつくるしくみが必要なのではないだろうか。

これまで、NACS-J河川問題調査特別委員会・千歳川問題小委員会では93年9月の発足以来、千歳川放水路の問題点を再検討し、次の3つにまとめた。自然を賢明に利用するための合意づくりには、どのような手続きが必要なのか。どんな問題が解決されればよいのかを考えるための材料として、改めてこの三点 を紹介したい。

NACS-Jが指摘する放水路計画3つの問題点

その一 河川工事での自然への配慮

洪水を防ぎ、飲料水や工業用水を確保するために、日本の河川行政はダム建設、護岸工事、水質汚染などによって川の生態系をことごとく分断してきた。その反省をふまえて、建設省は94年1月に「環境政策大綱」を作成し、「環境の保全」を基本理念のひとつに挙げた。ところがいまだに石狩川洪水対策の中では、石狩川での史上最大の洪水流量をはるかに上回る計画高水流量を根拠に、平常時は水門を閉めて放水路をため池化し、洪水時には千歳川の水を逆流させる計画が「最も効果的な方法」とされている。あくまでもこの方法を実行する中で「環境の保全」に配慮することでしかなく、「環境の保全」のために工事のしかたに配慮する形にはなっていない。

その二 生物多様性の保全

千歳川と分水嶺をはさんだ太平洋側び、美々川という川がある。美々川は、火砕流台地を湧水群がえぐってできた川で、93年6月にラムサール条約の登録地に指定されたウトナイ湖を抜けて太平洋へ流れ込む。この美々川流域に多様な自然環境は、石狩低地帯の本来の自然の姿を残す数少ない地域のひとつである。しかし、この事業が計画どうり実行されれば、美々川流域の各所から湧き出ている地下水は分断され、今ある自然環境の維持は難しくなる。1991年6月に開催された地球サミットで「生物多様性保護条約」が発効され、日本はこの条約に批准した。93年11月に制定された「環境基本法」でも「生態系の多様性の確保、野生生物の種の保存その他の生物の多様性の確保」が掲げられている。しかし、美々川流域の自然環境の多様性が、この計画の中で相応の評価がされているとはいい難い。

その三 合意形成の過程

これまで述べたと おり、北海道中南部を東西に分断する放水路計画に対して、自然環境、農業・漁業への悪影響が懸念されている。それにもかかわらず建設側は、本格的な調査も 科学的根拠に基づく説得力のある回答もしないまま、計画づくりをすすめている。国の大規模事業に関するアセスメント制度が、内容・手続きとも形骸化し事業び当否を判断するものになり得ていないことは、これまで何度も指摘されている。特に住民や反対者との有効な対話の不足は、あらゆる場面で問題を大きくしている。そうした制度にもとづいてこの事業をすすめられることは、再考すべきではないだろうか。

6月の政権交代によって就任した桜井環境庁長官が新聞などのインタビューに答え、「北海道が近代的に栄えていくためには千歳川放水路を整備すべき」と発言したことが7月1日に報道された。この発言に対する意見を報道関係者に求められたNACS-Jは、「問題の実態を正確に理解していない不勉強さに対して猛省を求めたい、自然環境保全を推進すべき立場の環境庁長官としてははなはだしく適格さを欠いている」と横山保護部長のコメントを出した。

自然保護を求める人々も、治水対策をとることに反対しているのではない。問題にしているのは現在の治水対策案の自然環境への悪影響であり、できる限り自然環境への悪影響が少ない治水対策の選択を求めているのである。

大規模な事業であるため、いろいろな立場の人がこの問題にかかわっている。それぞれの立場の意見を十分に出したうえで事業内容を決定できれば、今後の保 護問題にとっても画期的な事例となるはずだ。千歳川放水路問題は、まだ緒についたばかり。十分な協議を望みたい。

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