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吉野川第十堰問題・河口干潟の保全

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1994.07.01

「流域住民自身が川の環境の選択を」~吉野川の河口堰計画に疑問

No.386(1994年7月号)より転載



第十堰の改築計画

日本3大河川の一つとして”四国三郎”の異名をもつ徳島県吉野川。その河口から14kmの地点に「第十堰」という洗い堰がある。700mの川幅いっぱいに青石を敷き詰めた素朴な堰である。旧吉野川への分流のため242年前の江戸宝暦年間に造られ、旧第十村に位置していたことからこう呼ばれている。かつては夕方仕事を終えた男たちが水浴びをしながら四方山話に花を咲かせ、子供たちは青石の間をぬって上がっていく鮎や鰻をパンツを脱いですくっていた。今では、徳島市の水道水確保の役割も担っている。この堰は、自然の営みを損なうことなく川とつきあう豊かな文化を育んできた。

ところが現在、この堰の1.2km下流に可動式の堰を建設する計画がある。この計画は、第十堰の老朽化を理由に治水利水の強化を目的とした、事業費約1000億円の建設省直轄事業である。「第十堰改築事業」と称されているので、一見単なる改修工事のような印象を受ける。が、堰の構造も設置場所もまったく異なるため、その実態は河口堰の新設工事といってよい。1984年に予備調査が始まり、91年建設事業に着手、今は基本計画策定の段階に至っている。

この計画は治水利水の強化の必要性に疑問があるほか、自然環境への重大な悪影響が危惧されている。新しい堰を造ると、上流に310haの湛水域ができるといわれている。ここは、大規模な浚渫も行われるため、水の滞留量と滞留時間が大幅に増える。しかも、ここに神宮入江川というドブ川も流れ込むことになる。それによって藻類が大量に繁殖し、徳島市の水道用水は劣悪化するだろう。また、堆積したヘドロが下流へ押し流されれば、河口部の生態系や漁業に悪影響がおよぶことは必至であろう。

川の環境を選択する機会を

吉野川の広大な河口部は、シオマネキなど多くの底生動物の宝庫であり、国内有数の水鳥の生息地でもある。また、今や絶滅寸前といわれるアオギスやカジカ、アユカケなどの生息も確認されている。そのため、ここは”国際的に特に重要な湿地”としてIWRB(国際水禽・湿地調査局)の日本湿地目録のひとつに登録されている。また、全国生産の15パーセントを占めるアオノリや、県内のほぼ全漁獲量というヤマトシジミなどの漁業も活発な所である。

このように、河口部にはまだ良好な自然環境が残されている。だが同時に、最も調査の遅れている所でもある。92年10月、改築に伴って動植物保護を目的とした大十堰環境調査委員会が開かれた。しかし、提出された採取した魚類リストのなかに、吉野川ではごく普通に見られるシロギスやキビレなどの名前がなかった。また、会議内容はおろか委員名まで非公開で行われた。その姿勢は多くの批判を浴び、その後委員名と会議内容の一部は公開されるようになった。しかし、住民が事業の是非を判断できるよう要望してきた、詳細なデータの提供やシンポジウムへの出席はまだ実現していない。

このような住民不在の状況に不安を抱いた当会では93年9月徳島市内で、「吉野川の自然と第十堰改築を考える」シンポジウムを開催した。以降、カヌーイベントや講演会などを相次いで行っている。吉野川の今なお残された自然や、先人たちの培ってきた川とのかかわり、第十堰の歴史的価値を再認識し、流域住民自身が川の環境を選択していこうとする試みが始まったのだと思う。

(姫野雅義・吉野川シンポジウム実行委員会代表世話人)

 

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