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「西表島の自然は極めて重要な保護対象」

1970.08.03
要望・声明

西表島原生林保護についての要望書
『自然保護』No.99(1970年8月号)より転載


 

昭和4583
財団法人
日本自然保護協会
川北禎一
藤原孝夫
保護部会長
児玉政介

台湾中部と同じ北緯24.20度のわが国最南端に位置する西表島には、今日なお2万 haの原生林が残されている。亜熱帯の海洋性気候下にある西表島の約90%、24,327 haは国有林で、わが国では珍しい河川下流沿いのマングローブ(紅樹林)やオキナワウラジロガシ、スダジイ、ホソバタブなどの照葉樹林で被われている。

とくにオキナワウラジロガシ林の残されているのは西表島だけで、わが国で最も自然度の高い大規模な照葉樹林である。スダジイを主とする自然林は、本土では大隈半島、紀伊半島、御蔵島などに残されているが、自然度が低く、面積も数10 haの規模でしかない。沖縄群島にも西表島を除いて、他に匹敵する原生林は残存していない。

また、野生動物相も豊富である。とくにイリオモテヤマネコ、ヤエヤナオオコウモリなどは貴重な学術的研究対象であり、就中前者は国際的の保護勧告を受けているほどの重要性を帯びている哺乳動物の固有稀少種とされている。

然るに1961年以来、八重山開発株式会社による森林伐採計画が進められており、すでに2300 haが皆伐され、現在なお伐採進行中で、伐採跡地にはリュウキュウマツの播種が行なわれているが、ススキ、チガヤなどの草本植物やアカメガシワなどの陽性夏緑広葉樹に圧倒されて一部を除いて不成功に終わっている状態である。

また現在中央山地部を横断する林道約30 kmが建設中であるが、この林道中すでに白浜林道8.5 kmは土砂が崩壊して歩行困難なほどの惨状を呈しており、原生林や野生動物の生息地を破壊するのみならず、第3紀の砂岩層からなる極めて崩壊しやすい地盤の切り取りは、台風、大雨により容易に災害を起こし、より大きな自然破壊を招く虞があるので、かかる中央横断道を止めて、海岸沿いの道その他適当な道路を必ず選ぶべきである。

これを要するに、西表島の自然は前述の如く我が国に残された最後の大規模な照葉樹林で、その学術的価値が高いばかりでなく国際的観点からしても極めて重要な保護対象というべきものである。

関係当局においては、この我が国に残された最後の原生林が、内外に誇示して憚らない、均等のとれた自然域として保存するために、十分な配慮と努力をして戴くよう当協会の保護部会の決議により要望書を提出いたします。

 

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