連載コラム『赤谷の森から』
2005年2月掲載分

『ノウサギ10日間で冬支度』2005.2.5

10日ほどで同じノウサギの体毛が冬毛に変わっている(日本自然保護協会撮影)

 赤谷の森の玄関口にある「いきもの村」にどんな動物が暮らしているのかを、この冬から調べている。
 手始めに、恒温動物の体温を感知するセンサーカメラで森の中を見張ってみた。すぐにいろいろな動物が写った。なかでも多かったのが、ノウサギだ。
 コナラ林に設置したカメラには、ノウサギが昨年十一月二十二日、一日おいて二十四日、二十五日、そして二十七日から連続六日間記録された。写真を並べてみると、耳の先の黒色と鼻の横の白斑の特徴がどれも同じだ。まったく同じ所を同じポーズで歩いているカットも何枚かある。どうやらこれは、ある個体がほぼ毎日同じパターンで行動しているのが記録されたものらしい。雪の日の朝にいくつもの足跡が残っているのは、こんな動きを表したものだったのだ。
 さらに、わずか十日間で背中以外の身体が白くなり、冬毛に変わっているのもわかった。十一月二九日の夜には、毎晩訪れるノウサギのにおいをかぎつけたのか、ホンドテンも姿を見せた。こんなすれ違いも、ライブ感たっぷりで面白い。
 こうして記録をとり続けていけば、いつ、どこに、ノウサギが来るかを推定できる。そこでテントに隠れて静かに待てば、彼らを驚かすことなく、姿を直接見られるかもしれない。赤谷の森では、こうした自然との出会いを演出してみたい。
(日本自然保護協会 芝小路晴子)


『消費生活でもサポート可能』2005.2.12

雪に覆われたネイチャートレイル(自然観察路)に寝ころんで、空を眺めるのも冬のお楽しみ(日本自然保護協会撮影)

 赤谷の森には本物の季節がある。
 壁に掛けられたカレンダーの雪景色からは、冬の寒さを感じとることはできても、あの背筋がピンと伸びる清冽な空気は、自然の雪の中でしか味わうことが出来ない。
 私は東京で暮らすサポーターであり、赤谷の森に時々通っている。森で動物を観察したり、森の手入れに汗を流したりしていると、今を生きている私たちは、自然と共生することについて、もっと真剣に考えることが必要だと実感する。
 どのような自然であれ、守り育てていくためにはそれなりの経費がかかる。しかし、経費の代わりにボランティア活動をするにしても、それに毎日参加することは難しい。
 そこで、消費地の生活者である私たちの消費行動を通じて、森の手入れを充実させるような工夫を、日々の暮らしの中で実践してみてはどうだろうか。
 たとえば、赤谷の森では、生物多様性復元のために森から搬出される間伐材を、紙など身近な製品に加工することを検討している。自然を守り育てることに直結する製品を購入する人は、森で汗を流すボランティアと同じく、立派な自然のサポーターだと思う。
 そんな自然のサポーターが全国に増えていけば、赤谷の森のみならず、各地の森もよみがえっていくに違いないと信じている。
(赤谷プロジェクトサポーター 宮澤俊輔)


『森の監視員?カモシカ』2005.2.19

赤谷の森ではカモシカに出会うことも珍しくない。その姿は、自然を観察する私たちを観察しているようでもある(安田剛士さん撮影)

 「あ、カモシカがいる」、「思ったより大きいね」と声が上がり、十五人の参加者に笑顔が広がった。昨年の今頃に開いた赤谷プロジェクトの環境教育プログラムのひとつ、「リアルネイチャー・キャンプ」での一コマ。赤谷の森では珍しい隣人ではないが、初めてカモシカを目にする参加者も多かった。
 斜面から私たちを見つめていたカモシカは、しばらくすると去って行くだろうという予想を裏切って、その場に座り込んでしまった。
 私たちはその後、森の奥でスノーシューを履いて、雪の中のトレッキングを楽しんだ。
 雪の造形美や熊棚、カミキリムシの幼虫の穴など、動物たちの暮らしを見つけることができた。そんな二時間を満喫し、スノーシューを脱いでの帰り道。さっきのカモシカは、まだ座っていた。
 「まだこっちを見ているよ」。しばらく観察していると、ようやく立ち上がり、斜面をゆっくり登って行った。事故が起きないように私たちを見守ってくれていたのか、森を荒らさないように監視していたのか。
 カモシカに見つめられて、森の中を歩き回ったひと時。ここは、長い時間をかけてみんなで残すことができた森だ。「残せて良かった」、「自然保護とは、こういう自然を守ろうとしているのか」。そんな気持ちを、多くの人に伝えていきたい。今年もまた、三月五日、六日に、あの自然に会いに行く。
(日本自然保護協会 森本言也)


『野生動物の生態を語りたい』2005.2.26

「いきもの村」で積雪の上を歩き回るホンドテン。活動拠点の周囲で暮らすこのテンの行動を、詳細に把握したい(日本自然保護協会撮影)

 国有林の面積は、国土の二割にも及ぶ。この広大な森の中には、数多くの野生動物が生息している。だが、国有林の中で、野生動物がどのように行動しているのかを、林野庁職員が具体的に説明できるフィールドを私は知らない。
 赤谷の森ではセンサーカメラを設置し、野生動物の行動を観察している。 活動拠点「いきもの村」の水辺に設置したセンサーカメラは、鮮やかな黄色の毛並みに顔の部分が白いホンドテンの姿を写した。このテンは、頻繁にこの水場に足を運んでいることがわかった。
 ここは、テンの通り道になっているらしく、おそらく、周辺の古木のうろなどを寝床とし、夜間、餌を求めて行動しているようだ。このテンの行動を詳細に把握したい。
 だが、野生動物の詳細な生態を明らかにすることだけが、私の目的ではない。国有林の中で、野生動物がどのような暮らしをしているのか――を実体験として学ぶことができる自然観察フィールドが赤谷の森だ。私はここで、自らの言葉で野生動物の行動を解説できるようになりたい。
 野生動物の観察を積み重ねていくことで、森での自然の営みを肌で感じることができる環境が整いつつある。プロジェクトの仲間たちとともに、このような活動に取り組んでいることに、このうえない充実を感じている。
(林野庁赤谷森林環境保全ふれあいセンター 山本道裕)


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