連載コラム『赤谷の森から』
2004年11月掲載分

『漂う甘い香りの主は?』2004.11.6

カツラの葉からほのかに甘い香りが漂う。香水のようで女性らしさを感じさせてくれる(リアルネイチャー・キャンプで、日本自然保護協会撮影)

 先週末、日本自然保護協会が主催する自然体験プログラム「リアルネイチャー・キャンプ」が赤谷の森で開かれ、林野庁で赤谷プロジェクトを担当する私も参加した。
 谷川連峰の一角にある赤谷の森はいま、紅葉の季節を迎えている。赤く色づくヤマモミジやヤマウルシ、黄色いイタヤカエデやカツラなど、落葉広葉樹が多いのだ。
 冬に備え、葉を落として身軽になり、寒さと乾燥に耐える――樹木にとって紅葉は、動物の冬眠のように、厳しい冬を越すための戦略だ。それが私たちの目を楽しませるのだから、効率的かつ美しい処世術を身につけたものだ。
 そんなことを考えながら森を歩いていると、ほのかに甘い香りがふと、鼻腔をなでた。香りの主は、黄色い葉っぱを身にまとったカツラの木だ。
 二つずつ並んだハート形の葉っぱ。白くすらりと伸びた幹。そして甘い香り。カツラの木は女性を連想させる。しかも、秋が深まるにつれ、その香りは一段と深まる気がする。
 森には心を動かすこうした恵みがたくさんあるが、これまでは仕事には直接関係しないので、個人的体験として胸の内にしまっていた。
 しかし、国民に愛される国有林づくりをめざす以上、森の魅力を発信していくべきだと考えるようになった。今月はこうした「森からの恵み」をキーワードに、赤谷の森を紹介したい。
 (林野庁赤谷森林環境保全ふれあいセンター 石坂忠)


『人工林にも無限の可能性』2004.11.13

毎月一回、プロジェクトの仲間が集う「赤谷の日」。今月は植生管理の一環として間伐の実習を行った(日本自然保護協会提供)

 赤谷の森を管轄する森林官の私には、自然林の保護管理に加えて、人工林を管理経営する役目がある。赤谷プロジェクトは、「持続可能な地域社会づくり」も目標にしているからだ。
 しかし、スギなどの人工林を育てあげ、木材に加工するには、多くの手間と時間がかかる。現在は、それに見合うだけの木材価格ではなく、人工林は間伐などの手入れが進んでいないのが実態だ。これでは野生生物の生息環境保全もままならない。
 その打開策として、ひとつのアイデアが生まれた。「間伐材などから作った紙を活用してもらおう」というのだ。放置されていた間伐材の有効利用を通じて、プロジェクトの意義を世間に知ってもらう狙いもある。
 間伐材や枝葉は繊維のかたまり。水と一緒につぶせば、パルプができる機械もあるという。仲間からは「プロジェクトのロゴマークも入れよう」という意見も出た。この紙をプロジェクトに賛同する多くの人たちが使えば、まわりまわってプロジェクトに還元されることになる。
 実現すれば、人工林の有効活用とプロジェクトの推進の双方に勢いがつく。
 サポーターの力を借りることができれば、搬出にかかる手間もかからず、人工林を自然林に戻す際に間伐する木なども材料に使える。単調で無愛想に見えるスギなどの人工林にも、無限の可能性が秘められていることに注目してほしい。
(林野庁利根沼田森林管理署 中嶋健次)


『「文化」を支える山の恵み』2004.11.20

赤谷の森に残された炭焼窯の跡。時を経て、炭焼が復活する日も遠くない(日本自然保護協会提供)

 都会に住む僕たちも、上質な自然の中で、自然とのつきあい方を学ぶことができる。赤谷プロジェクトに、そんな夢を感じてサポーターになった。
 僕が初めて赤谷の森で目にしたのは、土や石でつくった炭焼窯跡。小出俣(おいづまた)と呼ばれる沢に沿った林の中に点々と残っていた。
 そんなに遠くない過去、日本のどこにでも、山仕事で生活をしている人たちがいた。樵、マタギ、ゼンマイ採り、炭焼など。
 山でそういった仕事が成り立っていたということは、都会の人々も木材を使い、炭を燃やし、山の恵みを食べていたのだろう。確かに、僕が子供の頃、ご飯を炊くのは薪で、料理を作るのは炭や練炭だった。やがてエネルギー源は電気や石油、ガスに代わっていった。
 有名なイタリアのピッツァは、お店でも家でも、薪で焼くと聞く。だから薪を取るための林が今も大切にされている。それが伝統であり文化だ。
 毎月、定期的に仲間達と、赤谷の森でやりたいことを語り合う。僕は、かつて山で生きた人たちの技・文化を再現したいと思っている。それは懐古趣味ではなく、これからの日本に必要なことだと思うからだ。手はじめに炭窯を復活させ、炭焼を再開することを考えている。
 都会の「便利さ」と引き換えに捨ててきたものは、人間の逞しさだったのではないか。自然と共に生きる技と知恵を、赤谷の森で見つけたい。
(赤谷プロジェクト・サポーター 川端自人)


『森の玄関に集いの拠点』2004.11.27

晩秋の紅葉に彩られた自然観察路が、奥の「いきもの村」に続く(日本自然保護協会撮影)

 赤谷の渓流と森に魅せられ二十数年、赤谷プロジェクトが始まるとの報を受けて、いの一番にサポーターになった。様々な活動に参加しているが、私のお気に入りは毎月第一週の週末に開かれる「赤谷の日」だ。
 赤谷の森の玄関口に、プロジェクトの仲間たちが集まる拠点がある。
 私たちが「いきもの村」と呼んでいるその場所は、かつて森林管理署が人工林の苗畑として使っていた。ところが二十年近く前に苗畑としての役目を終えて、その後は放置されていた。初めてここを訪れたとき、私たちには宝の山に見えた。
 赤谷の森の中では最も人里に近く、周囲には古くから薪炭林として使われてきた雑木林が広がり、様々な生物の痕跡もある。この七ヘクタールの敷地とそこに残された小屋こそ、赤谷の森の恵みが集まる拠点だと確信した。
 この拠点の環境管理を、サポーターの手で行いたいという意見に、皆が賛成してくれた。毎月定期的に仲間たちが集まる日を設けて、朽ち果てる寸前だった小屋の再生や周辺の草刈り、自然観察ができる周回コースの設定、生物のリストづくりなどを始めている。炭窯もここで復活させるつもりだ。
 自分たちで作り出す素朴な風合いは、赤谷の森の玄関口にふさわしいと思う。私も童心に返ったようでとても楽しい。赤谷の森を訪れる人々と、ここで森の恵みを分かち合いたい。
(赤谷プロジェクト・サポーター 鈴木誠樹)


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