参加/支援のしかた

生物多様性はビジネスの礎 ~All business depends on biodiversity.~

今や企業活動でも生物多様性は注目の的。
「生物多様性はビジネスの礎」では、NACS-Jや地域のNGOと協力し、生物多様性保全を経営の中心から志す企業のリーダーの方々へインタビューします。

Interview No.1
インタビュー実施:2010年9月

環境のこと考えて経営するかどうか、いつまでもほかの経営課題と並べて悩んでいる場合ではないのです。

パタゴニア日本支社 支社長

辻井隆行<つじい・たかゆき>

Profile

1968年生まれ。カナダでシーカヤックガイドをしながら、99年にアルバイトで入社。翌年正社員登用後、新企画の販売プログラムで実績を上げ、卸売部門ディレクター、副支社長を経て2009年から現職。

辻井 隆行 氏
死んだ地球で、ビジネスはできない

世界を代表するアウトドアブランドと言っても過言ではない「パタゴニア」。アウトドアブランドという企業の性格上、環境問題とは切っても切れない関係にある。

「我々は、何よりも大事な自然界が消滅の危機に瀕していること、つまり原生自然や地球の生物多様性が失われつつあることを、強く感じています。
環境問題は、CSR(企業の社会的責任)として取り組む問題ではなく、その前段階の義務としてとらえています。
環境問題を考えることは、我々の企業活動の存在意義を考えること、経営の根本をなすものです。

それは、我々がミッションステートメントと呼んでいるパタゴニアの企業理念、『最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する』にも表れています。環境に悪影響を与えずに、企業としても利益をあげていく、さらに企業活動として環境問題の解決にも取り組んでいく、これが、我々が目指しているものです。創業者のイヴォン・シュイナードがアメリカを代表する自然保護団体シェラクラブの理事長だったディビッド・ブラウワーの言葉を引用してよく言うように「『死んだ地球ではビジネスはできない』のです」

Photo: Andrew Burr

Photo: Andrew Burr

資本主義に一石を投じたい

1950年代に創業者のイヴォンが自分自身のためのロッククライミングのギアをつくり始めたのがきっかけで会社がスタート。その後、1972年に衣料品ブランドのパタゴニアが生まれ、徐々に企業として成長。1980年代にはフリースや速乾性下着キャプリーンなどの革新的な製品開発とアウトドアウエアに明るい色を初めて取り入れたそのファッション性が注目を浴び、アウトドアを楽しむ人以外からも支持されて急成長をとげたパタゴニア。

オーガニックコットンの畑(写真提供:パタゴニア)

オーガニックコットンの畑
(写真提供:パタゴニア)

そんなパタゴニアも1991年にはアメリカの不況の影響を受け、レイオフを余儀なくされる事態に。 「そのときは、当時の経営陣がそれこそ南米のパタゴニアにテントをはって、我々はビジネスを続けていくべきか? だとしたらどのようなビジネスなのか? ということを真剣に話しあったそうです。この1991年の出来事が、パタゴニアが環境問題を真剣に考える企業として、そのミッションを明文化し、明確な言葉として表現していくきっかけになったのです」
さらに同年には初めて素材のライフサイクルアセスメントを実施。その後すぐに世界で初めてPETボトルをリサイクルしたフリース素材、オーガニックコットン素材を製品にいち早く取り入れるなど、他の企業に先駆けて環境問題を解決へ導くような取り組みを積極的に行うようになる。

「企業ですから利益を出すことは大事です。ですが、地球の環境を悪化させるようなことをやっていては、先々地球も企業もだめになってしまいます。
我々がコットン製品をすべてオーガニック素材に切り替えても売上を伸ばし収益を上げ続けているのを見て、ナイキやウォールマートもそれに追随してきています。彼らからの依頼を受けてナイキにはコットン農家との橋渡しをしたり、ウォールマートでは、イヴォンが自ら講演したりもしています。彼らの企業としての規模を考えると、その社会に与える大きさは計り知れません。

誰もやっていないことに挑戦することで、地球の環境を改善し、他社にも影響を与える、こういったことを続けていくことが我々の役目だと思っています。資本主義のやり方に一石を投じるような企業でありたいと思っています」

目に見えない暗黙知を大切に

2009年に支社長への就任が決まった時、40歳という若さとアルバイトからのスタートだったことが話題になった辻井さん。
「元々は某自動車メーカーに勤務していたのですが、当時自分から見て『いいな』と思える人が評価されず、反対に『どうして?』と思える人が要領よく業務をこなしている、ということに疑問を抱いていました。とにかく企業というのは利益ばかりが最優先で、環境や他人への優しさ、といった目に見えないもの、暗黙知と呼ばれるものに目がいきません。

これは、僕が悪いのか、社会が悪いのかどっちかなんだろうか、ともやもや考えながら会社を辞めました。ドロップアウト気味だったのですが、比較文化論の専攻で大学院に進んだことで、現代社会を規定しているパラダイム(思考の枠組み)を真剣に考えるようになり、資本主義とは別の文化を持つ世界に憧れを抱くようになりました。
そうしたこともあり、先住民が多く暮らすカナダのバンクーバー島でシーカヤックのガイドをしたりしていました。アウトドアをしながら生きていければいいな、と思ってパタゴニアに軽い気持ではいったのですが(笑)、優秀な先輩たちがたくさんいる環境で、パタゴニアのやろうとしていることは自分が疑問に感じてきたことの解決につながりそうだ、と思えたのです。」

ガレゴス氷河の入江 フエゴ島 パタゴニア(Photo: Takayuki Tsujii)

ガレゴス氷河の入江 フエゴ島 パタゴニア
(Photo: Takayuki Tsujii)

さらにこの暗黙知と、企業が求める利益との中間を探っていくところに「人間が存在する意義」もあるのではないかと語る辻井さん。
「結局のところ、アウトドアスポーツは、やらないほうが環境に負荷を与えません。でも人間は自然の中にいると気持いい生きものだと思うのです。海で波の音を感じたり、森の中で川の匂いの変化を感じたり……。
森のマイナスイオン効果は有名ですが、波うち際の白波からもマイナスイオンを発生しているそうですよ。私自身、自然の中にいるのが好きですし、パタゴニアも、人間と自然をつなぐことのお手伝いをできればいいのではないのかなと考えています」
(聞き手:長谷川華・ライター)

NGO・地域との取り組み

パタゴニアはNGO への支援も積極的に行っている。NACS-Jへも98年頃から愛知県藤前干潟や諫早湾の保護調査活動への支援や、今年も「もり・かわ・うみ・いきものバンザイ!ツアー」にスタッフ参加や協賛の協力をいただいている。

「パタゴニアを通じて、何か行動をしたい、と思った人への出口として、NGOのアクションがつながってくれたらと考えています。パタゴニアからNGO、市民団体に助成する環境助成金の使い道を、お客様の投票で決める『ボイス・ユア・チョイス』などグローバルで行う取り組みのほかにも、日本支社独自の支援活動もしています。

フリー・トゥ・フロー

川と流域を守ることを目的として2009年から始めた『フリー・トゥ・フロー』は、来年にはフォーカスを海岸や干潟に移して継続する予定です。日本各地のパタゴニア直営店舗も、それぞれの地域の人と自然をつなぐ役割を果たし、地域にあって良かったと思ってもらえるよう、これからも企業活動を続けていきたいと思います」

インタビューを終えて

パタゴニア

創始者イヴォン・シュイナードがカルフォルニアで自分用のロッククライミングのギアをつくり始めたのがその始まり。本社は米国。ほかにも企業の売上の1%を自然保護活動に寄付する『1%for the Planet』を設立したり、野生動物の生息地をつなぐ「コリドー(野生の回廊)」の設立、回復、保護を目指す『フリーダム・トゥ・ローム』の活動も行っている。

パタゴニア日本支社:環境保護への行動 http://www.patagonia.com/jp/environmentalism

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