文:加藤 碵一(産業技術総合研究所フェロー研究員) 画:門馬朝久

かの宮澤賢治がイーハトーブと呼んだ岩手県は、数億年前から現在に至るさまざまな岩石・地層が複雑に分布し、まさに自然の地質博物館ともいえよう。また、それらが長い年月かけて削られ溶かされ、見事な地形を形づくっていることも魅力のひとつである。JR大船渡線の猊鼻渓駅のほど近くにある「猊鼻渓」は日本百景のひとつで、大正14年(1925年)に国の名勝に指定された絶景である。
北上川の支流砂鉄川沿いに高さ数十mから百mを超す石灰岩の絶壁が2㎞ほど続き、薄紫色の藤や緑色の松をはじめ、紅葉する落葉樹などの植生と相まって、季節ごとに彩りつくり上げるさまは圧巻である。
舟下りの手漕ぎ遊覧船に乗ると、船頭が歌ってくれる「げいび追分」前歌に
清きながれの砂鉄の川に
舟を浮かべてさおさせば
曇り勝ちなる心の空もネ
晴らしてくれます獅子ヶ鼻
とある。砂鉄川は、まさにその名の通り川底に黒い砂鉄が波紋を描いて堆積している。これは失恋して獅子ヶ鼻から身を投げた娘の色黒だった肌から洗い落ちたもの、という悲恋の言い伝えがある。




