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2007.07.01(2018.06.27 更新)

【自然しらべ2007】見えてきたこと

調べる対象:セミ

集計結果

2007年7月1日~8月31日に実施した「セミのぬけがらしらべ」の集計結果の概要です。

セミのぬけがらをとりあげたわけ

セミは、全国で見られ、多くの人が知っているなじみの深い虫です。
セミのぬけがらの全国規模の市民参加型調査は、1995年に環境庁(当時)による「緑の国勢調査・身近な生き物調査」で実施されました。
その後、地域ごとに活発な調査が行われるようになりましたが、「以前はいなかったセミを見かけるようになった」といった声を最近耳にするようになったため、今度はNGOの力で全国調査ができないかと考えました。


アブラゼミの成虫とぬけがら
撮影:伊藤信男

 

全国から集まったぬけがらの数は18,570個

ご参加くださった皆さまのおかげで、全国から集まったぬけがらの総数は18,570個、ぬけがらの収集場所は5,815ヶ所となりました。
届いたぬけがらは、インターン生やアルバイト・ボランティアスタッフに仕分け作業をお手伝いいただき、学術協力者の槐真史(えんじゅまさし)さんに何ヶ月もかけて全個の種類の確認(同定)とデータの集計を行っていただきました。
また、ブログ「セミ日記」で、作業の進捗や参加者からの質問への回答などを頻繁に発信していただきました。

 

 

 

集まったぬけがらの種類は20種

セミは、世界に約2,000種、日本を含む東南アジアに650種ほど、そして日本に33種生息していると言われていますが、今回はそのうち20種のぬけがらが集まりました。アブラゼミが11,248個と半数以上を占め、次いでクマゼミ、ミンミンゼミと続きました。これらの上位3種は、1995年時の環境庁(当時)による調査と順位に変わりはありませんでした。

 

子どもたちの夏休み自由研究でも大活躍

NTTレゾナントが運営する子ども向けポータルサイト「キッズgoo」では、デジタルカメラで撮影したぬけがらの写真の投稿を受け付け、期間中のアクセス総数は約260万回、1,456枚の写真が寄せられました。

また、『読売ウイークリー』誌上には、埼玉大学・林正美先生による「教えてセミ博士!」の連載をはじめ、夏休み中の子どもたちに参加を呼びかける関連記事が計7号にわたって掲載されました。

 

最新のセミの全国分布を見てみよう!

参加者の皆さんのご協力によって、最新のセミの全国分布図を描くことができました。そのうち、アブラゼミ、クマゼミ、エゾゼミの全国分布を見てみましょう。

もっともぬけがらの収集数が多かったアブラゼミは 、参加者の地域的な偏りをものともせず、全国的に分布しているようすがわかります。数が多いことに加え、平地の集めやすい場所に分布していることも影響しているのでしょう。
クマゼミは西日本に、エゾゼミは 北日本に多い傾向がみられます。1995年時調査と比べると、集まったぬけがらの総数は半分強であったものの、分布の傾向に大きな変化はみられないことがわかりました。

 

10年前よりぬけがらが多く集まった種類も

一方、キュウシュウエゾゼミ、クロイワツクツク、イワサキゼミなど、種類によっては1995年時調査よりも寄せられたぬけがら数が多かったものもありました。参加者の熱心な観察のおかげです。新たな発見地点が得られ、より詳しい分布がみえてきたことは、今回の成果のひとつといえるでしょう。
また、ぬけがらの一部は標本として保存し、今後の研究に生かすなど、日本のセミの現状を知る上で貴重な記録を残すことができました。

 

 

 

 

 

クマゼミの分布最前線は?

分布の北上傾向が話題になっているクマゼミについて、1995年に行われた環境省・第5回緑の国勢調査「身近な生きもの調査」と、今回の結果を比べてみました。

 

全国分布をみる限り大きな変化はないようですが、分布の北限にあたる関東地方では、クマゼミの鳴き声を聞くことが増えてきているようです。
ぬけがらは、この10年ほどで横浜市、品川区、江東区などで見つかっていますが、今回新たに、さいたま市岩槻区から観察記録が届きました。
公園などの植栽と一緒に幼虫や卵が運ばれたのか、地球温暖化やヒートアイランド現象の影響によるものなのか、今後も注目したいことがらです。


クマゼミの成虫/撮影:伊藤信男

 

セミのぬけがらが、その土地の環境変化のバロメータに

セミは、幼虫時代の数年を土中で過ごし、遠くに行くことができないので、その土地の環境変化を知るバロメータとして注目されています。
地域ごとに、見られる種類の多少や構成比率がちがうため、それぞれ調べなくてはいけませんが、こうした研究は、関東・近畿地方以外ではあまり進んでいないのが現状です。

今回の調査では、集めたぬけがらはセミの種類ごとに1つずつ送ってくださるようお願いしましたが、なかには、家の庭で集めたぬけがらを全部送られてきた方もありました。
そこで、せっかくなのでそれらのぬけがらを使って、地域ごとの種類の多少と構成比率の傾向を探ってみました。 すると、東本州と西本州~九州で、状況が大きく異なることがわかりました。
東本州では、アブラゼミの比率が高く、ミンミンゼミが出現し、北にいくにつれてエゾゼミの出現頻度が高まるなどの傾向がみられました。
一方、西本州~九州では、クマゼミが多くを占め、それに次ぐアブラゼミの2種で100%に近い出現率となり、単純な種類構成になる傾向であることがわかりました。

今後、庭木の種類や茂り方、庭面積の多少による変化などについても詳しく調べていくことによって、環境変化のバロメータとしての利用が高まるものと期待できます。


アブラゼミ/撮影:伊藤信男


ミンミンゼミ/撮影:伊藤信男

 

家の庭で見られたぬけがらの種構成比率

 

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