4年間にわたる日本全国の砂浜を対象とした「市民参加の海岸植物群落調査」により、日本の海岸の人工化の実態とそこに生育する植物群落の姿が明らかになりました。
この調査結果に基づき、砂浜の自然とそこに暮らす多様な生物を保全するために、日本の海岸の 保全と管理のあり方について、下記の10 項目を提言します。
自然状態と言えるような、砂丘と砂浜の植生がある広大な砂浜が全国的に極めて減少している。砂浜は、海岸植物群落の生育地であるとともにコアジサシの営巣地、アカウミガメの産卵地、貝類、昆虫類などさまざまな生物の生息地でもある。砂浜の生物多様性保全のために、海~汀線~砂 浜~後背地と連続する奥行きのある自然の砂浜をリストアップし、現存する自然の砂浜は早急に保護地域として保全する必要がある。
自然状態の砂浜が激減している中で、すでに、本当の自然の海岸とはどのようなものか、多くの国民は知ることができなくなっている。国土交通省や農林水産省は、第三次生物多様性国家戦略の中で、「自然共生型海岸づくり」「砂浜の保全・回復」をうたっているが、海岸の保全・再生事業を 行うにあたっては、地域ごとに本来の自然の海岸の姿を明らかにし、地域住民と共有した上で事業 を進めることが不可欠である。
本来の砂浜とはどのようなところか、それがわかる自然に近い海岸を各県一箇所でも復活させる必要がある。
砂浜を狭めている原因の大半が、内陸側からのクロマツ林の拡大や開発である。砂浜を保全・復元する方法の1つとして、クロマツ林の後退も検討すべきである。
海岸の後背地の土地利用の現状と将来予測を行い、必要性が低いと判断されるクロマツ保安林については、元の砂浜に戻していくことが、砂浜の自然を保全するために重要である。
また、これから整備を行う予定のクロマツ保安林については、砂浜の植物群落保護、生物多様性 保全の観点から、植林の必要性を検証し、必要最低限にとどめる必要がある。
各地の海岸でコマツヨイグサやアメリカネナシカズラ、オオフタバムグラ、オニハマダイコン、キミガヨランといった外来種が生育していることが確認された。中でも東北地方を中心に大規模に 植栽されているオオハマガヤは、在来の海岸植物にとって大きな脅威となっている。オオハマガヤ は、治山事業として、クロマツ保安林を飛砂の害から守るために植栽されたものである。
2005 年には「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」が施行されるなど、外来種の侵入は生物多様性保全上重要な問題である。
オオハマガヤのように人為的に導入されたものは、導入した主体が責任をもって除去するなどの 措置を講ずるべきである。
その他については、定着を防ぐために発見したら抜き取るなどを行い、また園芸種の自然環境へ の流出を防ぐことが重要である。
植生の豊富な砂浜の保全には、奥行き(波打ち際から内陸側への砂浜の広がり)が必要である。 堤防を波打ち際に造ってしまうと、海岸植物が生育できる植生帯が確保できず、植生が消滅する。堤防を造る場合はできるだけ内陸側に造り、保全を図るべきである。これは、堤防の高さも低くで きコストの削減につながる。
河川に造られたダム等が山から海への土砂の流出を妨げ、各地で砂浜の侵食が進んでいる。海岸 の自然を保全するためには、侵食を対症療法的に、コンクリートの護岸や堤防で阻止するのではなく、砂の動きなどを妨げている要因を取り除く方向で対策を講じる必要がある。特に現在自然性の 高い状態を保っている海岸については、自然性を損なわないような侵食防止の手段を講じる必要が ある。
海岸の人工物が、飛砂や潮風など海岸環境を変化させ、海岸植物の生育に影響を与える可能性があることが示唆された。これらについては、今後科学的な調査を行い、人工物が海岸の植物群落に 与える影響の有無、多寡を明らかにし、具体的な保全策、人工物の建設のあり方に反映させる必要 がある。
例えば、突堤や離岸堤、潜堤で造られた砂浜や人工ビーチの植生と自然の砂浜の植生とを比較する綿密な調査を行うなどである。突堤や離岸堤などの人工物で保全されている砂浜は、一見砂浜が 復活しているように見えるが、自然の砂浜の生態系が維持されているかどうかは検証する必要がある。海岸工学だけでなく、生態学の専門家によるより詳細な調査が必要である。
海岸の植物群落に悪影響を与えている大きな要因に「護岸工事」や「台風」と並んで、「人の踏 み付け」「ゴミ・廃棄物の投棄」があった。これは人々の海岸の利用のしかたに関わるものである。この課題を解決するには、人々の海岸への関心と理解を高め、海岸利用のマナーを普及し、あるいは地域における自然を守りつつ利用する利用のルール作りを行うことが重要である。
一方、各地の海岸で、海岸清掃や自然保護、環境保全活動に取り組む市民・NGO の活動が見られる。また、1999年の海岸法の改正に伴い、海岸保全基本計画の策定には地域住民の参加が位置づけられた。
このことを踏まえ、これからの海岸管理は、積極的に市民やNGOに参加してもらい、法改正によって新たに加わった海岸管理の目的「環境」「利用」において、自然環境保全と利用のあり方について十分に検討して計画づくりを行うことが必要である。実際の管理も、市民参加で行うことが、 地域で海岸を見守り活用することにつながる。
海岸法の改正により、海岸保全基本方針が策定され、海岸ごとに都道府県で海岸保全基本計画を 策定している。その場合、学識経験者から意見を聞くとしているが、工学や海岸工学を専門とする者からの意見聴取に限られている場合がほとんどである。海岸管理の目的にある「環境」「利用」 の観点から、海岸の自然環境・生物多様性の保全を検討するには生態学(特に海岸の)の専門家、また人々の利用や地域での海岸の活用、管理を検討するには、環境社会学などの専門家の関与が不可欠である。
海岸保全基本計画のほか、国土交通省が設置する海岸に関するさまざまな検討会、例えば「中長 期的な展望にたった海岸保全検討会」等にも生態学や環境社会学の専門家、さらにはNGO 等の参 画を得る必要がある。
現在、日本の海岸は、国土交通省、農林水産省といくつもの省庁に分かれて管理されており、国レベルで日本の海岸全体の自然環境をモニタリングし、総合的に保全を図る体制ができていない。
環境省では、モニタリングサイト1000 としてウミガメとその産卵場所として砂浜の調査を開始したが、東海地方以南の太平洋側の海岸に限られている。
環境省及び海岸省庁が共同で、市民やNGOと協働して、海岸の自然環境モニタリング調査の体制を確立し、実施することが急務である。そして、その結果を活用して海岸の自然環境・生物多様性の保全を図り、海岸管理を行うべきである。
(以上)
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