くらしと自然のつながり再発見!

自然の恵み・インタビュー 藤原 誠太 さん

ミツバチの視点から世界を見てごらんなさい。
いろんなことが見えてきますよ。

吉野川河口干潟(写真:とくしま自然観察の会)

ニホンミツバチ(写真:伊藤信男)

--今、世界的にミツバチ不足が問題になっていますね。発端は2006年からアメリカを中心に発生してきた蜂群崩壊症候群(CCD)でしょうか。ある日突然、ハチが大量死したり、いなくなったりする現象ですが、この原因はわかったのですか?

藤原:今のところ、蜂群崩壊症候群の原因は解明されておらず、複合的なものだと言われています。ミツバチにつくミツバチヘギイタダニという害虫とか、養蜂家の多くが使っている抗生物質だとか、ストレスだとか、農薬などが複合的に影響しているとされています。

蜂群崩壊症候群が注目されたのは、蜂蜜のためではなく、農作物の花粉媒介者としてミツバチを多く利用しているためです。受粉を虫や動物に頼っている植物はいろいろありますが、農作物では限られた期間に確実に受粉させることが重要なので、一定の花に訪れるミツバチは非常に役立つんですね。ハチがいなくなると、人間が人工授粉をしなければなりませんが、大変な手間がかかります。アメリカのような大規模農業ではとても無理でしょう。日本でも、イチゴ、メロン、柿、スイカの農家はミツバチがいなければ成り立たないのではないでしょうか。ナタネだってソバだってそうです。

ミツバチに限らず、虫そのものが減っていると感じています。マルハナバチやクマバチなどのハナバチはとっくに激減してるし、スズメバチも減ってきてる。我々養蜂家は道具を持っていますので、スズメバチが出ると市役所や県庁に駆除を頼まれるんですが、以前は1年に100件以上あったのが、この数年は10件もない。

--ミツバチは生態系の中で大きな役割を果たしているのですね。

藤原日本には在来種のニホンミツバチ(トウヨウミツバチの亜種)と、明治10年ごろに初めて導入されたセイヨウミツバチの2種類がいます。ニホンミツバチは北海道と沖縄以外で、おもに山間部に自然に生息しており、これが森や林の更新に大いに貢献していると考えられます。セイヨウミツバチは養蜂家に飼われているものがほとんどですが、それでもハチが飛ぶ範囲の植物の受粉に役だっているわけです。野生化しているセイヨウミツバチですか? 小笠原諸島と沖縄以外ではほぼゼロですね。その一番の理由は、日本にはオオスズメバチという天敵がいること。2番目に、セイヨウミツバチの原産はアフリカと地中海で、日本はそこほど適地ではないので、人間の管理が随所で必要だということがあります。

ミツバチは春から秋にかけて花の蜜を集め、冬のあいだは貯めた蜜を食べて生き延びますが、不思議なことに彼らは必ず余裕をもって蜜を集めます。寒い時期や暑い時期、花が咲かない時期、クマやオオスズメバチの被害を予想しているかのように。ですから人間がクマやオオスズメバチを寄せ付けないようにしてやると、その分だけ蜜は余るんです。その余った蜜を人間がもらっているんです。余らせる技術が養蜂の技術で、養蜂家の仕事はハチが欲することを前もってしてやること。ハチの気持ち、ハチの目線にならないとできません。

シオマネキ

▲巣箱の中のニホンミツバチ
(対馬にて/写真:さげさかのりこ)

そういう意味では養蜂業は特殊で、畜産の一分野とされていますが、交配も自由にできないし、ミツバチには人に飼われているという意識はない。養蜂家はハチの主人ではなく、召使いなんです。もちろん、最近の養蜂業では機械を使って有無を言わさずハチを煙でいぶしたり、風を起こしてハチをどけたりしますが、それとて彼らは自然の災害だと思っています。彼らは常に、自分たちがその場所で生き続けられるか否かの判断をしているだけ。下手なことをやればすぐに逃げるか、死んでしまう。彼らの能力以上のことはどんなにしてもできませんし、そこにある蜜源以上の量の蜜を採ることもできないのです。

--人間が完全にコントロールしたり、効率化することが難しい、本当に自然の恵みをいただく仕事なんですね。

岡村:ただし、セイヨウミツバチは、150年ほど前にラングストロスという人が巣箱から引き出して中を観察できる巣枠を発明したのを契機に、遠心分離で蜜を採る技術とか、効率的な養蜂の技術もできています。そこまでならいいんですけど、遺伝子まで変化させるような技術もできてきているんです。私はそれには反対なんですけども。


ハチを飼っている人のあいだでは、ニホンミツバチは気に入らないことがあるとすぐ逃げだす、セイヨウミツバチは逃げない、と言われています。しかし、セイヨウミツバチの原種も逃げ出すんですよ。ですからそれはセイヨウミツバチとニホンミツバチの違いというより、改良品種と原種の違いだと思います。たとえば、セイヨウミツバチに煙をかけるとおとなしくなります。そういうことに鈍感なハチを残して改良してきたからです。でも、もしそれがサバンナの山火事の煙だったら、そこで死ぬということです。ニホンミツバチは野性が残っていますから、煙をかければ逃げていくことが多い。

ニホンミツバチは害虫や病気に強い、とも言われています。先ほど名前の出たミツバチヘギイタダニはもともとトウヨウミツバチにつくダニなので、同属であるニホンミツバチがこのダニによって壊滅的な影響を受けるようなことはないと言われています。でも、セイヨウミツバチはやられてしまう。セイヨウミツバチが病気に弱いのは、蜜をたくさん集めることを第一に品種改良してきたせいかもしれない、と思いますね。そして、セイヨウミツバチはそれを薬でごまかしてきた歴史が長いんです。法定伝染病に指定されている腐蛆(ふそ)病も、1匹でも発生したら全群を焼き捨てないとなりませんので、そうなる前に抗生物質を使えという方針でずっとやってきたのです。でも、抗生物質を与えると、たいてい違う病気が発生します。養蜂家の間では、抗生物質をやると日和見感染が起きてチョーク病というカビの病気にやられる、と言われているんです。こういった薬の多用も蜂群崩壊症候群の一因になっていると考えられています。

--蜂群崩壊症候群が話題になった当初は、ニホンミツバチには蜂群崩壊症候群が起きないといわれて注目されていたと記憶しますが。

藤原ところが、ニホンミツバチにも3~4年前から蜂群崩壊症候群と同じような現象が起こっています。私はこの原因は農薬だろうと思っています。だって、ダニにも病気にも強い、抗生物質も使っていないニホンミツバチですよ。私の調べた範囲では、ニホンミツバチの大量死や失踪があった場所では農薬の散布が行われています。


昔から養蜂家にとって農薬は脅威です。飛んでいった先の田畑で農薬がまかれればハチは死んでしまいます。かつては「田畑は自分のものだから農薬をまくのは自由、飛んでくるミツバチの方が悪い」とさえ言われていました。ようやく最近少し意識が変わってきて、田んぼは「多様な生物が生きる重要な生態系」だとなってきてます。ただ、現実に本当に田んぼに多くの生きものはいるんだろうか。今、単位面積あたり世界一農薬をまいてるのは日本です。1平方キロに1.5トンです。EU諸国の有機農法率は3~6%くらいですが、日本は0.1%台です。


研究開発が進んで、今の農薬は昔とはだいぶ変わってきています。ひとつは、昆虫の種類によって特異的に効くものがある。昔の農薬はすべての昆虫をやっつけようとしていたわけですが、今はたとえばカメムシ用の農薬はダニやクモには影響が少ない。しかしミツバチは死ぬ、というようなことが起こります。


二番目に、遅効性というのか、使ってすぐに影響が出ず、2カ月、3カ月後に影響が出るようなものがある。ミツバチで言えば、普通の働き蜂の寿命は1カ月程度です。成虫はこの農薬に接触しても死なないので、花粉を持って巣に帰ってきます。その花粉を幼虫と女王蜂が食べます。体や卵をつくるために、花粉のタンパク質が必要なんですね。それで幼虫や女王蜂に問題が起きます。成虫になったときに飛べないハチや、子どもをあまり産まない女王蜂が今、出てきています。

三つ目は、きわめて低レベルで効果がある。何ppmという単位よりもずっと下だから、検査しても検出されなかったりする。ニホンミツバチは嗅覚が鋭いのでセイヨウミツバチより被害は少ないと思いますが、そのニホンミツバチすら判別できないような農薬があるんです。


昔の農薬は被害がすぐに直接的に現れましたが、今の農薬はそうではない。このことが問題をややこしくしていると思います。でも、私はこの特徴は蜂群崩壊症候群の現象と合致していると思う。死なないけれど免疫が落ちる、知覚神経がおかしくなる、という農薬だってあるんです。でもそれだって、養蜂家にとっては大変な脅威です。


思うんですが、有機農法では農家が食べていけないとよく言われますけど、本当にその計算は正しいんだろうか。今、農家が高齢化していて苦労できないのも確かだけど…。農産物の値段はもっと高くていいと思いますし、今、日本では見た目がきれいなものを争ってつくってるけど、そうでなく、もっと安全なものをつくる競争をしたほうがいい。食べものをもっと大切に食べるということも大事だと思います。

--ニホンミツバチの大量死は主に九州、広島で起きているそうですが、対馬はどうでしょう。今度、対馬へ取材に行くのですが。

藤原対馬ではほとんど起きていません。あそこは面積の約9割が森林で、あとはほとんど商業地帯ですから、農薬があまり使われていないということもあるんじゃないかな。対馬の蜂蜜はすごいですよ。まるで味が違う。あんな小さい島でね、同じ時期に採って、味がそれぞれ違うのには、本当に驚きました。自然の宝ですね。2キロ離れるだけで植生が変わるということなんでしょうね。標高差や地層による栄養成分の違いもあるかもしれない。

▲ (左)対馬では丸太をくり抜いた蜂洞が巣箱としてよく利用されている。(写真:市川ゆかり)

/(右)対馬産の自家製ハチミツ。(写真:さげさかのりこ)

--最後に、藤原さんにとって自然とは何ですか?

藤原自然というのは、人間にはつくれないけど、人間が一番必要とする基本成分じゃないかな。蜂蜜も、「神様からもらった薬」と捉えているところが世界中にあります。ハナバチ(花蜂)の仲間は自然環境の変化に敏感なので、これに属するミツバチがいるかどうかでそこの環境の良し悪しもわかります。だから私は、ミツバチは環境指標的動物だと言っています。今、日本では養蜂家がどんどん減っていますが、ハチを飼うのをやめたら、その人だけの問題ではなく、森や自然、農業も守ることができなくなると思っています。自然を一番いじめない職業が養蜂なんです。


でも、今の日本では経済的に採算のとれる動物でないと誰も注目してくれないし、発言権もない。だから私はニホンミツバチ専用の、採蜜しやすい巣箱を開発したりもしています。でも、蜂蜜をたくさん集めるようにハチを品種改良しようとか、おとなしいハチをつくろうとかは、絶対に思いません。ミツバチの小さな視点から世界を見てごらんなさい。自然は人間がつくったものではないし、つくれるものでもないということがわかりますよ。

(2010年12月12日、都内にてインタビュー/聞き手 市川ゆかり)


藤原 誠太 さん

(ふじわら・せいた)/ 養蜂家。藤原養蜂場(岩手県盛岡市)場長。東京農業大学在学中、北南米にミツバチ研究の旅に出、帰国後の1989年に「日本在来種みつばちの会」を立ち上げ、会長となる。現在、東京農業大学客員教授。2006年より銀座ミツバチプロジェクトの指導役。各地でニホンミツバチや養蜂の普及啓発に努めている。農林水産大臣賞、大日本農会緑白綬有功章受章。
>>藤原養蜂場
http://www.fujiwara-yoho.co.jp/
>>日本在来種みつばちの会
http://www.nihon-bachi.org/

PAGETOP