取材・文 市川ゆかり イラスト・さげさかのりこ
取材協力(方言校正含む):扇米稔、神宮正芳、長瀬正敏、対馬森林組合/扇次男、対馬市日本ミツバチ部会/齋藤茂人、藤原養蜂場/藤原誠太(敬称略)
この蜂蜜、舐めてみてください。どうですか? どこか違いませんか? 対馬の蜂蜜は、蜜源が山に生えとる樹の蜜です。対馬は面積の9割近くが山ですけ、シイやらクリやらトリモチやら、樹の花が多い。ニホンミツバチは自分の巣から2km内にある自然の草木の蜜を集めます。蜂蜜の味の違いは、蜜源の違い。もっと言うと、蜂洞(巣箱)ごとに味は違うですたい。それは対馬の樹の種類が多いからやろうと考えとります。
ハチがよう行くのは小さい花なんです。樹木の花は小さいですね。ツゲやモチノキなんか、わんわんおりますよ。ハチは樹木や草花から蜜をもろうて、その代わり受粉をしとります。ミツバチなんかの昆虫や鳥がおらんと、花が咲いても実がならん。実がならんと次の代の樹が育たん。そういう問題があります。
樹ちゅうのは若いうちはさほど花はつかんで、100年以上のような古木になるとつくとです。対馬も古木が少のうなりましたが、原生林や神社には残っとっとです。私は龍良山(たつらさん)や白嶽(しらたけ)のあたりを通るたび、このあたりのハチはいいはずじゃち思う。椎ノ木段(しいのぎだん)なんかは植林だらけだが、スギやヒノキにはハチは行かん。蜂洞は広葉樹林のあるとこに据えな、いけん。若い木のところに据えたち、蜂蜜は採れんです。
戦後の拡大造林で、需要もあって、対馬でもスギやヒノキを植えましたが、ハチや生きもののためだけを言うなら、ようない面はあったですね。スギやヒノキ以外の雑木も、薪や木炭などの燃料にするためにずいぶん切ってしもうたし、花は減ったように思います。農業も変わりました。昔は木庭作(こばさく)いうて、焼き畑農業ですね。焼いた畑にソバをつくっとったです。田んぼの畦にはナタネやレンゲも生えとって、蜜源が多かった。今は木庭もせんし、ハチからすりゃ、環境はようないですよ。
若木ばかりの山は、海のためにもならんです。海の近くに古い豊かな山があれば、栄養のある山の水が流れてきて、海も豊かになると言われとります。対馬でも、昔はワカメやヒジキやカジメが豊富にあったですたい。それで生活できるくらいあった。今は海の中が真っ白。魚が食べる海藻が少ないから、魚も減った。昔はもっと沿岸でも捕れたですよ。東海岸はイカ、西海岸はブリやサバ。ウニもアワビもあった。私も船を何艘も持っとりましたが、もうやめました。
そう、対馬の人は「なんでも屋」ちゅうて、農業もすれば漁業もします。林業、炭焼き、シイタケづくり。せん仕事はない。だけどそこに海があり、山があるからそれができるわけで。蜂蜜も、山があるから採れるとです。
ハチちゅうのは人間の都合や「つもり」は通用せん。ハチの気持ちにならんとハチ飼いはできん。でも欲張らず、山を大事にして、ハチの手助けをしてやれば、対馬の自然はこんな素晴らしい蜂蜜をつくり出してくれるとです。さ、もうひとさじ。舐めてみんね。




