くらしと自然のつながり再発見!

自然の恵み・インタビュー 岡村 興太郎 さん

1回や2回、3年とか5年でおしまいになってしまうのではダメ。温泉も自然も観光も、一過性でなくて、持続可能ということが大切です。

吉野川河口干潟(写真:とくしま自然観察の会)

--まず、AKAYAプロジェクトがどのようにできたかを教えてください。

岡村:新治村では1980年くらいからスキー場の開発計画があり、1990年に大きなスキーリゾート計画となってあらわれました。しかもその場所は、村の水源地のひとつだったのです。開発で水源や温泉源が寸断されたり、飲料水が汚染されてはかなわない。それで、猿ヶ京の民宿のご主人や湯宿温泉の金田屋さんなど、温泉宿の主人たち数名が立ち上がり、「新治村の自然を守る会」を結成したのです。 そして相談に行った日本自然保護協会で協力を得ることができまして、まず、ヘリコプターに乗って現地を見ることになったのです。1月だったと思います。ヘリから見ていましたら、イヌワシが2羽並んで飛んでいたんです。それで、ここには各地で絶滅しそうになっているイヌワシがいるぞ、じゃあ、すみかを見つけよう、ということになりました。イヌワシの生息域を科学的に調べて、開発計画が彼らにどう影響するのか予測しよう、というわけです。10km四方もあるこの赤谷の森を、朝から晩まで双眼鏡を持って歩きました。そしてイヌワシの姿を探していたとき、川古温泉のあたりで、これも絶滅危惧種のクマタカの夫婦まで見つけたのです。このころ新治村には、川古温泉の近くに建設省直轄のダムをつくるという計画もありました。そこで、イヌワシと並行してクマタカの調査も行うことにしたわけです。

吉野川第十堰

新治村での猛禽調査(1995年5月当時の写真)


10年間、悪戦苦闘しました。調査を専門家に頼む方法もあるのでしょうが、私たちはお金がないもので、日本自然保護協会の指導を受けながら同志を募って、手弁当で調査したのです。初めて双眼鏡をのぞくような素人が集まってやってるわけで、最初の3年くらいはまったく役に立ちません。見つけたと思ったらカラスだったり、トビだったり。イヌワシとクマタカ、雄と雌を判定する能力もない。どこに飛んで行っているか、何をしているかまで調べないといけないのですが、見つけるだけでも難しかった。 それでも調査を始めて1年くらいでイヌワシの巣も見つかりまして、1999年に報告書をまとめ上げました。この自主調査の結果を新聞発表したんです。そうしたら翌年の正月、スキー場もダムも中止になりました。それで、いい水源と温泉があって、イヌワシがいてクマタカがいて、東京から1時間ちょっとで来られるところにこんな素晴らしい自然があるんだから、この地域をもっといい自然に戻そう。もうちょっと山に手を入れてやれば、さらに素晴らしい場所になるんじゃないかということで、当時ここを管理していた前橋営林局に働きかけまして、林野庁関東森林管理局と日本自然保護協会と地域協議会――地元の私たちですね――、この3者が協力するプロジェクトが始まったわけです。それがAKAYAプロジェクトなのです。

--AKAYAプロジェクトで自然を守っていくことで、身近なところではどんなことが期待できますか?

岡村 そうですね、いろいろありますが、たとえば私は自然林を増やすことでキノコや山菜が増えてくれるといいなと思っています。山がやせてくるとキノコの出が悪くなりますね。マイタケだとかカタハだとか、キノコがたくさんあるはずなんです。山が人工林ばかりになったり、山に入る人が荒らし過ぎたりして、やせているんだと思います。昔はリュックにキノコを山ほどしょって帰ってくる人がいっぱいいたものですが。

ただ、キノコでも山菜でもそうですが、地元の人は見つけるとまた来年も取りたいものですから、それを大事にするわけです。ところが外の人は根こそぎ持って行ってしまったりするのです。そうすると次の年に出てこなくなるでしょう。この繰り返しで自然の恵みが絶えてしまうことがあります。うちもそうですが、このあたりは観光地ですので、お客さんが来てくださらないと困る一方で、そういうジレンマがあります。

--外から大勢の人が来ることで自然が壊されてしまう場合もあるんですね。

シオマネキ

赤谷の森のマイタケ

岡村:最近、エコツアーが流行ってきていますが、とにかくお金になればいいという考え方ではダメですよ。循環可能な範囲で利用するのでなければ、その土地に入る資格はないと思います。自然を使い捨てにする観光なんて、もってのほかですね。1回や2回、3年とか5年でおしまいになってしまうのではダメ。温泉もそうだし、キノコもそうだし、山菜もそう。持続可能な範囲、ちゃんと再生産できる範囲というのは決まっていると思います。それを少しでも超えてしまうと、とくに自然を相手にしたものはダメだと思いますね。

温泉にも同じことが言えるんです。たとえば、法師温泉の大浴場は2時間で全部入れ替わるくらいの量のお湯が常時湧いています。ということは、2時間できれいになる程度の人数が入っている分には、非常に快適なのです。それ以上入ると不快感がある。お掃除のことは別に考えてですよ。しかし、お客様 はちょうどうまくは来てくれないんです。土曜日や日曜日はたくさん来て、翌日は来なかったりします。でも、いっぱいだからって断ることもできないし、難しいんですよ(笑)。

何にでも許容量というものがあるんじゃないでしょうか。超えてはいけない一線が。温泉も腹八分目くらいで使っていれば、永遠に枯れないで済むんです。それを腹十一分目くらいまで使うから、だんだん枯渇してきてしまう。今、どこの温泉でも水位が下がったり温度が下がったりしています。結局、地上にある浴槽に合わせて汲み出すから、どうしても汲み出しすぎてしまうんでしょうね。それで枯渇してしまう。

--温泉が枯渇することもあるんですか?

岡村:温泉というのはもともと、降った雨が地面にしみこんで、何十年、何百年という時間をかけて、地下のいろいろな岩石の成分をもらいながら、地表に再び出てきたものなのです。湧き出したあとはすぐに酸化し、川に流れていって、温泉としての一生を終わります。川に流れていった水は雨になってまた戻ってきますから、降った雨が絶えず循環していると言えます。その自然の原理をいじらなければ、いじめなければ、温泉は永遠に湧いてくるはずなのです。水収支のバランスを崩さなければ、枯れるなんてあり得ないのです。スキー場をつくったりダムをつくったりして水脈を寸断してしまったら、その循環が途切れてしまいます。水の入ってくる入り口が断たれてしまうので、温泉は致命的な打撃を受けるんです。

法師温泉長寿館「法師乃湯」

今の温泉はボーリングして出すことが多いのですが、昔からの自然湧出の温泉というのは、自然に湧いて出たものをそのまま利用するので、周囲の環境の変化に最も左右されます。法師温泉も川古温泉も湯宿温泉も自然湧出です。群馬の温泉はまだ自然湧出泉が残っています。群馬県には465カ所の温泉がありまして、温泉大国なんですね。自然湧出の温泉はそのうちの5割くらいかと思います。自然湧出で、湧き口の上に湯船があって入浴できるところはさらに少なくて、全国で二十数か所ですが、法師温泉はそのひとつです。トリチウム調査という方法で、湧いている温泉がいつごろの雨水なのか調べたことがありますが、現在湧き出しているのは50~60年前に降った雨水だということが分かっています。 今のところ、スキー場もダムもなくなったので、よほどいじめなければ、自然水でなんとか回転してくれるかなと思っています。

--では、これから先もずっと私たちは法師温泉や川古温泉のお湯を楽しむことができるわけですね?

井口:いえ、それが、新しい問題も起きてきているのです。ひとつは、三国トンネルが竣工から50余年を経過して、漏水も多いし、せまくもなったということで、もう一つトンネルを掘る計画ができています。その計画地は湧出地から1.5kmくらいで、非常に近いものですから、工事で雨水を吸い込む涵養口を切られてしまうのではないかと心配しています。人間で言うところの動脈や静脈のようなものですから、切られると困るのです。雨水がどのへんから入ってくるのか調べてからやってほしいと言っているのですが・・・・・・。4、5年前からは自分たちで専門家にお願いして調べているところです。

もう一つ心配しているのは、内閣府の規制・制度改革の議論の中で、グリーンイノベーション・ワーキンググループなどが、二酸化炭素を削減するために地熱や風力エネルギーを利用しようと言っていますね。その中に温泉も入っています。温泉熱は優秀な熱源利用ですから、狙われているんです。このあたりは国立公園特別地域で、本来はむやみな開発はできないはずなのですが、国立公園というのは地表だけで、地面から下は関係ないという考え方があるのです(※)。このまま規制緩和が進んだら、地熱や温泉源は地下にありますし、トンネルが地中で自由に曲がったり上下したりできるように、地熱や温泉源もOKをとった市町村から掘り始めて、熱源のあるところまで来て、それをいただくということができるわけです。地熱のある温泉地では今、あちこちでそういう問題が起きていて、激しい攻防をしています。

--温泉も生きものと同じように守る必要がありますね。ありがとうございました。

(2010年10月3日、法師温泉長寿館にてインタビュー/聞き手 市川ゆかり)


※ 国立・国定公園の開発には、地表・地下にかかわらず自然公園法上の規制がある。また国立公園内の地熱開発については、環境省がこれまでに出した2つの通知(昭和47年通知「当分の間、新規の調査工事および開発を推進しないものとする」と、昭和49年通知「全国地熱基礎調査等については地表調査に限定して認める」)による規制がある。しかし現在、政府・行政刷新会議のグリーンイノベーション・ワーキンググループで、この規制を緩和すべきとの意見が出て、議論がされている。(2011年2月現在)

岡村 興太郎 さん

(おかむら・こうたろう)/ 法師温泉長寿館代表取締役。赤谷プロジェクト地域協議会会長として群馬県新治地域の自然を守り、暮らしを守るAKAYAプロジェクトにかかわる。(社)群馬県温泉協会会長、(社)日本秘湯を守る会副会長、(社)日本温泉協会副会長。

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