取材・文 市川ゆかり イラスト・さげさかのりこ
取材協力:防衛大学校/菅原広史、明治神宮林苑/沖沢幸二、シェアリングアース協会/藤本和典、東京農工大学名誉教授/亀山章(以上、敬称略)
これはケヤキです。そちらの木はシイですね。お隣はクスノキ。いろいろな樹がありますでしょう。高さも形もいろいろ。葉の色も、深緑色から常磐緑、翡翠、萌黄色……樹木1本1本で違います。
ここは神社の杜ですので、木を刈り込んだり、やたらに切ったり植えたりということはいたしません。それが庭園や里やまと違うところです。だから樹木がうっそうとしているんですね。上の方なんて、ほら、緑の天蓋のようでしょう。そうですね、高さ20mくらいの木が多いですかね。ここは涼しいですよ。森の中でこうして緑に包まれていると本当に気持ちがいい。街の騒音も聞こえません。
ここへは参拝以外の方がたも大勢いらっしゃいます。散歩に来られる方、野鳥の観察や撮影に来られる方。皆さんそれぞれに自然を楽しんでゆかれます。これだけの森ですから、生きものも多いんですよ。鳥もたくさんおりますし、昆虫や土壌生物も、相当。
この明治神宮は東京のクールスポットのひとつといわれておりましてね。東京は、エアコンの排熱や、アスファルトにたまる熱で「ヒートアイランド現象」が起きて、年々暑くなっておりますね。ところが、ここや皇居や新宿御苑など、ある程度大きな緑地は、周りの市街地よりも気温が低い。なぜかと申しますと、日中、植物は蒸散といって、葉などから水蒸気を放出しますが、その水蒸気が蒸発するときに気温を下げるのですね。また、大きな樹木は木陰をつくるので、地面に熱がたまりにくい。それから、芝地などでは夜に放射冷却現象が起きて、地表面や空気を冷やします。こういったことから、森や林、公園などには夏でも冷たい空気がたまって、涼しい「クールアイランド」になるのです。
今、東京は緑があまりにも少なく、この明治神宮も緑の孤島のような状態です。が、緑地が増えてつながっていけば、森の冷たい空気が緑地を伝って広がり、ヒートアイランドをクールダウンすることができると言われています。冷たい海風を利用できればさらに効果は上がるでしょうね。緑がつながると、生きものもそこを行き来できますから、生物多様性の面でも貢献するはずです。
森をつくることなんてできないだろう、ですって? 明治神宮の森は、人間が手を加えずとも永続する森を目指して、90年前につくられた人工林なのですよ。その前は、この辺りはほとんど原っぱでした。人工林である証拠に、クスノキが大きく育っていますね。クスノキは、元々は西日本の木です。大気汚染に強いということで当時植えられたそうです。今なら地域の在来植生や遺伝子の多様性をより慎重に考慮した計画も必要ですが、この時代に100年、150年計画で森を再生しようとした試みは、私たちに多くの恵みと学びの場を与えてくれます。適切な計画と深い知恵があれば、人がこうした森を都会に増やしていくことも不可能ではない。この森を見ているとそんな気持ちになりませんか?




