
五十嵐:岩石採取はまずそこに生えてる木を全部伐って、表土をどけて岩盤を露出させてから、岩盤を砕くんです。砕いた石はダンプで運び出して港湾工事に使ってます。今の現場は特に大規模で、申請されている掘採面積が7万9873平米と聞いています。
胴腹滝は最近の湧水ブームで県外からも水を汲みに来たりしてますが、昔から遊佐の山手地域の水田の水供給源なんです。公共水道ができる前はあの水を飲料水にしてたし、下にある内水面水産センターもあそこの水を利用してる。なので地元としては、ああして採石で上のほうを触られると地下水脈が変わって水の供給が変わるんじゃないの、田んぼに水が来なくなるんじゃないのということが一番の気がかりです。
ただ、岩石採取をしてるところは業者の私有地で、県の認可も下りている。法律にのっとってきちんとやっていると言われれば、こちらはただやめてもらえませんかねとしか言えない。そのへんのもどかしさはありますね。
五十嵐:おそらくは。鳥海山にはいろんな地下水脈があるんで、吹浦の海さ行けば、どこを流れてくるかわからないけど、真水が噴き出してるわけで。それだってどこかで何かやれば変わる可能性があるんです。ただ、これは地面の下のことで、はっきりしたことはわからないから、可能性があるとしか言えない。それがわれわれの弱いところですね。
今、胴腹滝周辺環境保全協議会が胴腹滝の水量調査を毎日やってるので、今後そういうデータを専門家に見てもらったり、業者との話し合いの席に持っていけないかと思っているんです。一度水脈調査をやろうかという話も出たが、相当広範囲にお金をかけてやらないとダメなようなので、それは無理かなと。
去年までわれわれは胴腹滝周辺環境保全協議会や横堰水利組合など、あのへんの水を利用している皆さんと一緒に活動してきて、その延長で40アールのトラスト地を取得して、そこは開発できないようにしたんです。そのトラスト地を今後どうしていくかについても、これからいろんな人にアドバイスをもらいながら考えていきたいと思ってます。
五十嵐:反対は反対でしょう。ただ、不景気なので、依頼が行けば背に腹はかえられないと、地元の人もダンプに乗って石の運搬をしていたりする現実があります。「俺の息子もそこに勤めてるもんだからの」「今仕事無(ね)ぐで、そこさ行ってんだの」と言われれば、こちらも強いことは言えない。そんなこともあって、町が一丸となって反対運動を起こすような気運になっていないんです。
実は、遊佐の山手では採石問題はしょっちゅう起きていた問題なんです。今の採石場は1999年から掘っていますが、その前は庭石ブームで1個売れば30万円という時代で、ばんばん取っていた。しかしその業者は地元業者だったので、地元に反対されてまでやる気はないと言って撤退したんです。鳥海山には今もいろんな採石業者の取得している土地がいっぱいあります。ただ、そこまで行く運送道路がなく、自前でつくらないといけない。今は不況で道までつくれないで、ほったらかしになってるんでしょう。
五十嵐:前の業者のときは、掘ったあとはすぐそこを埋めて植栽しながらやりますと言っていた。しかし、その業者は倒産したので、ほとんど守られなかった。今の業者はそういうことはあまりやる気がないようで、それも困っています。
というのは、10年に一度とか5年に一度というような大雨が降ったとき、どうなるのか。ほとんど岩だったところに残土だけ埋め戻しても馴染まないだろうし、保水能力がどこまで回復するのか。おそらく、雨が降ればオーバーフローみたいな感じになって水が溢れて、余った水は地表を走るんじゃないか。その水はどこさ落ちるのや、と。
山手にあるしらい自然館のあたりでは実際、何年か前の大雨のときに、今まで経験したことのないような量の水が流れたことがあって、床下浸水になりかけたんです。住んでる人たちも、今まで何十年住んでて、こんなことは無(ね)がったと。これはあくまで予想だけど、採石が影響してるんじゃないのと。ただ、これもまだ科学的に立証はできない。問題はそこで、「何かおかしい」というわれわれの生活感覚は評価されないんです。
月光川だって、昔は山手からこのへんまでずっと、子どもが泳げるような深さの川だった。ところが今は水が涸れてきてます。胴腹滝の下には100年も前につくった人工水路があって、横堰水利組合の皆さんが手入れしてるんだが、その水路にも昔はイワナやカニやいろんなものがいたのが、ほとんどいなくなってきてる。
いったんなくなったら、復活させるのは難しいんです。だから枯渇する前に、ギリギリここでやめようよというルールがないと駄目だと思う。もう少し考えを改めていかないと、地元だって、行政だって、あとあと困ることになると思うんですが。
(2009年8月8日 鳥海自然ネットワーク事務所にてインタビュー/聞き手 市川ゆかり)

(いがらしとしゆき)/NPO鳥海自然ネットワーク理事。
NPO鳥海自然ネットワーク
1999年から山形県遊佐町を拠点に、鳥海山域の自然環境の保全と、その活用による地域づくりを目標として活動している。活動の原点は鳥海山の水源を守ることにあり、そのためのトラスト運動も展開している。