岩手県五葉山のみに分布するゴヨウザンヨウラクの保全生物学的研究Conservation biology of Menziesia goyozanensis endemic only to Mt. Goyo, Iwate Prefecture.

著者名Authors

ゴヨウザンヨウラクの保護を考える会The group for the conservation of Menziesia goyozanensis

牧雅之Masayuki Maki1)・ 福田達哉Tatsuya Fukuda2)・ 山口賢一Ken'ichi Yamaguchi2)・ 堀江佐知子Sachiko Horie2)・ 横山潤Jun Yokoyama1)

著者所属Affiliations

  1. 1) 東北大学大学院生命科学研究科 (〒980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉)
    Division of Ecology and Evolutionary Biology, Graduate School of Life Sciences, Tohoku University
  2. 2) 東北大学大学院理学研究科 (〒980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉)
    Biological Institute, Graduate School of Science, Tohoku University

要約Summary

ゴヨウザンヨウラクは、レッドデータブックでは、「絶滅危惧IA類」として扱われている。本研究では、ゴヨウザンヨウラクの生育の現状、起源、遺伝的多様性について調査・解析を行った。本調査では、五葉山の南東斜面において、ゴヨウザンヨウラクの群落を再確認した。開花個体数は50~60であり、それ以外に稚樹が多数存在した。分子系統学的解析を行ったところ、ゴヨウザンヨウラクが最も近いのは、国内に広く分布するコヨウラクツツジであること可能性が最も高かった。また、ゴヨウザンヨウラクとコヨウラクツツジで、遺伝的多様性を比較した結果、ゴヨウザンヨウラクはコヨウラクツツジに比べて遺伝的多様性がかなり低いことが明らかとなった。ゴヨウザンヨウラクは個体数が少ないので、植物園などでも保護しておく必要があると思われる。その際には、あらかじめ遺伝的解析を行って、全ての異なる遺伝子型の個体を維持できるように配慮すべきである。


Menziesia goyozanensis is a shrub species endemic only to Mt. Goyo in the northern Japan. This species is listed as "critically endangered" in the Red Data Book of wild plants in Japan, and only a population has been known so far. Allozyme diversity and RAPD variation are compared between M. goyozanensis and its widespread congener M. pentandra. Menziesia pentandra has eight and three times diversity more than M. goyozanensis does in both allozyme and RAPD, respectively, although we examined only five populations representing a part of the distribution of M. pentandra. Because the environment surrounding the population of M. goyozanensis seems to be stable at present, it is not necessary to plan urgently an ecological conservation practice for the species. However, considering that the habitat of M. goyozanensis is very small and large vegetative disturbances occasionally occur in cool temperate forests, in which the species dwells, ex situ conservation is essential.

1. はじめに

ゴヨウザンヨウラク(Menziesia goyozanensis M. Kikuchi)は、1962年に菊池政雄によって新種記載されたツツジ科の落葉低木である。この種は、岩手県の中部海岸よりの五葉山(標高1,341m)で発見され、その後、ここ以外の場所では見つかっていない、きわめて分布域が限られた種である。

環境庁のレッドデータブック2000年度版では、この種は絶滅危惧IA類としてリストアップされており、調査が行われた時点では「枯死直前と思われる1個体が確認されただけである」とされている。本研究の目的は、ゴヨウザンヨウラクの保全対策のための基礎的情報を集めることを目的とした。そのために、(1) ゴヨウザンヨウラクの生育状況を明らかにする、(2) ゴヨウザンヨウラクの種としての起源を明らかにする、(3) ゴヨウザンヨウラクの遺伝的多様性を明らかにする、ことを主な課題とし、これらの結果からゴヨウザンヨウラクの保護を行うための対策を考察することにした。

2. ゴヨウザンヨウラクの生育状況

レッドデータブックでは1個体のみが確認されたことになっているが、本研究の開始以前から、不確かではあるが、生育地が残されているとの情報があった。そこで本研究ではまず第一に、ゴヨウザンヨウラクの生育状況を確認することを目標とした。

2000年の11月に、五葉山の東側斜面から登山道を登り、情報を頼りに森林内を探索した。細かい位置情報は、現地保護の観点からあえて記載しないが、ゴヨウザンヨウラクの生育を葉の形質から確認することができた。そこで、2001年の6月に再び現地を訪れ、個体数などの確認を行った。花期に若干遅かったが、開花個体はほぼ等高線に沿って生育しており、約60個体を確認することが出来た。その生育面積は100 x 10m以下のきわめて限られた範囲である。自生地では、実生から更新したと思われる幼木も多数確認され、ゴヨウザンヨウラクが種子による更新を行っていることが確認できた。また結実は、少なくとも2001年度を見る限り、個体にばらつきはあるものの、十分な量が見られる。十分な観察ではないが、送粉に貢献すると考えられるハナバチ類の訪花も見られた。

生育地は、ヒノキアスナロとブナからなる混交林で、この地域ではあまり多くない植生である。斜面はかなり急で、岩が多く露出している。五葉山は、シカの分布の本州における北限にあたり、個体数も少なくない。しかし、ゴヨウザンヨウラクが食害にあっている様子はなかった。

3. ゴヨウザンヨウラクの起源に関する解析

ゴヨウザンヨウラクは花が4数性を示す点で、日本産のヨウラクツツジ属の植物としては、非常に特異である。同様の形質を持つ種は、九州に分布するヨウラクツツジがあるが、ゴヨウザンヨウラクは葉の表面に2列の毛があること、花が左右相称形であること、花冠の色が2色で背面が淡紅色で腹面が淡黄色であることなど、かならずしも形態の上からでは近縁であるとは考えられない特徴を持っている。

五葉山には、ゴヨウザンヨウラクのほかに固有種は見られず、特別変わった植生がみられるわけでもない。したがって、ゴヨウザンヨウラクの分布はきわめて奇妙である。このような種が近縁などの種から分化してきたかを明らかにすることは、この種の保全対策に限らず、稀少種全般について、その種の成立から見た保全に役立つと考えられる。そこで、ヨウラクツツジ属から合計8種(国産6種、北米産2種)を選び、分子系統学的解析を行った。

系統解析に用いた種は、国産のコヨウラクツツジ(Menziesia pentandra)、ウラジロヨウラク(M. multiflora)、ホザキツリガネツツジ(M. katsumatae)、ツリガネツツジ(M. cilicalyx)、ヨウラクツツジ(M. purpurea)およびゴヨウザンヨウラクと北米産の M. ferrugineaM. pilosa の2種である。これらの生きた個体もしくはさく葉標本から葉を採取し、液体窒素を加えて、乳鉢と乳棒を用いて、細かく破砕した。これにCTABを加えて、30分間静置し、その後、クロロフォルムとイソアミルアルコールを24:1量に調整した液を等量加え、15分間転倒混和した。その後、遠心分離器で4℃、10分間15000rpmで遠心し、得られた沈殿物をTEバッファーに溶かした。

系統解析を行うために、葉緑体DNAおよび核DNAの一部の塩基配列を決定した。用いた領域は、葉緑体DNAはmat K遺伝子、trn Lのイントロン、trn Lとtrn Fの間の遺伝子間領域、およびpsb Aとtrn Hの遺伝子間領域の4領域であり、核DNAでは18Sと26SリボゾーマルDNA間のITS(Internal Transcribed Spacer)領域である。これらの領域を、ユニバーサルプライマーを用いて、PCR反応によって増幅させた。増幅したDNAは1% SeaPlaque GTGアガロースゲルで電気泳動し、目的の断片を切り出して回収した。回収された DNAを用いて、サイクルシーケンス反応を行い、精製後、塩基配列の決定を行った。塩基配列の決定は、アプライドバイオシステム社製DNAオートシーケンサABI373A型を用いた。決定された領域は、葉緑体DNAが合計2,314塩基、核DNAが614塩基である。

得られた塩基配列をアラインメントした後、PAUP ver. 3.1.1パッケージを用いて、最節約法による系統樹の作成を行った。系統樹の各枝の信頼度は、ブートストラップ解析(10000回反復)により検討した。外群には、ツツジ属のバイカツツジ(Rhododendron semibarbatum)とヤマツツジ(R. kaempferi)の2種をとった。

得られた最節約系統樹をFig 1に示す。葉緑体DNAによる系統解析では、ゴヨウザンヨウラクは、国産の他の5種と単系統になり、北米産の2種とは異なるクラスターを形成した。しかし、国産の5種のどの種と近いかについては、葉緑体DNAの変異からは推定することが出来なかった。一方、核DNAのITS領域による解析では、ゴヨウザンヨウラクは、国産のコヨウラクツツジおよび北米産の2種と単系統性を示し、国産の残りの4種は別のクラスターを形成した。これらの結果を考慮すると、ゴヨウザンヨウラクにもっとも近縁な種は、コヨウラクツツジであると考えられる。

Fig.1 Phylogenetic status of Menziesia goyozanensis.

Fig 1 Phylogenetic status of Menziesia goyozanensis
Upper panel: based on cpDNA variaion, Lower panel: based on nuclear ITS variation.

コヨウラクツツジは、国内の冷温帯域に広く分布し、ゴヨウザンヨウラクとも生態的に類似している。事実五葉山では、この2種は同所的に生育している。

ゴヨウザンヨウラクの起源については、二通りの可能性がある。一つは、ごく近い過去にコヨウラクツツジから分化したため、分布域が極端に限られる可能性と、コヨウラクツツジから分化したのは古く、分布域も以前は広かったが、その後のさまざまな要因で集団の多くが絶滅し、現在のような極端に狭い分布になった可能性である。ゴヨウザンヨウラクが、ヨウラクツツジ属の中できわめて特異的な形態をもっていることと、コヨウラクツツジとゴヨウザンヨウラクが同所的に存在することを考えると、前者の可能性は低いように思われる。しかし、後者の場合を想定しても、ゴヨウザンヨウラクが現在のような分布になった理由は不明である。絶滅危惧植物は、特殊な環境に遺存している場合が少なくないが、ゴヨウザンヨウラクの生育地は特に変わった環境でもなく、また同じような分布パターンを示す種が他にないことからも、非常に奇妙であるといえる。ゴヨウザンヨウラクの起源に関しては、今後、さらに核DNA変異を用いるなどして、解析する必要がある。

4. ゴヨウザンヨウラクの遺伝的多様性

生物種の存続には、遺伝的多様性が維持されていることが必要である。これは、ある特定の種が環境(物理的および生物的)の変動に対応するためには、遺伝的な変異をその種にもっていなければならないことによる。

一般に絶滅の危機にさらされている種は、個体数が少なく、そのために維持されている遺伝的多様性が小さいことが予想される。ゴヨウザンヨウラクも、現存する個体数はきわめて少ないために、遺伝的多様性が減少している可能性があり、そのことがゴヨウザンヨウラクの存続の障害になりうるかもしれない。そこで本研究では、ゴヨウザンヨウラクの遺伝的多様性を推定することにした。

稀少生物の遺伝的多様性は、これまでにも多くの種によって行われてきている。しかし、稀少種を単独で解析しても、稀少であるために遺伝的多様性が減少しているのかどうかは明らかではない。また、生活型や系統が全く異なる種間で遺伝的多様性を比較しても、有意義であるとは考えにくい。そこで本研究では、上記2での結果をふまえて、近縁でかつ生活型もよく似ているコヨウラクツツジを比較の対象として選び、酵素多型およびRAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)を用いて、ゴヨウザンヨウラクの遺伝的多様性について解析を行った。

ゴヨウザンヨウラクは調査を行った集団から、コヨウラクツツジについては、Fig 2に示すような5集団から、それぞれ24、34個体について葉をサンプリングして、実験室に持ち帰って用いた。採取に際しては、葉を数枚サンプリングするのにとどめ、個体の存続に影響がでないように留意した。

Fig.2 Localities of the population sampled in this study.

Fig 2 Localities of the population sampled in this study
G and P1 - P5 indicate the populations of Menziesia goyozanensis and M. pentandra, respectively. Population G and P1 are located at the same site on Mt. Goyo.

持ち帰ったサンプルについて、酵素多型解析については、界面活性剤、還元剤などを含む緩衝液中ですりつぶして、4℃、10分間15,000rpmで遠心し、その上清を酵素粗抽出液として用いた。これを、ポリアクリルアミドゲルをもちいた平板ディスク電気泳動により、分離を行った。電気泳動終了後活性染色を行い、ザイモグラムを得た。用いた酵素は合計10種で、アルドラーゼ(ALD)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AAT)、アルコール脱水素酵素(ADH)、グルタミン酸脱水素酵素(GDH)、リンゴ酸脱水素酵素(MDH)、メナジオン還元酵素(MNR)、フォスフォグルコムターゼ(PGM)、スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)、トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)である。これらの酵素から合計18遺伝子座を検出することが出来た。これらの遺伝子座について、個体の遺伝子型を決定し、それに基づいて、集団ごとに対立遺伝子頻度および遺伝的多様性を示すいくつかのパラメータを計算した。

RAPDについては、酵素多型と同じ集団から各集団8個体ずつを解析に用いた。トータル DNAの抽出法は、上記2で用いた方法と同様である。このDNAを用いて、11種のランダムプライマーを用いてPCRを行い、増幅断片を得た。用いたランダムプライマーは、オペロン・テクノロジー社製のもので、OPA-01 (5' -CAGGCCCTTC -3')、OPA-09 (5' -GGGTAACGCC -3')、OPA-10 (5' -GTGATCGCAG -3')、OPA-11 (5' -CAATCGCCGT -3')、OPA-12 (5' -TCGGCGATAG -3')、OPB-04 (5' -GGACTGGAGT -3')、OPB-06 (5' -TGCTCTGCCC -3')、OPB-07 (5' -GGTGACGCAG -3')、OPB-12 (5' -CCTTGACGCA -3')、OPB-17 (5' -AGGGAACGAG -3')、and OPB-18 (5' -CCACAGCAGT -3').である。増幅断片について、バンドが得られた場合を1、バンドが見られなかった場合を0として、スコアして、解析を行った。

酵素多型の解析結果をTable 1に示す。ゴヨウザンヨウラクは、多型遺伝子座の割合(P)、1遺伝子座あたりの対立遺伝指数(A)、ヘテロ接合体頻度(h)のいずれについても、コヨウラクツツジの集団レベルおよび種レベルでも低い値を示した。種レベルの比較では、ゴヨウザンヨウラクは、多型遺伝子座の割合とヘテロ接合体頻度についてみると、コヨウラクツツジの約1/8の値となり、極端に遺伝的多様性が低いことがわかる。酵素多型遺伝子座の対立遺伝子頻度から、ゴヨウザンヨウラクとコヨウラクツツジの遺伝的同一度(I)および遺伝的距離(D)を計算すると、それぞれ0.72、0.33となり、これまでに知られている同一属内の種間の違いに相当する。

Table 1 Allozyme diversity within and among populations of Menziesia goyozanensis and M. pentandra
N is the number of the samples examined, P is the proportion of polymorphic loci (%), A is the mean number of alleles per locus, and h is the expected heterozygosity.

Table.1 Allozyme diversity within and among populations of Menziesia goyozanensis and M. pentandra.

RAPD解析による結果をTable 2に示す。多様性を表すパラメータとしては、ShannonのHを用いた。酵素多型解析の結果と同様に、ゴヨウザンヨウラクは、コヨウラクツツジよりも低い遺伝的多様性を示し、種レベルでは約1/3の値となった。

Table 2 Shannon's H-values based on RAPDs for populations of Menziesia goyozanensis and M. pentandra

Table.2 Shannon's H-values based on RAPDs for populations of Menziesia goyozanensis and M. pentandra.

ゴヨウザンヨウラクにおいて、遺伝的多様性が非常に低い値を示したのは、この種の個体数がきわめて少ないことによるものと思われる。コンピュータシミュレーションの結果によると、個体数が60以下の隔離された集団では、遺伝的浮動により、遺伝的多様性が急速に減少することが予測されている。ゴヨウザンヨウラクも、状況が60個体以下の隔離された集団である点を考えると、シミュレーションの状況によく合致しており、個体数が少ないことによる機会的浮動がこの種の遺伝的多様性の減少の要因となっていると考えられる。

ゴヨウザンヨウラクの遺伝的多様性が極端に小さい理由のもう一つとしては、この種が成立した際のビン首効果の可能性がある。しかしながら、上記2で検討したように、ゴヨウザンヨウラクが近年急速に別の種(おそらくはコヨウラクツツジ)から分化したとは考えにくい。そのため、起源時における創始者効果から遺伝的多様性が回復していないためと考えるよりも、現在の集団が非常に小さいために、遺伝的浮動によって、遺伝的多様性が極端に低いレベルに維持されていると考える方が妥当であると思われる。

5. ゴヨウザンヨウラクの保全について

ゴヨウザンヨウラクの自生地では、現状でも種子生産による更新が行われており、稚樹も少なくないことから、現状を維持することが出来れば、この種を保護することは十分可能である。自生地周辺では、特に開発行為が行われる見込みもなく、また、森林の伐採のおそれも今のところない。ただし、その分布範囲はきわめて限られており、台風などの強風によって、大規模な植生の攪乱が起こりうる。ゴヨウザンヨウラクは、林床の暗い場所に生育するので、林冠が大きく開いてしまった場合には、環境に耐えられずに絶滅する可能性もある。

ゴヨウザンヨウラクの保全としては、自生地が万が一失われるようなことがあった場合に、復元を行えるようにしておく対策が必要であると思われる。そのために、植物園などでゴヨウザンヨウラクを維持しておく必要があるだろう。その際には、この種の遺伝的多様性が極端に小さいことを考慮して、あらかじめ遺伝的解析を行って、出来るかぎり異なる遺伝子型の個体を維持できるように配慮すべきである。ゴヨウザンヨウラクは、挿し木による繁殖がおそらく可能であり、また、開花個体は結実をするので、いずれかの形で個体の維持を行うことが望まれる。