南関東のコナラ二次林の変貌に関する植物社会学的研究Phytosociological study on the changes of the secondary forest of Quercus serrata in southern Kanto, Japan

著者名Authors

関東二次林研究グループSecondary Forest Research Group of Kanto

星野義延Yoshinobu Hoshino1)・ 斉藤修Osamu Saito2)・ 辻誠治Seiji Tsuji3)・ 菅野昭Akira Kanno4)

著者所属Affiliations

  1. 1) 東京農工大学農学部
    Faculty of Agriculture, Tokyo University of Agriculture and Technology
  2. 2) 東京農工大学大学院連合農学研究科
    United Graduate School of Agricultural Science, Tokyo University of Agriculture and Technology
  3. 3) 日本女子大学附属豊明小学校
    Homei Elementary School, Japan Women's University
  4. 4) 宮城県産業経済部
    Industry Department, Miyagi Prefectural Government

要約Summary

本研究は、関東地方のコナラ林が近年の管理状態や利用形態の変化によって林の種多様性や種組成がどのように変化しつつあるのかを、20~26年前の植生調査資料と同一地点において追跡調査を行い、比較検討することによって明らかにすることを目的として実施した。追跡調査したのは102地点(東京都府中市:17、埼玉県:28、栃木県:18、茨城県:34、千葉県:5)であり、そのうち27地点のコナラ林が消失していたため、植生調査地点数は75地点(残存率74%)であった。出現種数は1974~80年調査(以下「調査I」という。)で398種、2000~2001年調査(「調査II」)で387種であり、両調査での全出現種数は499種であった。調査Iと調査IIの調査地点ごとの共通係数(Sørensen, 1949)は0.324~0.718(平均0.527)であり、調査地点周辺の林野率が高いほど共通係数が高くなるなどの傾向が推察された。


Temperate secondary forests or coppice woodlands had been maintained as a source of fuel, manure and material for various uses until the late 1960s in Japan. For the last 30 years, most of those forests have been abandoned without regularly cutting and clearing, which causes changes of species composition. We observed such changes in both suburb and rural areas in Kanto-Region (central Japan) by conducting a follow-up survey of 1974-80's aufname (releve) data at 75 plots from 2000 to 2001. We found that species richness had not changed significantly over the last 20 years, but significant changes had taken place in species composition. Many herbaceous plants such as Solidago virga-aurea var. asiatica, Adenophora triphylla var. japonica, and Sanguisorba officinalis have disappeared from many sites as a result of neglect. In contrast, evergreen trees and shrubs including greening and garden plants have significantly increased, especially at suburbs where various seed sources and human impacts are available around the forests.

1. 研究の背景と目的

近年、「里山」や「里地」などのかつて人々の身近にあった自然への関心が、一般にも、また研究レベルでも高まっている。前者のレベルでは、宅地開発などで失われつつある原風景としての里山への関心の高まりや自然との触れ会いを求める都市居住者の増加などが背景としてある。一方、研究レベルでは、薪炭林や農用林として定期的に伐採されるなど、人為的な管理のもとで育まれてきた里山の二次林に代表されるような代償植生における生物多様性や、宅地開発による二次林の分断・孤立化、管理の放棄による高齢林化といった二次的自然の変貌(奥富 1998)などへの関心がその背景となっている。

本研究は、関東地方の里山二次林を代表するコナラ林が管理停止や土地利用転換などの近年の管理状態や利用形態の変化によって林の種多様性や種組成が質的にどのように変化しつつあるのかを、植物社会学的な方法によって得られた20~26年前の植生調査資料と同一地点において追跡調査を行い、比較検討することによって明らかにすることを目的として実施した。

2. 調査方法と調査地

(1) 調査方法

我が国のコナラ二次林の分布及び植物社会学的植生単位については、辻(2001)によって約1,200の植生調査資料に基づいて研究が行われた。このうち関東(一都六県)については約230の植生調査資料があるが、本研究では辻らの調査から四半世紀経過したこれらの地点うち約100地点において追跡調査を行った。次にその手順を示した。

1) 追跡調査地点の抽出

奥富ら(1975)、菅野(1979)、辻(2001)による1974年から1980年に関東地方で実施されたコナラ林の植生調査(以下「調査I」という。)資料の中から、調査地点を記した地図(5万分の1または2万5千分の1の地形図)が存在する調査地点を102地点抽出し、追跡調査対象とした。なお、過去の調査資料が得られなかったため、関東のうち群馬県と神奈川県では調査できなかった。また、同じ理由から東京都は府中市内のみ、千葉県は北部の5地点のみの調査にとどまった。

2) 抽出地点での植生調査と管理状況の把握

2000年9月~2001年10月にかけて、先に抽出した102地点の現地踏査を行い、地形図で示された位置、植生調査資料に記された斜面方位、傾斜、高木層の構成種、調査地点の概要図などの諸情報を用いて、調査地点の特定を行った。また、追跡調査には可能な限り過去の調査者に同行してもらい、過去と同じ調査になるようにした。各調査地点において、階層別にすべての出現種の被度・群度などを記載する植物社会学的方法(Braun-Blanquet 1964)による植生調査(以下「調査II」という。)を行うとともに、伐採、下刈りや管理停止等の管理状況、周辺土地利用についても記載した。

3) 出現種数・種組成の変化と変化要因の解析

過去の調査資料と新たに得た調査資料とを比較し、出現種数、種組成などの変化について解析を行った。また、出現種の諸特性(生活・生育形、散布様式など)、管理状態、周辺土地利用などとの関係から変化要因について検討した。

(2) 調査地

調査地は、東京都(府中市:17地点)、埼玉県(28地点)、栃木県(18地点)、茨城県(34地点)、千葉県(5地点)の一都四県(計102地点)である(図1)。

図1 調査地点図

図1 調査地点図

3. 結果

(1) コナラ林の残存状況

追跡調査として現地踏査したのは102地点(東京都府中市:17、埼玉県:28、栃木県:18、茨城県:34、千葉県:5)であり、そのうち27地点のコナラ林が消失していたため、植生調査地点数は75地点(残存率74%)であった(表1)。

消失の理由で多いのはスギ・ヒノキ人工林への樹種転換(6地点)、宅地開発(5地点)、学校・病院建設(4地点)などであった。人工林への樹種転換は茨城県、栃木県の中山間地域で見られ、宅地開発と学校・病院建設は都県には関係なく、主に市街化が進みつつある都市近郊で多く見られた(表2)。

表1 都県別コナラ林の残存状況と調査地点の概要

表1 都県別コナラ林の残存状況と調査地点の概要

(注)
1) 実調査地点数=調査地点数-コナラ林消失数
2) 調査者らが在住または在学の東京都府中市では、1974年調査に合計29地点で調査が行われたが、日常的な観察からこれらのうち12地点では明らかにコナラ林が存在しないため、調査対象として抽出しなかった。仮に、これらを含めると残存率は45%と非常に低くなる。

表2 都県別コナラ林消失の理由

表2 都県別コナラ林消失の理由

(注)
1) 公園には運動場を含む。また、公園内の伐採には園路整備のための伐採(1地点)と萌芽更新のための伐採(2地点)である。
2) その他とは、ゴルフ場化、砂利集積場化、農地化である。

(2) 出現種数の変化

調査した75地点での出現種数は1974~80年調査の調査Iで398種、2000~2001年の調査IIで387種あり、両調査での全出現種数は499種にのぼった。都県別では、東京都府中市で調査I:169種→調査II:183種、埼玉県で237種→211種、栃木県で218種→225種、茨城県で254種→246種、千葉県で79種→68種となっており、埼玉県、茨城県、千葉県でわずかに減少したが、ほぼ同じ水準で推移していた(表3)。

一地点調査当たりの平均出現種数は、調査I:51.7種、調査II:51.1種でほとんど変化が見られなかった。都県別では、東京都府中市で調査I:50.1種→調査II:50.4種、埼玉県で50.7種→52.9種、栃木県で56.1種→60.3種、茨城県で53.5種→47.6種、千葉県で36.0種→32.8種となっており、茨城県と千葉県以外の都県では微増していた(表3)。

表3 都県別の出現種数と共通係数

表3 都県別の出現種数と共通係数

(3) 種組成の変化

調査Iと調査IIでの種の入れ替わり具合を示す共通係数(Sφrensen 1949)は、全調査地点でみると0.729であった。都県別では東京都府中市が0.625で最も低く、茨城県が0.784と最も高くなっていた。調査地点ごとの共通係数は0.330~0.718(平均0.527)と低くなっており、それぞれの調査地点では種の入れ替わりが生じていることを示している。一地点当たりの平均共通係数を比較すると、千葉県が0.617で最も高く、次いで栃木県0.550、茨城県0.527となっており、最も低いのは東京都府中市の0.486であった(表3)。

各都県の植生区分をみると、東京都府中市のコナラ林は関東地方南部の洪積台地や丘陵に広く分布するコナラ-クヌギ群集(宮脇,1967)であり、下位単位としては特別の識別種を持たない典型亜群集に区分された。典型亜群集は、さらに、シラヤマギク、アキノキリンソウ、ミツバツチグリ、ノハラアザミ、ニガナなどで識別されるシラヤマギク変群集と典型変群集に区分された(奥富ら 1976)。シラヤマギク変群集は下刈りなどの管理が継続している林とされているが、調査IIではその識別種の出現率が調査対象都県すべてで減少していた(表4)。また、埼玉県、栃木県、茨城県及び千葉県では、コナラ-クヌギ群集(カスミザクラ亜群集及び典型亜群集)のほか、丘陵から山地にかけてコナラ-クリ群集(奥富ら 1976)が広く分布していた。コナラ-クリ群集は典型亜群集とヒサカキ亜群集とに下位区分されるが、埼玉県、栃木県、茨城県、千葉県ではヒサカキ亜群集の識別種であるシラカシ、ヤブコウジ、ジャノヒゲ、ヒサカキ、アラカシの出現率が高いか、または増加していた(表4)。

表4 人為管理の有無を反映しているとされる群集識別種の出現率(単位:%)

表4 人為管理の有無を反映しているとされる群集識別種の出現率(単位:%)

また、都県別の出現種の生活形・生育形について調査IとIIの結果を比較すると、東京都と埼玉県では常緑高木の出現種数が有意(p<0.05)に増加していた。常緑高木と常緑低木と常緑藤本を合わせた常緑種数で見ると、茨城県を除くすべての都県で有意(東京都、栃木県、千葉県: p<0.05、埼玉県: p<0.01)に増加していた。一方、減少していたのは多年生草本であり、有意ではないものの、栃木県を除くすべての都県で減少傾向が見られた。

また、出現種を生育環境(雑木林、照葉樹林、夏緑樹林、草原、人里)ごとに区分して、調査IとIIを比較すると、東京都、埼玉県、栃木県では照葉樹林の構成要素が有意(p<0.05、埼玉県のみp<0.01)に増加していた。逆に減少していたのは草原の構成要素であり、東京都、茨城県、千葉県では有意(p<0.05)に減少していた。

4. 考察

(1) コナラ林の残存状態について

関東地方のコナラ林の量的な変化については、Iidaら(1995)が5地域(各地域の調査面積は9km2~25km2)を対象として1961年~1984‐88年までの約25年間のコナラ林面積の変化を報告している。この報告データを用いて各地域のコナラ林残存率を算出すると、八王子(東京都):62%、所沢(埼玉県):74%、笠間(以下、茨城県):104%、岩井:84%、水戸:62%となる。また、恒川ら(2001)はGISを用いて多摩丘陵鶴見川流域における長期的なクヌギ・コナラ林の面積変化を解析しているが、それによると鶴見川流域では1970年代~1990年代の残存率は57%であった。研究方法及び時期が異なるため単純には比較できないが、本研究結果(表1)とあわせると、過去30年程度の期間に関東のコナラ林は都市近郊では残存率が60%前後、それ以外の地域では70~80%になったと推察される。

(2) 種多様性の変化について

出現種数に関しては調査Iと調査IIで顕著な変化が見られなかった。しかし、3.(3)で示したとおり、種組成では変化が生じていたことから、新たに出現した種の数と出現しなくなった種の数がほぼつりあっていた結果と解釈することができる。ただし、調査IIでは利用可能な過去の情報を駆使して調査Iと同じ地点での調査になるよう配慮したものの、同じ地点であっても約20数年の時間の経過で林の均質性が損なわれていた場所もいくつかあり、そのような地点では林縁性の種など不均質な林分の要素を余分に含んでしまっている可能性が否定できない。従って、調査IIの出現種数は均質なコナラ林を対象とした場合よりもやや過大になっているおそれがあることに留意する必要がある。

次に、個々の地点の出現種数を規定する要因について検討した。表5に示したとおり、海抜高、傾斜、低木層、アズマネザサ、リターの被度、人為管理の有無、調査地点が存在する市町村の人口密度や林野率などの諸指標と出現種数との関係を見ると、海抜(p<0.01)、低木層の植被率(p<0.001)、アズマネザサの植被率(p<0.001)、管理の有無(p<0.001)、市町村の住民一人あたりの林野面積(p<0.05)との間に有意な相関関係がみられた。なかでも、相関係数が最も高かったのはアズマネザサの植被率であった。すなわち、アズマネザサの植被率が低ければ低いほど(人為的に管理がされ、低木層の植被率が低い林ほど)、出現種数が多くなる傾向が見られた。コナラ林の出現種数を規定する要因としては、このほか地形、土壌、周辺フロラ、土地利用など諸条件が関係していると考えられるが(浜端 1980、藤村 1994、 鎌田・中越 1990)、アズマネザサの植被率が重要な制約要因になっているといえるであろう。

(3) 種組成の変化について

種組成の変化を示す指標のひとつである共通係数についても、出現種数と同じ指標との相関関係を調べた(表5)。この結果、管理の有無以外のすべての指標との間に有意な相関関係がみられたが、相関係数が最も高かったのは傾斜(R=0.408)であり、次いで市町村の林野率(R=0.389)であった。つまり、地形的に傾斜が急であるほど、また林野率が高いほど、種組成の変化が小さくなる傾向があり、都市近郊のように平坦で林野率が低い地域のコナラ林では種組成の変化が生じやすいことを示唆している。

表5 出現種数・共通係数と各種指標との相関関係(相関係数(R))

表5 出現種数・共通係数と各種指標との相関関係(相関係数(R))

(凡例) ***: p<0.001, **: p<0.01, *: p<0.05

一般に、遷移の進行につれて種子の小さい風・水散布が減少し、種子が大きい動物散布(付着散布含む)が増加するとされている(浜端 1980)。本調査結果でも、新たに侵入または増加した種群(出現率の差が20%を超えて増加した種)と消失または減少した種群(出現率の差が20%を超えて減少した種)とを比較すると、千葉県以外のすべての都県で動物散布の種が有意(p<0.05)に増加し、埼玉県では風散布の種が有意(p<0.01)に減少していた。風散布の種子と動物散布の種子では種子の重さに違いがあることから、調査IとIIで各種の出現率と種子重(中山ら(2000)の文献値)の関係を図2に示した。これによると、東京都、埼玉県、千葉県では種子重が中くらいからやや大きめの種が対角線より上、すなわち調査IIでより多く出現していることがわかる。栃木県と茨城県では、やや大きめの種子が対角線の上側に位置しているが、あまり顕著ではなかった。

図2 調査IとIIの出現率と種子重の関係

図2 調査IとIIの出現率と種子重の関係

注)
1) 各点の丸(バブル)の大きさは、種子重の相対的な重さを示している。   
2) 図中で最も大きい丸はクリであるが、東京都や埼玉県ではクリ果樹園を中心に広がったクリタマバチによる被害で森林のクリも減少したため、調査IIでの出現率が低くなったと考えられる。

このほか、追跡調査で新たに出現または増加した種には緑化・園芸種(調査地周辺の街路樹、庭木、公園の植栽などで一般的に用いられている種)が多く含まれていた。特に、東京都、埼玉県、栃木県では調査Iよりも20種前後も増加しており(図3)、都市近郊を中心として、トウネズミモチ、ネズミモチ、イヌツゲ、マンリョウなどが増加していた(星野 2001)。このような調査IIでの緑化・園芸種の出現種数と諸指標との関係を調べた結果、1980年~2000年までの各市町村の人口密度の変化(R=0.567、p<0.001)、林野率(R=-0.330、p<0.01)、人口密度(R=0.313、p<0.01)との間に有意な相関関係が見られた。つまり、図4に示すとおり、1980年~2000年までの人口密度の増加が大きく、林野率が低い市町村内のコナラ林ほど、緑化・園芸種の出現種数が多くなる傾向が認められた。

図3 緑化・園芸植物及び外来種の種数の変化

図3 緑化・園芸植物及び外来種の種数の変化

図4 緑化・園芸種の出現種数と人口密度の変化・林野率との関係

図4 緑化・園芸種の出現種数と人口密度の変化・林野率との関係

一方、外来種(海外からの移入種)はほとんどの都県でやや増加していたものの、数そのものは少なかった(図3)。ただし、東京都と埼玉県では、ヨウシュヤマゴボウやハリエンジュなどが目立つ調査地点も見られ、今後、他地域への拡大が危惧される。

また、奥冨・福田(1991)は東京多摩地方における竹林(主としてモウソウチク林)の拡大状況について報告をしている。今回の調査でモウソウチクまたはマダケの侵入が見られたのは全75地点中5地点(6.7%、埼玉県2地点、栃木県1地点、千葉県2地点)であった。ただし、追跡調査中には、これら以外の調査地周辺においても竹林が侵入してきているコナラ林を人里周辺でよく見かけたことから、将来的には侵入拡大が懸念される。

(4) コナラ二次林保全管理への示唆

群馬県と神奈川県を除く関東地方での追跡調査の結果、1974年~80年にかけて存在していたコナラ林のうち74%が残存していた。ただし、地図上で確認したものを含めると東京都府中市での残存率は45%と半分以下になっているなど、都市近郊域では消失や孤立・分断化の傾向が顕著である。都市近郊でのコナラ林消失の理由は、宅地開発や学校・病院の建設などが多かったが、今後はこのような開発にあたり都市周辺に残された貴重な自然として、コナラ林の保全を図っていくことが必要である。また、農山村域ではコナラ林の伐採後、ヒノキやスギへの人工林化が多く見られた。ただし、このような人工林も手入れされずに放置されているものが多いことから、農山村域ではコナラ林の保全にあたり、経済性や人的資源の確保を考慮していく必要がある。

本研究では、関東のコナラ林の出現種数がアズマネザサの被度(植被率)と有意な負の相関関係にあることを示したが、出現種数を一定以上に維持するためにはアズマネザサの被度を下刈りなど人為的な管理で抑制することが必要である。一般的には、農山村地域ほどこのような管理が継続していると考えられるが、本調査では管理の有無を規定するような社会経済的な指標を見出すことはできなかった。むしろ、人口密度や人口密度の長期的変化が小さい(人口流入が少ない)地域でも数多くの放置コナラ林が存在していた。人口一人当たりのコナラ林の面積から言えば、農山村地域の方が膨大な面積になるため、それだけ放置林分が増加する傾向があると考えられる。農山村地域の過疎化・高齢化の問題も踏まえ、このような地域での長期的な管理のあり方について検討していくことが急務である。

コナラ林の質的な変化については、追跡調査の結果、地形的に傾斜がゆるやかであるほど、また地域の林野率が低いほど、種の入れ替わりが生じている(共通係数が小さくなる)傾向があることが認められた。新たに侵入・増加した種の多くはアオキ、ヒサカキなどの常緑の木本植物であり、消失・減少した種の多くはアキノキリンソウ、シラヤマギクなどの草原の要素(主に多年生草本)であった。コナラ林の質を約20年前の状態で維持することを目的とするのであれば、このような侵入・増加種を一定の被度に抑制することが必要である。さらに、都市近郊のように人口密度の増加が大きく、林野率が低い地域ほど、トウネズミモチなどの緑化・園芸種が増加する傾向があるため、地域特性に応じてこれらの種も管理対象としていくことが望ましい。

謝辞

本研究に助成していただきましたプロ・ナトゥーラ・ファンドに深く感謝致します。また、調査の実行にあたりご指導とご協力をいただきました福嶋司教授をはじめとする東京農工大学農学部植生管理学研究室の在学生及び卒業生の皆様に深く感謝致します。

引用文献

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