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上高地梓川の河床地形変化とケショウヤナギ群落の生態学的研究

上高地自然史研究会

岩田 修二1)・ 山本 信雄2)・ 石川 愼吾3)・ 島津 弘4)・ 山田 晴通5)・ 池田 明彦6)・ 高田 將志7)・ 高岡 貞夫1)・ 苅谷 愛彦1)・ 岩船 昌起8)・ 真崎 庸9)・ 進 望1)・ 山口 史枝10)・ 杉本 宏之1)・ 福井 幸太郎9)

1) 東京都立大理学部
2) 安曇村誌編纂室
3) 高知大理学部
4) 金沢大文学部
5) 松商学園短大
6) 東京都品川区公園緑地課
7) 東京大学
8) 東北大学
9) 学芸大学
10) 明治大学

Study of River-bed Evolution and Growth of Chosenia arbutiforia Community in Kamikochi, Central Japan

Research Group for Natural History in the Kamikochi Valley

Shuji Iwata1), Nobuo Yamamoto2), Shingo Ishikawa3), Hiroshi Shimazu4), Harumichi Yamada5), Akihiko Ikeda6), Masashi Takada7), Sadao Takaoka1), Yoshihiko Kariya1), Masaki Iwafune8), You Masaki9), Nozomi Shin1), Fumie Yamaguchi10), Hiroyuki Sugimoto1), Kotaro Fukui9)

長野県上高地の梓川のケショウヤナギ群落の保護のために、河床の地形変化とケショウヤナギの生態を調査した。梓川支流からの礫供給、本流の礫の移動過程からみると現在の梓川への礫の供給は少ない。過去の梓川の流路変化、河辺植生のマッピングの結果は、梓川の河辺植生が変化する川の影響のもとで形成・維持されてきたことを示している。谷底の成熟した河辺林も洪水による破壊・再生を繰り返すことによって維持されている。河原の微地形と群落調査などを総合した結果、および、ヤナギ科植物の実生の成長実験の結果によって、ケショウヤナギの定着のためには砂礫の河原が必要なことがあきらかになった。自然のままの砂礫の河床と洪水の影響を受ける河辺林がケショウヤナギ群落の更新のためには不可欠である。現在行われつつある砂防・河川改修が進行すれば上高地のケショウヤナギはなくなってしまう。

はじめに

長野県上高地は全国的・世界的にみてもすぐれた自然と景観が保たれた場所である。なかでも梓川の河川地形と、ケショウヤナギ群落を中心とする谷底・河辺の植生は特筆すべきものである。ところが、観光開発の進行につれて、防災のためという名目のもとに梓川本流・支川の河川改修や地形改変がおこなわれており、河床・河辺の植物群落にも影響が出始めた。なかでも本州では梓川流域以外には分布しないケショウヤナギの保護は急務である。よく知られているようにケショウヤナギは他の植物が生育できない礫質の河原で生長する。したがって、ケショウヤナギの保護のためには、河床の地形変化とケショウヤナギの生態との両方を調査し、両者の関係を明らかにする必要がある。

われわれの調査研究は、このような観点から、梓川の河床地形、礫の移動過程、流路変化、河床の微地形・河床物質など地形学・堆積学的側面とケショウヤナギなどヤナギ科植物の発芽・生育実験,河辺植生の群落調査、先駆植物の生育環境調査などの生態学的側面の両面からおこなわれた。調査は、1993年11月、1994年2月、5月、6月、7月、8月、10月に実施され1994年6月、10月にはヘリコプターをチャーターして空中写真撮影も行われた。なお、この報告のほかに地図・図表を中心とした報告書を印刷した。この調査にあたっては環境庁中部国立公園・野生動物事務所、松本営林署、建設省松本砂防工事事務所、長野県松本建設事務所、上高地養魚場、泉山茂之氏にご協力・ご援助いただいた。あつくお礼もうしあげます。(岩田修二)

梓川の河床地形・堆積物と,礫の移動過程

梓川における礫の移動過程を河床地形、河床堆積物、河床勾配の下流方向への変化から検討した。調査は野外における河床地形、河床堆積物の記載と地形図を用いた地形計測からなる。野外調査は一ノ俣合流点より下流の梓川本流と上高地内で梓川に合流する一部の支流で行い、最大粒径の計測と礫の形態および砂礫堆、ロウブ状地形、岩盤床の分布の記載を行った。いっぽう、地形計測は1:25,000地形図を用いて行い、梓川本流と、流入する支流の河床縦断図を描き、河床勾配を算出した。

1. 支流からの礫供給

本流の河床物質との関係が深い支谷の砂礫供給の様態を理解するために、梓川との合流点付近の河床勾配と地形によって梓川の支谷をa〜eの5タイプに分類した。
(1)aタイプ: 河床勾配が80以上、沖積錐をもち、流路が梓川まで連続している支流。奥又白谷、六百沢など。
(2)bタイプ: 河床勾配が80以上、谷の出口が梓川との合流点となっている支流。黒沢など。
(3)cタイプ: 河床勾配が80以上、沖積錐をもつが、流路が梓川まで連続していない支流。古池沢など。
(4)dタイプ: 河床勾配が80以下、沖積錐をもつ支流。善六沢、岳沢など。
(5)eタイプ: 河床勾配が80以下、谷の出口が合流点となっている支流。徳沢など。

aタイプとbタイプでは、土石流によって形成されるロウブ状地形が梓川まで連続して分布している。支流内で発生した土石流が梓川まで到達し、1mを超える粗粒な礫を供給していると考えられる。aタイプには沖積錐が形成されていることから、礫の流出量がbタイプにくらべ多いことが予想される。しかし、粗粒な礫の供給がbタイプにくらべ大きいとは必ずしも言えない。cタイプでは、沖積錐表面を覆っているのは主として50cm以下の礫であり、沖積錐表面には幅10m程度の浅い谷と最近形成されたロウブ状地形がみられる。現在は沖積錐表面の侵食による小規模な土石流しか発生せず、梓川への礫供給もほとんど行われていないと考えられる。d、eタイプでは、梓川との合流点付近にはそれらはみられず、河床は50cm以下の礫で構成される。上流で発生した土石流は流路途中で堆積し、掃流で運搬可能な礫のみが梓川に流入すると考えられる。dタイプの岳沢の谷底には大量の礫が蓄積されている。また、沖積錐上には50cm以下の礫から構成される小規模なロウブ状地形をもった堆積物が数多く分布し、一部は最近堆積したものと思われる。しかし、流路やそれらの堆積物が梓川まで連続しないことから、現在の梓川への礫の供給は少ないと考えられる。

図1 上高地地域の梓川における礫の移動過程を示す模式図
図1 上高地地域の梓川における礫の移動過程を示す模式図

2. 梓川本流における礫の移動過程(図1)

一ノ俣合流点〜横尾の河床は、粗粒な礫を含む角礫、亜角礫で構成される。一部に岩盤床が分布し、河床勾配は急かつ減少傾向にある。また、流入する支流の大部分はcタイプである。支流から土石流となって流入した粗粒な礫は堆積し河床に残留するが、粗粒な礫は速やかに下流へと運び去られる区間と考えられる。横尾〜大正池上流端は、複列砂礫堆の分布する網状流路となっており、岩盤床がみられない区間である。流入する支流にはいずれのタイプもみられるが、相対的にcタイプが少ない。この区間の大部分では、粒径と河床勾配が減少するが、途中の徳沢〜明神橋上流の区間における変化は小さい。横尾〜徳沢および明神橋〜大正池は、礫のふるい分けの作用が卓越することにより、粗粒な礫から順次堆積していく区間と考えられる。いっぽう、徳沢〜明神橋は出水時における急速な侵食と堆積の繰り返しにより、流入した礫が速やかに下流へと運搬される礫の通過区間と考えられる。なお、横尾より下流側において、支流からの礫供給の影響が本流の最大粒径にあらわれないことは、この区間では細粒な礫のみが供給されていることを示唆している。大正池の上流端の湖岸には礫まじりの砂が堆積している。また、大正池より下流側の河床には円磨された礫がみられない。礫のほとんどは大正池の上流端までに堆積し、それより下流へは流出しないと考えられる。(島津 弘)

梓川の流路変化と植生

1. 梓川の流路の変化

上高地の河辺植生に対する梓川の流路の移動(位置の変動)の影響をみるために、国土地理院(1947、1973年)と林野庁(1958、1968、1983、1988年)、安曇村(1978年)の空中写真を使って過去の流路の位置の復元図を作成した。流路復元図から明らかになったことは、(1)流路の位置変化がおこるときには、河辺林が削りとられる場合が多い。(2)河辺林の中を流れていた川が、流路変更によって干上がり植生が回復した場所もある。(3)礫からなる現河床(河原)に点在する河辺林のパッチは、削り取られて縮小したり流失したりする場合がある。(4)いっぽう、長期間にわたって撹乱を受けなかったため新たな植生の定着・生育によって拡大したり、河床沿いにつらなる河辺林の大きな林分とつながる現河床のパッチもある。

2. 河辺植生の分布

上高地の中でも河辺林が広く分布し、砂防工事・護岸工事の影響が比較的少ない明神−徳沢間で、1:3,000の植生図を空中写真判読と現地調査によって作成した。この場所の河辺林は、写真判読では色調とテクスチャーの違いによって50以上に区分されたが、現地調査では種組成の違いによって6つのグループにまとめることができた(図2)。

図2 明神−徳沢間の谷底の相観植生図 1978年の空中写真と1994年の現地調査による. 河辺林内の測線が示してある.
図2 明神−徳沢間の谷底の相観植生図
 1978年の空中写真と1994年の現地調査による. 河辺林内の測線が示してある.

3. 河床地形変化と植物群落

梓川の流路変化とその植物群落に対する影響のくわしい調査は、明神−徳沢間の広い河原の左岸側の谷底の河辺林で行った。場所は白沢出合と徳沢出合とのちょうど中間にあたる。河辺林内を横断する測線を設け(図2)、地形断面の測量とベルトトランゼクトによる植生調査、および土壌調査をおこなった。測線の河原側の河辺林の縁にはケショウヤナギなどのヤナギ科植物とカバノキ科植物を中心とした樹齢の若い混交林が成立している。薄い表層A層の下には埋没土層をはさむ河床礫層がある。この群落は1950〜60年代には河原の中のパッチであった。その内側の1983年まで砂礫の河原であった旧流路沿いには、エゾヤナギやケヤマハンノキを中心とした群落が成立しており、林床にはヤチダモの幼樹が密生している。その山側には1947年の空中写真にも森林として認められるハルニレ−ウラジロモミ群落がある。ここでは土壌A層の発達がよい。さらに、その山側の流路跡にはケヤマハンノキとヤチダモを中心とした群落が分布している。測線の広い部分を占めているのはヤナギ科とカバノキ科との混交林の成熟した林分である。林冠はケショウヤナギやドロノキ、オオバヤナギが形成しているが、亜高木層・低木層にはハルニレ、ウラジロモミが侵入しており、陽樹林から陰樹林へ遷移しつつある。もっとも山側には河辺林の中で最も安定した群落が分布する。ハルニレやヤチダモが林冠を形成しており、ウラジロモミやイチイ、サワラなどの針葉樹も多く、ヤナギ科の林にくらべると極相林に近い組成をもつ。(進 望)

ケショウヤナギ群落の生態

1. ケショウヤナギの生態学的特性

ヤナギ科植物の種子は、非常に短命であることが知られている。ケショウヤナギの種子の寿命も1ヶ月程度であり、その散布時期も上高地で6月初旬から7月初旬までの約1ヶ月である。その短い期間に、生育に適した立地(特に水分条件)に到達した種子のみが、発芽・定着することができ、新たな群落の形成に関わることができる。ヤナギ科植物のように、裸地に真っ先に侵入し遷移の初期段階で優占する先駆植物は、生産種子数が多く、風散布型の種子であることが多いので、近くに種子の供給源となる成熟個体が充分存在すれば、生育適地にほぼ確実に侵入できる。ケショウヤナギも実生の定着に成功すれば、その後の洪水などによる破壊を受けない限り、高木林にまで発達することができる。河床に発達するケショウヤナギ群落の動態を明らかにするためには、まず実生の成長特性と立地条件との関係を明らかにしておく必要がある。現在までに以下のことが明らかになっている。

土壌の水位と粒径を変えて実生の成長実験を行った結果(Ishikawa,1994)、ケショウヤナギの実生は通気性の悪い細粒な堆積物(細砂)では主根がすぐに腐り、不定根の成長も極端に抑制された。粗砂で育てた実生の成長はどれも良好であった。粗砂で低水位(-15cm以下)で育てた実生の主根の伸長は速く、1週間で平均約4cm、1ヶ月で約13cmに伸長した。いっぽう、湿地性のタチヤナギやジャヤナギは細粒な堆積物では実生の生育は良好であったが、粗粒な堆積物での成長は悪かった。礫床河川のヤナギの種子重は、湿地性のヤナギのそれの5〜10倍で、初期成長速度をより速くすることが可能であり、表層が乾燥しやすい礫床河川での定着に有利である。そのなかでもケショウヤナギは乾燥しやすい河床に定着する能力が特に高いと考えられる。また、河床は増水によって沈水状態におかれることがあり、これも実生の生残率に影響を与える。

そこで、植物栽培用のポットで約1ヶ月育てた実生を1週間おきに最長で2ヶ月間完全な沈水状態に置き、沈水状態に対する耐性を調べるため実験を行った。その結果ケショウヤナギは、沈水状態に置かれる期間が2ヶ月にわたってもほとんど損傷を受けず、その後の成長にも影響を受けなかった。上高地の梓川の河床では、ケショウヤナギの実生は、増水時に河道になる凹地やその縁辺にはほとんど生育していない。これは沈水状態に対する実生の耐性が低いからではなく、砂礫移動・流水による埋没・流失など他の原因によるものと思われる。

2. 現河床に成立しているケショウヤナギ群落

梓川の流路変化とその植物群落に対する影響のくわしい調査は、明神−徳沢間の網状流が広がる広い河原で行った。場所は白沢出合と徳沢出合とのちょうど中間にあたる。現河床(河原)の部分では平板測量で1:1,000の地形図・植生図がつくられた。この図は今後の地形変化・植生変化を記録するベースマップとして役立つはずである。測量がおこなわれた部分は、上高地のなかでももっとも人為的影響が少ない部分であるにもかかわらず、工事用車両による踏み荒しが広範囲に認められ、多くのケショウヤナギの幼樹が影響を受けていた。

現河床に成立している植物群落の調査を行った結果、以下のことが明らかになった。

植物群落が成立しているパッチの面積の調査面積全体に対する割合(植被率ではなくパッチ全体の面積)は、34%でありその約半分はケショウヤナギによって占められていた。出現頻度の高い群落には他にケヤマハンノキ(4.9%)、ドロノキ(4.6%)、エゾヤナギ(3.9%)、ダケカンバ(1.3%)、オオバヤナギ(1.3%)などがあった。これらの種は混交していることもあるが、多くのパッチで優占種がはっきりしていた。これは、種によって種子散布の時期に差異があり、立地の水分条件等が実生の定着に良好な時期に種子散布の時期が一致した種の優占度が高くなるためであると考えられる。パッチを構成する個体のサイズは比較的均一で、数年の幅はあるもののほぼ同齢林分であった。表1に各種のパッチの占有面積と調査地全体に対する百分率を樹高別に示した。ケショウヤナギは樹高が高くなるにつれて占有面積が小さくなっており、洪水による群落の破壊の経過が読み取れる。しかし、オオバヤナギやダケカンバは低い樹高の群落が少なく、最近の実生の定着が悪いことが伺える。

以上のように、梓川の河床に発達する植生は、林齢、優占樹種の異なる群落のパッチがモザイク状に配列したものであり、それは先駆樹種であるヤナギ類の生態学的特性と、洪水によって常に破壊生成を繰り返している河床の地形学的な特性によるものであると考えられる。(石川愼吾)

表1 明神-徳沢中間の現河床におけるヤナギ瀬の群落. 各種のパッチの占有面積と調査地全体に対する百分率を樹高別に示した
表1 明神-徳沢中間の現河床におけるヤナギ瀬の群落. 各種のパッチの占有面積と調査地全体に対する百分率を樹高別に示した

河床の微地形・河床物質と先駆植物の生育環境

明神−徳沢中間の調査地の現河床の左岸よりの部分で、平板測量によって1:250の植生図・微地形学図・表面粒度分布図を作成し、相対的な微地形形成の順序、河床堆積物の特徴、先駆植物の群落をくわしく調査した。そして、これらの関係を整理し、先駆植物の生育条件と立地環境について考察した。この場所には若いケショウヤナギの群落が点在している。ケショウヤナギの高さは20〜30cmのものから最大でも2m程度である。高さの違いはあっても、すべてが発芽後5年経過したものであり、1992年9月の調査結果と比較すると最近2年間に急速に生育したものである。ケヤマハンノキとカラマツの幼樹も点在し、高さ2.5mほどのドロノキの群落がある。

1. ケショウヤナギは比較的小規模な洪水によって新たに形成された堆積性の地形面に生育している。とくに砂礫がひんぱんに供給されるウロコ状の砂礫堆の上流端部分では、非常に生育が良く高さが2mほどに生長している。この場所は、中砂以下の細粒物質が少なく、地下水位は相対的に高いが、変動が大きい。このような生育環境は、通気性の良い土壌を好み、他のヤナギ類に比べて発芽後に根が下方へ伸びる速度が速いケショウヤナギに適していると考えられる。

2. ケヤマハンノキとカラマツは、比較的大規模な洪水時にしか冠水しない高燥な場所に生育している。洪水・増水時に腐植と共に水流によって二次的に散布された種子がこれらの場所に捕捉され、生育環境が適していることから生育しはじめたと考えられる。

3. ドロノキは、現河床沿いの森林の縁で洪水による堆積物が薄く堆積したところや、倒木や流木の下流側などに生育している。比較的小規模な洪水によって修飾された、古い堆積層のある場所や、湿潤で有機質が多いところである。ドロノキは、現河床以外の沖積錐などにも生育していることから、ケショウヤナギに比較して細粒な土壌でも生育可能と思われる。

本調査地域上流5kmに位置する横尾谷の現河床でも、本研究と同様の先駆植物の生育環境を検討した研究が行われた(岩船、投稿中)。明神上流での本研究の結果は、横尾谷での結果とも調和的であり、上高地梓川の現河床における主要な先駆植物の生育環境を微地形の動態から一般的に説明するものと考えることができる。(岩船昌起)

結論(梓川のケショウヤナギを守るために)

この研究は,始まったばかりであり、これからの継続した観察・調査が必要である。今回、実験と野外調査によって明らかになったように、ケショウヤナギは、粗粒な砂礫からなる浸水と乾燥を繰り返す河床に定着する能力が高い。その結果として他の植物が生育できない砂礫の河原で生育することができる。したがって、ケショウヤナギ群落の成立のためには洪水によってしばしば冠水し、それ以外の時には乾燥する河原の存在が必要である。いっぽう、河原に種子を供給する母樹林としての谷底のケショウヤナギを含む河辺林の存在の重要性も明らかになった。しかし、谷底林内のケショウヤナギは50年ほどで倒壊するものが多くなり、やがては他の樹種に遷移してしまうので、ケショウヤナギの母樹を維持するためには、河原に成立したケショウヤナギの幼樹群落がつぎつぎに成熟林にまで生長することが必要である。これまで、上高地の梓川では、洪水によって常に流路の変化と河辺林の破壊・再成を繰り返すことによってケショウヤナギを含む河辺林を維持してきた。梓川が人為的影響がほとんどない自然河川であったから可能であったのである。いっぽう、河川地形・堆積物の研究から、現在の梓川への礫の供給は少ないことがあきらかになった。

このことから、現在進行中の土砂流出防止のための砂防工事や帯工の建設は梓川の砂礫の河原を失わしめ、河原と森林との境界の堤防の建設は河辺林の破壊を起こらなくし、結果としてケショウヤナギの母樹林をなくしてしまうことになる。したがって、現在行われつつある建設工事が進行すれば上高地のケショウヤナギはなくなってしまうだろう。ただちに、人為的な自然の改変を中止すべきである。(岩田修二)

引用文献

Ishikawa, S. (1994): Seedling growth traits of three salicaceous species under different conditions of soil and water level.Ecol. Rev., 23:1-6.

岩船昌起(投稿中):上高地,横尾谷の河 床における地形変化の規模・頻度に対応した先駆相森林の動態.季刊地理学, 47:163-181.

上高地自然史研究会(1995):上高地梓川の河 床地形変化とケショウヤナギ群落の生態 学的研究図表報告書.上高地自然史研究会.pp40.

Summary

Correlations between growth of floodplain plant-communities and evolution of river-bed landforms were studied in the bottom of the Kamikochi Valley, Nagano Prefecture, central Japan, with special reference to the development of Chosenia arbutifolia communities. Unstable habitats such as bare floodplain, which are frequently altered by flood, are necessary for the settle and growth of the C. arbutifolia communities. On the other hand, mature C. arbutifolia trees in the floodplain forests are indispensable for the effective seed dispersion. The continuous existence of mature C. arbutifolia trees is sustained by a periodic forest-destruction due to shift of the river course, because the mature C. arbutifolia trees are succeeded by another species of a period of several decades under the stable forest condition. A natural floodplain condition with the changeable river course is the most important factor to maintain the floodplain vegetation in the Kamikochi Valley. The river improvement and sediment control works being constructed at present will surely lead to complete damage of C. arbutifolia communities.

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