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2018.05.17(2018.05.17 更新)

「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界遺産推薦に関する IUCN評価書についての声明

IUCNは、6月に開催する世界遺産委員会の資料で、奄美・琉球諸島は「登録延期」という評価を発表した。

日本自然保護協会では、この評価に関して日本政府・関係者に対して、①登録延期の勧告を受け入れ、引き続き遺産登録をめざす ②登録の情報・プロセスの公開 ③観光利用などで懸念される遺産を管理していくためにコミュニティの参加を重視した地域に即した管理体制の構築 ④侵略的外来種の管理体制の構築 ⑤管理計画の範囲を広げて完全性を確保、以上5点を指摘した声明を発表した。

 

20180517_奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界遺産推薦に関するIUCN評価書についての声明(367KB)

 


30日自然第10号
平成30年5月17日

「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界遺産推薦に関するIUCN評価書についての声明

公益財団法人日本自然保護協会
理事長  亀山 章

 

2018年5月15日、日本政府が世界遺産一覧表への記載を推薦した「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島(以下、「奄美・琉球諸島」と言う)」に関して、IUCN(国際自然保護連合)の評価書がUNESCO世界遺産センターのウェブサイトにて公表された。

 

IUCN評価書の要点

  1. 日本政府が提案した世界遺産への登録基準(ix)生態系、および、(x)生物多様性のうち、奄美・琉球諸島がもつ世界遺産上の価値・重要性は、(x)生物多様性のみが認められた。
  2. 他方、その自然価値を長期にわたって保全していくために求められる「保護措置」「適切な区域設定」「管理」「地域参加」「危機対策」という、いわゆる、保護地域としての完全性(Intergirity)について、保護措置・管理・地域参加は求められる条件に合致すると評価される一方で、境界設定・危機対策は課題があると評価された。
  3. 登録基準(x)を満たすための境界設定については、規模の小さな推薦地の再考と連続性の確保(全4島)、推薦地の拡張(西表島北部/北西部の河川渓谷)、返還された北部訓練跡地を含める沖縄島北部の区域見直しが必要。登録基準(ix)を満たすためにはさらに大きな変更が必要。
  4. 危機対策については、推薦地の価値に影響を及ぼすあらゆる外来種への対策、持続可能な観光利用に関する計画立案と実施などが緊急的に必要。

 

このIUCNの評価結果をうけて、1990年から南西諸島の世界自然遺産登録を要望し、奄美・琉球諸島の自然保護問題に関わってきた日本自然保護協会は、推薦地の世界自然遺産への適正な登録にむけて日本政府及び関係する主体に対し、以下のことを提言する。

 

1.日本政府は、登録延期勧告を受け入れると共にIUCNが提起した課題への対策を講じ、引き続き世界遺産登録をめざすべきである

登録延期は、世界遺産上の価値が認められるものの、価値の長期的な保全をめざす際の課題がある場合に、その対策を推薦国が講じる期間や諮問機関からの助言を提供する機会を確保するための手続きである。日本はその機会を最大限活用することで、奄美・琉球諸島の世界遺産価値の長期的な保全と活用を実現すべきである。

諮問機関からの勧告には二つの意味がある。一つは、世界遺産の価値を有する場所が現在の推薦地から漏れている(すなわち、拙速に登録されれば、その推薦地から漏れた価値ある地域が、世界遺産外として開発の危機にさらされる)場合と、現在推薦された地域の保全体制に不備がある(すなわち、拙速に登録されれば、世界遺産の価値ある場所が劣化しその価値を失うリスクが高い)場合である。

世界遺産条約の目的である「人類共有の価値ある自然(または文化)を未来に引きつぐことを実現する」ためには、拙速な登録はリスク・デメリットが大きい。

第42回世界遺産委員会において、IUCNの登録延期勧告から、登録、情報照会に格上げするような働きかけを日本政府は行うべきではない。諮問機関による科学的な助言を政治的な形でゆがめることは、世界遺産条約そのものの信頼性を損ない、ひいては、日本の国際社会における信頼を損ねることにつながるリスクを背負うことになる。

 

2.遺産の登録推薦に関連する情報・プロセスを市民に広く公開すべきである。

IUCNの評価書では、計画立案や管理、モニタリング、絶滅危惧種保全等において、高いレベルでの市民・NGOの自発的な活動があることが高く評価されている。市民やNGOからの不十分な協議プロセスについて懸念する声の存在も報告されている。日本政府の説明(summary of the effort)の内容を公表し、保全管理に関わる地域社会全体に認識の共有を図るべきである。

評価書において言及されている、沖縄島北部の北部訓練場に関する外来種の管理と生物モニタリングを中心とした自然保護に関する日米両政府間の協定についても公表すべきである。

奄美・琉球諸島の推薦後のIUCNとのやり取りについては、近年登録された知床・小笠原諸島とは異なり、まったく公表されていなかった。評価書の公表によって、これまで公には知られていなかったIUCNとのやりとりの経緯や、重要な文書の存在が明らかになるなど、登録プロセスの拙速さが市民・NGOからの不信感を招く結果ともなっている。適切な情報公開は、再申請に向けた合意形成や十分な管理体制構築にとって欠かせない。

 

3.市民・コミュニティの参画を重視し、地域に則した管理体制を構築するべきである。

世界遺産条約では遺産の管理における市民・コミュニティの役割を重視している。IUCN評価書でも、政府の限られたリソースを補う形で、懸念されているイリオモテヤマネコなどの絶滅危惧種のロードキルの抑止にNPO等が活躍していることが評価されている。市民・コミュニティの十分な参画が得られる努力を国および自治体が進めることが、とりわけ、評価書で勧告されている持続可能な観光管理計画と、総合的モニタリング体制の確保において重要である。

IUCN評価書では、観光利用の増大への懸念と、鹿児島県が定めた奄美群島持続的観光マスタープランに言及し、沖縄県も同様のプランを作成すべきとしている。4つの島々はいずれも面積が小さく、人が生活できる場所も限られており、環境収容力も低いため、持続可能な観光利用やその他の利用にあたっては、法的または自主ルールに基づく立ち入り規制・利用制限などが欠かせない。仮にマスタープランが策定されたとしても、その実効力を持たせるには、市民・コミュニティの理解と協力が必要不可欠である。

IUCN評価書ではこの他に、絶滅危惧種の現状や、人為または気候変動の影響などの総合的なモニタリングシステムの体制構築と実行も求めている。実効力の高いモニタリング体制の構築にも、市民・コミュニティの参画が必須となる。日本自然保護協会が、環境省と運営するモニタリングサイト1000里地調査の事例から明らかな通り、長期の広い面積にわたるモニタリング体制を行政と専門家だけで構築することは不可能である。

IUCNは日本政府が提出した奄美・琉球諸島の管理計画を評価しているが、奄美・徳之島・沖縄島北部・西表島の4島は島ごとに自然環境の状態も人々の生活も大幅に異なり、それぞれの島の事情に即した、島ごとの世界遺産管理計画を市民とともに作り実行することが望ましい。IUCN評価書の指摘にあるよう、計画立案から遂行、管理までを含めて、市民・コミュニティの参画こそが長期的な保全にとって重要である。

 

4.推薦地の外も含めた島全体の侵略的外来種の管理体制を構築すべきである。

評価書では、推薦地の外も含めた侵略的外来種の管理が求められている。推薦地のみならず、沖縄の埋め立て全般にも言及されており、辺野古の埋め立て計画は今回の推薦地から距離があるので直接の関係はないとあるものの、同計画に用いる埋め立て土砂に伴い起こる外来種問題について懸念している。
3.とも関連するが、外来種問題の原因となるのは埋め立て土砂だけではなく、人と物の移動が関連する。外来種の侵入予防と初期段階での対応及び地域全体での防除体制が管理計画に適切に位置付けられているかが、世界自然遺産にふさわしい対応として求められている。

評価書では世界自然遺産とは関係ないとされているものの、IUCNは日本政府の要請に基づいて、専門的な助言を行う意思があることが明記されている。日本政府はIUCNに専門的な助言を求めるべきである。

 

5.世界遺産登録基準(x)生物多様性の点から、世界遺産地域・緩衝地域の範囲の見直しと、世界遺産管理地域の範囲を広げることで、完全性を確保するべきである。

評価書では全4島に関して、現在の法律や規制の区分に単純に従ったために推薦地やバッファーゾーンの設定が断片化し、長期の生物多様性の保全を担保する連続性やまとまりをもった世界遺産地域となっていないことが課題として指摘された。

IUCNが特に指摘しているように、現在推薦地の範囲に含まれている小規模な構成資産を除去することの再検討、沖縄島北部においては返還された北部訓練跡地を最大限組み込むことと、西表島においては北部/北西部流域の世界遺産地域への組み込みが必要である。これに加え、森川海の生態系の連続性を示すことができる流域・沿岸域・海域まで含めて推薦地へ組み込むことが重要である。

なお完全性の確保の方法として、IUCNは「断片化された推薦地の除外」も勧告しているが、日本自然保護協会は、現在孤立している推薦地を安易に除外するのではなく、将来にわたって世界自然遺産地域の連続性を高めていくことをめざす、「世界遺産管理地域(World Heritage Management Area)」の考え方を活用した世界遺産範囲の検討を提案する。

例えば、徳之島の推薦地は大きく2つに分断されているが、南北をつなぐ範囲を世界遺産管理地域(World Heritage Management Area)として、連続性を確保する取り組みを進めることのほうが、生物多様性保全上、効果的である。また、構成資産が著しく細かく分断されている沖縄島北部やんばるについても、現状ではバッファーゾーンが構成資産の西側に設定されているのみであり完全性の条件を満たしていると説明することに無理がある。やんばる地域全体をつなぐ範囲を世界遺産管理地域と位置づけた計画を作成するなど、抜本的な修正を行う必要がある。

「遺産区域外も含む管理計画を策定し、世界遺産管理地域(World Heritage Management Area)においても生物多様性保全を進めるという考え方」は、小笠原諸島の世界自然遺産登録の際に、IUCNの評価を得たものである。管理計画の活用を踏まえた全4島における世界遺産地域の再検討を通じて、森川海の連続性を保つ形で奄美・琉球諸島世界自然遺産の区域拡大を行い、より広い地域が世界自然遺産として、将来にわたり生物多様性保全と管理および持続可能な活用が行われていくことが望まれる。

 

上記の提案に関する補足

①登録基準(ix)生態系 への適合についての解釈

IUCNは、基準(ix)生態系への適合については、資産の分断、生態学的な持続可能性を理由にこの基準には合致しないと評価している。基準(x)生物多様性については、北部訓練場返還地の編入と不適切な構成要素を除去すれば、この基準に合致すると評価している。

基準(ⅸ)生態系は、正確には「現在も進行中の生態学的・生物学的プロセス」であり、過去の生物進化の証拠だけではなく、現在も将来もプロセスが続くことを保証しなくてはならない。健全な生態系が、分断されずに十分な面積で残されていることが必要であり、この点が疑問視された。

すなわち、奄美・琉球諸島の生態系の特徴は、世界的には高気圧帯に属し乾燥することの多い亜熱帯にありながらモンスーン気候や台風のコースにあるため降水量が多く、照葉樹林の森から河口のマングローブ、サンゴ礁池の海草藻場、サンゴ礁にいたる森川海の連続性が、固有種の生息地を作り出している点にありながら、今回の推薦地がそれぞれの島において森川海の生態系の連続性を示すことができる流域を海域まで含めていない点である。

②完全性(Integrity)の条件

完全性の条件とは、1) 顕著な普遍的価値を保護するため必要な地域をすべて含んでいること(同時に、不必要な地域を除外すること)、2) 顕著な普遍的価値を将来にわたって維持するため十分な面積を有していること、3) 人為による負の影響を受けていないこと、を意味する。

③世界遺産管理地域(World Heritage Management Area)

小笠原諸島の遺産登録推薦の際、構成資産が分断されていることが課題となっていたため、海岸線から3~5kmの範囲までの国立公園普通地域を「世界遺産管理地域(World Heritage Management Area)」として推薦書と管理計画に明記した。これによって、聟島列島、父島列島、母島列島の構成資産は、分断されておらず一体的な遺産地域であると説明することができた。

 

参考:IUCN評価書 世界遺産委員会 決議案部分(日本自然保護協会仮訳)

1. WHC/18/42.COM/8B and WHC/18/42.COM/INF.8B2 を精査した結果、
2. 世界遺産委員会は、奄美大島・徳之島・沖縄島北部及び西表島を登録延期とし、日本政府に対して、

    1. ) 登録基準(x)に焦点をあてて、構成資産の選定及び構成要素間の連続性と長期的な種の保存が確実となるよう、境界線を修正し、
    2. ) 登録基準(x)の正当性の説明に寄与するよう、北部演習場返還地を推薦地に含め、北部演習場未返還地についても推薦地の包括的管理計画に統合するような必要な調整メカニズムを発展させ、
    3. ) 分散した私有地を取得、保護または推薦地に統合するような戦略を採択するとともに、土地所有者、利用権者を、意思決定プロセスのプラットフォームやプロセスに加えることで、日々の管理に参加してもらえるよう調整を行い、

3. 日本政府が、侵略的外来種(IAS)を防除し管理するために行って来た、奄美大島ネコ管理計画を含む努力を評価し、その努力を推薦地に悪影響を及ぼす可能性のある全ての外来種に対する対策に拡大することを奨励し、
4. 日本政府が、主要な観光地・来訪地における、適切な来訪者数管理、観光管理施設、インタープリテーション施設、モニタリングを含む、観光客の興味や収容力に応じた、観光管理計画、来訪者管理計画を実行するよう勧告し、
5. 日本政府が、人為または気候変動の影響による、絶滅危惧種の現状と傾向に焦点を当てた、総合的なモニタリングシステムを開発し適用することを勧告する。

(原文)
WHC/18/42.COM/INF.8B2
IUCN Evaluations of nominations of natural and mixed properties to the World Heritage List
https://whc.unesco.org/document/167859


【参考記事、意見書・要望書等】

「世界自然遺産ってなに?」(会報『自然保護』Vol.563 特集 世界自然遺産の島 in Japan より)

奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産推薦地の視察に関する要望書(2017年3月21日)

日本国内の自然遺産地域の保護と管理に関する提言(1993年12月6日)

世界遺産条約の早期批准に関する意見書を提出(1990年7月12日)