絞り込み検索

nacsj

海洋基本計画に対して意見を出しました。

2013.04.08
要望・声明

海洋基本計画に対する意見(PDF/321KB)


2013年4月7日
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

海洋基本計画に対する意見

公益財団法人日本自然保護協会(NACS-J)は 海に囲まれた島国である日本にとって非常に重要な海洋の生物多様性を保全し、持続的な利用を徹底するために、海洋基本計画(原案)に対して以下の意見を申し述べる。

Ⅰ. 海洋基本計画(原案)の全体に関すること

1. 開発優先の計画であり、保全とのバランスを著しく欠いている

目指すべき姿、社会情勢の把握、個別の施策、いずれの項目も開発重視の計画になっている。
日本は、各地の沿岸で、戦後のわずかな期間の開発によって生態系サービスを著しく劣化させ、多くの経済的損失を招いてきた。この過去の経験に学ぶことなく、海洋は無限の可能性を秘めたフロンティア(1頁総論)であり、開発・利用によって富と繁栄をもたらす(2頁総論)と、メリットだけが強調された計画が示されている。

海洋が富と繁栄をもたらすことは、日本の歴史が示しており、さらなる大きな可能性を秘めているという考えにも賛同する。ただし、開発には多くのデメリットも伴う場合があり、資源を持続可能に利用するためには、賢明な利用という姿勢が不可欠である。海洋の保全や調査に、開発にかけるのと等分の予算・人材を配備し、資源を管理できる体制を整えて初めて可能になる。

本原案は、開発・利用のメリット部分だけが強調されており、政府全体で海洋に関する施策を進める基本計画としては、あまりにも偏った内容と言わざるを得ない。総論において、海洋開発や利用の促進などに触れる前に、「環境保全の優先とその政策の推進」をかかげ、環境の保全を前提とした海洋開発とその利用を述べるべきである。

2.海洋基本法の理念がみえず、計画の内容が細かすぎる

海洋基本法の理念に対して、海洋基本計画は個別の具体的な計画が記されるものではあるが、そこに至る前提として、日本の海洋はどのようにあるべきかの記述に具体性がない。

海洋基本法の理念が見えるような大きい方針を示したうえで、個別の計画を記すことが望ましい。また、開発・利用の計画に対して、保全計画の具体性に乏しいので加筆をするべきである。例えば、洋上風力の計画は1頁にわたって詳細に掲載されているが(17頁)、海洋保護区の管理の充実や設定の推進には具体的な記述がない。(20頁)

2.海洋政策の一本化が必要である。

現在取られている総合海洋政策本部の総合調整の下で、関係省庁が連携し、海洋政策を推進するという方法では、省庁間の調整が困難であり、縦割り行政の弊害を超えられない。イギリスやフランスなどの例に学び、海洋政策に権限と予算を集中して一本化すべきである。

3.環境保全を優先し、その政策の推進に重点を置くべきである

環境保全を優先し、持続可能な利用・開発を進めるべきである。例えば、「海洋エネルギー・鉱物資源の開発及び海洋再生可能エネルギーの普及を推進」という指摘は良いが、再生可能エネルギーを中心に取り組む必要がある。火力・原子力発電所の温排水が、沿岸の海洋生態系に大きな負の影響を与えていることのみならず、沿岸水温の上昇と温暖化に与える大きな影響を考えると、できる限り火力・原子力発電を抑制すること、とくに内湾・内海での建設は厳に慎むべき事を指摘しておくべきである。

4.  法制度の再整備を行うことが必要である。

日本の法律のうち、自然公園法、天然記念物(文化財保護法)、自然環境保全地域(自然環境保全法)、鳥獣保護法、種の保存法等が、自然保護や生物多様性の保全を主目的とした法制度であるが、これらの法律が及ぶ海域が占める割合は非常に低い。

一方で漁業法と海洋水産資源開発促進法は、水産資源のみを対象としているので、真に生物多様性保全に貢献しているとは言えない。日本政府が、生物多様性保全に関する愛知目標の達成をめざすならば、生物多様性の保全が含まれるよう、法改正すべきである。また、海の空間管理に関する法律や実務にも、生物多様性保全の観点を導入し、改善する必要がある。

5.科学的根拠が必要である。

海洋基本計画は科学的な根拠やデータに基づいて立てられるべきである。そして、基礎となる研究・調査の成果は完全に公表されるべきである。ただし、十分な科学的データが揃っていない場合でも、予防原則に基づいて、規制をする場合もありうる。その場合、常に新しいデータの収集と研究・調査の努力を義務づけるべきである。

6.モニタリング調査が必要である。

海の状態を把握するために重要なことは、継続的なモニタリングである。調査を継続して行い、科学的な研究・調査によるデータに基づき、検討がなされる必要がある。モニタリングを継続的に行うことは経済的にも負担が大きいが、NGO や地域の研究者などの研究・調査への適切な補助、支援などの工夫によって、データの持続的な取得と専門家による解析を行う必要があり、それを海洋保全に活用していく仕組みが求められる。

7.市民が参加できるしくみを作ることが必要である。

海洋は、公益的な財産である。海洋の調査・開発・利用には、陸上に比べて多額の資金が必要になることから、資本を持つ一部の関係者だけが利用する権利を獲得しがちである。しかし、開発による生態系サービスの経済的損失は、広く一般の人々が負うことになる。海洋の多面的な価値に関して、利用や調査などについて、市民が参加できるしくみを作ることが必要である。

8.河川の流域も視野にいれた海域全体の生物多様性の保全と利用のマスタープラン(海洋の生物多様性保全のあるべき将来像)を策定することを本計画に位置づけること。

本計画では、総合的かつ計画的な生物多様性の保全戦略としては不十分であり、日本の海域全体(浅海域、外洋域)から沿岸や河川の流域といった陸域も含めた総合的な「マスタープラン(海域の生物多様性保全上のあるべき将来像)」を策定することが必要である。

生物多様性の保全戦略は、生物多様性保全を基礎におく持続可能な自然利用(土地利用・海域利用を含む)について、ゾーニングを伴う計画である必要があり、陸域起因の流入物質や、流砂系の総合的な土砂管理も関係するなど、海域の施策にとどまるものではない。

このようなマスタープランの枠組みのなかで、各種の利用形態やゾーニングを考慮した海洋保護区を設定する地域、自然再生への取り組みを行う地域など、効果的な配置が決められるべきである。

Ⅱ.「海洋基本計画(原案)」の個別の項目について

1.「総論 海洋立国日本の目指すべき姿」について(1頁)

○「・・・海洋の有する潜在力を最大限引き出す」と述べているが、短期的な「最大限の活用」は、潜在力を消失するばかりである。持続的な利用に徹した活用であるべきで、そのためには、「最大限の活用」という表現は止めるべきである。

○「海洋由来の災害に対する備えを徹底し、災害に強い国となることを目指す。」と書かれているが、海洋由来の災害のうち、高潮や塩害、越波などは、砂浜の消失を続けてきた人災でもある。地震に伴う津波は避けられないが、「災害に強い国」ではなく、「災害とも共生できる国」を目指すべきではないか。

2.「第1部 海洋に関する施策についての基本的方針」について

1.海洋政策をめぐる現状と課題

○(2)海洋をめぐる社会情勢等の変化 (5頁)

近年の海洋保全に対する国際的な情勢が、まったく把握されていない。「地球温暖化や海洋酸性化等に伴う海洋環境の変化」とだけ記述があるが、海洋保全が人類の生存や経済の基盤でありながら危機的状況であることに対して認識不足も甚だしい。

日本各地で、沿岸の開発によって生態系サービスを劣化させ、多くの経済的損失を招いている。

開発に対して危惧する声や、環境保全への期待への高まりについてはまったく記述がない一方、根拠も示さずに開発・利用への期待が高まっていると記述するのは、政府全体で海洋に関する施策を進める基本計画としては、あまりにも偏った内容と言わざるを得ない。

2010(平成22) 年に日本が議長国であった生物多様性条約第10 回締約国会議(CBD-COP10)で、「愛知目標」(戦略計画2011-2020)の目標10が合意された。ほとんどが2020年までの計画である中で、目標10は前倒しで2015年を目標年にしている。多くの国家が、利害関係の中で、前倒しの計画に合意をせざるを得なかったほど海洋保全は急務の課題である。

目標10には「2015年までに、気候変動又は海洋酸性化により影響を受けるサンゴ礁その他の脆弱な生態系について、その生態系を悪化させる複合的な人為的圧力を最小化し、その健全性と機能を維持する。サンゴ礁など脆弱な生態系への悪影響の最小化」とあり、目標11には「生物多様性と生態系サービスのために特に重要な区域を含む沿岸及び海域の少なくとも10%を、保護地域システムやその他の効果的管理により保全すること」とある。これらの国際合意や生物多様性国家戦略などから、社会情勢の変化の項目に、環境保全の項目をきちんと個別に設けるべきである。

○その他社会情勢等の変化 (6頁)

「魚離れ」を指摘しているが、もっと重要な変化は、水産資源の全面的な減少である。これは、これまでの日本の水産行政の失敗を意味している。

○3 本計画における施策の方向性  (8頁)

「海洋の開発及び利用、海洋環境保全等を支える基盤の整備・充実」という言葉からは、さらなる海洋環境の破壊のイメージしか湧かない。環境保全と開発利用の基盤整備とは、相反する考え方になる筈なのに、「環境保全のため」という口実で行う開発という意味にしかとれない。環境保全は、「基盤整備」という土木事業でできることではなく、できる限り人手を加えないことによって環境は保全されることを理解すべきである。

○3 本計画における施策の方向性、(1)海洋の開発及び利用と海洋環境の保全との調和(8頁)

「開発に際しての環境影響評価の検討を継続・推進」と記されているが、開発にともなう環境影響が予想されることから、まず環境影響評価手法を確立させ、それに基づいた環境影響評価を実施する必要がある。環境影響への対策技術を確立させることなく、開発させてはいけない。

○3 本計画における施策の方向性、(4)海洋産業の健全な発展 (10頁)

水産業の健全な発展:「国際競争力のある経営体の育成に向けた漁業経営の体質強化」とは、TPP参加によって日本の第一次産業が陥る状態を見越したような表現になっていないか。漁業の大規模化による競争力の強化や発展ではなく、地産地消を進めて、漁業経営の安定化を目指すべきである。

○3.本計画における施策の方向性、(4)海洋産業の健全な発展 (10頁)

「・・・水産業の健全な発展を目指す」というのも、健全では意味が曖昧なので、「持続的な発展」とすべきである。

○(7)海洋教育の充実及び海洋に関する理解の増進 (12頁)

文部科学省の学習指導要領に、海洋についての学習を取り入れる必要がある。

○3.「第2部 海洋に関する施策に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策」について

1 海洋資源の開発及び利用の促進 (14頁)

洋上風力については、海外の事例を基に日本に導入する試験的試みは必須であるものの、環境に与える影響について十分な事後評価を行うことが必要である。また陸上と海中では条件が全く異なるため、陸上用に設定された環境影響評価の対象規模や評価手法をそのまま海へ応用させる訳にはいかず、十分に事前の調査や試行を行うことが必要である。

(14頁、19頁)
○1 海洋資源の開発及び利用の推進、(3)水産資源の開発及び利用
○2 海洋環境の保全等、(1)生物多様性の確保等のための取組

両者について;「日本型海洋保護区」という言葉は、おそらく漁業組合による漁業権区画を海洋保護区に組み入れたことによる世界各国からの批判を意識したものであろうが、このような「日本型海洋保護区」が、生物多様性の大幅な低下を防ぐことができるという検証は、どこにも無い。生物多様性保全に「日本型海洋保護区」が有効であれば、現在のような大幅な漁獲資源の減少も無かったと思われる。

日本の漁業の低迷は、明らかに「日本型海洋保護区」がありながら、乱獲を防げなかったことを証明していると考えられる。海洋保護区については、利益代表である漁協に管理を任せない仕組みが必要である。「海洋保護区」であるというならば、漁業権区画の管理には、一般市民等、利益代表以外を参加させるべきである。

また、「平成32年までに沿岸域及び海域の10%を適切に保全・管理することを目標とする」(20頁)とあるが、日本自然保護協会が沿岸保全管理検討会提言「日本の海洋保護区のあり方~生物多様性保全をすすめるために~」(2012年5月発行)にて指摘してきたように、現在、日本政府により設置されている海洋保護区は適切なものばかりではない。
さらに、上記にて指摘したよう、関係府省連携という形では海洋政策を効果的に進めることは出来ない。

○海洋生態系の保全及び海洋生物資源の持続的利用に関する研究開発 (32頁)

海洋生態系を総合的に理解するための研究開発、情報の充実について、具体的な計画が必要である。
例えば、生息地(ハビタット)の状態を知ることが挙げられる。海洋は海流・潮流・潮汐など常に水の動きがあり、沿岸の砂浜や干潟を構成する土砂は移動する。これは遠洋や深海においても同様である。生物はそれに応じて、棲む空間を選好しており、海洋の保護の対象は、生物や個体群だけではなく、生息地(ハビタット)である。

しかし海洋においては、保護対象の空間を固定的に設定しても、水、物質、そして生物自体が移動する度合いが、陸域よりも強い。またハビタットの状態は一定しているように見えても、動的平衡状態にあり、適切な保全のためには、その動的平衡状態を保つ必要がある。そのため、常に生物やハビタットの状態をモニタリングし、適切な状態に保つための順応的管理が必要である。

また、市民やNGO の調査結果や目撃記録等は政策に取り入れられないことが多く、本基本計画においても記述が無い。科学的な判断を行う場合には、市民やNGO の研究や調査データを含む、あらゆるデータを活用するべきである。

市民の手によるモニタリング調査を推進すると同時に、専門家が行うモニタリング調査にも市民が参加できるような仕組みをつくることも必要である。市民参加のモニタリング支援のために、地域にビジターセンター等の施設を設置し、レンジャーを置くことも一案である。

海の調査ができる人材の絶対数が少ないため、調査にかかわる人材の裾野を広げる必要がある。ビジターセンターのレンジャーや、地域のキーパーソン、地域の市民団体などが、市民にモニタリングの大切さを教え、調査に参加出来るようにする人材育成システムの導入も検討すべきである。地域に既存のNGO がある場合には、これらの組織をさまざまな側面で活用することも検討すべきである。

地域によって異なる事情を勘案し、上述のようなさまざまな仕組みを通じて、市民のモニタリング調査の参加や実施を継続的に可能にし、将来的には市民モニタリング調査の結果が、的確に政策に反映されるような仕組みを構築することが望ましい。

○9.沿岸域の総合的管理 (11、39頁)

「国、地方公共団体等が連携して各課題に対処し、陸域と一体となった沿岸域の管理を促進する」という記述に、これまでの沿岸域管理の反省がまったく見られない。現在行われている海岸をコンクリート化して保全区域と非保全区域に区分することは止めること、そして高台への住民の転居・移動を進めるなど、海岸をコンクリート化しない方法で安全・防災対策を実施すること。

とくに、流砂系の断絶によって引き起こされている砂浜の消失を防ぎ、保全することが緊急の課題である。これまでのように、防波堤・防潮堤・潜堤・突堤などの海岸のコンクリート化による対症療法ではなく、砂防ダムや貯水ダムの撤去、港湾の改良などによって、流砂系を回復させる根本的な対策を早急に行うべきである。

○9.沿岸域の総合的管理、(2)陸域と一体的に行う沿岸域管理 (39頁)

Ⅰにも記したが、科学的根拠に基づいて、ハビタットを意識した管理が必要である。第一に海岸侵食や高波、波浪の原因、そして全国の沿岸に設置してきた護岸や離岸堤等の海岸設備がどのような影響を砂浜に及ぼしてきたか、をつきとめることが必要である。ハビタットの連続性を考慮した、真の意味での砂浜の回復を目指すべきである。

○9.沿岸域の総合的管理、(2)陸域と一体的に行う沿岸域管理 (39頁)

沖縄県赤土等防止条例ができてから長い時間が経つが、現在でも赤土の流入によるサンゴ礁への影響は大きい。沈砂池の整備や技術の開発も重要だとは思うものの、赤土の発生量を減らすなど、より大きなしくみを作って現在の状況を変える必要がある。

○9.沿岸域の総合的管理、(2)陸域と一体的に行う沿岸域管理 (39頁)

陸域の土砂も含む、総合的な沿岸域管理を行うことは大変重要である。その1つには各地で埋め立て工事に用いる土砂が近接地で調達できないという問題がある。現在は業者から購入すれば日本のどの場所からでも調達が出来るようになっている。調達先の環境影響評価も義務づけるようにし、日本の沿岸域のどこから土砂を調達することが可能で、どこの工事を行うべきか、総合的に管理がなされるべきである。

○10 離島の保全等、(1)離島の保全・管理、排他的経済水域・領海等の根拠となる離島の保全・管理 (42頁)

自然公園制度は優れた自然の風景地や海中景観を守る制度であり、それに加えて生物多様性保全という観点からの施策をより積極的に取り入れるべきである。

4.「第3部 海洋に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項」について (50頁)

「海洋基本計画に掲げる諸施策の実施状況等を定期的にフォローアップし、その実施状況等を評価する」とある。現在、もっとも強化すべき課題は、「環境の保全」であるが、この視点が抜けている。

以上

資料:海洋基本計画(原案)(PDF/492KB)

前のページに戻る

あなたの支援が必要です!

×

NACS-J(ナックスジェイ・日本自然保護協会)は、寄付に基づく支援により活動している団体です。

継続寄付

寄付をする
(今回のみ支援)

月々1000円のご支援で、自然保護に関する普及啓発を広げることができます。

寄付する