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ウナギ資源減少・・・土用の丑の日に海洋保護区を考えよう。

2012.07.19
活動報告

鰻重の写真

7月27日は土用の丑の日。

夏バテ防止になるといわれているウナギが今、世界的に減少し、最近ではアメリカ政府が絶滅の恐れがある野生動植物の国際取引を規制するワシントン条約の対象種にウナギ加えることを検討していることも報じられています。

ウナギをはじめとして海の資源を守るた方法のひとつに「海洋保護区」があります。会報『自然保護』7・8月号では、漁業資源が減少している問題についての解説と海洋保護区の必要性を紹介しています。

今年の土用の丑の日には、ウナギや海で暮らすほかの生きものたちの守り方について考えてみてください。


海で今、何が起きているのか!? どんなことを止めなくてはならないのか・・・・。

止まらない漁業資源の激減!

 

井田徹治
(共同通信社科学部・NACS-J沿岸管理保全検討委員会)

絶滅危惧種が食卓に!?

20世紀後半以降、世界各地で資源の減少が目立ち、漁業資源は危機的な状況にあると言われています。

私たちが日常的に消費してきた、日本近海のサバの太平洋系群、ホッケの道北系群、スケトウダラなども減少が深刻化しています。さらに、漁業対象魚種の中には、漁獲量の減少だけにとどまらず、絶滅の危険が指摘されるまでになった種も多くいるのです。

国際自然保護連合(IUCN)によれば、ヨーロッパウナギ、ミナミマグロは絶滅危惧IA類、大西洋のクロマグロは絶滅危惧IB類です。日本も大量に漁獲しているメバチマグロは絶滅危惧種Ⅱ類※、アブラツノザメ、アオザメ、ハチワレ、ヨゴレなどのサメ、ニシマカジキやクロカジキなども同様です。

日本で大量に消費されているニホンウナギも近年漁獲量が急減し、資源枯渇の懸念が高まってます。

●3種類のウナギの稚魚の推定資源量の推移(立川賢一らによる)※1960~70年平均を100とする
20120719unagi-grafu.jpg

●絶滅危惧ⅠA類のミナミマグロの国別漁獲量の推移(水産庁)
20120719maguro-gurafu.jpg

これらの原因はさまざまですが、そのひとつに過剰な漁業活動があります。乱獲だけではなく、深海底引き網による海山の生態系破壊も指摘されるなど、漁業活動が海の生物多様性に与える影響は年々深刻になってきています。

市場で高価格で取り引きされるウナギやクロマグロなどは、「養殖」により一見資源が確保されたように思われるかもしれません。しかし多くの養殖は完全養殖ではなく、天然の稚魚を捕ってきて育てる「蓄養」です。

この天然の資源を利用した「蓄養」が一時的に急拡大したことで価格が低下、その結果消費量が急増し、これが資源の減少に拍車をかける事態まで招いたのです。

 

漁業団体の自主管理で守られているのはごく一部

資源の減少が極めて深刻な状態に陥り、絶滅が懸念されるまでになった生物種の保護のためには、禁漁区や禁漁期間の設定、漁獲量の削減などが必要になることは言うまでもありません。

ウナギに関しては、日中韓など東アジアのウナギ研究者や業者でつくる「東アジアウナギ資源協議会」が、遊魚や産卵親魚の禁漁、稚魚の漁獲規制や禁漁区の設定などを提言しています。

近年、海の生物多様性保護のため、漁業団体による自主管理の重要性を強調する声があります。日本政府も海洋水産資源開発促進法による「指定海域」や漁業法による「共同漁業権区域」を「海洋保護区」の概念の中に含めることができるとの考えを示しています。

しかし、危機的な状況に置かれ、厳しい漁業規制や禁漁が必要となる生物種の保護については、漁業団体の自主管理や漁業関連法に基づく指定区域の設定などが有効なものになり得ないことは容易に想像がつきます。自主管理によって漁業資源や海の生物多様性が守られている例もありますが、全体の中のごく一部にすぎません。

漁獲量と収益が減少し、後継者も育たない中で補助金によって支えられた今の日本の漁業には、少なくなった魚を、先を争って漁獲している現状があります。長期的な展望を失いつつある漁業が拡大する中で、漁業団体の自主的な管理にのみ、海の多様性保護を委ねることは楽観的過ぎるでしょう。

 

すべての関係者がオープンに議論できる場を

漁業の低迷が深刻化する中、漁業団体が行う自主管理だけを海洋保護と結び付ける考え方は、沿岸域の開発の際、開発者側に「漁業団体の同意さえ得られれば、どんな行為でも可能になる」との考えを持たせるという点でも危険です。

地域住民の反対を押し切り、漁業補償と引き換えに多数の原子力発電所が海辺環境を破壊し建設されてきたことがその証しです。

日本の海の危機を招いた理由のひとつは、海を取り巻く関係者の一員である漁業者の意見と権利が、開発者側に過剰に重視され、本来、権利と表裏一体であるべき保全や管理の義務を誰も求めてこなかったことです。

また省庁縦割りの政策決定や、役所が指名した「審議会」の場で、情報公開が不十分なまま政策決定がなされるという手法も、根本から見直さなくてはなりません。

海の生物多様性を保全し、持続的に利用していくための政策立案で重要なことは、まずすべての関係者が一堂に会し、公開された情報を共有することです。

海の管理方法について、関係者の合意を目指してオープンな場で議論を続けるという、「マルチステークホルダーミーティング」の採用することを提案します。

 

IUCNのレッドリストカテゴリー

  • 絶滅危惧IA類 :ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの
  • 絶滅危惧IB類 :ⅠA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの
  • 絶滅危惧Ⅱ類 :絶滅の危険が増大している種。現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続いて作用する場合、近い将来「絶滅危惧I類」のランクに移行することが確実と考えられるもの

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