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大雪山地から日高山脈まで 保護林の拡大原案をつくりました。

2009.05.01
活動報告

2009年5/6月号より転載


北海道で最も有名な山塊・大雪山地と日高山脈を、生物多様性が保全される場所とするためのプランづくりを2008年から進めています。

大雪は国立公園、日高は国定公園でもありますが、山塊全体としてみると、よい森林になるに従い、あるいは低標高になるに従って規制が緩いので、木材生産のための利用(伐採や植栽といった植生の改変)や、道路開発といった自然性の維持とは反対の土地利用が行われています。

一般に北海道は自然が多いといわれていますが、一部の高山帯以外の土地利用の考え方は、現在も基本的には昔ながらの資源利用であり、都市と農林業のための場の拡大が続いている場所といえます。その環境改変が進む中で、個性的な野生生物種がいろいろな環境で暮しているため、希少種リストに掲載される種が増えたり、頭数が増えすぎる種が同時に発生している現状も生じています。この状況は変える必要があります。

 

この山塊の森林地帯で所有面積が最も広いのは国有林であるため、林野庁・北海道森林管理局と協議し、08年に保護林制度を使った保護地域の拡大策が森林管理局で企画されました。それを局が設置した生物多様性検討委員会にかけ、委員会は、今ある保護地域を拡大・連結・統合することを求めました。その範囲を、科学的な根拠に基づいて具体的に見出していく作業に私も委員としてかかわり、今回原案をつくりました(図参照)。

 


保護林拡大図
32万haの巨大な保護林に

検討したのは、南北は約200km、東西は北の大雪山地域で約90km、南側の日高山脈地域で約80kmと広大な範囲で、東京都の3.2倍にあたる70万haもの面積です。現在、この中で保護林になっているのはその約1割の7.7万ha。これでも、日本で一番広い保護林です。

 

原案づくりでは、この広大な範囲の自然性を満遍なく調べることは物理的にできず、これまでの多くの調査研究資料も部分的なものだったため、それらも使いながら、この範囲内にある地質と植生を基礎にした「生態系のタイプ(エコトープ)」を見分けることから始めました。その上で、その質が現在でも良いと思われる範囲を、すべてのエコトープについてできるだけ広く抽出することを基本にし、現在ある保護林を拡大させ、一筆書きでぐるりとこれらを取り込み、ひとまとまりにする方法を検討しました。

 

また、クマタカ、クマゲラ、ナキウサギ、ヒグマ、そしてシマフクロウ、という地域の自然の個性をつくり出し、ほかの生きものとセットの環境を広く必要とする動物種の「もともとの繁殖条件を備えた環境」をできるだけ広く含め、今回の拡大によって、潜在的な質の高い生息・繁殖地の何%が取り込めるかなど、いろいろな要素を組み合わせました。この作業には、コンサルタントとして参加した札幌自然調査館のスタッフが大活躍しました。一部には、これまで自然林から無理に木材を取ってきた場所も含まれ、今後は基本的に自然にゆだねていく場に変更する案としています。

 

この大雪と日高の二つの大きな山塊の間は、国道やそれの通る峠があり、道の近くには施業地も含まれていましたが、保護地域の連続性の確保のため、施業地も含めて「緑の回廊」にすることを提案しました。この保護林の全面積は、原案では約32万haになりました。ただしこれでも、混交林と広葉樹林帯のカバー率は、まだ低いといえます。

 

この原案は、今年度から始まる「大雪・日高森林生態系保護地域等設定委員会(仮称)」にかけられ、市町村長や地域の識者なども加わって現実的な境界を決めていくことになっています。設定範囲は広大ですが、北海道の自然を研究されている方々には、関係する地域の自然性についてチェックと提案の機会です。

 

また、この保護地域の外側には林業・木材生産をしている場所が広がっています。大事なところでも飛び地でカバーできなかった場所を別の保護林や自然再生事業地にしたり、資源利用するところでも使いながら多様性を確保していく施策が必要なので、現在、公有林・民有林も含めて別途検討しています。これらにぜひ、参加とご協力をお願いします。

 

(横山隆一・常勤理事)

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