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国立公園内での地熱開発規制緩和は、 もっと慎重に議論すべき

2012.05.02
活動報告

3月21日、環境省が国立・国定公園での地熱開発のために規制を緩和し、都道府県への通知を見直すことを発表しました。

NACS-Jでは、この通知の見直しに先立って環境省が開催した「地熱発電事業に係る自然公園等への影響検討会(以下、検討会)」(座長:熊谷洋一氏・東京大学教授)において、地熱発電の不確実性や環境影響を具体的に指摘し、拙速な規制緩和への危惧を表明しています。

こうした経緯から、新たな通知の内容について緊急のコメントを発表しました(コメントの詳細はこちら)。


国立・国定公園の役割は生物多様性の保全

検討会では、昨年7月から今年2月にかけ5回にわたって自然公園への影響について自然環境の専門家3名、地熱開発技術の専門家3名の委員の構成で、公開の場での議論を積み重ねてきました。

その結果、①特別保護地区や第1種特別地域での開発は認めない、②第2種・第3種特別地域については、地表部への影響がない場合のみ、公園区域外や普通地域からの斜め掘りを認める(下図参照)、③普通地域については、これまでどおりその都度影響を鑑み判断、の3点について合意され、答申されました。

第2種・第3種特別地域での地表部の開発や垂直掘りについては、意見が一致せず、今後の課題として、優良事例の形成と併せて議論を継続することとなりました。しかし、今回の通知には、優良事例の形成として認める場合があることがすでに盛り込まれています。これは、検討会の議論とは別に行政判断で盛り込まれたことでした。

生物多様性国家戦略では、国立・国定公園は日本の生物多様性保全の屋台骨と位置づけられています。これを受け自然公園法の目的に生物多様性保全が明記され、その果たすべき役割が大きく変わりました。環境省は、こうした観点から公園区域の拡充や、地種区分の改良を進めています。

しかし、今回の通知の見直しは、明らかにこの方向性に逆行するもので、安易に開発に使われてはなりません。

 

透明性のある合意形成の場をつくるべき

日本は、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故を受け、これまでの原子力依存型の社会からできるだけ早く脱却し、省エネルギーを基本とした再生可能なエネルギーシステムに転換していかなければなりません。

しかし、今の必要エネルギー量をまかなうことを前提に、原発の代替として大規模地熱発電を、というのは乱暴な議論です。
自然公園の質や各地の温泉を守ることを優先させた上で、どこにどの程度発電に使える場があるのかを見つけ出していき、その中での開発の可能性を探るのが、あるべき議論です。

今回の通知の見直しで、阿寒、大雪、十和田八幡平、栗駒、磐梯朝日などの国立・国定公園内での開発申請が行われることが予想されています。この許認可の際には、通知にあるように、地域住民や自然保護団体、温泉事業者などの関係者と合意されるか否かが判断基準となります。計画段階から長所・短所すべての情報を公開し、開かれた場で議論しつつ結論が導かれる必要があります。

NACS-Jは、再生可能なエネルギーで社会を成り立たせるべきと考えています。地産地消の小規模な熱源利用には、地熱利用ができるところもあるでしょう。人と自然の共存と、不可逆的な悪影響で将来に悔いを残さないためにも、開発を拙速に進めるのではなく、誰もが納得できる将来像を共有し進めていくことが大切です。

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※「地熱発電事業に係る自然環境影響検討会 第2回検討会ヒアリング資料」もご参照ください。

(辻村千尋/保護プロジェクト部)

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