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中央新幹線環境影響評価方法書を撤回し、事業位置選定を含めた手続きをやり直すべき

2011.11.10
要望・声明

【プレスリリース】リニア中央新幹線環境影響評価方法書に対する意見(PDF/210KB)


2011年11月10日

東海旅客鉄道株式会社
代表取締役社長 山田佳臣 殿

公益財団法人 日本自然保護協会

リニア中央新幹線環境影響評価方法書に対する意見

東海旅客鉄道株式会社(以下、JR東海)が進めている、リニア中央新幹線は、その多くが、地下大深度や山岳部を貫くトンネルとなっている。こうした大規模な地下開発はこれまで例が多くない。また、一企業の開発事業として、東京都から愛知県まで1都6県にまたがる範囲は、長距離におよぶ大規模開発事業である(当該方法書の事業範囲、実際の計画は大阪府までの1都、2府、8県)。また、南アルプス国立公園などの山岳部から里山までの生物多様性上の重要な地域を貫く事業である。こうした事業においては、自然環境への影響評価は、これまで以上に慎重に行なわれなければならない。

日本自然保護協会では、今回、JR東海により公表された方法書について、自然保護・生物多様性保全の観点から点検・評価した結果、以下のような問題点があることから、方法書の必要要件を欠いていると判断した。このため、本方法書を撤回し、再度、事業位置選定を含めた手続きをやり直すよう強く求める。

意見:方法書として、全事業区間を通したものをまず作成するべきである。

<該当箇所:全般(全都県共通)>
理由:方法書段階では、関係する各知事の意見を求めるために都県ごとに分割版を作成することは理解できる。しかし、生態系は都県境に関係が無く広がっているため、全事業区間を通した現状把握と、影響評価を行なわなければならない。本方法書のように、分割されたものからは、生態系の広がりを考慮した影響評価をどのように行うか不明である。従って、全事業区間を通した方法書を作成するべきである。

意見:これまでのパブリックコメントの意見への回答が不十分であり、合意形成のための手続きとなっていない。

<該当箇所:第6章配慮書における環境保全の見地からの意見の概要及び事業者の見解(全都県共通)>
理由:まず、本事業の許認可の根拠となった小委員会の際、パブリックコメントの受付が3回実施された。この結果については、賛成がいくつ、反対がいくつといった、まとめられた報告がなされたのみで小委員会の議論が進められ、意見の内容について検討委員が議論する場は設けられていなかった。また、先般JR東海によって実施された、計画段階環境配慮書に対して提出された意見への回答は、事業の必要性に対しても十分なものではない。さらに、当協会の南アルプスの隆起量が突出した値ではないとした判断根拠を求める意見にも、文献名を挙げるのみで判断根拠が示されていない。その他にも、「適切に処理」、「今後調査」、「専門家の意見を聞きながら進める」といった具体性のない回答がほとんどである。このような進め方では、計画段階からひろく国民の意見を集め、合意形成を図りながら進めるというパブリックインボルブメント(PI)手続きの理念や、戦略的環境アセスメントの理念に反しており、国民の合意を得ようという姿勢も感じられない。

意見:事業者は、助言する専門家等の氏名、所属を公表し、相応しい専門家であることを証明するべきである。

<該当箇所:第7章 専門家等による技術的助言(全都県共通)>
理由:本方法書では、調査、予測評価の手法検討、選定にあたって専門家等による技術的助言を踏まえて行なったとされ、専門分野別に意見の概要が示されている。事業者は、この「専門家等」の氏名・所属を明らかにし、助言を与えるに相応しい専門家であることを、証明しなければならない。

意見:当該事業の範囲で残土処理を行なうことは不可能である。これを前提に考え得る処分方法を示すべきである。

<該当箇所:第5章環境への負荷、及び第7章環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法(全都県共通)>
理由:開発行為に伴い発生する残土は、通常は、事業の範囲内で切盛バランスをとるように設計し、できるだけ残土が発生しないように計画が立てられる。しかし、リニア中央新幹線の事業計画は、大深度地下、山岳トンネル、高架が主体で、盛土がほとんどない。つまり、事業の計画上、圧倒的に掘削土砂が多く、切盛バランスをとることが不可能であるため、多量の残土が発生するにもかかわらず、本方法書では、「本事業内で再利用するとともに他の事業への有効利用に努めるなど、適切な処理を図る」、「新たに残土の処分地が生じる場合(中略)法令に従い適切に処理する」としか示されていない。これでは、大量に発生する残土が処理しきれるのか、または残土処分のための埋立用地がどの程度必要なのか全く不明である。当該事業の範囲で残土処理を行なうことが不可能であるという前提に立ち、計画段階から、受け入れ先である他の事業でどの程度まで処理し、新たな残土処分場の建設が必要なのかなど、現段階で考え得る処分方法を示さなければ、方法書の記載内容としては不十分である。

意見:山岳域での工事に伴う道路計画については現段階での具体的な考え方を示すべきである。

<該当箇所:第7章環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法(全都県共通)>
理由:山岳部においてトンネルを掘削する場合、必ず立坑が必要となる。この立坑を建設するためには、建設場所までの工事用道路の建設が不可欠である。しかし、方法書では「既存の道路をできるだけ利用し」、「やむを得ず改変する場合は」としか記載されていない。山岳域で既存道路がない箇所では、新たな道路建設を行なわなければならず、規模によっては、この道路計画のみでも、環境アセスメントの対象事業となる。にもかかわらず、本方法書では、付帯工事は軽微な改変であるかのように扱われており、方法書の記載内容としては、その要件を満たしてはいない。

意見:動植物の現状把握(特に、動植物のリスト)は、方法書の基礎的な作業を欠いているため、作成しなおすべきである。

<該当箇所:第4章対象事業実施区域及びその周囲の概況(全都県共通)>
理由:方法書では、環境省による自然環境基礎調査の結果から、事業実施区域内に生息・生育する動植物種のリストが作成されている。しかし、これらリストに掲載された種は、もれが多く、問題が大きい。これは、自然環境基礎調査の結果のみをリストアップし、それに記載された種が、各都県のレッドリスト(絶滅危惧種目録)に記載されているか否かのチェックをしただけのリストであるためである。通常は、自然環境基礎調査、各都県のレッドリスト、市町村誌、博物館等の作成したリストなど、公表されているリストから、該当地域に生育・生息していると考えられる種を網羅しリストを作成するものである。例えば、方法書のリストでは、長野県にイヌワシ、クマタカが存在しないが、県のレッドリストには、両種とも記載されている。意図的に少ない生息・生育種の記載に留めようとしているとしか受け取れない。

意見:想定路線は、一部が東海・東南海地震の想定震源域にあるため、現状での安全基準に関する議論は時間をかけておこなう必要がある。

<該当箇所:全般(全都県共通)>
理由:本事業への許認可の根拠となった答申をした小委員会では、2011年3月11日に発生した東日本大震災における東北新幹線の被害状況を調査し、高架等の鉄道施設への被害が阪神淡路大震災と比較しても少なかったことから、現状での安全基準で十分対応が可能と判断している。しかし、これは阪神淡路大震災と、東日本大震災の地震規模を、地震のエネルギーをあらわすマグニチュードと、揺れの強さをあらわす震度での判断であり、実際の地震での被害を正確に捉えているとはいえない。この地震の両者での被害の違いについては、その揺れ方が大きな原因であることが指摘されている(例えば、境他2005)。阪神淡路大震災では、地震のエネルギーや、強さに関係なく、揺れの振幅の周期が1秒~2秒という稍短期地震動であったため、木造家屋への甚大な被害が発生したと考えられている。この周期は俗に「キラーパルス」と言われている。一方、東日本大震災では、場所によって異なるが、この地震の周期が異なったため、建物倒壊被害が少なかった。本事業で計画されているリニア中央新幹線の想定路線は、いつおきてもおかしくないと予測されている東海・東南海地震の震源域に一部が入る。このため直下型の阪神淡路大震災の際に発生したキラーパルス周期になることも予測できるため、被害の発生予測は東日本大震災よりも大きくなる可能性も含め、安全基準を評価しなければならない。しかしこうした議論は行なわれていない。再度、安全基準の妥当性から検討しなおすことが必要である。

以上

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