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プロテクション(やさしくわかる自然保護4)

2000.03.27
解説

月刊『自然保護』No.428(1998年7/8月号)に掲載された、村杉事務局長による自然保護に関する基礎知識の解説を転載しました。
自然保護に関する考え方や概念それに用語など、基礎的なデータベースとしてご活用ください。各情報は発表当時のままのため、人名の肩書き等が現在とは異なる場合があります。
やさしくわかる自然保護 もくじ


プロテクション ~天然記念物は自然保護の出発点~

前回、日本では、明治以降になって、西欧文明を取り入れたことで自然保護の必要性が生まれてきたことを述べた。

今日使われている「自然保護」という言葉は、英語ではそのねらいや内容に応じてプロテクション、プリザベーション、コンサベーション、リストレーションなどと使い分けられている。残念ながら日本語ではこれらを的確に区別して表わす用語がないため、どれも適当に「保護」とか「保全」といってきた。これが「自然保護」をわかりにくくしている元凶の一つだろう。

「保全」と言いながら、実際はそうではないことも、よくある話。言葉の曖昧さがいい加減な行為の容認につながっているのが現状だ。そこで今回からは上記のカタカナ用語を順に解説していこう。最初はプロテクション。

プロテクションは、文明の脅威、そのほか、危険や害から、対象となるものを保護することである。「天然記念物」の制度がプロテクション的な自然保護の最初の例であり、それは同時に自然保護の出発点でもある。

ドイツのアレキサンダー・フォン・フンボルトが南米のベネズエラの旅で1本の巨大な樹に出会った。「この老木はなにか偉大さ、荘厳さをもっている。これこそ天然記念物だ」 として、それを守るように人々に訴えたという。1800年のことである1)

彼の呼びかけが “学術的に価値の高い動物や植物” を天然記念物として指定し、それを侵害するものから守るという動きにつながっていった。これが三好 学によって日本にも紹介され、わが国でも1919年に「史蹟名勝天然記念物保存法」の制定で天然記念物の指定が開始された。現在は985件(1997年8月1日現在2))が天然記念物となっている。

ただし、この法は、指定を受ければ安泰という内容にはなっていない。

ニッポニアニッポンという学名のトキは、文字どおり日本を代表する鳥であり、江戸時代までは、今のスズメやカラすのように日本各地で生育していた。水田を荒らすので害鳥とさえいわれていたようだ。それが明治に入って狩猟人口の急増で次々と乱獲され、昭和の初めには佐渡と能登半島に少数を残すのみとなったしまった。

トキを銃口から守るために、天然記念物としたのは1934年、ついで1952年には特別天然記念物に格上げされたが、正しい保護対策がとられなかったために、その後も減少の一途をたどり、現在は佐渡のトキ保護センターで飼育されている1羽のみ。日本産の野生のトキは絶滅したのである。

トキに限らず、生存が脅かされている天然記念物はまだまだ多い。昨今話題のイヌワシなどの猛禽類もその例だ。これらを第二のトキとしないためには、個体の保護にとどまらず、一定数以上の集団が安心して生息し、繁殖できる環境を丸ごと残すことが前提となる。

 

(村杉 幸子・NACS-J事務局長)

<参考資料>
1)加藤陸奥雄:『日本の天然記念物』 講談社 1995年
2)沼田眞編:『自然保護ハンドブック』 朝倉書店 1998年

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