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コンサベーション ~里やまの場合①~
(やさしくわかる自然保護15)

2000.03.27
解説

月刊『自然保護』No.439(1999年9月号)に掲載された、村杉事務局長による自然保護に関する基礎知識の解説を転載しました。
自然保護に関する考え方や概念それに用語など、基礎的なデータベースとしてご活用ください。各情報は発表当時のままのため、人名の肩書き等が現在とは異なる場合があります。
やさしくわかる自然保護 もくじ


コンサベーション ~里やまの場合①~

コンサベーションを理解するために、いろいろな面から掘り下げてきた。草原の次には、里やまのコンサベーションについて2回にわけて取り上げたい。

最近では、心の奥に流れる原風景ともいわれる「里山」。この語は平成生まれというほど新しい言葉ではないが、93年制定の環境基本法をうけて定められた環境基本計画(94年)に、保全すべき里地の自然として「里山」が明記されて以来、にわかに一般化し、あちこちで使われるようになった。どうやら近年になって急速に「里山」が消えかかったことで、みんながそれを、保護の対象として意識しだしたからだろう。最新の辞書1)にも「里山」が登場、「人里近くにある生活に結びついた山、森林」と説明されている。

日本自然保護協会では一昨年「里やまの自然しらべ」を行った折に、その表記をあえて「里山」とせずに「里やま」とした2)。そのわけの1つは、山でなく平地の林も調査の対象としたこと(※)。もう1つは、農村の自然を、林だけでなく、その周辺の田畑や小川・ため池・草はらなどを含めた、まとまりとしてとらえたかったからである。そして今年も、再び「里やま」をテーマに「全国一斉自然しらべ」が行われている。ここでも以下は「里やま」を使用しよう。

里やまと言えば、まず頭に浮かぶのは関東ではクヌギやコナラなどの落葉広葉樹を中心にした雑木林。例えば民話の「桃太郎」には「おじいさんは山に柴刈りに……」というくだりがある。柴刈りとは主に燃料用として、林内に生えた不用の低木や枝を刈り取ることなので、この話は雑木林を舞台にしたものであることがわかる。このような民話や昔話の存在も、古くから雑木林が人々の生活に深く関わってきたことを教えてくれる。

雑木林は主に薪炭林や農用林としての利用のために伐採・下草刈り・落ち葉かきなどの人為的管理で遷移が抑制されてきた。伐採された木材は薪や炭、さらには日用雑貨や木工芸品を生み出し、林床も山菜やきのこなど四季折々に自然の恵みを提供してくれていた。下草や落ち葉は、もちろん良質の堆肥である。これらは持続的な利用が可能な生産機能といってよい。そのために人々は、それぞれの地で風土に合わせた管理をしてきたわけだが、それが結果として林床を明るくし、本来の利用の対象外であったカタクリ・ヤマブキ・ヤマアジサイなど多くの林床植物を知らず知らずのうちに豊富にしていった。

雑木林の保護にはどのような意義があるのだろう。右記の農業への貢献以外の意義を考えてみよう。

まずは四季おりおり繰り広げられる林内の生命のドラマの主人公・多様な野生生物の生きる場が維持される(これは同時に、雑木林特有の生態学の研究対象の確保にもつながる)。自然と人間の関わりを知るうえで社会的・歴史的価値も高い。さらに多くの雑木林が都市近郊緑地として重要な環境要素となっている。人々が日常的に接してきた典型的な郷土景観、身近な自然学習・環境学習の場、子どもにとっては遊びの場などとして利用価値が高いことなどもあげられる。これらはとくに都市住民がより必要とする価値である。(次号に続く)

(村杉幸子・NACS-J事務局長)

※農村では古くから、ムラ(集落)の周囲にあって生産活動を行う二次林をヤマとは呼んでいたので、平地の林をヤマと呼んでもおかしくはないのだが、一昨年の調査用の解説2)では、この点は触れていない。

<参考文献>
1)広辞苑 第五版:岩波書店(1998)
2)里やまの自然を調べてみよう:『自然保護』423号 (1998)
3) 全国一斉自然しらべ「99里やま」:『自然保護』437号付録(1999)

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