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植物の移り変わり(やさしくわかる自然保護13)

2000.03.27
解説

月刊『自然保護』No.437(1999年6月号)に掲載された、村杉事務局長による自然保護に関する基礎知識の解説を転載しました。
自然保護に関する考え方や概念それに用語など、基礎的なデータベースとしてご活用ください。各情報は発表当時のままのため、人名の肩書き等が現在とは異なる場合があります。
やさしくわかる自然保護 もくじ


植物の移り変わり

今回は、近年各地で話題になっている草原(正確には半自然草原)や雑木林のコンサベーションに、なぜ人間の管理が必要なのかを説明するために、少々横道に入ることをお許しいただきたい。

あなたの知っている空き地を思い出してみよう。それが、家を取り壊した跡地でも、耕作を止めた田畑でも、スギの伐採地でもなんでもいい。今まであった家や農作物、スギ林などが地表から姿を消したため、急に裸地になったところは、その後もずーっとそのままだろうか。答えはもちろんNO。すぐに草が生えてくる。土の中で眠っていた種子が急に目覚めて芽を出したり、周囲から飛んできた種子が根を下ろして発芽するからだ。

その草もよく調べると年ごとに少しずつ種類が変わる。去年多かったメヒシバやアカザが今年は減って、その代わりヒメムカシヨモギやオオアレチノギクが目立ってくる……、といった具合だ。もしそこをそのままにしておくと、数年後にはススキのような多年生の草が勢力を広げることだろう。

草原を何年か繰り返すうちに土壌の肥沃化もすすみ、次第に樹木が生育できる環境が整ってくると、そこに明るい環境に適した種類の樹木、陽樹が侵入し、やがて陽樹林になっていく。アカマツやコナラを中心にした雑木林はこの陽樹林に当たる。

さて、陽樹林が発達すると林内が暗くなるので、明るい環境に適した陽樹の2代目の若木は成長できない。その代わり、今度は比較的暗い環境に適したシイノキなどの陰樹の勢力が強くなって、ついに陽樹林は陰樹林と交代する。陰樹は2代目以降も成長が可能なので、陰樹林になると、広範囲の山火事とか伐採のような外部からの影響を受けない限り、何代続いても種類の組成はあまり変化しない安定した森林(極相林)になる。

このように、植物の種類が集団として一定の方向に変化していく現象を、群落の遷移といっている(群落については本誌9頁参照)。それは、植物の成長がその場所の環境条件を少しずつ変え、その変化に応じて生育できる植物も変わってくることによっておこる自然の摂理だ。

日本は温度、降水量ともに恵まれているため、放っておけば高山などごく特殊な環境を除いて、どこもやがては極相林になってしまう。だから、草原とか雑木林など遷移の途中の状態をそのまま維持するのは、ある意味で自然の流れに逆らうわけで、とても大変なことであり、多くのエネルギーを必要とする。草原や雑木林の維持管理は、遷移という自然の流れを食い止めるための手段といえよう。人々はつい半世紀前までは、農村を代表とする伝統的な暮らしの中で、その流れを見事に食い止めてきた。

 

(村杉幸子・NACS-J事務局長)

 

*:次回参照

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