会報『自然保護』
更新日:2001.09.01
「開発圧の下での自然保護への挑戦」 IUCN保護地域会議・香港の報告
会報『自然保護』No.459(2001年9月号)より転載
タイトルは香港大学で行われたセミナーのテーマである。IUCNの「世界保護地域委員会(WCPA)東アジア部会」は、中国・香港特別行政区・日本・マカオ特別行政区・モンゴル・北朝鮮・韓国・台湾の8つの国と地域が含まれる。1993年に北京で始まり、これまで釧路・東京・ソウル・ウランバートルなどで毎年開催されてきた。
第9回は香港大学を会場として運営委員会とその後のセミナーが開催された。その報告を兼ねて香港の自然保護について垣間見た様子を報告したい。
国境を越えた保護区のシステムを
期間は6月12~15日、まさに雨期の真っ最中で雨量も湿度も年間で最高の時期で、湿気と暑気もさることながら、室内の冷房と外気の落差にあえいだ
日々であった。
12日は運営委員会で、各国2名の参加であったが中国は1名、次期開催地の台湾からは数多くの参加があった。北朝鮮が参加できるようお膳立てを整え期待が
高かったが、ふたを開けてみるとやはり来なかった。マカオも連絡がとれず不参加。結局、日本と中国・香港・韓国・台湾・モンゴルの6カ国・地域が出席し、
中国を除く5カ国から保護区の現状についてナショナル・レポートの発表があった。来年3月(2002年3月18~24日)の10回目は運営委員会と第4回
東アジア保護地域会議として台湾で開催されるが、その備状況について報告があり、多くの参加者を期待しているとの表明があった。議長のC・Y・ジム教授は
こうした会議を通じて保護区の拡大やネットワークの必要性に関する情報を政策決定者に提供していくことが大切だと述べた。
IUCN/WCPA-EAの運営委員会。議長の香港大学のC・Y・ジム教授と副議長のB・M・W・Woo教授(韓国)、L・S・Chang博士(台湾)(香港大学にて)
IUCN本部から出席したP・シェディー氏はウランバートルでの議論を踏まえてそれ以降の方向性として、ツーリズムのガイドラインづくり、温帯草原の生態系アプローチからの保護策、国境をまたいだトランス・バンダリー保護地域の設置などをすすめる必要性、また、現在ドラフトの段階にある2001~2004年戦略計画を取り込んだ形で行動計画を改訂する必要があると述べた。特にそれぞれの国、地域でさまざまな制度のもとでの保護区を相互に関連づけるような体系的システムの構築をすすめる必要があるだろう。
管理能力や人的・経済的不足
運営委員会に引きつづいて、セミナーは香港郊野公園(country park)の設立25周年を記念して香港郊野公園友の会の主催で2日間にわたって行なわれた。会場が2つにまたがっていたので半分しか参加できなかったが内容は充実していた。個別に紹介する余裕はないが以下に重要と感じた点を紹介する。
世界自然保護モニタリングセンター(WCMC)の最近のデータによれば、世界には4万4000の保護区があって土地面積の10パーセントをカバーしており将来の世代に引き継ぐべき貴重な財産であるが、十分な管理能力や人的・経済的ベースが足りないなどの問題を抱えている。さらに地球温暖化・移入種・開発圧などによる急速で加速的な変化にさらされており、この問題に対するWCPAの役割はきわめて重要になりつつある。
高層ビルと急斜面 --- 香港の自然

高層ビルの後背に広がる郊野公園は水資源確保のための集水域としても重要で、浸食防止と雨の浸透を目的として植林され保護されており、ほとんどの雨水は貯水池に誘導されている(ポクフラム郊野公園から)
特に地元香港に関しては発表が多く、内容的にも興味深いものがあった。土地の40パーセントを占める郊野公園の存在は初めて知った。といっても現地にはほとんど入れなかったが、高層ビルが立ち並ぶ香港のイメージ(写真上)とまったく異なる自然であった。香港大学ジム教授の講演によると香港は680万人/1085平方キロメートルという驚異的な密度であるが、人が住むのはさらにわずか20パーセントの土地だという。残りは農耕地と丘陵である。この、丘陵(Hill)は独特のニュアンスを持っており急斜面で人も住まず、農耕もされない土地を指している。かつて香港全域は植生がすべて破壊され、この地域に見られるほとんどの森は近年の植林努力の結果で、その後は人為から保護されている。香港全土の40パーセントは1970年代以降、郊野公園に指定されている。指定地は村の一部、居住地と郊外との境の辺縁部の急傾斜地・道路やインフラからのアクセスがないなどの理由で開発には金がかかりすぎ、開発にともなう環境や生態的ダメージが大きすぎるなどの理由から手をつけられていない土地である。
今日ではむしろ人々に保護区付きのレクリエーション地を永久に提供しており、その利得は開発による利益とは比べものにならないくらい大きいと評価されている。それでもこれだけの人口圧があると開発可能な土地は海岸の埋め立てか丘陵に向かわざるを得ないので郊野公園と海洋公園は常に危機にさらされているのが現状のようである。
(大澤雅彦・NACS-J理事、IUCN世界保護地域委員会委員)