報告
更新日:2000.10.08
アンマン・レポート 5 「"世界最低"の自然保護区を訪問」 ダナ自然保護区(2000.10.8)
レポート:NACS-J常務理事・吉田正人
今日は世界最低の自然保護区を訪ねてきた。と言ったら、きっと入場料を高く吹っかける自然保護区とか、ひどい食事を出す自然保護区だと思われることだろう。
アンマンから南に下ると、ヨルダンの主要産業の一つであるセメント工場が見えてくる。そこを過ぎるとT字路があり、そこがダナ自然保護区の入り口である。とくに高いところまで上った覚えがないのに、渓谷の底は、はるか下に見える。

ヨルダン王立自然保護協会のタレット氏世界自然保護会議のエクスカーションの参加者を乗せたコーチは、自然保護区の入口でストップし、まず王立自然保護協会のタレット氏から、自然保護区の概要をうかがう。ダナ自然保護区は、アンマンの南200kmほどに位置する面積310平方キロメートルの自然保護区で、1993年に王立自然保護協会の自然保護区となり、1998年にはユネスコの生物圏保存地域にも登録されている。
砂岩が雨に削られてできた特異な景観を有し、ヨーロッパからアフリカにわたる渡り鳥のルートにあたっているため、鳥類の数もたいへん多い。また渓谷の斜面に張り付くように、イスラム教を信仰するダナの人々が生活している。家は木と土で作られており、砂色をしているので、あれがダナの村だと言われなれば気がつかない。モスクの塔は、都会では派手な空色をしていたが、ここでは砂色をしていた。家々の周りには、棚田のように、段々畑が作られている。
生物圏保存地域は、自然保護と人々の持続的な生活の両立をめざしており、王立自然保護協会は、ダナの村人が自然保護区の中で持続的に生活してゆけるよう、ビジターセンターではダナの人々のクラフトを販売するとか、レストランでは地元の産物を使うなどの工夫をしている。
自然保護区の入口からは、20人ほどが乗れるシャトルバスに乗り換え、ビジターセンターに向う。シャトルバスといっても、TOYOTAのトラックにベンチをつけ、ほろをかけただけの簡単なもので、ドアには王立自然保護協会のシンボルマークであるアラビアオリックスが描かれている。ダナの人々がすむ自然保護区の中に、大型のバスが入り込んで、静かな生活が乱されることのないように配慮している。
ビジターセンターで、シャトルバス(トラック)を降り、ここからはさらに小さなグループに分けて、ガイドがついた徒歩の散策となる。私は、バードウォッチングを楽しむグループに入れてもらった。グループの大きさは10人までと言われた。
自然保護区の入口までは60人乗りのバスで来たとしても、そこから20人乗りのシャトルバスに乗り換え、ビジターセンターからは10人ずつの徒歩グループに分ける。道もこれにあわせて、舗装道路、舗装していない道路、散策路という具合に変化し、保護区内の自然や村の人々の生活に与える影響を軽減している。
私は、愛知万博検討会議で、東京の高尾山の例をあげて、アクセスを少しずつ不便にすることによって、来訪者の数を制限し、自然への影響を軽減する方法を提案したが、この保護地域ではもうすでに、案ではなく現実のものになっている。

ダナ自然保護区ダナ村を後にして、渓谷の対岸にあるキャンプサイトに向う。ここでも、渓谷を見下ろすビューポイントまではバスで行けるが、そこからは例のシャトルバスに乗り換え、キャンプサイトに着く。キャンプサイトは定員が75名で、それ以外での野営は禁止されているので、この自然保護区で美しい星空を楽しむことができるのはわずか75名というぜいたくさである。キャンプサイトからは、また小グループに分かれ、徒歩で散策する。
キャンプ場から、少し歩くと砂の地層が雨で削られてできた巨大な土柱の群れが見えてきた。中国の桂林にも似ているが、石灰岩ではなく、砂岩でできている。米国から来た人は、ザイオン国立公園に似ているといっていた。バスを降りたところからは相当下ったはずなのに、はるか下に平野が見える。王立自然保護協会のガイドに、「あのあたりは標高どのくらいですか?」と聞いておどろいた。海抜マイナス400mだという。つまり、山が侵食されて渓谷ができたのではなく、平野が侵食されてこの渓谷ができたのである。この渓谷に降った雨は(実際にはほどんと降らないが)、塩分が濃いことで知られる死海に流れてゆく。
だからこの自然保護区は、「世界でも最低の場所にある自然保護区」なのである。渓谷に沈む夕日を見ながら、ダナ自然保護区を後にした。