報告
更新日:2000.10.07
アンマン・レポート 4 「南・東アジア地区の地域委員会設立の提案」「沖縄の自然環境に関するNGOと日米両政府との話し合いは留保」(2000.10.07)
レポート:NACS-J常務理事・吉田正人
本日は、いつもより早く、7時45分にホテルを出て、タクシーで国立競技場に向う。ホテルの前から、国立競技場までの間、あちこちにパトカーが停車している。「今日はやけにパトカーが多いね」と尋ねると、「そうさ、ご丁寧にあちこちで車をとめて、いろんなことを聞いてくれるよ」と迷惑顔。実際、国立競技場に入ると、3回も停車を命じられた。
8時に会場に着く。まずは団体名を言って、ピジョンボックスをチェックしてもらうことから一日が始まる。ピジョンボックスとは、名前の通り、伝書鳩の巣のように並んだ郵便箱で、ここに新しい書類のほか個人あてのメッセージも入っているので、こまめにチェックすることが必要だ。また今日は、IUCN会長、理事、委員長などの選挙があるので、込み合わないうちに早めに投票用紙配布の窓口に行って受けとる。投票用紙といっても、会長、監事、6つの委員会の委員長、7つの地域の理事について、1ページずつの用紙があるため、15ページの冊子になっている。私は、日本自然保護協会だけでなく、出席できなかった10団体の代理投票も行うため、分厚い投票用紙の束をドサッと渡された。
8時15分にアジア地域の会員会合に出る。IUCN副会長の堂本暁子参議院議員の呼びかけによる会合で、最初は数人しかいなかったが、8時30分を過ぎるころには、30人を超えるメンバーが続々と集まってきた。皆、ピジョンボックスに入っていた案内の手紙を見た人たちだ。IUCN韓国委員会のチョイ委員長が近づいてきて、「今回は北の人も来ているんだよ」と嬉しそうに、朝鮮民主主義人民共和国自然保護連合のオ・ミョンソク博士を紹介された。私の隣に座ったのは、ベトナム環境庁のツロン・マンティエン次官だ。参加者は、韓国、北朝鮮、モンゴル、中国、香港、フィリピン、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシア、バングラデシュ、インド、ネパール、パキスタンとさまざまな顔ぶれだ。これだけの自然保護関係者が一堂に会するのは、世界自然保護会議ならではのことだ。

アジア地域会合のようす堂本副会長の司会で議事が始まる。IUCN規則61条と 62条には、IUCN国内委員会および地域委員会の設置規定がある。日本はアジアでもいちばん早く国内委員会を設置した国であり、「世界自然保護戦略」が IUCNから発表された1985年にIUCN日本委員会が設立された。初代の委員長は古賀忠道(WWFJ)、2代目が池ノ上容(海中公園センター)、3代目が沼田眞(NACS-J)、そして今年から奥富清(NACS-J)が委員長をつとめ、事務局はNACS-Jが引き受けている。韓国の国内委員会は、昨年、ソウルでIUCN北東アジア会合を開いたときに設立されたばかりだ。他の東アジアの国には国内委員会はない。
堂本副会長の提案は、IUCNは世界を7つのブロックに分けているが、地域委員会がないのは、南・東アジアだけなので、ぜひこの機会に地域委員会を作りたいという趣旨だ。今朝は時間が限られていたため、地域委員会のフレームワークとメンバーを決めて終わった。実にやっかいなことには、アフリカ、オセアニアなどのように、地域の境界が比較的はっきりしている地域はよいが、アジア地域はIUCNの規則で3つのブロックに分けられている。パキスタン以西は「西アジア」。モンゴルやウズベキスタンなど中央アジアの国は「東ヨーロッパ・北ユーラシア」。インドから日本までが「南・東アジア」である。また中国が国家会員になっているため、「一つの中国」の原則で、台湾の団体(台湾国立公園協会など)は世界自然保護会議に参加しているのに会員にはなれない。また東アジア保護地域会議では、モンゴルも東アジアに入っているのに、会員のブロックでは北ユーラシアというのも違和感がある。とりあえず地域委員会は、IUCNの規則どおりに、南・東アジアを範囲とし、必要に応じて開く地域フォーラムはもっと柔軟にモンゴルや台湾の人も入れることになった。

9時からは、一昨日に続いて、6つのインタラクティブセッションが開かれた。私は第7分科会の、「生物多様性に関する知識を広げるために」に参加した。この分科会は、IUCNの教育コミュニケーション委員会(かつては環境教育委員会と言っていた)が主催したものだが、環境法委員会、種の保存委員会などほかのプログラムの関係者も、発表者として参加していた。また、インターネットをつかって、いかに効果的に環境問題の情報を共有するかが議論された。たとえば、ドイツのボンに本部を置くIUCNの環境法センターは、国連環境計画(UNEP)との協力により、絶滅のおそれのある種の国際取引に関するワシントン条約などの国際条約や各国の国内法に関するデータベースを、エコレックスというウェブサイトで公開している(
http://www.ecolex.org)。また、種の保存委員会は、イギリスのエジンバラに本部を置く世界自然保護モニタリングセンター(WCMC)の協力で、絶滅のおそれのある種のデータベースを、レッドデータブック(RDB)のウェブサイトで公開したところ、先週は1日に100万回のヒットがあったという(
http://www.redlist.org)。
12時から、IUCN選挙に関する説明があるというので、総会会場に行った。有効な選挙権の総数の発表などのあとで、議長から、「このあとで大切なお知らせがあります。席を立たずにお聞きください。バードライフインターナショナルの総裁である、ヨルダンのノア王女がこの会場に来られ、鳥類のレッドデータブックを発表します」との発表があった。なるほどこれで今朝の厳重な警備の理由がわかった。まもなく、バードライフインターナショナルの役員やヨルダン王立鳥類保護協会の会長とともに、ノア王女が登壇し、ヨルダンの国歌が流れる。参加者は敬意を表し、国歌が終わるまで起立する。ヨルダン王立鳥類保護協会の会長の挨拶に続いて、王女みずからが鳥類のレッドデータブックの意義を説明する。「世界の鳥類の状態は、世界の環境の指標でもあります。私たちは、この美しい惑星を開発し、種を絶滅に追いやってきました。この本に示された種を回復するために、あらゆる努力を惜しまず、鳥たちにとっても、私たちにとっても、子供たちにとってもよりよい環境を作ってゆきましょう」とノア王女は締めくくった。鳥類のレッドデータブックによると、世界の鳥類の絶滅の速度は歴史時代に入る前に比べて500倍になっており、1175種の鳥類が絶滅のおそれのある状態となっている。
12時30分から5時まで、IUCN会長、理事、監事、委員長の投票が行われる。一人しか候補者のいない、会長、監事などは、YES、NO、保留のいずれかにXマークをつける(○ではないので紛らわしい)。1人の定員に、2人が立候補している委員長選挙の場合は、一番好ましい候補者に2、二番目の候補者に1を記入する(一番に1をつけるのではないのでこれも紛らわしい)。3人の定員に、4人以上が立候補している理事選挙の場合は、一番好ましい候補者に3、二番目の候補者に2、三番目の候補者に1を記入する(3人の定員に3人しか立候補していない場合は、Xをつけるのでこれも紛らわしい)。すべてにおいて、記入のしかたがわかりにくい選挙だが、これに加えて、早朝に配った投票用紙にアフリカの理事選挙のページが抜けているものがあるというトラブルがみつかり、投票用紙の交換を行うなど、選挙は混乱を極めている。私は、日本自然保護協会の投票以外に、10団体の代理投票を依頼されているので、記入だけでも30分以上かかり、昼食を食べそこなってしまった。選挙管理委員会から、開票の立会いを依頼されていたので、夕方、開票の手伝いに行った。まず、国家会員、NGO会員ごとに、投票箱をあけて、50票ごとの束にして、ホチキスをはずして、会長、理事、監事、委員長など15の選挙用紙の山を作る。そこから、無効票、有効票にわけて、有効票の集計をしてゆくわけだが、案の定、アフリカのページのない投票用紙や、Xのところに数字を書いたり、数字のところにXを書いた票がいくつかあり、この投票方法の難しさを感じた。
2時から、沖縄のジュゴン、ヤンバルクイナ、ノグチゲラに関する日米両政府との話し合いを行う。10月6日発で勧告案がまとまったと説明したが、環境アセスメントの実施などについて、米国代表が本国に確認をとるので待ってほしいと留保して[ ]がついたままとなっている。米国のタウンゼント女史は、「国家会員とNGO会員の立場の違いをわかってほしい。国家会員の方針は、関係官庁や議会などあらゆる機関に関係するので、確認がとれるまで待ってほしい。その結果は、(月曜日が日米とも休みのため)火曜日にならないいとわからない」と説明したが、沖縄の自然保護団体の人たちは、「ここまで歩み寄ってきたのに、火曜日になって合意できない回答が返ってきたらどうするのか」と政府代表への不信感をつのらせる。勧告案の採択のデッドラインは火曜日の夜である。火曜の昼にもう一度話し合いを持つことで散会したが、IUCNの決議勧告委員会のテントに出向き手続きを確認すると、「勧告案の修正の期限は月曜日の午前中まで、それを過ぎると翻訳や印刷が間に合わないので、火曜の夜の本会議でフロアーから直接説明してもらうしかない」ということであった。
6時から、本会議で勧告案が議論される。決議・勧告は、 IUCNの運営に関するもの、国際条約や複数の国に関係するもの、国内の自然保護問題の3つに分類されているが、沖縄、海上の森の2つの決議案は、最後の国内の自然保護問題に入っている。今日はいよいよ、沖縄、海上の森の決議案が紹介されるはずであったが、IUCNの運営に関する決議、国際条約などに関する勧告までで3時間を使い果たし、今日も国内の自然保護問題に関する勧告案の審議には入れなかった。続きは、月曜日(10月9日)の午前8時から、ということになった。